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2010年6月 8日 (火)

佐倉義民傳・1

67日 「佐倉義民傳」(シアターコクーン)
一昨年12月歌舞伎座、幸四郎さんの宗吾はパスしたので、まったくの初見。木内宗吾の話はおおまかに知っていたので芝居として見るにはつらいかもしれない、でもコクーン歌舞伎だからつらいだけの芝居には終わらないに違いないという期待もあり、観劇予定が3回しか入っていない6月に2回見るつもりであった。結論から言えば、1度でいい、狙っていた千穐楽は取れなくてもいい、と思った。
誤解しないで。つまらなかった、よくなかった、って言うんじゃ全然ないの。面白かったし、さんざん泣いたし(タオルも濡れ、ティッシュも何枚も使った)、ああいい芝居だったと今でも感動している。でも、やっぱり重くてつらくて…。多分、自分の中で昇華作用が起こらなかったから…(と言いながら、何日か経ったら猛烈にもう一度見たくなる可能性も何となく感じている)。

以下、ネタバレします。
コクーン歌舞伎ではよく舞台の上に人が押して動かす台が置かれて、その上で芝居が展開されるが、今回はその台に土が詰まっていた。平場席の56列くらいまでビニール風呂敷みたいなものが配られていたから、本水でも使うのかと思っていたが、この土のためのビニールなのであった。
土の舞台は良い。歌舞伎で描かれる時代、土地はすべて土なのであり、ましてや「佐倉義民傳」は農民の物語なのだから、土を使うことが活きている。また土というのは何か安心感のようなものを与える。この土で収穫される作物が農民を苦しめている(つまり、厳しい年貢の取立て)反面、この土がある限り、人間は生きていかれるというような気がするのである。
勘三郎さん演じる木内宗吾は常に常に農民のことを考え、みんなが笑って生きていかれる世の中を作りたいと願っている。その気持ちはあまりに純粋で、見ていて痛ましくなるくらいである。勘三郎さんはあくまで真摯に控えめに宗吾を演じる。筋書き(1800!!!)で勘三郎さんが面白いことを言っている。今回の演目が決まったときお弟子さんが喜んだ。いつもならお弟子さんが大事な小道具の用意を忘れたら「何やってんだ、バカヤロー」と怒声が飛ぶのに、前回宗吾を演じたときには「気をつけて下さいよ」と静かに注意するだけで、1カ月間とても穏やかだったそうなのだ。それをお弟子さんは覚えていたというわけ。袖で怒鳴っていては宗吾さまにはなれない、と無意識に穏やかになっていたらしい(勘三郎さんは「宗吾さま」と言っている)。

その神様のような宗吾が最後、怨みを残して死んだのにはある意味ほっとするものがあった。いたいけな幼子を目の前で無残にも殺されて、それでも神のような気持ちでいたら、「ウソ」と私は思ったに違いない。宗吾の子供たちがまた、けなげで賢くて可愛らしい。長男はしっかり者で弟妹を可愛がり、父がいない間は自分が名主の代わりをするのだという気概さえもっている。まだ78歳というところだろうか。しかしさすがに父親が命を賭して直訴に出る時は父親にしがみついて別れたがらない。これにもまたほっとする。子供ならば、それが当たり前だもの。兄を慕う弟は、これもまたけなげながら幼い分、子供らしさが前面に出て、本当に可愛らしい。
この子別れの場にどれだけ泣いたか。客席のあちこちからもすすり泣きの声が聞こえる。宗吾一家の命を奪う命令を下す彌十郎さん(堀田家家老・池浦主計)は子別れの場は見ないようにしようと思っていると筋書きで語っている。だって、あれを見ちゃったら、そんな残酷な命令出せなくなっちゃうもの。池浦主計はこの芝居の中では憎まれ役と言っていいかもしれない。でも、池浦が悪意をもったり私服を肥やすために宗吾一家を根絶やしにしたわけではないことはよくわかる。いい悪いは別として「ご政道」というものに忠実だったのである。そこは彌十郎さん、よく気を使っていたと思う。
つまりこの物語は、宗吾に思い入れれば堀田上野介(扇雀)と池浦は悪になるのかもしれないが、そんな単純に善悪という価値判断をできるものではないのである。それが重いものを心に残し、昇華できなかったのが2度見なくていいと思った理由なんだろう。
長くなるので次回に続く。

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