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2008年9月18日 (木)

適役主従:加賀見山

9月17日 新秋九月大歌舞伎夜の部(新橋演舞場)
やっと演舞場夜の部にたどり着きましたsmile

「加賀見山旧錦絵」
この作品が上演されると知ったとき、以前に見た「加賀見山」が鮮明に甦ってきた。思いつめた表情の玉三郎さん、いやみたっぷりな菊五郎おばちゃん(風格とは別に「おばちゃん」と言いたくなるユーモラスな感じを私は受けた)、そして「旦那さま、旦那さま」と甲斐甲斐しい菊之助さん。記憶力の悪い私にしては珍しくさまざまな場面が浮かんでくる。それだけ「加賀見山」は私にとって大事な演目だったのか、と自分ながら驚くほどである。今回、時様、亀ちゃん、海老ちゃんと大好きな3人が「加賀見山」で共演だなんて、夢のようで狂喜したけれど、その反面ちょっと怖い気もしていた。

菊之助さんは色で言えばだいたいいつも白か薄桃色、亀治郎さんは赤を基調に紫だったり、オレンジだったり、緑だったり、色々に変わる。さて、このお初は菊之助さんの清新な白いイメージが私にはとても強い。亀ちゃんはどうかと見てみたら、基本に赤がありながら、限りなく白に近いような気がした。お初という娘自身が白のイメージなのだろうか。
私は3幕目の尾上の部屋の場が一番好きである。尾上がどれだけお初を可愛がり、お初がどれだけ尾上を大切に思っているか、2人の心情が胸を打つ。屏風の陰で着替える尾上を手伝う場面なんか、3階席に声はあまりよく届いてこないのだけど、主従とはいえロッカールームのOLみたいな気安さがあって、なんかいいなあと思ってしまう。
主人の異変を敏感に察知して、塩冶判官を例に諌めるお初、盛んに胸騒ぎがして主人を1人置いて出たがらないお初、その渋るお初を無理矢理使いに出し、最後の別れに慟哭しながら見送る尾上、岩藤から受けた屈辱を思い出して悔しさに号泣する尾上、母の手紙に詫びる尾上、ああどの場面もすぐに2人の気持ちに入り込めて、一緒に泣いてしまう。玉三郎さんは神経の細さを感じさせ、ああこれではどんなにか辛かろうとこちらまで苦しくなった。時様は芯は大らかで明るいだろうに(私の中に織笛姫のイメージが残っちゃってるのかな)その人がこんなに苦しんでいるなんて、と手を差し伸べたくなる。助けてあげられなかったことにつらくなる。せめてお初に見取られて死んだことが救いだと思った。
お初がたった1人で尾上の遺骸に内掛けをかけ、屏風を上下逆さにしてその上に槍を置く。この儀式にも泣いた。
時様の尾上も、亀ちゃんのお初もまさにうってつけの役。
さて、海老蔵・岩藤は? 強烈だった。何しろデカい。顔も怖い。だけど、きれいだし、どことなく愛敬もある。歌舞伎の敵役は八汐なんかもそうだが、リアルに憎ったらしくないほうがいいような気がする。そういう意味では菊五郎さんも風格の中にしょうがねえおばちゃんだなあ、と思わせるものがあった。海老ちゃんは怖さが豪快で愛敬がある。もっとも、そばで見たらそんなこと言ってられないかな。最後にお初と戦って倒れた後、腰元が6人で岩藤を持ち上げて運んでいったが、客席から思わず笑いが起きていた。私もつい笑ってしまった。だって、あんな大きな体だから、持ち上げるにも「せ~の」とか6人が内心で声を合わせているんだろうなと想像しちゃったんだもの。ただ、海老ちゃんでちょっと気になったのは、声が時々不安定になること。脅したりするときはいいのだが、猫なで声というか、正体を隠して声を作ると、「変な声」と言いたくなってしまう。
特筆しておきたいのが萬太郎クン。敵方の牛島主税という役をしっかり務めていた。セリフも動きもなかなかよくて存在感を示した。巳之助クンとの若い立ち回り、亀ちゃんも加わっただんまりは面白かった。
序幕・二幕目はかなり大声でお喋りするおばちゃんたちがいて、やや興をそがれたけれど、ひとつの演目で時様、亀ちゃん、海老ちゃん、松也クン、梅枝クンとご贔屓が揃って、幸せでした。
最後に一言、11月花形歌舞伎の「伊勢音頭恋寝刃」で万野の役がまだ決まっていないようであるが、ぜひぜひ亀ちゃんにやってほしい。岩藤→貢なら、お初→万野で、海老ちゃんをたっぷりいじめる姿を見たい。TVの撮影があって忙しいらしいが、何とかなりませんかねえ。

付記:定式幕の引かれ方が全体にゆっくりだったような気がしたが、とくに二幕目の終わり、尾上の苦悩に合わせるかのようにゆっくりゆっくりだったのが印象的だった。
「かさね」は歌舞伎座からの疲れがどっと出て、3分の2くらいしか見ていなかった。きれいなカップルだわあとどきどきした(海老ちゃん、斧定九郎風に見えた)。亀ちゃんの衣裳、麻阿のと同じ? 似ている感じがしたけれど。千穐楽に心して見ます。本当は昼の部から通しで見ようかと思ったけれど、やっぱり体力無理そうなので、夜の部だけにします。
<上演時間>「加賀見山」序幕40分、幕間5分、二幕35分、幕間30分、三幕・大詰100分、幕間25分、「かさね」50分。終演2115

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歌舞伎ミーハー観劇記」カテゴリの記事

コメント

おはようございます♪

Swinging Fujisan さまは昨日歌舞伎座と演舞場の通しだったのですね!
お疲れ様でございます。 そして深夜にはもう記事をアップされて・・・
そのパワーに圧倒されます。
私は昨日歌舞伎座の昼の部を拝見しまして(又ご一緒だったようですね♪)本日、演舞場の通しでございます♪

楽しいレポを拝見して、益々今日の舞台への期待が高まりましたheart04
演舞場の千穐楽・夜の部もご一緒みたいです~なにやら ご縁があるようで・・coldsweats01

投稿: ミッチ | 2008年9月18日 (木) 08時42分

ミッチ様
おはようございます。
ミッチ様とは本当によくご一緒になりますよねhappy01 私もご縁を感じますわ。
昨夜は、かなり疲労したのですが、帰宅したら不思議と元気を回復しましたdash

時蔵さんの苦悩、亀治郎さんの甲斐甲斐しさ、海老蔵さんの豪快ないじめ、お楽しみに。

投稿: SwingingFujisan | 2008年9月18日 (木) 09時36分

定色幕がゆっくりゆっくり・・・私もあらっ、こんなにゆっくりだったかしら、と思ったのですが、ほんとに尾上の気持ちに寄り添うというのがピッタリでしたね。今まで幕の引き方を意識したことなどなかったので、新鮮な驚き、という感じでした。
千秋楽にもう一度ですか。いいなぁ。「かさね」は菊ちゃんとのコンビで御園座で見たと思うのですが、亀治郎さんは情念というか凄みがとても伝わってきました。SwingingFujisanさまの「色」分類にもつながる気がします(菊ちゃんを見る時の私の目が、ハートマークでかすんでいて客観的に見るのを邪魔しているのかも)。
ところで「食欲の秋」らしいテンプレート、コメントを書こうとするとすごいイラストが現れますねぇ。自戒(笑)。

投稿: きびだんご | 2008年9月18日 (木) 10時46分

きびだんご様
定式幕の引き方にもドラマ性をもたせているなんて、なかなか細かい気遣いですよね。
菊ちゃんを見ていると、いつも清らかさというか透明感のようなものを感じます。私もけっこうlovelyになりますよ~。亀治郎さんは先月の白拍子・花子もそうでしたが、情念の表現がいいですね。

テンプレートのイラスト、私も思わず笑ってしまいました。なかなかいいテンプレートがみつからないのですが、これぞ<私の秋>と、一目で気に入りましたsmile

投稿: SwingingFujisan | 2008年9月18日 (木) 10時58分

ようやく三人の顔合わせによる『加賀見山旧錦絵』をご覧になったと思いましたら、感想記事早くもアップ!凄いパワーです。亀治郎さんのお初にパワーをもらいましたかね。お初は亀治郎さんにうってつけの役でしたでしょう。

玉三郎さん、菊之助さん、菊五郎さんによる舞台も素晴らしいものがありましたが、今回の三人もまた一つの立派な加賀見山を作り上げていたと思います。色での比較もなるほどと思いました。

千穐楽は昼はご覧にならないのですか?海老蔵さんの昼夜にわたる大活躍の舞台ですから、残念ですね。

投稿: 六条亭 | 2008年9月18日 (木) 20時52分

六条亭様
ありがとうございます。
帰路はあんなにくたびれていたのに、帰宅して時間がたつにつれ元気が戻り、それならアツいうちにpunch、と思って感想をアップしました。
亀治郎さんのお初が旦那様を思う気持ちが痛いほど感じられ、この役で亀治郎さんの色がまた一つ増えたなあと思いました。
千穐楽の昼、実は又迷い始めています。だって、「今回の海老ちゃんの義賢と実盛はこれで終わり」とまだ自分に言い聞かせてないんですから。事情が許せば見るかも…。あまり焚き付けないでくださいませねcoldsweats01

投稿: SwingingFujisan | 2008年9月18日 (木) 21時33分

演舞場夜の部のレポ楽しみにしてました~shine
時蔵さんと亀ちゃんの場面、本当によかったですよね。
亀ちゃんもイイですが、時蔵さんの尾上が本当にステキです。
海老蔵さんの場面は、私が行った回も笑いが起こっていました。
たしかにインパクトありましたもの。
楽、私も観にいきます!(実は今週末も行きます…bleah

投稿: non | 2008年9月18日 (木) 22時40分

non様
コメント、ありがとうございます。
時様ファンの私としては、尾上をお褒めいただいて、とても嬉しく存じますhappy01

今週またいらっしゃるのですか! う~む、歌舞伎座との合わせ技で、こりゃ表彰モノですねsmile こうなったらやはり、演舞場昼の部もいかが?

投稿: SwingingFujisan | 2008年9月19日 (金) 00時26分

こんばんは。やっとみてきました。
岩藤って、悪のくせにドジで、結構愛されるキャラなのかも、だから骨寄せで空飛んじゃったりするのかも、なんて思いました。

投稿: urasimaru | 2008年9月23日 (火) 01時04分

urasimaru様
こんばんは。
岩藤ってたしかに、悪いヤツなんだけど、ちょっと憎みきれない愛嬌がありますよね。私、骨寄せは見たことないのですが、愛されキャラだから空飛ぶって、smile納得してしまいます。
せっかくだから、海老ちゃんに飛んでもらいたいです~。

投稿: SwingingFujisan | 2008年9月23日 (火) 01時43分

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