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2009年6月29日 (月)

「十二夜」千穐楽

628日 「十二夜」千穐楽(新橋演舞場)
昨日の今日、自分ながらどうなることかと懸念したが、ジャンルがまったく違うせいもあり、今公演3回目の観劇は実に面白かった。初日に感じた物足りなさは、なぜかまったく消滅しており(きっと、再演の記憶を脇へ措いて、この再々公演は再々公演として受け止めることができたのだと思う)、堪能したという満足感がある。
織笛姫の物語
面白いことに、今日の「十二夜」は織笛姫の物語だった、という気がした。「十二夜」としてそれがいいのか悪いのかはわからないが。もしかしたら初日に感じた物足りなさは自分が焦点を絞りきれずにどっちつかずになっていたせいかもしれない。前回公演では獅子丸=琵琶姫の女から男へ、男から女への変化に重点が置かれ、その変化を菊之助さんが実に見事に表現してみせたが、今日は織笛姫の心に光が当てられ、鏡がそれを映し出しているように感じ(私が勝手に当てたのかもしれないけれど)、そこに獅子丸が絡んで「女の恋」というものが浮き彫りになった、ように思った。
そして、織笛姫の物語であればこそ、時蔵さんの品格、大らかさ、おっとりとした清潔な色気、巧まざるユーモア、愛らしさはまさに織笛そのものであった。確かに時として、菊之助さんとの年齢差を感じることもなくはなかったが、それを補ってあまりある可愛らしさが時さまにはある。
また、今日は喜劇的な面も十分に楽しむことが出来、それは織笛姫の恋の物語を薄めることなく、縦糸と横糸のように織り進められていくようだった。
織笛姫のまわりの愉快な人たち
麻阿のエスプリのきいた毒はますます痛快。亀治郎さんが実に生き生きとしており、ああ、やっぱり亀ちゃんの女方はいい、大好きheart04だと痛感する。一つ一つの体の動きがしなやかで、見ていて気持ちがいい。英竹、洞院と悪乗りして踊っているときに坊太夫が叱りに入ってくるところでは、思わず心の中で「坊太夫、早すぎるっbearing」と叫んでしまった。もっともっと亀ちゃんの踊りが見た~い。
しかし織笛姫のまわりにいる連中は、揃いも揃って個性豊かなおかしな人たちだ。酒飲みの叔父洞院は、とにかく人生を愉快に過ごそうという人。悪騒ぎの場面での「えらそうに気取ったおなご(織笛姫のこと)より、サドマゾ女のほうがよっぽどいい、ろうそくたら~りたら~り、あっちっち」は千穐楽バージョン。これに対し、坊太夫が悪騒ぎしている
3人を叱り飛ばした帰り際「な~にがローソクだ」とアドリブをやったため、頬を膨らませてむかっとしているはずの左團次さんが吹き出しそうになり、必死で笑いをこらえているのがおかしくておかしくて。菊五郎さんもにやにやしながら出て行った。ここは、3人が坊太夫に対する恨みを爆発させ、例の悪巧みを計画するに至るきっかけになるところだから、吹き出しては芝居が成り立たない。左團次さんは大変だったと思う。
翫雀さんの英竹も、めちゃくちゃ弾けていて、終盤獅子丸に戦いを挑む扮装での弾け方があまりにおかしく、主膳之助の菊之助さんがやっぱり笑いをこらえて、セリフの声が震えるほど。
捨助は日本には馴染みのない存在だけに、これまでよくわからなかったのだが、こういう人と酒を飲んだら痛いところをつつかれても、さぞ面白かろうと思えるようになった。
坊太夫は初日にはイヤらしさが目に付いて同情心があまり起きなかったが、今日はちょっとかわいそうになった。菊五郎さん、愛敬があるんだもの。織笛がこんな嫌われ者をそばに置いているのは、執事として優秀だからなんだろう。ただ、いつも引っかかるのが、織笛から託された鏡を獅子丸に渡す場面。織笛は坊太夫に「合点がゆかぬ場合はわけを話すから明日又来るように、獅子丸に伝えてくれ」と命じていたのに、坊太夫は「左大臣の使者として来るなら会わぬが、左大臣の様子を知らせに来るなら会おうと姫が言っている」と獅子丸に告げる。ここのギャップがいつも、よくわからない(これも、きっと見えないところで姫が言ったのでしょう)。

カーテンコール
カーテンコール(戻らぬ与兵衛、花道を引き返してくる捨助)では、ファンから大きな花束が菊五郎さん、菊之助さんに贈られた。この花束は二幕目の最初から舞台下に立てかけられていたのだが、3つあったのだ。あと1つはどなたに?と思っていたら、左團次さんだった。左團次さんはビックリした様子で、自分を指差しながら「僕?」と何度も訊いていた(口の動きがそう言っていた)。
さらに高まる拍手に応え、再び幕が開き、客席はスタンディングオベーション。さっきのカーテンコールは芝居とセットになったものだから、これこそが本当のカーテンコールだ。今日の私の座席は上手寄りで、カーテンコールでは亀ちゃんがほとんど目の前lovely 時さまもどちらかというと上手側。最後に手を振ったら時さまもこちらを向いて手を振り返してくれた(と信じるsmile)。この席、花道はあまり見えないが、「十二夜」って上手の出入りが案外多く、また亀ちゃんが上手側にいる時間帯も長くて、嬉しいお席でした。
さて、定式幕が引かれた後も、去りがたい客席の拍手はやまない。もう照明も入り、場内アナウンスも流れているのに、一向に拍手は鳴り止まない。しかし、幕は全然開こうとしない。でも定式幕を中から押さえている手が見えるからにはもう一度開くのではないかとの期待で、誰も帰ろうとしない。客席と定式幕の間で綱引きが行われているみたいな時間がずいぶん続いた後(ひょっとして蜷川が舞台に現れるのか、なんて思っていた)、照明がちょっと落ちてやっと又幕が開いた。
おお!! 舞台にいるのは菊之助さん1人。深々と頭を下げる菊之助さんに暖かい拍手が贈られる。この喜劇で私が泣けたのは菊之助さんのいじらしさだ。獅子丸=琵琶姫の女心は兄妹愛の深さ、ともに心を打ち、兄妹の再会ではじわ~っと涙が滲んだ。それを噛み締めながら、私も菊之助さんに大きな拍手を贈った。
二日連続、千穐楽の幸せを味わったわけだが、拍手の音の違い(拍手に籠められた気持ちの違い、とでも言おうか)を実感したのが自分ながら面白かった。

終演後、松竹座に行きたい気持ちが再び高まってきて、多分千穐楽前日まで葛藤するんだろうな、と思う。
おまけ1主膳之助が波間に消えた、ほとんど直後に琵琶姫が姿を見せる。ここの早替りは、びっくりするほど早いこれ、吹き替えだそうです。主膳之助は一度波間に消えた後、また顔を出します。この時に吹き替えに変わるようです。実際琵琶姫への変身はありえない早さなのですが、吹き替えだというアタマは全然働きませんでしたcoldsweats02 何度も見ているのにね。すっかりだまされましたcoldsweats01(ご指摘、ありがとうございました)
おまけ2ついにTシャツを買ってしまいました。そのかわり、舞台写真は我慢。

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コメント

待ってましたっsign03 SwingingFujisanさまのレポを楽しみにしてたのhappy01 私は千穐楽はすっぱり諦めていたから、あんまり考えることもなく仕事に励んでましたが、いざ拝読すると、「く~、行きたかった」なんて気持ちがむくむくと。全く、こういう欲望には限りというものがありませんね。
実は私も3回目の観劇が一番楽しめたんです。仰る通り、再演の記憶を引きずってたり、なかなかすんなり入っていけないんでしょうね。このあたり、常に真っ白なフレッシュな気持ちで舞台を見たい、とちょっと自分を戒めるきっかけにもなりました。
シェイクスピアと歌舞伎の共通点は、意外に色々あるのでしょうが、「あれはどうなった。矛盾してないか?」などと追及せずに、目の前で起こってることを楽しむ、ということも大きいみたい。なんにしても折角の舞台は「楽しんだ者勝ち」じゃないかな、貪欲に味わいつくしちゃえ、と、また元気もりもりになりましたbleah

投稿: きびだんご | 2009年6月29日 (月) 15時38分

きびだんご様
待っていたとはありがてえ。へへ、私も松竹座に行きたい欲望がむくむくです。いかんいかん、我慢しなくっちゃ。

今回の「十二夜」は見るたび印象が違って、不思議な感じがしましたが、作り手側が新たな気持ちで作った以上、こちらもそれに応えたいものです。

そうそう、「舞台は楽しんだ者勝ち」だと思います。とくに喜劇は、理屈の合わないことなんかどうでもよくって、笑って笑って「ああ楽しかった」と思えればいいのです。私は時々ナンセンス突っ込みをしますが、理屈に合わないことを無理やり合わせようと真剣に考えるほうがナンセンスではないかと思います。私の突っ込みは、舞台を楽しむ上での確信犯的なものですbleah

大阪での「十二夜」、今度は私がきびだんご様のレポをお待ちする番です!!

投稿: SwingingFujisan | 2009年6月29日 (月) 16時49分

ちょうど私も、千穐楽の舞台を拝見して、織笛姫さま@時さまの心の動きや活き活きした表情がとても印象に残り、琵琶姫のこともあわせて、「この物語は女性の物語なのネ!」と思ったものですから、SwingingFujisan様のレポを拝読して、もう本当に納得至極でございました!!
それに、坊太夫さんの「伝言」。やっぱり、そうですよねぇ~?! 私もいっつも不思議に思ってましたが、やっぱり、そうですよねぇ~?!(笑) 微妙に言い違え(?)ていることも含めて、「坊太夫」なのでしょうかしら。「十二夜」七不思議のひとつといたしましょう(笑)。
SwingingFujisan様の記事を何度も読み返して、あの日の楽しさをいつも思い返しております。ありがとうございます!

投稿: はなみずき | 2009年7月 4日 (土) 22時01分

はなみずき様
こちらにもコメント、ありがとうございます!!
はなみずき様も、やはり「女性の物語」だと思われたのですねpaper これまでどうして気づかなかったのかしら、と不思議に思うほど、千穐楽は織笛姫の心が浮き彫りになっているように感じました。
坊太夫さんがあのような伝言をすること自体、坊太夫が坊太夫である所以なんでしょうね。「坊太夫」の名を見るとすぐにあのウコン色の薄笑いが思い浮かんできて、吹き出してしまいそうになります。あの姿で登場されると、私いつも「いや~ん」と思わず声に出てしまうんですcoldsweats01
ほんと、楽しかったですね。松竹座に行かれないのがとても残念です(欲張りですよね、まだ見たいなんて)。

投稿: SwingingFujisan | 2009年7月 4日 (土) 23時52分

>SwinginguFujisanさま
十二夜もこう頻繁に上演されるともう古典の域ですね。
織笛姫はワタクシ的には八重垣姫と思って見ていますが、思い込みの強さ、独善さ、気位の高さ、過激さ、最高です。オーシーノ公爵も、メインキャストながら主演から一つ下の役ですから、わけのわからないほどの美男が演じられることは少ないのですが、本当に幕開け一気にお芝居の世界に誘ってくださる美しさ。
周りが良いですね~。もう残りわずか。今度はいつなんでしょ。

投稿: とみ | 2009年7月24日 (金) 00時10分

とみ様
既に初演からしてのレベルの高さが上演回数をふやしていったのでしょうね。見る側も一つの古典が作られていく過程を共に歩むことができて、幸せです。
なるほど、織笛姫は八重垣姫ですか。私は残念ながら八重垣姫をそこまで摑んでいないのすが、今度「本町廿四孝」が上演されるときは、織笛姫を意識して見てみますね。
「思い込みの強さ、独善さ、気位の高さ、過激さ」--はは、本当にそのとおりですね。お姫さまはこうでなくっちゃ、という気もします。
オーシーノ公爵はそれほど美男俳優が演じるわけではないのですか。私、まだ歌舞伎版しか見たことがないのです。機会は窺っているのですが…。幕開きの舞台と憂いに沈む錦之助さんがゆっくり歩を進める美しさで、まさに劇場空間は「十二夜」の世界に一気に変わるのですものね。ああ、松竹座の千穐楽が見られないのが残念でたまりません。
たくさんのコメント、ありがとうございました。

投稿: SwingingFujisan | 2009年7月24日 (金) 08時19分

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