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2009年11月23日 (月)

花形歌舞伎夜の部

1122日 花形歌舞伎夜の部(新橋演舞場)
千穐楽を3階で見る予定でいたのだが、諸事情ありそれが怪しくなってきた。それをカバーするにはピンポイントで今日(22日)しかない。でも一等席しか残っていない。出費を考えてずいぶん迷ったが好評の「三人吉三」はどうしても見たい。前夜から粘りに粘ってついに「とちり」よりも前の席を引き寄せた。左右はほぼセンター、戻りでこれ以上の席はあるまい。妥協しなくてよかった。そして、見逃さなくてよかった。これを見られなかったら、一生後悔したかも(ちょっと大袈裟かな)。
「三人吉三巴白浪」
「盟三五大切」はちょっと荷が重いかもしれないという感じがなきにしもあらずだったが、この「三人吉三」はとても好きだ。
黙阿弥のアウトローたちには華がある。演じる役者が登場人物の年齢に近いことで、その華が活きた。黙阿弥のアウトローたちには泣かされる。七五調のセリフも心地よく響き、実力ある若手が等身大で生き生きと人物になりきることで、不良少年たちのツッパリ、怯え、後悔、真情に泣いた。
菊之助さんはユニセックス的な人物をやらせたら当代随一だろう。容姿もそうだが、何より声がいい。女になっても男になっても作っている不自然さがない。お坊吉三との再会の場面、雪中の木戸を挟んでの場面では、男でありながら女の切なさのような表情を浮かべて、お坊とのBL的な関係をさりげなくかつ強烈に表現していた。大詰の火の見櫓では、けっこう腕が逞しくて、ああ菊ちゃん(いや、お嬢)もやっぱり男の子なんだなあと思った。菊之助さんは昼の部の三五郎もとてもよかったし、今月は菊之助の月だったような印象さえ持った。今日は富司純子さんがいらしていたが、華やかな振袖姿で登場した菊ちゃんはおかあさんにそっくりと思った。そのくせ、別の場面(火の見櫓とか)ではおとうさんにもそっくり。
愛之助さんはニヒルなお坊にぴったりで、動作もセリフまわしも仁左様によく似ている。これまでにも何度か触れていると思うが、顎をくっと上に向ける仕草や、歩く時の裾捌きなんかがまさに仁左様そのものといった感じ。セリフもとくに伸ばし方(たとえば「な~るほど」とか)がそっくり。お嬢との間に漂う友情とも愛情ともつかぬ雰囲気もとても自然で、2人が「会いたかった会いたかった」と駆け寄る場面では胸が熱くなった。3月に染五郎さんとのBLものが再演されるが、私はどちらかというと女性的な愛之助より骨太の愛之助のほうが断然好きである。
松緑さんはスパッとした感じがいかにも和尚吉三で、見ていて気持ちがいい。とりわけ複雑な事情を呑み込んでから(つまり、伝吉の家の場で父親の述懐を秘かに聞くあたりから)がよかった。松緑という人は陰のある役はあまり似合わないように思っていたが、自分の家の複雑な事情や因果を知った陰が意外にもうまく現れていたのではないだろうか。立回りの決めも一番美しく、私の中で松緑株、さらに上昇。
松也、梅枝のカップルはきれいでお似合い(梅枝クンのおとせは、はきだめに鶴って感じ)。お坊とお嬢にしても、きれいなカップルというのはやっぱり見ていて納得がいく。時々感じることだが、梅枝クンは2代飛び越して三世時蔵に似ていると思う(三世の舞台を見ているわけではないが、写真などからそんな感じがする)。親の因果が子に報いた2人が哀れで、本当にひどい運命だと悲憤しても、黙阿弥のそれは南北のそれよりどういうわけか、後味が悪くない。
そもそもの元凶は土左衛門の伝吉にあるわけで、コクーンの通しで見た笹野高史はいかにもそんな薄汚い雰囲気をずっと纏っていたような印象があるが、今回の歌六さんはちょっと釣舟の三婦を思わせるようなところが見えた。だけど、納得いかないのは、おとせの十三郎に対する思いを許したこと(コクーンでもそう思った)。許すどころか、けしかけてさえいる。ここの伝吉の心境がわかりそうでわからないもどかしさが自分にある。歌六さんの述懐で居眠りしている人が多かったのが残念。だって、犬殺しは大事なモチーフでしょう。今回その場面の上演がないのだから、ここは聞き逃せない。な~んて、たまに自分が寝なかったものだから、エラそうなこと言っちゃってbleah
「火の見櫓の場」の立ち回りでは、舞台中央の櫓が沈み、お坊が乗った屋根の高さをわかるようにしたのは面白い仕掛けだ。舞台が狭いために、屋根から木戸内へ下りるのがさほど苦もなく、と見えた。お坊もお嬢も雪の中裸足で、どんなにか寒かろうと悲しくなった。せっかく手に入れた庚申丸(刀)と百両を届けられない無念さが、久兵衛の登場によって晴らされる。わかっていても、「久兵衛さん、早く、早く」と急かしたくなる。ハラハラした。
「三人吉三」という物語は、本来どろどろしたものなんだろうが、恐らく花形が演じることにより、そのどろどろは薄められ、ワルたちの等身大の青春群像が浮かびあがったのではないだろうか。芝居としてそれがいいいか悪いかわからないけれど、3人の義兄弟の思いが表に出て、それがとても好きだと思った(「白浪五人男」でもった共感に通じるものがある)。

「鬼揃紅葉狩」
昼の部には不思議と感じなかった舞台の狭さが、夜の部はずいぶん気になった。三人吉三でも「狭いなあ」と思った舞台は紅葉狩に至っては「狭すぎる」になった。常盤津、竹本と、山台が下手・上手にそれぞれ出たらそれだけで狭いのに、鬼女に変身する侍女も6人もいる。これが鬼の装束で出てきて暴れるには狭すぎる(ただ、途中、舞台奥に長唄と鳴り物が出てくるが、奥行きはあまり気にならなかった)。
亀ちゃんは時々鬼の本性を現す瞬間がぱっと赤くなるようで、どきっとした。松緑さんの形がとてもきれいで、亀ちゃんの踊りとともに見ごたえあった。ただ、亀ちゃんは鬼になってからのほうが私は好き。侍女たちの踊りでは、とくに梅枝、巳之助、右近の3人がしなやかで美しかった。
鬼の化粧をすると、誰が誰やらわからなくなる。そしてやっぱり顔が大きく見える。亀ちゃんでさえ、鬼姿では顔が大きく見えた。もっと広い舞台で思い切り暴れさせてあげたいものだ(どの「紅葉狩」だか覚えていないんだけど、以前、歌舞伎座で吉弥さんたち女方の役者さんが思い切り弾けていたのがとても印象的だった)。
菊之助さんの神女が透明感があって実に美しい。山神でなく神女というのは初めて見た。


千穐楽は、淡い希望として、事がうまく運べば全部見られるかも。それがダメでも大詰の「火の見櫓」からは見たい。最悪「紅葉狩」だけでも見たい。
<上演時間>「三人吉三」序幕・二幕目80分(16301750)、幕間30分、三幕目・大詰70分(18201930)、幕間25分、「鬼揃紅葉狩」70分(19552105

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歌舞伎ミーハー観劇記」カテゴリの記事

コメント

ちょっとご無沙汰してしまいました。(でも、記事は拝読させていただいてました!)
良いお席での夜の部ご観劇、良かったですね~! SinwingFujisan様のレポを拝読して、ダメだと分かっているのに、もう一度、見たくなってしまいましたわ(笑)。
三人吉三は、本当に、「等身大」の懸命さ(本当は泥棒さんたちなんですけど…)が伝わってきましたよね~。松緑丈の、因果を「飲み込んだ」演技が、本当に胸をうちました。
演舞場の舞台の「狭さ」、この度の公演ほど痛感したことはないですよね?! 今までも、「もう少し大きかったらな」とか思うことはあっても、「狭すぎ!」と思うことはなかったように思うのですよね。それだけ、舞台からはみ出るほどの、役者さんたちのパワーだったのでしょうか、ね♪
千穐楽、ご覧になれますように!

投稿: はなみずき | 2009年11月23日 (月) 15時43分

舞台の狭さは私もとーーーっても感じました!
特に三人吉三の大詰めと紅葉狩は「こんなに狭かったっけ?」
とビックリするほどでした。
三人吉三は通しで見ると本当に面白いお芝居で、三人のキャラクターの違いもいいし、絡まっていく因果、盗賊なのについ同情と悲しみを覚えてしまいます。
あの雪の大詰めは生で見るのは初だったのですが、雪の「白」お嬢の「赤」お坊の「浅黄」そして捕手の「黒」が見事なコントラストであまりの美しさに涙ぐんでしまいました。歌舞伎の色あわせの美しさはどんな芸術と言われるものの中でも一番だとつくづく思いました。
櫓が一度下がって屋根上を見せる工夫は私も感心してしまいました。
捕手に捕まれて再びセリ上がってきた時の菊ちゃんのカッコ良さと言ったらlovely
女と男を行ったり来たりするバランスが絶妙なんですよね。
愛之助さんは初めて見た時なんの知識もないのに仁左様の息子だと思ってしまったほどでした。顔も声も似てるのに血の繋がりはないなんてビックリですよね~。
とても色っぽくてドキドキするカップルでした。なのに昼の三五大切では全く違う顔(お役)!器用な役者さんですね。

亀ちゃんは小さいのに、大人数の中にいても大きく見えました。
やはりさすがの表現力?!

もう一回見たいなぁ。。。でもガマン、ガマン!!

投稿: 林檎 | 2009年11月23日 (月) 20時38分

はなみずき様
コメント、ありがとうございます!!
千穐楽、七三で難しいと予想していますが、最後まで希望は捨てないつもりです。
弁天小僧にしても三人吉三にしても、生まれた時からの運命に翻弄される若者の悲しさ、そういう若者が悪いことをしているのだけれど一生懸命生きているという点に思い入れができるのかもしれませんね。罪は罪なのに、頑張って逃げおおしてほしい、新天地で今度は真面目な生活を送ってほしい、と思わず応援してしまいました。

そうなんです、これまでは「狭すぎる」とまで思ったことはなかったような気がします。それが、この公演では役者さんたちが舞台からはみ出しそうでしたよね。歌舞伎座がいかに歌舞伎に適しているか痛感しました(当たり前といえば当たり前ですね)。

投稿: SwingingFujisan | 2009年11月23日 (月) 23時55分

林檎様
夜の部で舞台の狭さが目立ったのは、一つには昼の部に比べて動きがパワフルだったこともあるのでしょうか。踊りは人数も多かったですしね。
「三人吉三」は今回は物語の発端となる伝吉の盗みの場面などはありませんでしたが、悲劇へ悲劇へと展開していく様がよくわかって面白かったですね。「大川端」しか知らなかったときは、有名なセリフと3人の心地よいカッコよさだけが「三人吉三」だと思っていました。通しで見るということは大切ですね。
雪の場面、本当に色使いが見事でしたね。そういうところも、歌舞伎から離れられない、何回も見たくなるポイントの一つです。
愛之助さんって、ラブリンの愛称も含めて名前もご本人に似合っていますよね。

小柄な役者さんが大きく見えるのはやはり芸の力ですねhappy02

投稿: SwingingFujisan | 2009年11月24日 (火) 00時20分

こんばんは!
三人吉三、本当に何度でも観たくなりますよね!
わたしは3階の右、左両方で観たので
横を向いている役者さんの顔がよく見えました。
「逢いたかった逢いたかった」のところや
二人で死のうとして愛之助さんに刺されそうになるところの
菊之助さんの表情はわたしもどきどきしました。
愛之助さんを見つめるあの切なげな表情、たまりませんでした。
みなさんの大熱演で見ているこちらもアツくなりました。
これからもいろんな布陣で観たいお芝居ですが
今回のこの座組はわたしの中で今後も上位に位置することになりそうです。
もう、ますます歌舞伎通いがやめられないですねlovely


投稿: あねご | 2009年11月24日 (火) 00時51分

あねご様
おはようございます(朝になってしまってごめんなさい)。
「三人吉三」がこんなにいいとは私、思っておりませんでした。左右両方でご覧になったとのこと、菊之助さんの表情だけでなく、愛之助さんの表情もよくおわかりになったでしょう。美しい場面でしたね。それぞれのニンにも合っていたし、花形歌舞伎のよさが詰まっていた「三人吉三」で、幕が閉まるのが惜しいような気持ちでした。
この3人で「白浪五人男」をやってほしいなあと思います(3年前、菊之助さんの弁天×松緑さんの南郷がと~~ってもよかったので、ここに愛之助さんの忠信利平が入った五人男を通しで見たい)。
ほんと、歌舞伎通いはやめられませんねcoldsweats01

投稿: SwingingFujisan | 2009年11月24日 (火) 09時35分

SwingingFujisanさま☆こんにちは♪
ニアミスでした!私も連休真ん中、夜の部にまいりました。センターではなく花横でしたが、SwingingFujisanさまもお近くでご覧になってらしたのですね!嬉しいです♪(私も前回はセンターでしたので、多分見え方一緒ですね!今月は頑張って昼夜センターと花横と取りました!執念?)
昼の部もよかったですが、本当に夜の部は見ごたえというか、胸がいっぱいになるお舞台でしたね!!できることならまいちど見たい!
私は菊ちゃんにかなりきちゃってます…あのお嬢に心わしづかみです!(来月南座の顔見世、チケ取れるかしら、、、前半の夜の部、土日売り切れてますもんね…)
SwingingFujisanさまのご用事がうまく運んで明日最初から見れますように~☆

投稿: 七子 | 2009年11月24日 (火) 13時11分

七子様
まあ、同じ日にお近くにいらっしゃったのですね!! いいお席でご覧になってよかったですね。私も花道からはちょっと離れていましたが、演舞場の左右が狭いおかげで、かなりよく見えて満足でした。
菊之助さんのお嬢には私もheart04ですよ~。大店のお嬢さんらしいしとやかさ、悪事を行うときの凄み、信頼できる仲間との打ち解けた表情、お坊に対する思い、悪事への後悔と最後に百両の金を親に託した安堵、すべてが胸を打ちました。もう一度見たい!! でも今のところ、明日の予定、ますます危なくなってきました…せっかくご心配いただいているのに…

南座へいらっしゃるのですね!! 演目も出演者も魅力的で(三人吉三もそれぞれ出演ですね)、羨ましいです。前半夜の部、もう売り切れというのも納得。南座も戻りが出るといいですね!! 
来月の七子様は七之助さん、菊之助さんと東西でheart04ですね(^^)

投稿: SwingingFujisan | 2009年11月24日 (火) 20時29分

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