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2010年6月 8日 (火)

佐倉義民傳・2

67日 「佐倉義民傳」(シアターコクーン)
原作にない役の駿河弥五衛門(橋之助)という人物が面白い。人を食ったようなこの人物が、何を考えたか、宗吾が将軍様に直訴しようとしていると堀田の殿様に偽の注進をしたとわかった時、ひょっとしたらこのアジ男はもう1人の宗吾なんじゃないだろうか、と思わせられた。正体不明でちゃらんぽらんのようでもあり、そうでもないようであり、よくわからない存在だったのに、この時、宗吾自身がこの男の本心にはっと気づいたように、私もこの男が宗吾の別の声を持っているんじゃないかと思ったのである。
駿河弥五衛門に恋心を抱くでもなく江戸に一緒に連れて行ってくれと頼み、故郷・佐倉を捨てる若い娘おぶん(七之助)がまた興味深い。今の暮らしから抜け出せるならなんでもいいという現代っ子のようなところがあり、しかし本心では故郷を捨てられないでいる。とても哀れな生涯を送るこの娘を七之助さんが繊細に演じている。
コクーン歌舞伎とか新作というと扇雀さんは割と変な女役が多いように思うが、今回の宗吾女房おさんはとてもよかった。夫を理解し敬愛し、慎ましやかに暮らす一家を支える妻・母の姿が丁寧に伝わってきた。扇雀さん、もう一役は堀田上野介。宗吾の話を聞くところは御浜御殿を思い出さないこともないけれど、殿様の出来も違うし、あんなにアツくなれなかった。
亀蔵さんの幻の長吉にも泣いた。

勘三郎さんが民衆の中から現れるシーンが2回あるんだけど、2回ともいつ現れたんだか気がつかなかったのは不覚。また、役人の手から逃れる時、勘三郎さんが2階正面席を逃げ惑う。そこから再び1階を逃げるのだが、1階へ行くのがあんまり早くてビックリ。

ところで、佐倉宗吾が亡くなったのは1653年。その年、近松門左衛門0歳、初代勘三郎55歳。そして今年、当代55歳。不思議な縁である、と笹野高史さんが途中で語る。

さて話題のラップ。マイクのせいか言葉がはっきり聞き取れないところもあったが、これは農民の心の叫びであり、彼らのエネルギーを感じさせて、とてもよかった。ラップは歌舞伎に合うと思った(ラップ場面の稽古風景がココで見られます)。最後のラップは家老も将軍(七之助)も子供も全員で叫ぶ。子供のラップはかわいいよ~。義太夫は使わず、下手側に鳴り物、上手側にギター、ドラム。演奏者もお百姓さん姿。
今日の座席は2階下手側サイド。ちょっと身を乗り出さないと見えない部分もあるが、1列しかない席で前後に気を使う必要がないし、正面席より舞台との距離がないし、上から全体を見渡せて、かなりコストパフォーマンスがよかったと思う。通路や平場席を役者さんが通るのは毎度のことだが、この席でまあ満足。

コクーンの1階ロビーに宗吾霊堂が設えられ、ご本尊の宗吾像が安置されているが、宗吾像に手を合わせる人がほとんどいなかったのは残念。
<上演時間>第一幕70分(13001410)、幕間15分、第二幕95分(14251600

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歌舞伎ミーハー観劇記」カテゴリの記事

コメント

SwingingFujisan様
 こんにちは。昨日、コクーン夜の部観てきました。満員で、カーテンコールも数回ありましたが、昨年の桜姫よりは熱気が少ない気がしました。
 気になった点は、
 ①子供が惨殺されるところが、陰惨すぎること。歌舞伎はこうした場面 を意識的に隠蔽してきた演劇です。
 ②脇筋の展開、特に弥五衛門、おぶんのくだりが御都合主義で説得性に 欠けること。
 ③笹野、井上の客演組が上手いことは上手いのですが、演技がさらさら して、他の役者との違和感があること。歌舞伎役者は独特のこってり感 があります。
 ④今回の目玉の義太夫代わりのラップが、マイクの音量のせいか、聞き づらかったこと。
 等、ですが、いつものチーム中村屋の力いっぱいの熱演楽しみました。クサそうな演技も、下品になる手前でとどまっています。
 個人的に気に入ったのは、亀蔵です。「幻の長吉」という役、旧来のやり方ではよくわからない役なのですが、今回、こんな役だったのかとも思い、ワキに徹してはいるものの、主役と十分対峙した熱演でした。亀蔵の良さがよく出ていましたと思います。ちょっと、長谷川伸風の展開でしたね。
 来年のコクーン歌舞伎(私はこれまで、切符がとれなかったのでまだ、2回だけです)、また楽しみです。

投稿: レオン・パパ | 2010年6月12日 (土) 16時58分

レオン・パパ様
やはり、子供が殺される場面はそうお感じになられましたか。私も正視できない気分でした。むごいことです。磔台に縛り付けられたまま目の前でそれを見せられた宗吾がこの世に怨みを残したのは当然といえば当然です。その辺のリアルさが千穐楽チケットへの二の足を踏ませました。
弥五衛門、おぶんは今回の創作のようですし、現代的な感覚の人物になったためでしょうか。
亀蔵さん、よかったですね!! 亀蔵さんの味がよく出ていて、一つ一つのセリフにも打たれました。
ラップが聞き取りづらかったのは私だけかと思っていました(最近、年のせいか耳が悪くなっているような…)が、レオン・パパ様も聞きとりづらかったとのこと、ちょっと安心しました(^^)

レオン・パパ様がコクーン歴2回というのは意外です。コクーンは役者さんが平場席の間を強引に通って客いじりをしたり、通路を多用するので、一体感を覚えます。でも私はこれまでは必ず平場で見ていましたが、今回初めてサイドから見て、これも悪くないなと思いました。もっとも演目によるところ大ではありましょうが。来年は何がかかるんでしょうね。できたら楽しいお芝居にしていただきたいものです。

投稿: SwingingFujisan | 2010年6月12日 (土) 20時59分

SwingingFujisanさま☆こんばんは!
今日、見てまいりました。ホントにいっぱい泣きました。そして、とってもよかったです。でも、おっしゃる通り、私も今年は一回でおなかいっぱい、千穐楽はやめておきます。
内容が重いせいなのか、歌舞伎座がなくなってしまったせいなのか、まぁ、さよなら公演でおサイフが空っぽになったせいもあるかも。皆さまおっしゃるように、なんとなく鼻息荒くなりきれないでさみしい気持ちでおりまする。
来月の演舞場も発売日を逃して、そのままになっており、ボーナスポイント、早くも脱落か?8月の演舞場、私は一部と三部は一等狙いですが、とりあえず一回ずつで、行ってエンジンかかっちゃったらリピートします…。

投稿: 七子 | 2010年6月20日 (日) 21時51分

七子様
こんばんは。
ああいうつらく重い話をあのように面白く見せる(「面白可笑しい」のではなく最後まで引き込まれる)のは、さすがにコクーン歌舞伎ですね。でも七子様もおなかいっぱいですか。それには色々な要素があるのでしょうね。内容がつらくてこれまでのコクーンのように千穐楽に弾けるという気持ちにもなれませんし、歌舞伎座がないから何となく気持ちも盛り上がりませんし…ね。

来月の演舞場、あまりチケットが売れていないようですが、始まれば状況が変わってくるのかもしれません。
8月は七子様とご同様、私も行ってエンジンがかかったら、ということになりそうですsmile

投稿: SwingingFujisan | 2010年6月21日 (月) 00時31分

SwingingFujisanさま
「佐倉義民傳」 細かいところまで、そうだった、そうだった
と思いながら読ませていただきました。
私もこの演目は今回が初見だったのですが、ちょっと観ている
のがつらくなるような場面もあったものの、最後のラップの
合唱(というのか?)のお陰か、重く落ち込まずに観終える
ことができたように感じました。

宗吾が目の前でわが子を殺されるところで、それまでの
聖人君子のような顔から、怨念を遺すように一変するところ
が、より人間的に感じられ、何だかほっとするように思えた
のも同感です。

投稿: スキップ | 2010年7月12日 (月) 01時08分

スキップ様
こちらにもありがとうございます。
宗吾の生涯は、未だに私の気分に重くのしかかっていて辛いのですが、だとしてもコクーン歌舞伎だったから救われている部分があり、それがラップだったり、宗吾が人間に戻った場面だったりするのかもしれません(私もスキップ様と同感)。
心に残るお芝居は色々ありますが、こういう形で心に残るお芝居はそうそうないかもしれません。見てよかった、と思いました。

投稿: SwingingFujisan | 2010年7月12日 (月) 06時40分

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