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2008年10月15日 (水)

主君の指、そして雨の相乗効果

1014日 仮名手本忠臣蔵Aプログラム(平成中村座)
ことAプロに関しては、正面からも見たい。桜席の醍醐味はBプロのほうがより味わえたし、またAプロは左側2列目で見たのだが、右側のほうが見やすいとも思った(左側は花道がかなり見えない。大序では銀杏の葉っぱが視界を狭めていた。主要な場面で役者さんが下手側を向いていることが多い…ような気がした。そして、何より、Bプロの席はとても恵まれていた)。
それはそれとして、「仮名手本忠臣蔵」の面白さをたっぷり味わった。今回とくに見てよかったと思ったのは、裏門の場。おかるとの逢瀬を楽しんでいたばかりに主君の急に間に合わず、表門は火事場のような騒ぎで入れないからと裏門に回ったのに、ここでも中に入れてもらえず。勘平の哀しい運命の始まりの場面である。「屋敷は閉門、家来は色にふけり…」と、ここでの勘平のセリフが六段目の「色にふけったばっかりに」に重なり、取り返しのつかぬ悔いが胸に迫ってくる。2つ前「足利表門進物の場」で加古川本蔵が登場したあたりから降り出した雨がこの裏門の場で激しくなってきて、勘平の心とシンクロしているような気がした。
切腹の場。塩冶判官の死にぎりぎり間に合った大星が主君の無念を直接全身に受け止める。仁左様の顔は見えなかったが、息を引き取った主君の体を丁寧に正し、その手から切腹刀を取る場面は圧巻だった。固く握りしめられた主君の指を11本、心をこめて開く。無念さから解放してあげるかのように、自分の手がその無念を預かるかのように。そして主君の手を慈しむように撫でる。降り続く雨の音以外、場内はしわぶき一つ聞こえない。仁左様が本当に泣いているように見えて、こちらも涙がじわ~っと滲んできた。「仮名手本忠臣蔵」という作品のさまざまな場面の中でもっとも象徴的、もっとも感動的な場面ではないだろうか。
この切腹刀、大星は大事に懐に入れておくのだ。館を後にするときに、そっと取り出し、先端についた主君の血を掌につけて、それを口にする。仇討ちを決意した心の深さがよくわかる場面だった。そして重い重い足取りで、館を振り返り振り返り、花道を引っ込む仁左様。雨の音を聞いているからか、この場面も雨の中のような気がしてしまった。重苦しい。先に見た討入り成功の場での清々しい仁左様の顔がなかったら、「わっ」と叫び出していたかもしれない。この場面では、館の門が舞台奥へと少し引っ込む。大星と館の距離、そして今後の長い苦労を感じさせるうまい方法だと思った。今、思い出したら、泣けてきて困っています。仁左様はすごい役者さんだ、と改めて感嘆している。

上記以外で書いておきたいこと
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役者さん >
①勘三郎さんの塩冶判官はおっとりとしていて、それほど短慮なイメージは受けなかった。普段穏やかな人物が溜めに溜めた悔しさを爆発させたという感じかしら。
Bプロでも勘太郎クンがとてもよかったが、Aプロの血気さかんな桃井若狭助、焦る勘平ともにいいなあと思った。勘平のときの声が勘三郎さんそっくり。
③最近、松之助さんが快調だと思う。鷺坂伴内のいかにも俗物な様子、だけど飄々として憎めない人物像が生き生きと演じられている。
④「大星はまだか」と目で問う判官の正面に手をつき、「まだ」と目で答える力弥(新悟)。この力弥の表情は桜席でないと見えないかも。必死の表情で泣きそうになりながら判官の目を見つめる新悟クンの隠れた力演に感動。
⑤橋之助さんの師直がいい味を出していて、ちょっと意外だった。意地悪ぶりも大きくてなかなかだったし、賄賂を受け取ってからの豹変ぶりもおかしみの中に考えさせるものがあった。賄賂は差し出すほうも受け取るほうも、互いに相手をバカにしているのだろう。バカになって得を取る世渡り上手の師直のいやらしさだが、本来清潔感のある橋之助さんによって、これも一つの哲学か、なんて思わされてしまった。そんな師直だけど、顔世に見せる表情がとても穏やかでやさしいのは面白い。横恋慕には違いないけれど、案外純な愛情なのかもしれない、なんて。
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外の音がけっこうよく聞こえることから、冗談半分に、雨の時に見てみたいなんて思っていたら、見事に今日降ってしまった。ザーザーいい出したときは客席に少しざわつきが感じられたが、雨の音は意外と芝居に溶け込んでいた、というか、相乗効果が感じられたような気さえする。ヘリコプター(これが、案外よく飛んでいるのよね)や救急車、花やしきの喚声は芝居とはそぐわないから、とても気になる。
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お香>
四段目が始まる前、お香のかおりが漂ってきたな、と思ったら、役者さんが香炉を持って舞台を3周くらいしていた。
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桜席とそれ以外の席の間は定式幕が隔てている。その定式幕が舞台の定式幕とともに引かれているときは、桜席も舞台と同格で、幕内の様子が見える。舞台の定式幕が引かれたのにこちらの定式幕が引かれないときは桜席の前の黒幕が降りてきて、桜席は他の客席と同格になる。ということかな。
大序の人形による口上のときは、両方の定式幕が引かれているため、桜席からは人形が見えない。そこで、係りの案内により、幕より前の通路にての立ち見になる。口上が終わって席に戻ると黒幕が上がっていて、登場人物が目を閉じたままうつむき加減で控えている(まだ人形だから)。天王立の鳴り物が響いて、ゆっくりゆっくり幕があくまでの間、幕外では見られないこの様子を目にできるのは嬉しい。なお、幕切れ、大星の花道の引っ込みも同じ立ち見になる。
そういえば、はじめに係りの人が「舞台の役者さんと同じ温度を体感できます」と言っていたが、こちらでは扇風機が空気を動かしていたし、ライトが直接当たるわけではないから、同じ温度ではないと思うな。
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トイレ>
桜席は幕間も席を立つのが惜しい。しかしトイレにも行かねばならない。1回目の幕間は、舞台奥の扉をあけて外から足利表門を持ってくる様子であったが、戻ってきたらもう舞台が出来上がっていて、ちょっと残念なことをしたと思った。そこで2回目は舞台をしばらく眺めていたのだが、次の切腹の場に間に合わないと1時間ほど席に入れてもらえなくなると脅かされ、やむを得ず席を立った。すると、なんと階段上まで列が伸びていて、私はトイレ側の2階だからそのまま並べたけれど、1階席の人や右側の人はわざわざ階段を上ってこなければならない。席に戻るときもまだ列は2階まで続いていた。
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その他>
客席に「焼き大福、お茶、ビール」の売り子さんが来た。ビールは寝ちゃいます、トイレに通っちゃいます。無理。でも、売り子さん風景は大歓迎。
外では舞台写真が出ていた。幕間が短いし、帰りにみようと思ったら雨だし…。で、傘も急遽売り出されていた。私は折り畳みをもっていって珍しく正解(傘をもっていくといつも降らない。もたないと降られる)。

<上演時間>大序47分(11001147)、幕間20分、三段目65分(12071312)、幕間25分、四段目83分(13371500

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