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2008年9月 2日 (火)

幸せな1日:演舞場昼の部

91日 新秋九月大歌舞伎初日昼の部(新橋演舞場)
あんまり海老ちゃんが素敵で、どう書いていいか、全然わからない。義賢は力でもっていき、実盛は穏やかで細やか、どちらも人物の大きさを思わせ、なおかつ海老ちゃん特有の華が演舞場全体を覆っていた。
「源平布引滝」は「義賢最期」、「竹生島遊覧」、「実盛物語」の3段仕立て(「竹生島遊覧」は段としては成立していないみたいだから、正確には2段仕立てかな)。「実盛物語」は仁左様のを1回だけ見たことがあるが、他の2つは知らないと思ったら、「義賢最期」は私が歌舞伎を見るようになってからは東京でやっていないし、「竹生島遊覧」にいたっては77年ぶりの上演だそうだ。それだけでも貴重なものを見たという気になる。
義賢にしろ、実盛にしろ、とにかくもう間近で海老ちゃんの魅力を満喫lovely
「義賢最期」
最初は館の奥から声だけで存在を示す。低く抑えた、それを聞くだけで、おっかなそうな顔が浮かぶ。実際に出てきた義賢は五十日鬘(というらしい。俯いたりしたらすごくデカい頭になって顔がすっぽり鬘の中に埋もれてしまう)に病を表す紫の鉢巻姿、憂鬱を含んだ勇猛さの中に海老ちゃんらしい美しさがある。
館を平氏に囲まれた義賢が娘・待宵姫(梅枝)や妻・葵御前(松也)を逃がす場面は泣かされた。渋る姫を冷淡ささえ感じさせる態度で追い立てるようにして、多田行綱(権十郎)とともに落としてやる。花道付け際に出て最愛の娘の後ろ姿を見送りながら、安堵の笑みとも涙ともつかぬ優しい目をする。また、葵御前を落ち延びさせるときも、源氏の白旗を託した(つもりの)身重の妻を早く行け早く行けと追い出すかのようにして、そして、その後姿に再び安堵しながら、ただ一つの心残りは葵のお腹の中にいる子の顔が見られないこと、と嘆く。それまで女たちに見せた強い顔とは違った夫の顔、父の顔があり、義賢の心情が胸に迫ってくる。
だけど、ちょっとおマヌケなところもある。「白旗を託した(つもりの)」とさっき書いたが、実は葵が館を出ようとするときに敵の軍兵に襲われて旗を奪われてしまうのだ。その軍兵をせっかく取り押さえた義賢なのに、逃げるのを急かすあまり、葵も義賢も白旗のことを忘れてしまう。私は「旗、旗」と指差して教えてあげたい気持ちで力が入った。でも、ここで葵が旗を忘れなかったら、この後の物語が成立しない。
さて、多勢に無勢、さしもの義賢も、ついに倒れる。旗は結局小万(門之助)に託し、義賢は仏倒し(または仏倒れ)という壮絶な最期を遂げる。これは、立ったまま、屋台の階段に前倒しになるというもの。階段の上にきれいに長袴が広がり、壮絶さの中にも美を追求する歌舞伎らしい最期だと思った。義賢と平氏の軍勢との立ち回りも見ごたえがある。襖を2枚立て、その上にもう1枚を渡し、そこに義賢が仁王立ちに乗る。立てた襖を支えていた人数が減り、最後の1人が手を離すと、おお、義賢は襖ごと横倒しに倒れる。見せることもちゃんと意識した見事な立ち回りだ。しかし義賢ときたら、何しろ素襖に長袴という武士の礼装で戦うのだから、そのエネルギーたるや半端ではない。最初の幕でこんな暴れまわって海老ちゃん大丈夫か、と心配になるほど。
「竹生島遊覧」には猿弥さんが登場する。ついつい純愛を思い出してしまうけれど、ここは逸見藤太みたいな剽軽なつくり。名前も塩見忠太と似ている。猿弥さん、これだけっていうの、もったいないな。
この「竹生島遊覧」で小万の身に起こることは、次の「実盛物語」では実盛の口から語られるからそれでわかるのだが、百聞は一見にしかず、やっぱりこうして見せられると具体的で納得できるからありがたいし、面白い。そしてそれも「義賢最期」から繋がっているから、よりわかりやすい。
「実盛物語」
海老ちゃんの最大の魅力は目だ。目が、たくらみ、怒り、悲しみ、慈愛を含む。「実盛物語」でも太郎吉に向ける目が何とも慈愛に満ちていて、それを見ているだけで、うるうるしてしまう。
太郎吉の秋山悠介クンがまた可愛いんだもの。小さな小さな体で、堂々とたくさんのセリフをこなし、剽軽さも頼もしさも感じさせてくれる。「義賢最期」では、おじいさん(九郎助)役の新蔵さんの背中に後ろ向きに負ぶわれて、敵と立派に戦いもする。この芝居は子役ちゃんがとても重要なのだ。
この太郎吉が、平氏の瀬尾十郎兼氏(市蔵)の首を討ち落とす場面もまた感動的だ。それは赤っ面、白髪・白鬚もじゃもじゃの憎らしい瀬尾が実は…ということだからなのだが、市蔵さんの<モドリ>が泣かせる。最近の市蔵さんは本当に良い。ところで、瀬尾って、あの瀬尾太郎兼康(「俊寛」の)とどういう関係? 瀬尾家はみんな赤っ面? 
実盛が馬に乗ると、恐らく観客全員の目が海老ちゃん1人に注がれる。そこだけ光が差しているかのような輝きが海老ちゃんの体に溢れているshine。馬上の引っ込みで実盛が花道付け際に出たまま、本舞台では定式幕が引かれる。このとき、舞台にも気をひかれながら、海老ちゃんから目を離せない自分もいて、でも、海老ちゃんはこれからたっぷり引っ込みを見せてくれるのだからと、やっぱり舞台で実盛を見送る人々に目を移して大きな拍手を送ったのでした。
一押し
松也クンと梅枝クンが義理の母子で出てくるのが嬉しい。幕が開いて最初に登場するのがこの2人。初々しい梅枝クンに対し、松也クンは眉をつぶしているせいもあるだろうが、落ち着いた若奥様ぶりで、年上の貫禄も見せる。
さて海老ちゃんは別格として、この芝居の一押しは小万の門之助さんだろう。丁寧な演技で、ある意味この芝居の主役とも言える(「実盛物語」だけではそれがわからない)小万の心を見事に表現し、忠義に厚い女丈夫ながら、女性らしさも十分感じられる。門之助さんといえば、二枚目から女方、時には奇々怪々な人物を演じたりもして役の幅が広いが、こんなにぐっとくる門之助さんは初めて。これまでの門之助さんで一番!と思った。
ちょっと横道:実盛の生涯をイヤホンガイドで聞きながら、「我が魂は輝く水なり」のあの森、あの名前、あの人々を思い出した。

枕獅子
舞台中央からセリあがってきた時様のなんと美しいこと。ため息が出ました。「枕獅子」は藤十郎さんのを名古屋で見たけれど、舞台も振り付けもそれとはまた違うものであった。
初日だからだろう、時様と裃後見の竹蝶さんの呼吸がちょっと合わないところがあり、引き抜きに手間取ったり、小道具の受け渡しにちょっとハラハラする場面があった。竹蝶さんは小道具の扱いだけでなく、差し金の蝶を飛ばしたり、お仕事がたくさんあって、大忙し。先輩の時蝶さんのお手伝いを受けながら、汗びっしょりで頑張っていた。
最初の傾城の手紙の手渡しがうまくいかず、そのせいか時様はちょっと慌てた様子で、その後やや固いかなと思った。それでも踊りはしっとり美しく、きりっとした獅子姿もなお優美で、毛振りさえもしっとりしており、こういう獅子もあるのか~と面白く思った。
禿で再び梅枝・松也コンビheart04が登場。松也クンは先ほどの葵御前の大人っぽさとは打って変わって、可愛らしい禿。禿なんだから当然かもしれないが、子供っぽささえ感じられる。2人が登場すると、途端に場が明るく華やかになる。踊りは梅枝クンがややリードか。松也クンを見ていると、背が高いせいか、相当膝を曲げていて、負担がかかっている気がする。今は若いからいいけど、将来大丈夫かな。

海老ちゃん、時様、松也クン、梅枝クン、ご贔屓をたっぷり見られて、幸せな1日でした。夜の部はここに亀ちゃんheart02が加わるのよ。どうする~。

<上演時間>「義賢最期」78分、幕間35分、「竹生島遊覧」18分、幕間10分、「実盛物語」78分、幕間20分、「枕獅子」50分。終演1549

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コメント

SwingingFujisanさま、感想待ってました~!
タイトルが「幸せな1日」となっている時点で、その素晴らしさが伝わりました。私は今週末に昼の部、来週に夜の部、後半でもう1度昼の部の予定です。後半の昼の部は最前列なので、興奮しすぎて倒れないように、今週は予習をと思っています。SwingingFujisanさまのレポを読んだら、早く見たくって仕方ないです。私もご贔屓がたっくさん出ているので、目が足りなくって悩んでしまいます。わ~、ほんと楽しみぃ。

投稿: aki | 2008年9月 2日 (火) 15時15分

aki様
早速のコメントをありがとうございます。
何しろこの9月演舞場は、私にとっては興奮の役者さん揃いですので、レポもその分差し引いてお読みくださいね。
でもaki様もご贔屓がたっくさんということですから、ねsmile 
最前列はやはり迫力ありますね。こ~んなに舞台と近かったんだっけと改めてビックリします。お楽しみにnotes 私も昼夜2回ずつ参りますが、少なくとも昼の部は何度でも見たいような気分です。

投稿: SwingingFujisan | 2008年9月 2日 (火) 18時14分

昨日もご一緒だったようですね(^^)

SwingingFujisanさんらしき方を入口付近でお見受けしたのですが、思い切ってお声をかければよかったですね(^^; 

門之助さんの小万は本当に素敵でした。小万さんって、きっとこういう人だったんだろうなと思うくらい(^^) こんなキーパーソンだったとはつゆ知らず(^^; 源平布引滝だけでなくて、他のお芝居もいつもというワケにはいかないかもしれませんけれど、たまに通しをやっていただくとよりお芝居の面白さが分かりますよね。

まだ日にちは決めていませんが、昼はもう一度今度は下の階で見るつもりです。3階からでもとても面白く拝見しましたけれど、戸板崩しの高さが感じられないのがちょっとネックでした。

投稿: kkirigirisu | 2008年9月 2日 (火) 20時08分

kirigirisu様
今まで、小万って、甦って腕がくっつくという印象しかなかったのですが(だって、「実盛物語」しか見ていなかったらそうですものね)、あんなに涙ぐましい働きをしていたのですね。kirigirisu様も門之助さんをとても評価なさっていらっしゃいましたが、まったく同感です。

1階で見ると、とくに立ち回りなど、また違った印象を受けるかもしれませんね。私は2度とも1階席なので、逆に上で見たい気持ちが湧いてきました。

私、とてもボンヤリですので、お気付きになられましたら、ぜひお声をかけてくださいませね。

投稿: SwingingFujisan | 2008年9月 2日 (火) 20時41分

SwingingFujisan様。レポ、ありがとうございます! 海老蔵丈の魅力、充分伝わって参りましたnote。もちろん、舞台の魅力も存分にnotenote! 前方席で拝見しますと、役者さんのオーラで、魔法の粉が掛かりますよね~。(ティンカーベルの粉みたいな、キラキラパウダー。) 
初見まで、こちらの記事を反復拝読して、ワクワク感を味わわせていただこうと思います。ありがとうございます。

投稿: はなみずき | 2008年9月 2日 (火) 21時25分

初日の昼の部の感想、ありがとうございました。海老蔵さんにワクワクの様子がよく分かりました。今回は『義賢最期』『竹生島遊覧』『実盛物語』と並べて、話の筋を通しているのがいいですね。感想を拝読して、六日の観劇が待ち遠しくなりました。

私は初日夜の部を観劇。『加賀見山旧錦絵』は、その亀治郎さんが期待以上の利発で忠義一途なお初で大活躍。この役は亀治郎さんのためにあるような感じでした。時蔵さんの尾上、海老蔵さんの岩藤ともども目一杯楽しめましたよ。

(追記)夜の部に向かう途中門之助さんを楽屋口でお見かけしましたよ。素顔も素敵ですね。

投稿: 六条亭 | 2008年9月 2日 (火) 23時05分

はなみずき様
ありがとうございます。
海老蔵さんの魔法のきらきらパウダーshineをたっぷり浴びてまいりました。
昨日見たばかりなのに、もう又見たくなって、次回観劇日が待ち切れな~いと、心がわがまま言っていますsmile

投稿: SwingingFujisan | 2008年9月 2日 (火) 23時34分

六条亭様
コメントありがとうございます。
3本通して上演されたおかげで、小万の存在の重要性がよく摑めました。
今月の演舞場は、前半に昼の部を2回、後半に夜の部を2回という取り方をしてしまい、ちょっと失敗したなと思っております。
六条亭様がそこまでおっしゃるほどの亀治郎さん、後半までお預けなんて…weep

門之助さんをお見かけになったとは羨ましいです(^^)

投稿: SwingingFujisan | 2008年9月 2日 (火) 23時49分

なんとまあ、同じく初日昼の部を見ておりましたsign03
ほんと竹生島遊覧があるとお話がよくわかりますね。
そして、門之助さんの小万がすごくよかったです。
特に「義賢最期」での緊張感のある演技が。今までこういう役の門之助さんを拝見したことがありませんでした。
右之助さんは実はとても好きですし、もちろん松也くんに梅枝くん・・・と、海老ちゃん以外にも見どころいっぱいで、満喫しました。
私ももう1回見たいなあ。

投稿: きびだんご | 2008年9月 3日 (水) 00時30分

きびだんご様
うふふ、きびだんご様もいらしたのですねhappy01
間近で見た海老蔵さんがあんまり輝いていて、ついつい興奮して海老ちゃん中心の感想になりましたが、他の役者さんもそれぞれいい味出していましたよね。右之助さんもよかったです。新蔵さんが子役ちゃんをやさしくフォロー(?)していたのも印象的でした。
松也クンって声がきれいで、それが魅力の1つでもあるなあと思います。

投稿: SwingingFujisan | 2008年9月 3日 (水) 00時56分

いまさらこんなところにコメントですみません(^_^;)
昼の部観てきました♪
SwingingFujisanさんのこの記事を読んでたので、「義賢最期」の松也さんがどんなか、期待たっぷりだったんですが、
まったくおっしゃるとおりで、松也さんの貫禄にびっくり!!松也さんの女形はかわいいイメージしかなかったんですが、
なかなかどうして。この先もこのまま兼ねる役者さんで行ってくれるとうれしいなぁ なんて思ってきました。
最後の「枕獅子」では、時蔵さんの気持ちよい毛振りに惚れ直してまいりました♪
それにしても、この「枕獅子」、私の観劇史上、1番のべっぴん胡蝶コンビでした♪♪

投稿: HineMosNotari | 2008年9月23日 (火) 23時46分

HineMosNotari様
コメントありがとうございます。
そうですよね、松也クンといえば可愛らしい感じでしたよね。今でも忘れない「児雷也」の菊五郎奥様の娘役(今時の女の子風)は本当の女の子かと見紛うほどでしたsmile
これからは「兼ねる」としてどんどん役の幅を広げていっていただきたいですよねheart04
「枕獅子」は私は今回が2度目ですのでそう比較はできないのですが、本当に美形のお2人で、目を楽しませていただきました。Notari様の観劇史上1番のべっぴんコンビというのですから、それはお得な「枕獅子」を見たものだ、とにんまりしております。

投稿: SwingingFujisan | 2008年9月24日 (水) 08時10分

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