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2009年9月29日 (火)

「伝統芸能の今」

928日 「伝統芸能の今」(紀尾井小ホール)
三響会倶楽部とKameProClubの合同企画公演である。
先に、座談会のことから触れたい。まず、この会の趣旨であるが、今年6月に設立された東京ワンハンドレッドライオンズクラブの会長である田中傳次郎さんが、ずっと奉仕のあり方を勉強しており、奉仕にかかわる時間をもちたい、伝統芸能と福祉で何かできないかと考えて企画した、というようなお話であった。実際、本日のチケット代から1000円がゴールドリボン基金(乳癌のピンクリボンが有名であるが、ゴールドリボンは小児がんの研究や啓発などに使われる)に寄付された。
座談会は亀井広忠、田中傳左衛門、田中傳次郎、市川亀治郎の4人のトークで、伝統芸能に対するそれぞれの考え方や、これまでどのようにして修業してきたかなどが語られた。
亀治郎さんは、古典歌舞伎の継承、古典歌舞伎の洗い直し、古典歌舞伎の復活、新しいものを作るの4点を軸として亀治郎の会を立ち上げた。そして亀治郎の会は音についての意見を田中兄弟からもらいながら作っている。たとえば、今までやってはいけなかったことは本当にやってはいけないことなのか、やってはいけない理由が重要でないのであれば、自分たちが今からやろう。そういうあたりでも、亀治郎さんは田中兄弟の考え方が聞きたいのだとか。お2人は必ず意見を言ってくれるのそうだ(傳次郎さんは「猿之助にノーといえる男」なんだって)。
いっぽう三響会では、ふだんは歌舞伎の舞台に囃子方として呼ばれるのだが、自分たちのやりたいことに歌舞伎役者や能のシテ方を呼ぶという形である。歌舞伎の客に能を、能の客に歌舞伎をというのも主眼の一つである。
つまり、4人とも自分の属している世界の枠の中で、枠に捉われない好きなことをしたいという思いから、それぞれの会を立ち上げたわけだ。亀治郎さん曰く、新しい世代になればなるほど覚えることが多くなる(歴史を勉強する学生と同じ)。たとえば50年前に生まれた役者さんに自分はどうやったって追いつかない。であれば、役者の中で古典継承担当と企画開発担当というような分業があってもいいのではないか、自分は企画開発担当である。するとすかさず傳次郎さんが自分も企画開発部に入れてほしい、と手を挙げる。2人の方向性は同じなのだ。
修業については、田中兄弟の話が面白かった。今は歌舞伎の囃子方の2人だが、修業はまず能から始まった。精神面や声の音域を広げるために学んだのだそうだ。それから邦楽演奏の囃子を務め、14歳で黒御簾に入った。それまでは母親の田中佐太郎さんに教わったが、そこからはすべて黒御簾の中で学んだ。邦楽演奏の囃子と違って歌舞伎の囃子方は、役者の一挙手一投足以上のものを飲み込んで演奏しなくてはならない。その日の役者の体調、劇場空間、楽器の状態等、すべてを心得て、役者と呼吸の遣り取りをしながら演奏するのである。それは現場でなければ会得できない。
ふだん何気なく聞いている演奏。それが心に響くのはそういう呼吸の遣り取りがあるからなのか。記憶に新しいのは「船弁慶」。そうか、あの演奏は勘三郎さん(だけではないけれど)の呼吸を受け止め、こちらの呼吸は向こうが受け止め、そうして成り立っていたのか。だから、こちらに訴えかけるものがあり、感動したのだ。

能もまた、シテとの呼吸の遣り取りである。広忠さんによれば、能には五流あり、その全てで演奏法が異なるので、それを全部覚えなくてはならない。そのうえで、歌舞伎と同様、シテの呼吸を読んで演奏する。
今日の最初の演目は、能楽一調「土車」であったが、一調とは楽器1人、謡1人でその曲の一番いいところを5分くらいで聞かせるものである。シテもいないし、楽器もたった1人である。それで空気を伝えるのは大変むずかしい。通常なら他の楽器やシテがいるのに、「誰も助けてくれないんですよ」。
でもね、ここで「土車」の感想を言えば、能をほとんど見たことのない私の目の前に、衣裳をつけたシテの姿が現れたよ。ド素人にもちゃんと空気は伝わったのだ。すごい芸だ(広忠さんも、「能は何言ってるかわからないし、眠くなる」と認めていらした。安心した)。
亀治郎さんは、大学時代を除いて子供のときからずっと舞台に出ているが、子役時代、誰もがやるような千松などはやっていない。子役から宙乗りとかしていた。そのことがもしかしたら、亀ちゃんの気象や方向性に影響したのだろうか。亀ちゃん自身はどう思っているかわからないが、千松もやってみたかったと少しは思っていないだろうか。だって、絶対ある一時期しかできない子役の大役なんだから。
この4人は三兄弟にしても、ふだんは別行動で、べったりくっついていることがないそうだ。それでも仲がいいのは、互いの芸を尊敬し、また幼いときから同じ苦しい修業を積んできたからだろう。三兄弟は「30を過ぎたからもうケンカはしなくなりました」って。おっとり見える広忠さんが瞬間湯沸かし器で、傳次郎さんが一番冷静だそうだ。そんな2人を真ん中で傳左衛門さんが大きく包んでいる、ように見えた。演奏を聴くたび、お話を伺うたび、本当に素敵な三兄弟だと思う。
トークのあとは、傳左衛門・傳次郎・亀治郎さんによる素踊りの「越後獅子」。扇2枚を太鼓のバチに見立て、途中からは晒布を新体操のリボンのように振って踊る。獅子頭をつけた子供の越後獅子が目に浮かんだ。
<演目と上演時間>
能楽一調「土車」亀井広忠、大島輝久 5分(15001505
座談会 亀井広忠、田中傳左衛門、田中傳次郎、市川亀治郎 40分(15101550

休憩 10
舞踊「越後獅子」市川亀治郎、田中傳左衛門、田中傳次郎 20分(16001620
実際は20分オーバーでした。
おまけ:開演前は傳左衛門・傳次郎さんが寄付金受付に立っていらした。思わず1000円寄付した。入り口で手渡されたゴールドリボンのピンバッジのほかにここではゴールドリボンのストラップをいただいた。終演後は広忠さんがキラースマイルで(傳次郎さんの弁)。広忠さんって、かわゆいデス。
Goldribbon

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コメント

おはようございまーす。
おおっ♪行ってこられたのですね。
生で芸についてのお話を聞けるなんていいですね。
カメちゃんは子役の時から、大人と一緒に舞台に上がってたんですね。遊ぶ時間もあまりなくてお稽古されていたんでしょう。
でも苦しい修業があったからこそ、今の素晴らしい芸風につながってると思います。ちょっとおっさん風な(笑)落ち着きのカメちゃんもありですsmile
古典歌舞伎についてのお話もレポでよくわかりました。何かこれからやってくれるでしょうね!!happy01
詳細なレポありがとうございました。

投稿: かりん | 2009年9月29日 (火) 11時20分

かりん様
コメントありがとうございます。
亀治郎さんの歌舞伎観については、これまでも何回か、対談等で聞いていますが、今回は亀治郎さんの考え方がより明確に現れていたような気がします。
テレビに出るのも、現代劇に出るのも、最終的にやりたいことへ向かう道の途中なんですね(いや、それは頭ではわかっているんですけど)。これからはあまり不満は言わず、亀治郎さんがその道を進む姿を見守り、応援したいと思います。
とはいえ、やはり早く亀ちゃんの歌舞伎を見たいsmile

投稿: SwingingFujisan | 2009年9月29日 (火) 17時12分

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