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2009年6月28日 (日)

忘れられない千穐楽・3

627日 六月大歌舞伎千穐楽昼の部(歌舞伎座)
「女殺油地獄」
仁左様が最初に花道から登場したとき、あまりの拍手の大きさに驚いた。拍手の意外性じゃなくて、これだけ多くの人が入っているんだと実感した驚きかしら。
市蔵さん、右之助さん(この2人って、わりとコンビ組むこと多くない?)に仁左様のチンピラ3人組みがいかにもな「らしさ」で、ひゃあ、こいつらとはあんまり関わり合いたくないなと思わせる。ああ、でも仁左様の何と若くて素敵なチンピラぶり。どうしても目が離せない。小菊の姿を認めるや、さっと隠れて悪だくみのタイミングを仲間に目配せするところなんて、実にカッコいい。
しかし、会津の郎九とのケンカにはちょっとがっかり。だって、相手が意外と強いのか、こっちが弱いのか、力が対等なんだもの。いやいや、そこが与兵衛の愛敬でもあるんだわ。しかし上方のケンカって江戸のケンカとは違ってずいぶんおっとりしていること。

今日は4回目にして初めて花道近くの席だったが、この花道が与兵衛の性格や心境を見せるのにうまく使われていると思った。最初の出はまだあんな運命が待っているとは誰も知らぬ能天気さ。ここの仁左様の若々しさは一種驚きである(昭和59年上演の録画を見たが、若さはちっとも衰えていない)。伯父に斬ると脅されて、どうしようどうしようと花道前でウロウロするのも、まだまだ能天気なものだ。駄馬に怯え、羽織をかぶって震えている裏に「どうにかなるさ」といった甘えが感じられる花道。怯えを笑われてカラ威張りしたものの(こういうの、いるよね)、バツが悪くてこそこそ逃げ出すのが最初の引っ込み。
2
度目の出は一応商売の手伝いをして油桶を天秤棒で担いで帰ってくるところ。いやいや出かけた商売に身が入るわけもない。我儘いっぱいの与兵衛がさすがに堪えた様子なのが2度目の引っ込みだ。母親に追い出され、勢いで強がりを言って飛び出したはいいけれど…。身の頼りなさを実感したような、だけど「なんじゃい」というカラ元気で我が身を奮い立たせようとする、我儘なガキにありがちな態度ではないだろうか。
3
度目の出、借金のことを考えるとさすがに深刻にならざるを得ないが、お吉に頼れば何とかなるという甘さが見える。その甘さが引き起こした悲劇。最後は恐怖におののき、ともすれば萎えそうになる足を精一杯踏みしめて、一刻でも早くその場を逃れようとする(今日は仁左様、しっかり胸元を押さえていた)。しかし、与兵衛にとってその一刻の長いこと長いこと。さっきまでの竹本に変わり(ここの太棹、名BGMだ)、犬の遠吠えが与兵衛の不安を後押しする。

今日は、両親の与兵衛を思う心に強く打たれた。いや、いつもそうなんだけど、今日はどういうわけか、これまでになく一言一言が胸に沁みた。初日に、「母親が悪い」なんて決め付けてしまったけれど、それでは酷なような気がしてきた。お金と一緒にちまきを持ってきた、その愛情は母親にしかないものだろう。秀太郎さんのおさわは気の強さが前に出ているけれど、その実、家族を思う気持ちが今日はよくわかった。

さて、殺しの場面。与兵衛が徐々に狂気を募らせていく様が興味深い。初日の仁左様には殺しの陶酔が感じられたが、今日は殺しを楽しんでいる様子が窺えた。仁左様は福岡貢でも源五兵衛でも、そして与兵衛でも殺しを美しく見せる。でも、殺しを楽しむ与兵衛はとても怖かった。私はお吉に完全に同化して恐ろしさに慄いていた。だから与兵衛がふと我に返って、固まった手から何とか刀をもぎ離したときはほっと大きなため息が出た。
仁左様一世一代の与兵衛。あんなしょうもない男をここまで魅力的に演じられるのは、近松の人物造形が優れていることもあろうが、仁左様なればこそだと思った(かつての先代勘三郎さんとか、寿海さんとか、延若さんとか見ていないから)。この芸を継承するのは誰なのだろう。愛之助さんが一番近いところにいるのはもちろんだけど、私としては獅童さんにも頑張ってほしい。絶対ニンなんだから。

ま、そういうわけで、書いても書いても、いや書くだけまとまりがつかなくなってきたので、感想はここらで終わり。あとは感動のカーテンコールへ(「その1」として先にアップしてしまいましたが)。

おまけ:花道に残った油をそっと手でぬぐってみた。ゼリー状で、意外とベタつかず、こすっているうちにすっと手になじんだ。いい思い出になった。

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コメント

またまたこんばんはhappy02
いまだ余韻に浸って若干ぼんやりしています。

わたしの初「女殺」は今年2月の松竹座、愛之助与兵衛×亀治郎お吉でした。
このときの二人のえもいわれぬ色香(色気じゃなくて色香という感じだったもので…)にすっかり骨抜きになりましたよ。

わたしは愛之助さん好きなので、これからこの役を受け継いでもらって愛之助与兵衛をたくさん観ていきたいな、と思っていますが、
なるほど、獅童与兵衛もいいですね!観てみたいかも。
あと、わたしの希望は亀鶴与兵衛ですね。
しかし本当にこの「一世一代・女殺」の話は尽きないですねsweat01
そういえば松竹座のとき、花道のすぐ横だったので油触りましたよ!思いのほかさらさらでした。。。


投稿: あねご | 2009年6月28日 (日) 22時42分

あねご様
こんばんわ。こちらにもありがとうございます。
松竹座の愛之助×亀治郎は、私も見ました。愛之助さんは仁左衛門さんの与兵衛をしっかり受け継いでいらっしゃいました。あとは回数を重ねることによってご自分のものにされると、いい与兵衛になると思います。
与兵衛には若さの華と愛敬がなくてはいけませんが、そういう点では愛之助さんも獅童さんもぴったりですね。
亀鶴さんの与兵衛は考えていませんでした。面白い味が出るかもしれませんね。

あねご様も油に触られたのですかsmile 毎日油まみれになる役者さんを思えば、油がさらさらしているのは当然なんでしょうね。それでいてべったりしたリアルな感じを出す、先人の知恵ですね。

ほんと、話は尽きませんcoldsweats01

投稿: SwingingFujisan | 2009年6月29日 (月) 01時36分

おはようございます。
余韻が冷めぬまま、こちらにもお邪魔いたします。

あねご様、はじめまして。横から申し訳なく存じますm(_ _)m
亀鶴与兵衛、大賛成です。愛之助さんに仁左様の与兵衛を受け継いでいただきたいのはもちろんですが、亀鶴さんでも見てみたいと思います。想像しただけで、ぞくぞくしてきました。

4回目の観劇の折、やっぱり油に触ってみたからつぎでした。

投稿: からつぎ | 2009年6月29日 (月) 10時19分

おはようございます。
亀鶴さんは、H16年に松竹座で一度与兵衛をやっていらしたのですね(愛之助さんとダブルキャストだったのでしょうか)。知らずに失礼いたしました。
仁左様与兵衛とはまた違った、陰の部分(屈折した心理と言いましょうか)が亀鶴さんの味わいになりそうな気がします。亀鶴さんは大好きな役者さんの1人ですし、こうなりますと、色々なタイプの与兵衛を見てみたくなってきました。

投稿: SwingingFujisan | 2009年6月29日 (月) 11時20分

SwingingFujisanさま、かつらぎさま

こんばんは。
そしてかつらぎさま、初めましてhappy01
おふたりとも亀鶴与兵衛にご賛同ありがとうございます!
上演記録を見てみたらやはりH16年に亀鶴与兵衛、ありましたね。
愛之助さんとのダブルキャストで。
その2年後に三越劇場で獅童与兵衛もありました。

ああ、観たい。
来年の浅草とかでやってほしいけど、今年松竹座でやってしまったから無理でしょうかね…?
ほんと、ますますいろいろな方で与兵衛を観たくなりますheart02

投稿: あねご | 2009年6月30日 (火) 00時04分

あねご様
こんにちは。
浅草メンバーでの「油地獄」は東京では演じられていないようですので、いずれかかるかもしれませんね(浅草メンバーには与兵衛経験者が3人もいるんですものね。競演というのも面白いかも)。

この場で、あねご様とからつぎ様が言葉を交されること、私も嬉しいですhappy01

投稿: SwingingFujisan | 2009年6月30日 (火) 12時48分

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