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2010年2月 5日 (金)

2月歌舞伎昼の部4:ぢいさんばあさん

23日 二月大歌舞伎昼の部(歌舞伎座)
100205elders_3 「ぢいさんばあさん」
なんと若々しい仁左様。男気があって、かっこよくて、やさしくて、妻・るん(玉三郎)の前ではでれ~っとしちゃって 「あ~ん、早く来年になればいいのになぁ~」なんて1年後の再会が待ちきれない様子。微笑ましいデレデレぶりにクスリとしながらも、その一方ではこの先に起こる悲劇を思って、私は早くも涙が滲む。
前回見た時は、伊織は下嶋の振舞いに我慢し切れず斬ったと思ったが、今回は不運な事故のように見えた。あとで筋書きを見たら、やはり「鞘走って誤って斬る」という先代勘三郎の型を取り入れたとのことであった。伊織の性格を考えると、自ら斬るほうが合っているような気もするが、誤って斬ったというほうが悲劇性が増すのかもしれない。
前半この芝居の優れているところは、展開される場面が物語に必要最低限なことのみ(余分なだらだらしたところがない)であるにもかかわらず、登場人物の性格や生活ぶりがはっきりとわかるところにある、と思う。余分なだらだらがないから退屈しない。簡潔に描いていながら、下嶋という人物の屈折した感情まで伝わってくる。だから嫌なヤツではあっても、その感情はちょっと理解できるような気がするのである(こういう人って、いつの時代にもいるのだろう)。また伊織は伊織で、130両もする刀を嫌な同僚から借金をしてまで買ってしまうという、一見似つかわしくないような面は、実はその前の場面を見ていると案外納得がいくのである。
そして、後半この芝居の優れているところは、やはりごちゃごちゃ言うことなく伊織とるんの37年間の風雪が伝わるところにある。2人ともそれなりに恵まれた生活を送っていたのかもしれないが(るんは筑前黒田家の奥女中として奉公、伊織は越前有馬家にお預けの身ではあるが剣術を教える)、離れて暮らす寂しさのほかにも苦労は色々あっただろう。「あなたに謝らなくてはいけないことがあるんです」とるんがまだ赤ん坊の息子を疱瘡で失ったことを告げる場面など、わずかな言葉の中に、るんが当時どんなに嘆き悲しんだかが想像できるのである。
再会する少し前のこと、甥夫婦の心づくしで2枚並べられた座布団を嬉しそうにくっつける伊織、それを離するん。ここにも2人の人となりが表れていて面白い。

容貌がすっかり変わってしまった2人が互いの顔を見てもわからず、しかし伊織の鼻を押さえる癖を見て「あなた…」と気づくるん。「るん…か」と確かめるように顔を見る伊織。もうさっきから仁左様の嬉しくて嬉しくて仕方ないといった落ち着きのない行動にうるうるきているんだもの、ここで泣けないわけがない。顔は2人の嬉しさを共有して笑い、目からは感動の涙が出る。
前回のるんは菊五郎さんだった。年をとってからの容貌は(私の目には)意外と玉様がイケてなくて菊五郎さんのほうが好き(ふっくらしてかわいかった)。でもそれは容貌だけのこと。るんの味が損なわれることはまったくなく、強く明るく聡明なるん、仁左様の伊織との間に通うしみじみした懐かしさ、静かな愛情は心に深く沁み入るのであった。
勘三郎さんが珍しく悪役というか憎まれ役を演じている。これが実にいい。将来は、「この鮒侍が」と罵るほうをやってみるのもいいのではないか、などと思ったくらい(先代も判官と師直、両方をやってるんだ!!)。
<上演時間>「爪王」34分(11001134)、幕間20分、「俊寛」79分(11541313)、幕間30分、口上22分(13431405)、幕間25分、「ぢいさんばあさん」75分(14301545
ナンセンスツッコミ:筋書きによれば37年後の2人は70歳を超えているそうである。とすると、別離は少なくとも33歳の頃。たしか2人は3年前に結婚したのではなかったか。当時としてはずいぶん遅い結婚ではない?

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コメント

SwingingFujisan さま

節分の日の観劇は三階席で相当なニアミスだったようです(^^;)。

ところで玉三郎さんのるん役の後半の老けの作り方は、今回私も作り過ぎでは、と驚いたので、拙ブログにもそう書きました。平成14年の上演時の映像と比較して、なおさらびっくりしたのです。

ところが拙ブログにてコメントいただき、青空文庫(新字新仮名の全文)にてあらためて読み直してみました。そうしますと、脚本とやや異なり29歳で結婚、34歳で別離、71歳で再会です。したがって今回のような顔の拵え、鬘の作りなど原作に近いとも言えますね。江戸時代の71歳は超高齢者ですね。

http://www.aozora.gr.jp/cards/000129/files/43030_17421.html

宇野信夫の脚本そのものが原作を舞台用に相当手を入れていますので、以前のような可愛い老女でもよいとは思うのですが。

投稿: 六条亭 | 2010年2月 8日 (月) 00時54分

六条亭様
六条亭様も節分の日にいらしたのですね!!
コメントと原作情報、ありがとうございます。
早速、原作を読んでみましたら、ずいぶん淡々と描かれているのですね。鴎外が「どうぞご自由に想像を膨らませてください」と言っている感じがしました(それは、原作より先に舞台を見たからかもしれません)。
玉様のるんは、前作とは顔の拵えが違うのですね。お芝居なのですから、見た目の要素は大事な気がします。玉様なりのお考えがあるのでしょうが、やっぱりもうちょっと可愛いほうがいいですよね。玉様ファンの六条亭様もそうお感じなのですから(^^)

投稿: SwingingFujisan | 2010年2月 8日 (月) 08時40分

SwingingFujisan様
 こちらにも、本日の感想書かせてください。「ぢいさんばあさん」は最近よく出る芝居ですが、やはり良くできた脚本だと思います。玉三郎、孝夫時代から名コンビ二人を、ずっと見てきた私としては別の意味で、感慨新たでした。人気、実力ともにトップクラスの2人ですが、決して平坦、順調のみの俳優の道ではなかったですから。
 ところで、私の後ろの席に、若い女性グループが観劇していたのですが、その一人が、「正月は浅草で若手の芸人(!)がやっていたのよ」との発言、今の若い人は、歌舞伎役者も、お笑い芸人並みなのかなと(決して非難しているわけではありません)。但し、「ぢいさんばあさん」の観劇中、後列から、何人もの鼻をすする盛大な音が聞こえました。歌舞伎ファンが増えるのは、チケットが取りにくくなりますが、悪いことではないですよね。雪交じりの寒い一日でしたが、温かい歌舞伎座でした。

投稿: レオン・パパ | 2010年2月13日 (土) 18時35分

レオン・パパ様
素敵なコメント、ありがとうございます!!
「ぢいさんばあさん」は、後味がよく、お話もとてもよくできていて、好きな作品の一つです。年老いた2人が肩を寄せ合って笑顔を見せている姿(私の場合は菊五郎さんのるんですが)は強く心に刻み付けられています。
玉三郎さんと仁左衛門さんのここまでの道--確かにこの物語に通じるものがあるかもしれませんね。また色々な演目でカップルを演じているお2人ですから、互いに自然に通い合うものがあるような気がしました。
「芸人」には笑ってしまいましたが、そういう若い女性たちにも「ぢいさんばあさん」は深い感動を与えたのですね。私も役者さんたちが「もっと歌舞伎を見に来て」とあちこちで宣伝すると、「もうこれ以上チケット争奪戦を厳しくしないで~」と言いたくなりますが、その一方で、こんな素晴らしい芸能をもっともっと若い方たちにも愛してほしいと願わずにはいられません。
いいお話に、私の心も温かくなりました。

投稿: SwingingFujisan | 2010年2月13日 (土) 22時15分

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