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2008年8月22日 (金)

心に染み入る正義と純愛:新・水滸伝

821日 「新・水滸伝」(ル・テアトル銀座)
21
世紀歌舞伎組と銘打った公演を見るのは、一昨年の「雪之丞変化2006年」(5月、中日劇場)に続いて2回目。

猿之助さんの熱い思いが伝わってくるような舞台であった。梁山泊のアウトローたちの友情とチームワーク、卑劣を憎む正義感、未来へ向かって突き進もうという夢、それは腐敗した朝廷側にあってなお正義の心を持ち続ける人をも動かす。ある意味勧善懲悪的な冒険活劇、面白くないわけがない。とはいうものの、今年1月に同じこの劇場で見た「ジンギスカン」が惨敗だったから(あの芝居、なぜ、あんなに安っぽかったのだろう)、多少不安がないでもなかった。
だけど、そんな不安はすぐ拭い去られた。21世紀歌舞伎組はみんな、その人物になりきって感銘を与えてくれた。
感銘を受けた<なりきり>
特記しておきたいのは弘太郎(彭玘:ほうき)、猿四郎(祝彪:しゅくひょう)、猿琉(李逵:りき)の3人である。弘太郎さんの若々しい一途さには胸が熱くなり涙がにじみ出た。林冲(右近)への思いを吐露する姿には、ヤマトタケルに心酔するヘタルベが重なる。体制側の祝彪は、この芝居の視点からみれば明らかな悪である。猿四郎さんはとても存在感のある役者さんで、いわゆる<いい人>でも味があるが、今回は悪役としての魅力を存分に発揮していた。猿琉さんご本人が<筋肉バカ>と表現している李逵は、自分より強いというだけで林冲をアニキと慕う単純明快な暴れん坊。鋭い眼光、メリハリのある動きがユーモラスでもあり、私の目には一番いきいきとして見えた。
さまざまに重なる林冲
右近さんは鬱屈した前半から、梁山泊の仲間としての意識、未来への希望の中心的存在としての自覚に目覚める姿が清々しい。21世紀歌舞伎組そのものだね、なんて思った。梁山泊の首領・晁蓋(ちょうがい)、金田龍之介さんの大きさの前ではまだまだ若造だけど、ここでもヤマトタケルと帝の姿が重なって、タケルが渇望していた父の愛がここで得られたのかもしれないと思うと同時に、右近さんの猿之助さんに対する思いが溢れているように感じられて、込み上げてくるものがあった。
それぞれの個性が生きる女方
笑三郎(姫虎)、笑也(青華)さんはちょっと男が入っていたかなあ。でも、役自体が男前な女だからいいか。姫虎は梁山泊の女親分的存在で、人物として大きさが出なくてはいけない。21世紀歌舞伎組にあって、この役をできるのはやっぱり笑三郎さんしかいないよな、と思った。青華は朝廷側の女丈夫で、纏足をしていないことから、婚約者である祝彪からも嘲られている。纏足という残酷な伝統の悲劇が裏に感じられ、それを踏んでいない女性の悲劇が表に浮かび上がる。女丈夫というには笑也さんの個性としてちょっと線が細いかなと思う部分もあったが、この哀しみと固く閉ざした心をもちながら卑劣を憎み、正義を通すためには味方を裏切ることのできる美しい青華は笑也さんにぴったり。
群を抜いて美しかったのが春猿(お夜叉こと孫二娘:そんじじょう)さん。梁山泊の女らしい気風のよさ、一度仲間を信じたらとことん運命を共にしようとする友情の厚さ、そしてあの美しさ。ただただ見とれておりました。日替わりで扮装姿の出演者とツーショット写真を撮れるというイベント(限定20名)が終演後にあり、この日はたまたま春猿さんだったんだけど、とても並んで写真に納まる勇気はなく、最後まで心惹かれながら、応募できませんでした。
猿弥さんの純愛
猿弥さんに珍しくラブシーンがある。梁山泊の猛将・王英、一面ヒゲに覆われた顔に似合わずウブで、一目惚れした青華に純愛を捧げる。纏足をしていないコンプレックスで心を閉ざしている青華に、あるがままのあなたでいいのだとやさしく語りかける。自分のことをさかんに「ブサイクだから」と卑下する王英だが、その真心は青華の心をついに開く。感動の場面だ。ほほえましくて、「よかったね、猿弥さん」と思わず拍手を送った(王英=猿弥になっている)。初めての愛に目覚めた笑也さんの青華は、おずおずとしてぎこちなく、とても可愛らしかった。恋の始めってこんなに純粋なものなんだなあ、と忘れていたものが甦ってくる気がした。この純愛の手助けをするのがお夜叉で、最初は梁山泊を守るために王英の気持ちを利用しようとしていたのが、こちらも純愛に打たれ、何かとアドバイスしたりして、温かく見守る(猿弥さんの純な気持ちは、お夜叉でなくたって応援したくなる)。お夜叉もまた、纏足をしていないのだ。春猿さんが離れたところで後ろ姿を見せるという形で2人の愛の行方を心配している様子が表現されるのだが、その姿が真に迫っていて、猿之助門下の結束を感じた。


「替天行道」。その文字が掛かれた真っ白い旗を梁山泊の人々全員の決意の血で真っ赤に染め、彼らは未来へと進む。単純明快なストーリー、21世紀歌舞伎組らしい溌溂さと、群舞の楽しさ、面白かったです。
<上演時間>110分(休憩なし)

追記:自分より弱い者を狙ったという少年たちは「何が悪い」とほざいているそうだ。私の正義感など、「闇に咲く花」やこの「新・水滸伝」などの芝居を見て昂揚した程度のものに過ぎないけれど、そしてこのブログではこういう問題には触れないようにしているけれど、あんまり腹が立って。

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コメント

こんばんは~rain。本日、「新・水滸伝」拝見してきました。もちろん、この記事がアップされた時にも拝読させていただいてましたが、本日また読み返させて頂きまして、感動再び!ということで、思わずコメント欄に書き込んでおります。「猿弥さんの純愛」、良かったですね~。「猿弥さん、良かったね~!」と、私も王英=猿弥さんになってました(笑)。そして、私も春猿さんの美しさ、芯の通ったところ、義理堅いところに惚れ惚れいたしました(あ、ここでもお夜叉=春猿さんになってる!)。若いエネルギーを頂きました。

投稿: はなみずき | 2008年8月30日 (土) 22時00分

はなみずき様
時々の土砂降りで往復大変だったでしょう。
コメント、ありがとうございます。また、拙記事を読み返してくださり、嬉しく存じます。
「猿弥さんの純愛」は、今の時代に忘れられがちな優しい気持ちを甦らせてくれましたね。男気もあって、細やかな心配りもできる王英=猿弥。頑なな心が少しずつ解けていく青華=笑也。2人を見守るお夜叉=春猿。それぞれ役と役者さんが同化して、絶妙の配役だと思いました。若いっていいなあ、友情っていいなあ、と素直に感動しました。

投稿: SwingingFujisan | 2008年8月30日 (土) 23時06分

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