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2009年7月30日 (木)

もう一度見たかった巡業東コース2

729日 松竹大歌舞伎巡業東コース(サンシティ越谷市民ホール)
「義経千本桜 下市村茶店の場、同釣瓶鮓屋の場」
普段歌舞伎をなかなか見られない人にも楽しんでほしい、歌舞伎のよさをわかってほしいという仁左様のこの巡業にかける思いがはっきりと伝わる完成度の高い舞台であった。
悲劇を暗示する幸せ
これまで「木の実~すし屋」は2回見ているが(意外と回数少ないのだ)、この後の「すし屋」を見るには絶対ここが必要と今日ほど強く思ったことはない。それほど、権太一家のささやかな幸せは微笑ましい愛情に満ちている。
倅善太郎(いがみの権太の息子が「善」太郎って)におぶってくれとせがまれ、嬉しそうに背中を差し出す権太(ここで息子の竹笛の入った赤い袋を権太が腰にさげる。これが「すしや」ラストにつながる伏線となる)。幸せそうに家路につく親子3人。先を行く女房小せんに「おまえの後姿、瑞々しいなあ。昔を思い出す」と鼻の下をのばす仁左様の愛おしいこと。テレる秀太郎さんのかわいいこと(こちらの先入観かもしれないが、こういうあたりに松嶋屋の空気の濃さを感じる)。「ちょっとこっち向け」「いや」をでれでれと繰り返したあと、「絶対こっち向かないな」「あい」。とたん権太は足で小せんの裾を割ろうとする。小せんがきゃ、何すんのと思わず振り向くと、してやったりと子どもみたいに笑う権太。仲のいい親を嬉しそうに見る息子。この場面があるからこそ、権太の悲劇がより説得力をもって悲しく胸に迫るのである。
笑いの前半
また「すし屋」前半までは、コミカルな場面が多く、客席からはずいぶんと笑いが起きていた。笑いには、たとえば権太の小ずるさをコミカルに強調することによって、その人となり、そして後半の悲劇との対比をわかりやすくするという効果がある。小金吾をだます場面(「へっ、うまくいったぜ」的な表情など)、大きな体を丸めて母親に甘える場面(「おふくろなんてチョロいものさ」)、すし桶に金を隠す場面(右から2番目の桶だよと、指差してみせる)等々、どれにも愛敬が感じられ、憎めない権太像を作り上げている。
お里(孝太郎)と弥助(秀太郎)の夫婦ごっこも微笑ましく楽しい。なかなかお里を呼び捨てにできないでいた弥助が、ついにうまく「お里」と呼べるようになると、客席からは期せずして拍手が起こった。お里は好きな弥助と夫婦になれるから嬉しくて嬉しくてきゃんきゃんしている。「早く寝ましょ」と弥助を誘う場面では、先に床につくお里が屏風の陰から枕2つを取り出して客に見せたり、それがイヤ味なくとても可愛くて、結局は結ばれない悲しみを後に浮き上がらせる。
弥助(実は維盛)はといえば、江戸の役者とは全然違う。仁左様の権太は江戸の空気と上方の空気がミックスされていたが、秀太郎さんの弥助は思い切りやわらかい。といってツッコロバシではない。すし桶を担ぐのによろけたり、なかなか桶を持ち上げられないなど弥助の公家ぶりを強調するやり方もあるが、秀太郎さんの弥助はそうではない(あのすし桶って中は空なんでしょう?)。雰囲気、空気がやわらかいのだ。平家の本拠地が京都であるのだからそれが本来の姿なのだろう。台詞回しがちょっと廓か料亭の女将的な感じも受けたが、それくらいのほうが維盛との変化がはっきりするのかもしれない。
涙の結末
身代わりとなって鎌倉に引かれていく小せんと息子。権太は頭に巻いた手拭を取ると、汗を拭くふりをして涙を拭く。松明の煙が目に沁みたふりをして目をしばたたく。猿轡された顔の目だけで権太に別れを告げる小せんと善太郎(2人の目の演技が秀逸)に、権太はたまらず褒美の陣羽織を頭からかぶって体を震わせている。こんな権太も初めて見た。
「すし屋」だけでは、この場面の悲しさ・切なさは弱い。小せんと善太郎が権太のために命を投げ出してもいいというまでの愛情は、「下市村」を見なくてはわからない。権太が維盛への合図に吹く善太郎の竹笛は赤い袋に入って、さっきは幸せの象徴みたいだったが、3度吹くその呼吸がだんだん弱くなって、権太の最期が近いことを知らせる。「下市村」の場があるからこそ、ここが生きるのだ。
せっかく何もかも権太の計画どおりいった、その真実を父親弥左衛門(竹三郎)に話そうとした瞬間、権太は父親に刺される。苦しい息の下で真実を語る権太、普段の素行が悪いから見抜けなかったと嘆く父親、素行が悪いからこそ梶原をだますことができたと苦笑する権太、孫や嫁への思いを切々と語る父親、きっと初めて2人が父子として分かり合えたこの最期の時に、私はズルズルしそうなくらい泣いた。竹三郎さんの弥左衛門には演技を超えた愛情が迸り出て、小さな体で大きな息子を抱きしめる姿が目に焼きついている。去年に続く暑い時期の過酷な巡業、竹三郎さんご自身への気持ちが弥左衛門に対する気持ちに重なった。

小金吾討死
小金吾という人はいつも気の毒だとは思うが、最終的に主人を救う役に立ったのだから、武士としては職務を全うしたということになるのだろう。骨太愛之助が好きと言ったけれど、やわらかさ、やや頼りなさの中にも武士のきりっとした心意気が感じられて前髪立ちの小金吾もなかなかよかった。
だけど、私はやっぱり梶原景時の愛之助さんが好き。高い声より太い声がずっと素敵。大きさと食えなさが全体に漂っていた。
薪車さんの猪熊大之進も好き。本来小さな奴なんだろうけど、堂々とした体軀のせいか、それはあまり感じない。どことなく憎みきれない愛敬があった。
その他
①お客の反応がとてもよく、権太がわざと小金吾の荷物とまちがえて持ち去るときや、弥左衛門がすし桶の順番を変えたとき、そして権太が迷わず右から2番目のすし桶を取ったときにも客席から「あ~ぁ~っshock」という声が起こった。ああ、やっちゃったという感じかな。
②ここのホールは花道もどきの長さが比較的あって(私が行ったことのある他のホールとの比較です)、梶原の家来たちが並んでも、それほど窮屈さを感じさせない。そういえば、ラスト、維盛たちは下手でなくて花道もどきを引っ込んで行った。
③仁左様のサイン入り手拭を買った。本当は今公演限定の小風呂敷がほしかったのだけど、サインが入っていなかったから(ほんと、ミーハーだよね)。あとで手拭も限定版だと宣伝していたけど、本当なのかな。仁左様Tシャツには歌舞伎座でもここでもかなり動揺したけど、とりあえず今回はガマンbearing
<上演時間>「草摺」20分(14:00~14:20)、幕間20分、「茶店の場」47分(14:40~15:27)、幕間10分、「釣瓶鮓屋の場」87分(15:37~17:04)

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歌舞伎ミーハー観劇記」カテゴリの記事

コメント

こんにちは。
わたしももう一度見たかったですよ…。

後に起こる悲しい場面が頭をよぎり、権太家族の引っ込みの時点で既にうるうる、小金吾討死でポロポロ、最後の権太が刺されたあとの場面では号泣でした。
あんなに歌舞伎で泣いたのは初めてです。
本当にチーム松嶋屋の絆、温かさを感じられたすてきな舞台でしたよね(^-^)

ただ今桜姫当日券並び中です。平日の昼間だからか、ギリギリに来たのにわりかし余裕な感じです。
気合入れて堪能します!

投稿: あねご | 2009年7月30日 (木) 12時36分

おお、あねご様、お並び中にコメントをくださって、ありがとうございますsign03
もう、今頃はお席におつきでしょうね。比較的余裕とのこと、いいお席があいていましたでしょうか。楽しみな千穐楽、よかったら後で様子をお聞かせくださいね。

確かに「すし屋」は毎回泣かされるのですが、今回はいつも以上にぐっときたような気がします(毎回、見るたびにそう感じているのかもしれないけれどcoldsweats02)。
小金吾は哀れですよねえ。権太にだまされるのも哀れ、若葉内侍を守って死ぬのも哀れ、死後、見知らぬオジサンに首を斬られるのも哀れ。でも最後に役に立ったということで小金吾の供養になるのでしょう。愛之助さん、哀れさがよく出ていました(これが終わると、薪車さんとともにすぐ永楽館ですね)。
仁左様は、先月の与兵衛に引き続き、素晴らしい権太でした。お疲れも見せず、役者魂としてもすごいと思います。あ~、ほんと、1回だけにしたのは失敗でした。

投稿: SwingingFujisan | 2009年7月30日 (木) 13時19分

こちらにもお邪魔いたしますm(_ _)m

私も今年はここしかとらずちょっと失敗したかなぁと(涙)。せめて2回公演だったらよかったのに、なんて思ってしまいました。

小せんと善太郎がひかれていく場面が一番ぐっときました。「目の演技」にやられました。ここ、花道があるとないとでは感じ方もずいぶんと違うでしょうね。

サイン入り手拭、私も心が動きました(あの銀杏のですよね?)がぐっとこらえました。プログラム1200円は高くないですかぁ?

来月の演舞場が気になるからつぎでした。

投稿: からつぎ | 2009年7月30日 (木) 14時29分

からつぎ様
こちらにもありがとうございます!!
ねえ、2回公演だったら、絶対夜の部も見ていたわ。初日の江戸川は遠い(駅からが遠い)ので敬遠したのですが、アクセスのよい練馬に行けばよかった。その後も高崎とか熊谷とか、心が動いたのに、その辺はスケジュールがきびしくて。ああ、練馬を逃したのは失敗でした。

小せんと善太郎が引かれていく場面は、花道にある程度の距離がないと余韻が残りませんものね。目の演技、そしてもう2人の姿を見ることに耐えられない権太の震える背中、今思い出しても泣けてきます。

手拭(はい、銀杏のです)を買ってから、あ、プログラムと合わせたらこりゃかなりの出費だわい、と少し後悔しましたcoldsweats02 だって、手拭って結局記念品としてしまっておくだけなんですもの。でも、私にとっては初の仁左様巡業記念に、何かほしかったんですよね。

巡業もいよいよ今夜の土浦、明日の水戸の3公演を残すのみですね。

投稿: SwingingFujisan | 2009年7月30日 (木) 17時34分

こっちにも来ちゃいましたrun
私、練馬で1列目花道もどきから5番目の席で観たんです。強烈にドッキドキでしたimpact

すし屋は、お正月に海老蔵さんでも観ました。”いがみ””やんちゃ”加減では若い海老蔵さんが印象的でしたが、仁左衛門様は芝居が丁寧・細かい・情が深い。。。crying

あんなすばらしい舞台を職場の福利厚生割引で4,500円で1列目で見られたなんて!人生ってなにが起こるかわからない!

小金吾の愛之助様、大活躍・大健闘でしたね。shine
でも、東コースででずっぱり大活躍だったんだから、西コースでは亀鶴様に少しお役を譲ってもいいのに・・・いけず・・なんてね。

投稿: 八幡屋贔屓 | 2009年8月 6日 (木) 18時47分

八幡屋贔屓様
こちらにもいらしていただいて、ありがとうございます!!
練馬の最前列花道もどきのすぐそば。う、うらやまし~です(それも割引でsmile)。やっぱりオペラグラスなしで見たいですものねえ。

海老蔵さんは海老蔵さんでとても魅力的な権太でしたが、確かに仁左様の権太には一つ一つ細やかさがあったように思います。家族の情はもちろんのこと(今思っても泣けますweep)、一見お人好しに見せてだんだんすごんでいくところなどにも演技上の細かい気遣いが見えました。

亀鶴さん、もっともっと活躍してほしいです。でも西コースは、仕方ないでしょうね。ということで、私は亀治郎の会にかなり期待していますdash

投稿: SwingingFujisan | 2009年8月 6日 (木) 21時11分

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