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2008年11月18日 (火)

裏表人間豹

1116日 江戸宵闇妖鉤爪(国立劇場)
開演時間になると場内真っ暗、どんどこどんどこと太鼓の音が鳴り響くうちに幕があくという出だしは、ちょっと期待を持たせる。
第一幕第一場は、不忍池にある出会い茶屋の場面。ずいぶん寂しげなところに1軒ぽつんと建った茶屋だなあ、男女の忍び会いの場だからそれでいいのかと納得したが、本当のところはこうした出会い茶屋が何軒も軒を連ねているらしい。まあ舞台の上はこの茶屋1軒と曰くありげな屋台の蕎麦屋だけ、明かりは月明かりのみで、いかにもこれから妖しげな何かが起こりそう。
この場面では新内をうまく使った趣向が面白い。新内ってTVの時代劇では見たことあるけれど、実際に聞くのは初めて。弾き語りの新内仲三郎さんは人間国宝だそうだ。しばし江戸の粋に浸る。
あまりネタバレするとつまらないから、ストーリーについては端折りますが、芝居のもとになっているのは江戸川乱歩の「人間豹」ともう一つ、なんだったかしら、忘れてしまいました。
「夢の仲蔵」でおやっと思うほどよかった幸四郎さんは、この芝居でも存在感も説得力もあり、あらこういうものはいいのねえ、と改めて感心してしまったcoldsweats01 最後の「俺は人間の心を信じる。どうにもならねぇ運命の分かれ道で、たとえどれほど深い闇を背負わされたとしても、人にゃ踏み外しちゃならねえ道がある」というセリフには、思わず涙が滲んできたくらい(もちろん、それまでのいきさつがあるから、なんですけど)。妻への愛情や、恋人を2人も殺されて精神を病む若者に対する気持ちの大きさもあって、なかなか魅力的だった。でも、居酒屋で初登場して「明智小五郎だ」と名乗ったときには、客席から思わず笑いが漏れた。ちょんまげで刀差した明智ってねえsmile
染五郎さんは、幕府の役人をクビになって就いた職業の鼓の師匠がよかった(鼓のウデはどうなんでしょう。私にはよくわかりませんでした)。あんな陽気な青年・神谷芳之助が辿る悲劇のもとを作った人間豹こと恩田乱学は染五郎さんの2役。私は途中まで、人間豹のような怪物を作り上げたのは社会なんじゃないかと解釈していた(というか、勝手に自分で人間豹の悲劇を作り上げていた。こういうのって、そうやって悪の理由を納得したいじゃないthink)のだが、だんだんその辺が自分の中であいまいになってしまった。「恩田が神谷のように色男で、神谷が恩田のような化け物だったら」…神谷も同じことをしていたかもしれないと言う同心・小林のセリフに考えさせられてしまった。「神谷と恩田は表と裏、光と影というわけか」との明智の言葉が重苦しく聞こえた。
歌舞伎の悪役ってかなり魅力を感じる存在でもあるので、恩田乱学にもそれを期待したが、外観のせいなのか、恩田という怪人の本質を摑みきれなかったせいなのか、あるいはあまりにどす黒い悪のせいなのか、残念ながらそういう魅力は感じなかった。むしろ人間豹の母親とされる百御前(澤村鐵之助)のほうが悪役の魅力を放っていた。百御前の悪もどす黒いのだけど、どこが違うのかなあ、自分ではよくわからない。乱学より長いこと生きてきたという重みが感じられたのかもしれない。

春猿さんがこれに出演していたってこと、すっかり忘れていたcoldsweats02 登場したときには思わず「おお」と声が出そうになった。ちょっと積極的な若い町娘お甲・婀娜っぽい女役者お蘭(きれ~い)・明智の妻お文と3役演じ分けの大活躍。どれも春猿さんらしい役で、中でもしっかり者のお文には江戸っ子の心意気と明智を陰で支えている強さがあって、春猿さんも一番生き生きとしていたように思う。
脇の役者さんもみんなよかったのだけれど、とくに高麗蔵さんの2役目蛇娘・お玉(もう1役は同心・小林新八。これって、かなり年は違うけど小林少年なのかな)が悲しくって心に残った。高麗蔵さんという人はワケありの役にいい味が出るなと思う。昔はきっと口減らしなどで見世物に売られた子供たちや女たちが悲惨な生活を送っていたんだろうなあと、江戸の社会の厳しさを思わずにいられなかったweep 
市川弘太郎さんの珍しい女方、猿弥さんの女方に通じるものがあるかもしれない。今年彗星のように現れた松本錦政クンがお文の甥役で出ていて、少年ながら存在感を示していた(錦政クンって、ほんと、誰?誰なの?)。
タイムリーなことに、人間豹のアジトが浅草奥山だった。見世物小屋の裏手、下を川が流れている地下の洞窟のようなところで、マントをつけた怪人といい、「オペラ座の怪人」をちょっとだけ連想させる。
地上には見世物小屋が並び建ち、大勢の人で賑わうところだが、そういう見物人は全然いなくて、江戸の町の賑わいはあまり感じられない(この小屋、客入ってないなあ、と思ってしまった)。よく梅之さんが「雰囲気を出すように演じる」と書かれているが、その意味がよくわかったし、そういう役者さんたちって、とても大事な存在なんだ、ということに初めて気がついたような気がする。しかし、一方の地下には恩田に飼われている怪しげな乞食たちが大勢おり、そちらのおどろおどろしさはよく伝わってくる。それを強調したかったのかなとも考えたが、地上の賑わいと対比させたらもっと凄みが出たのではないかしらeye
途中から歌舞伎テイストが薄くなって活劇風になっていったが、一幕目五場、二幕目五場+エピローグと場数が多いにもかかわらず、テンポがよく場の転換も気にならなかった。染五郎さんの早替り、ワイヤーアクション、大凧→傘の宙乗り(宙乗り小屋から紙吹雪が吹き出してきた)なども楽しめて、面白かった。宙乗り小屋の近くの席が取れず、上手寄りになってしまったのがちょっと残念だった。
<上演時間>第一幕65分、幕間30分、第二幕60
おまけ1いつもご当地グッズを置く売店が出る場所に乱歩ゆかりの品が展示してあった。丸めがね2点、ステッキ、原稿。書庫や応接間、愛用の机と椅子など写真パネルもかけられている。応接間の椅子と愛用の椅子は同じ地中海ブルーみたいな色で、陰惨な話の後で見るとちょっとほっとする。
おまけ2松本紀保さんがいらっしゃってました。で帰宅すると、紀保さんも出演なさる「ワーニャ伯父さん」(華のん企画)のチケット(なんと、来年2月の分sign01)が届いていた。

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歌舞伎ミーハー観劇記」カテゴリの記事

コメント

国立、意外にかなり面白くてハマっております。宙乗りは無条件に盛り上がってしまうし。でも色々考えさせられる芝居でもありますよね。
松本錦政くんは染五郎さんの部屋子らしいですよ。近くの席の高麗屋ファンらしき方々の会話を小耳にしただけですが。可愛い子ですよね。

投稿: よーこ | 2008年11月19日 (水) 09時19分

よーこ様
コメント、ありがとうございます。
先の筋が想像ついても、全然問題なく面白かったですよね。また、この先どうなるのかしらとハラハラする場面もあったし。
宙乗り、近くで見たかったですわ~。最後の紙吹雪も盛り上がりましたよね。遠くから「うらやまし~coldsweats01」と思いながら見ておりました。
錦政クン、部屋子さんなんですか。可愛いし、以前に見たとき踊りが上手だったので、印象に強く残っておりました。情報、ありがとうございますhappy01

投稿: SwingingFujisan | 2008年11月19日 (水) 10時39分

SwingingFujisanさま、こんにちは。私も拝見しましたが、まだ感想が・・・。

錦政くん、大きくなってました~。今年2月に染五郎さんが初役で「鏡獅子」をなさった時に胡蝶で出ていましたよね。あの時は梅丸ちゃんとペアでしたが、ふたりの踊りがそれぞれに素晴らしく感動したものの、ペアとしての相性はどうかなぁ~なんて思っていました。(私の中でのBEST胡蝶は、現菊之助&海老蔵コンビが小さい時に舞われたものですかね。映像でしか見ていませんが、七代目さんの鏡獅子と合わせて本当に素晴らしかったのです!)
私は梅丸ちゃん大好きで、藤間流の踊りの会でも何度か見ていたて、ゆったりと余裕をもって踊るイメージを持っていました。かたや錦政くんは、身体の小ささと細さを生かした、ちょこちょことすばやく動くというイメージだったのです。確か当時は、松本錦升さん(=染さん)の直弟子で、染五郎さんの部屋子見習いと言われていたと思います。部屋子に昇格(?)したのでしょうか、ね。どちらにせよ、今後もドンドン活躍していくと思いますので、温かく見守っていきたいなと思います。

投稿: aki | 2008年11月20日 (木) 11時44分

aki様
こんにちわ。コメントありがとうございます。
子供時代の菊之助、海老蔵コンビの胡蝶sign03sign03 想像しただけで涎が出そう(なんてこと、言ってるんでしょcoldsweats01
そうですね、そういえば、あの時の錦政クンは小さくて梅丸クンとの体格差がかなりありましたよね。ずいぶん大きくなりましたね。子供って、半年かそこらで成長するものなんですね~。部屋子見習いというのがあるって、知りませんでした。
梅丸クンがゆったり余裕をもって踊るというのはよくわかります。梅丸クンってとても大きな役者になりそうな気がします。
梅丸クンにしても錦政クンにしても、将来が楽しみですねhappy01

投稿: SwingingFujisan | 2008年11月20日 (木) 13時11分

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