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2009年2月27日 (金)

吹雪峠考

二月花形歌舞伎「吹雪峠」(松竹座)
夜の部の「蜘蛛」はご報告ずみなので、残り2演目を一挙、と思ったら、「吹雪峠」がすっかり長くなってしまいそうなので、とりあえず1つだけ。
「吹雪峠」ってはじめて見るし、こんな演目があるのも知らなかった。
最初から雪の量がハンパじゃない(そりゃあ「吹雪峠」だもの)。 猛烈な風の音と荒れ狂う雪の中、花道スッポンに設えられた階段を男女がよろよろと上ってくる。おえん(七之助)と助蔵(獅童)夫婦だ。助蔵は病人らしく今にも倒れそう。必死の2人の前に運よく山小屋が現れる。引きずるように助蔵を連れて小屋に入ったおえんは一息つく間もなく、わずかに残っていた火を熾し(ってことは、少し前まで誰かがいたってことsign02 この吹雪の中、その人は小屋を出て行ったの? それともその人が出て行ってから吹雪になったの? 安達原みたいに山姥が出てきたりしてsign02 と例のごとく1人ツッコミを)、かいがいしく夫の世話をする。
はじめ助蔵が病気だとは気づかなかった私は、なんてだらしない男だろう、それに引き換え女は強い、けなげだ、と決め付けていた。病気ならしゃあないか。
やがて、旅人が1人、助けを求めて小屋の扉を叩く。2人は自分たちと同じように困っている人に手を差し伸べるべく、戸をあける。とたん、外から風とともに雪が吹き込んでくる。この辺の音響効果と連携した雪の操作は見事(あんな薄い木の戸板一枚で、外の荒れた音が聞こえなくなるはずは現実にはないと思うのだけど、そこはお芝居。外界⇒死の世界と内⇒生の世界を扉1枚がうまく隔てている)。
さあさあお温まりなさいと勧めたその相手は、なんとsign03 おえんの元亭主、助蔵の兄貴分・直吉(愛之助)であった。2人は直吉の目を盗んで結ばれ、駆け落ちした仲だったのだ。2人はひたすら直吉に詫びるが、直吉は、今はもう2人が仲良く暮らしていればそれでよいという気持ちでいると言う。
そんな時、助蔵が激しく咳き込み始めた。おえんは薬を自分の口で噛み砕き、水を含むと、助蔵に口移しで与える。ちょっと、それはないでしょうよ~annoy 直吉がいくら2人を許したようなことを言ったって、その目の前でそれはないでしょうng このときのラブリンの傷ついたような、嫉妬の炎が瞳の奥で燃えているような表情が胸をえぐった。
この後、直吉はおえんに未練があるから2人して出て行けと命じる。仕方なく出て行こうとする2人だが、あまりの吹雪の凄まじさにたまらず小屋に戻る。刀を抜く直吉。すると2人は、互いに相手が先に誘った、唆したとまくし立て、我勝ちに命乞いをし始める(極限状態に置かれると、人間、本性を表すってことwobbly)。そんな2人に直吉は突然大笑いして、自分が出て行くのであった。

というお話なんだけど、私、登場人物が3人になってから、しきりに「息子」が思い出された。題材もテーマも状況も、第一作者も別人なのに(「息子」は小山内薫、「吹雪峠」は宇野信夫)、どうしてだろう。
まあ、それはともかく、う~ん、ちょっと違うんじゃないかeyeと思わないではない。獅童さんがやりすぎじゃない? 病気でしょっちゅう咳き込むのは仕方ないにしても、オーバーだし、汚い。小屋にたどり着いて「足が冷たい」と騒ぎ立てるのも、直吉に詫びたり命乞いをするのも、まるでアホみたい。そうでなければ、頑是無い子供だ。七之助さんがきれいだし、しっかりしているだけに、こんな男に命がけで女が惚れるかsign02と疑問に思った。この獅童さんの演技に客席から笑いが起きるのは当然として、愛之助さんまで笑いをこらえる場面があった。でも私はなんだか笑えなかった。宇野信夫はこんな芝居を書いたのだろうか。あるいは私が「息子」を思い出しちゃったから笑えなかったのだろうか。
そう自問しながら見終えたが、でもよく考えたら、そういうアホくさい男を獅童さんは強調して、人間の愚かしさを表していたのだろうか、という気もしてきた。また、千穐楽まで路線変更をしなかったということは他の出演者もそれがいいと納得のうえでのことなのだろう。すると、獅童さんの演技は案外鋭いものがあったわけか。
だとしても、だ。この芝居が歌舞伎である以上、美しさがほしかったと思うのだ。獅童さん、咳き込み方にしても、何にしても美しさを感じなかった。ダメさ加減にも美しさを求めるのが歌舞伎じゃない? せっかく弾正がよかったのにな(この後の「蜘蛛」の碓井貞光もかっこよかった)。
それに比べて、愛之助さんの男らしく美しかったことshine 男女の仲は理屈じゃないけど、獅童さんの助蔵はあんなに素敵な直吉を捨ててまで走る男ではない、と思うのだ。
追記:思えば、この松竹座公演、裏方さんは大忙しだ。昼の部「鷺娘」の雪、「油地獄」の水、夜の部「吹雪峠」の雪、「蜘蛛」の糸。どれも後片付けが大変でしょう。蜘蛛の糸はそれでも後見さんが手際よくくるくると絡め取るから多少はいいかもしれないけれど、水と雪はご苦労が多いと思う。油地獄の水は遠くからではよくわからなかったが、「吹雪峠」の雪は凄まじかった。前方客席の通路は真っ白に雪が降り積もっていたし、幕間には体じゅうに雪の粉(実際は紙)をつけている人を見かけた。前方席の人はそうとう雪をかぶったらしい。だから、舞台と客席だけではなく、トイレやロビー、食堂にまで雪が落ちていたかもしれない。こんな演目を集めた公演、見たことないなぁ。

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コメント

こんばんはhappy01私も早く感想かかなければならないのですが…(笑)あせっているばかりでダメだなぁ。
大阪が終わってしまって、なんか腑抜けになっちゃって…寂しいわ〜weep
SwingingFujisanさま、たくさん歌舞伎をご覧になってるだけあってコメントに納得しきりです。
吹雪峠は意見の分かれどころですが、ん〜(笑)初めて見たので何とも…ですが違う役者なら、印象も違うのかな?なんてsmile
獅童さんなりの役作りかもしれません、でも私も何かひっかかります…
(弾正が良すぎた反動?)
ホントに後片付けもすごい大変なことにwobbly
演目から役から歌舞伎公演って関わる皆さん全員、大変なんでしょうけど…

画面では伝わらない、歌舞伎の生舞台はやっぱり大好きですし、奥が深いからこそ意見も言いたくなるものですねhappy01

投稿: かりん | 2009年2月28日 (土) 02時27分

かりん様
コメント、ありがとうございます。
かりん様にとって今回の大阪はとても重要な意味をもっていましたものね、寂しくて気が抜けちゃったのはよくわかります。
私の歌舞伎歴など浅くて、まだまだ未熟で(というか、何度見ても未熟)…でも、お芝居の感想は人それぞれ、どれが正しいということはないのだと開き直っているんですよcoldsweats01 
「吹雪峠」の過去の上演記録を見て想像する限り、獅童さんの助蔵はユニークなような気もします(あくまで想像ですcoldsweats02)。前の公演の録画も見てみたいものです。
博多からでは大変でしょうが、歌舞伎愛に溢れる方が1人でも増えるのは、同じ歌舞伎ファンとしてとっても嬉しいことです。
かりん様の「蜘蛛」以外のお芝居についてのご感想も楽しみにしておりますが、あまりプレッシャーになりませんように。

投稿: SwingingFujisan | 2009年2月28日 (土) 09時14分

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