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2009年7月23日 (木)

大人も楽しんじゃう子供のための「マクベス」

722日 「子供のためのシェイクスピア マクベス」(紀伊国屋サザンシアター)
「子供のためのシェイクスピア」シリーズは去年の「シンベリン」から参入。シンベリンですっかりハマった私、間にチェーホフ(「ワーニャ伯父さん」)を挟んで1年間待ちに待っていた公演である。あら、そういえば10日前には「どろろ」でサザンシアターに来たばっかりだっけ。おまけに、前回見たから今回はパスするけれど、こまつ座の「兄おとうと」まで入れたら3連続サザンになるところだった。
閑話休題。
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作目にしてエラそうなこと言うと、このシリーズは「子どものための」と謳っていながら、いわゆる子供向け劇とは全然違って「大人のためのわかりやすいシェイクスピア」という感じなのが、私はとても気に入っている。
「シンベリン」は作品自体に初めて触れたのでわからなかったが、「マクベス」を見ると、きっと作品をまず削ぎ落として削ぎ落として、それから徐々に膨らませていったのではないかという気がする。シェイクスピアのある意味難解な言葉も使っていない。そういう意味では原作の味とは異なるのかもしれないが、骨子も必要な細部もきちんと押さえてあるし、笑いもたっぷりで(悲劇なのに!!)、独特の味わいがあり、とにかく面白い。<シェイクスピアを気軽に楽しむ>ことができる。
舞台装置は4つの木の机と8脚の木の椅子(小学校の教室みたい)だけ。これはこのシリーズの特徴らしいが、出演者全員がまず黒いコートに身を包み、黒い帽子で顔を半分隠し、手拍子(ハンドクラップ)を打ちながら「しゅっしゅっ」と言って出てくる(「ちゃっちゃっちゃっ」と言ってるらしいけれど、「しゅっしゅっしゅっ」と聞こえる。これが場面転換を意味するみたい)。
黒コートをぱっと脱ぎ捨てると、そこにダンカンが、マクベスが現れる。
出演者は8人だけだから(配役は最後に)、マクベス夫人がマクダフになったり、ドナルベーンがマクダフ夫人になったり、役者さんによっては掛け持ちでいくつかの役を演じている。私のお気に入りはマクベス夫人とマクダフを演じた伊沢磨紀さん。相敵対する2人の人間を演じ分けるのが面白いし、マクダフに関しては男役だし、<らしく>ないのである。芝居は<らしさ>が大事とここのところ強調している私だが、伊沢さんのこの<らしくなさ>にはやられた。全然違和感がないどころか、説得力さえ感じてしまう。
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人の魔女――プログラムには配役として載っていないが、伊沢さん、キム・テイさん(かわいい)、若松力さん。若松さんはおめめパッチリイケメンなのに、おかっぱの魔女になると「今くるよ」にそっくりで、セリフにもさりげなくそれが入っていて、わかった人はクスクス笑う。魔女は映画やこれまでの芝居で見るような当たり前の不気味さ怪しさとは異なる不気味さがある。喜劇的ともいえるような笑いを誘うセリフや仕草が逆に怖かったりする。1度だけ伊沢さんが間に合わないのか、窪田壮史さんが代わって魔女になっていた。魔女の王ヘカティの山崎清介さん、シュール!! 
「マクベス」には戦いの場がみられるが、立ち回りがかなり激しく見ごたえあった。殺陣指導は戸谷昌弘さん。
今回も山崎さんが操る人形が登場する。人形はアンガスの役。山崎さんがアンガスのセリフも担当するのだが、これは腹話術でもなんでもないのに、ちゃんとアンガス人形が喋っているように聞こえるのが不思議。
勇猛な気のいいオジサンであったマクベスが、人間としてどんどん堕ちていく。殺したバンクォーの亡霊を見て気が狂いそうになる。ついに堕ちたままマクベスは死んで行く。このマクベスは普通にオジサンっぽいし、笑いがあちこちに鏤められていて悲劇じゃないみたい。そのためやや焦点がぼけたかという気もしないでもないが、でも悲劇と喜劇は裏腹なのかもしれないな。そして、普通のオジサンが人生を狂わされていく怖さが後になって、来た(本当は、マクベスは普通のオジサンじゃないけど、もしかしたら誰にでもある怖さとして)。
<上演時間>155分(14001455)、休憩15分、第260分(15101610

開演15分前になったら、出演者全員が黒ずくめに黄色いヘルメットをかぶって登場。「イエローヘルメッツです」。メインは窪田壮史さん。「早く来てくださった方のために」と日食にからめて、「26年後にはこのカンパニーは41回目。シェイクスピアの全作品をやっているかも」。そして歌(タイトルは聞きそびれた)。この歌って口パク? なんか和んだ。ところで、これ、「シンベリン」でもあったのかなあ。15分前には劇場にいたと思うんだけど気づかなかった。

2部が始まって間もなくだったかしら。突然、イエローヘルメッツが弁当箱や七輪に鍋を載せてもってきて、机を1列に並べ替え、今日はよく働いた~とか、今日の鍋は京都の誰々さんからの差し入れでおいしそうだとか、口々に言いながら銘々席について弁当を広げ始めた。「今日は日食だなあ」とか山崎清介さんが言いながらサングラスをかけて遥か空を見上げる(フリをする)。日食は午前中だった。サングラスはダメですよ。和気藹々するうちにチリチリ、タイマーのような音が聞こえた。山崎さんが「そうだ、今日は弁当を3分で食べるようにってサカモトさんに(誰? サカモトさんって)言われていたんだ」と言い出し、7人は騒然。すると再びタイマーが鳴り、「1分おきに鳴るようになっているんだ」との山崎発言に、又々みんなは大慌て。
どうして3分で食事を終わらせなくてはいけないかというと、宮廷で緊急会議があって、この部屋を使いたいからだ…って。3分たって、結局お鍋の中身もそのままに、みんなその場を去る。そして予定通り宮廷会議が始まる。
って、めっちゃ楽しいこの昼休みは何だったのぉ? 私、イエローヘルメッツは多分初めてなんだものぉ。

違うかもしれないんだけど、木場勝己さんかもしれない人がいた。ごま塩のお髭をはやし、サングラスをかけていたから、全然確信がもてない。でも、関係者が挨拶をしている時の声も似ていたしthink でも、わりとあっさり挨拶が終わったから、やっぱり違うかも(今、どこかの芝居に出演していらしたら、別人だよね)coldsweats02

<配役>
マクベス:石田圭祐
マクベス夫人/マクダフ:伊沢磨紀
ダンカン/メンティース:彩乃木崇之
バンクォー/ケースネス:戸谷昌弘
マクダフ夫人/ドナルベーン/フリーアンス/シーワード:キム・テイ
マルカム:若松力
レノックス:窪田壮史
ロス/ヘカティ:山崎清介

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コメント

きゃーん。魔女の若松力さん=今くるよsign03impact 誰かに似てるとは思ったんですが、そうでしたっ。で、そんな台詞もあったんですか。ちぇっ、気づかない私shock(笑いが来た記憶はあるので、きっとそこですね)。
イエローヘルメッツの昼食タイム。毎日3分間の即興なんでしょうか。私が見た時(前日のソワレですが)、なんか収拾がつかなくて(山崎さんが期待したリアクションがこなかった?)笑っちゃう、という場面も。ちょうど日食の日にご覧になれてよかったですね。開演前の歌は、私が見た時は「おやすみ」でした。いいんですか、始まる前におやすみって(笑)。
私も(も、と言っていいですよね)、山崎さんのヘカティは相当気に入りましたbleah そして、よくまあ8人でこれだけのものをと、役者さんに感服してしまいます。

投稿: きびだんご | 2009年7月23日 (木) 10時34分

はい、今くるよsmile
「○○が今来るよ」というようなセリフだったと思います(○○に何が入っていたか、忘れちゃった)。私も、誰かに似ている似ている、誰?と考えていたら、そのセリフが耳に入ったので、「ああflair」とわかったわけです。
ヘカティは私の中に記憶がなかったし、あんまりシュールだったので、作ったのかと思ったら、ちゃんと原作にいたんですねcoldsweats02

イエローヘルメッツのランチは初めてだったので、目を白黒させてしまいました。お互いがお互いの反応を見て喋っているみたいな感じがありましたから、きっと毎日の即興なんでしょうね。
開演前に「おやすみ」はないですよね~。昨日の歌は「恋の」なんとかだったような…。

8人でやっちゃうっていうのは、楽屋にいたくないから、なんですってね。わかる気がします。

投稿: SwingingFujisan | 2009年7月23日 (木) 10時58分

私も18日に観ました。(コクーンの「桜姫」とのWヘッダーです。)
今くるよのご指摘に思わず吹きだしました。イエローヘルメッツが劇中に登場は始めてかもしれませんね。悲劇の中のチャリ場みたいな感じでした。
いつも楽しみな開幕前のおしゃべり。18日は政局ネタでしたよ。
来年は「お気に召すまま」。このカンパニーに特長がもっとも生かされる喜劇ですのでさらに楽しみです。
山崎さんの熱意には本当に頭が下がります。少しでも長く続きて頂きたいと思います。ハイ。

投稿: うかれ坊主 | 2009年7月23日 (木) 21時45分

うかれ坊主様
以前にうかれ坊主様がこのカンパニーのファンでいらっしゃるというコメントをいただきましたので、きっと今回もご覧だろうと思っておりました。「桜姫」とのWヘッダーとはお疲れ様でした。
今くるよは、あの扮装をしたらあまりに似ているので、後からそれに引っ掛けたセリフを入れたのではないかしら。若松さんも意識してことさらに目を大きく、おなかを膨らませている様子でした。
イエローヘルメッツのランチ、ユニークですよねえ。そういう発想なんてまず湧かないし。開演前のお喋りも、観客とのふれあいを大事にしようという感じがして楽しかったです。
来年の「お気に召すまま」、おっしゃるように喜劇のほうがカンパニーの個性が際立つように思いますので、今からとても期待しています。26年後にもまだシリーズを続けていてほしいですねえ(私はもう生きていないかもしれないけれど)。

投稿: SwingingFujisan | 2009年7月23日 (木) 22時11分

>SwingingFujisanさま
初日にびわ湖ホールで拝見しました。イエローヘルメッツのランチはありませんでした。
今年のマクベスは、かなり本格的な感じでした。もともと、普通に上演しても2時間半くらいですから、そんなにそぎ落とさなくても収まります。
一番気に入ったのは伊沢さんのマクダフ。マクベス夫人とマクダフを同じ俳優さんがなさらないのは、ペリクリーズとマリーナ、リオンティーズとパーディタを同じ俳優さんがなさらないのと同じくらい稀なことですからうれしかったです。

投稿: とみ | 2009年7月23日 (木) 23時53分

とみ様
おはようございます。朝になってしまってすみません。
イエローヘルメッツのランチは最初から入っていたわけではなかったのですね。ふ~む。
シェイクスピアを意識して見るようになったのは比較的最近ですので、「マクベス」が元々そんなに短い芝居だとは思いませんでした(主に蜷川さんのシェイクスピアを見るのですが、たいてい長いんですもの)。
伊沢さんのマクダフ、私もとても好きです。マクベス夫人と同じ俳優さんが演じることに驚きでしたが、存在感が抜群でした。

投稿: SwingingFujisan | 2009年7月24日 (金) 07時42分

追加コメントでお邪魔します。
山崎さんの操る人形のストラップがロビーで販売していて、とても気に入ったので購入しました。舞台を観る時に必ず持参するリックに早速付けました。SwingingFujisanさんも購入されましたか?
開演前の「口ぱく」コーラスは私が見始めたことからは既にありました。少し早く座って登場するのが楽しみのひとつです。(「伊東四朗一座」でも開演前に小コントをやるのが楽しみですが、こういうのは本番の期待を膨らませる意味で良きサービスですよね)

投稿: うかれ坊主 | 2009年7月25日 (土) 12時40分

うかれ坊主さまぁぁ~
そんなストラップがあったこと、ぜ~んぜん気がつきませんでしたぁshock
ううう~、ほしかったですぅぅcrying

たいていグッズは見て歩くのに、今回は頭っからそういうものはないと決めてかかっていたに違いありません、私めはannoy 

次の機会は来年ですか…

本番前の何となく手持ち無沙汰な時間に何か入るのはサービス精神も感じますし、おっしゃるように本番への期待も膨らみます。
チェーホフでも来年4月、シェイクスピアは1年後、その間寂しいので、余裕があれば落語にも行ってみたいなと思っております。

投稿: SwingingFujisan | 2009年7月25日 (土) 14時20分

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