« ベスト4一番乗りはオランダ | トップページ | 山場 »

2010年7月 3日 (土)

七月歌舞伎昼の部・1

七月大歌舞伎初日昼の部(新橋演舞場)
以前、7月の演目が発表になった際、「金閣寺」と「名月八幡宮」は本来なら順番が逆だろうというご指摘をいただいたが、確かにその通りで、イヤホンガイドで逆になった事情を説明していた。「名月八幡宮」は元々黙阿弥の世話物ではあるが、池田大伍が近代的な視点から書き直したものであり、新歌舞伎であるから客にとって入りやすいだろうということで先にもってきた、とのこと。ちょっと苦しいかな…。
歌六・歌昇さんに掛けられる「よろずやっ」の声を聞くのは今月で最後かも、と思うと複雑な気持ちがした。
「名月八幡祭」
初めて見るので、予備知識なしで楽しみにしていたが、後味が悪かった。以下、ネタバレします。
深川芸者が田舎者をだます。だまされた田舎者は絶望し、怨みに狂気となって芸者を殺す。ストーリーとしてはちょっと「籠釣瓶」に似たようなところがあるが、全然違う印象を受けるのは、新歌舞伎だからなのだろうか。
芸者・美代吉(福助)は深川随一の売れっ子芸者だけれど、遊び人の情人がいてしょっちゅう金をせびられ、また本人も浪費癖があるから、いつも金に困っている。今も八幡祭に着る衣裳代100両(祭の衣裳に100両、現代の1000万)がなくて困っている。その窮状を救おうと申し出たのが越後の縮屋(最初、しじみ屋と聞こえてしまいましたわ)新助(三津五郎)。100両できたら一緒になると言う美代吉の言葉に奮起する。といって新助に100両の金があるわけでなく、急場のことでもあり、たまたま出会った越後の人に田畑、家土地のすべてを100両で売って金をこしらえる。ところが、その間、美代吉を贔屓にする金持ちの殿様から100両が届けられ…。
美代吉してみれば、江戸の客なら真に受けないことでもあり、ほんの軽い気持ちで田舎者に甘い言葉をかけただけ。だましたという意識はなかったに違いない。しかし実直で純朴な新助は心底惚れた女のためにすべての財産を失ってしまったのだ。そこから新助は狂気に陥る。新助の狂気は破産したことだけが原因ではあるまい。プライドをずたずたに引き裂かれたことが大きかったのではないだろうか。

そもそも、住む世界の違う相手に惚れた新助も間違いであれば、新助に100両の工面を頼んだ美代吉も間違いである。「田舎の人にはうっかり口もきけないわねえ」(だったかしら)の一言に美代吉の本心があらわれている。
殺しの場面は、本水を使った雨。美代吉の浴衣がぐっしょり濡れ、素肌が透けて見える。その美代吉にまたがり、刃を向ける新助。本来ならエロチックな場面なんだろう…。三津五郎さんの狂気が哀れで痛ましい。罪の意識のない美代吉はなぜ殺されなければいけないか、わからなかったのではないだろうか。
福助さんの美代吉は、たしかにいい女ではあるけれど、殿様が手も触れずに金だけ寄越す(歌六さん演じる藤岡の殿様は、美代吉のパトロンでありながら、体の関係はないそうだ)というほどの良さが私には感じられなかった。これまで福助さんが演じてきた深川芸者とはちょっと違う(それは福助さんのせいではなくて、美代吉自身のせいかも)。歌昇さん(美代吉の情人・三次)は船頭らしいカッコよさはあるのだけれど私の目にはどうしても実直さが見えてしまい、縮こまっている三津五郎さんのほうが遊び人には向いていたかもしれない、なんて思ってしまった。また段四郎さんの魚惣は大変いい味なのにセリフが入っていなくて残念だった。
前述したようにストーリー展開から「籠釣瓶」を思い出したが、祭を背景にした殺しという点や、江戸情緒が描かれているという点では上方の「夏祭浪花鑑」に近いものがある。ただ、私は、この芝居からはどういうわけかあまり江戸情緒というものを感じなかったし、「籠釣瓶」や「夏祭」に比べてもやっぱり後味が悪かったのである。初日のせいもあるかもしれない(すべて承知の初日、文句は言うまい)。実際には日程上、再見はしない予定だが、再見すれば感想も変わるかもしれないと思うから、進化した舞台をもう一度見たいという気もする。

|
|

« ベスト4一番乗りはオランダ | トップページ | 山場 »

歌舞伎ミーハー観劇記」カテゴリの記事

コメント

> SwingingFujisan さま

ご無沙汰をしています。

約二ヶ月ぶりの本格的な歌舞伎公演で、昨三日に通して観てきました。ようやくどっぷりと歌舞伎観劇を漬かったというところです。

この「名月八幡祭」(外題は「宮」でなはく「祭」です)は、同じような感想を持ちました。どうも後味が悪かったですね。役者さんもまだ二日目で方向性が統一が取れていないような印象がありました。後半にはよくなるでしょうね

投稿: 六条亭 | 2010年7月 4日 (日) 12時44分

六条亭様
コメント、ありがとうございます!!
こちらこそすっかりご無沙汰しており、申し訳ありません。
昨日読み逃げでちょっとお伺いいたしましたら、昼夜通しでご覧になったとのことで、おお六条亭様もいよいよ始動なさったのねと思いました。久しぶりの本格歌舞伎観劇でお疲れになりませんでしたか。私は昼の部のみの2日続きでしたが、体のリズムが戻らず、少々疲れました(深夜のサッカーのせいもありますけれど)。
「名月八幡祭」(入力ミスのご指摘ありがとうございます!! 訂正いたしました)はやはり同じようにお感じでしたか。このお芝居は大変面白いと聞いておりましたので期待していたのですが…。後半観劇の予定がないのが残念です。

投稿: SwingingFujisan | 2010年7月 4日 (日) 15時46分

SwingingFujisan様
 今晩は。本日昼の部、観てきました。名月八幡祭は、縁切り狂言を近代人らしい視点での書換え狂言ですが、縁切りものは、現代の感覚では、どれも多かれ少なかれ、無理がありますね。主役の女形がどうかすると我儘な悪女に見える場合が多いせいでしょうか。役者では、セリフが怪しいながら、段四郎と、美代吉のおっかさんの役者(どなたですか?)が光っていたような気がします。
 「文屋」は眠い中でみていたのですが、富十郎が良い味わいで踊っていたものの、難しい振りを避けていたような・・・。気のせいでしょうか。
 「金閣寺」は、大顔合わせを堪能しました。吉右衛門は言わずとしれた、当たり役ですし、何より団十郎の大膳が形容の立派さで最高です。芝かんの古風さも、出てきただけで舞台の雰囲気を入れ替えてしまいます。
 ところで、今回の演目及び9月演目で歌昇が脇に甘んじたいつもの座組みですが、いつか段四郎の位置のような重要な脇役か、朝幕、夜の打ち出しでいいので、出し物をしてほしいものと思います。
 

投稿: レオン・パパ | 2010年7月 4日 (日) 18時46分

レオン・パパ様
こんばんは。コメントありがとうございます。
福助さんはこれまでにも深川芸者を何回か演じられていますが、今回の美代吉はそのどれとも違う女性で、深川芸者に対してもっていた私の印象をがらっと崩してしまいました。美代吉のような女性に共感をもたせるように演じるのはむずかしいのでしょうね。
美代吉の母親は芝喜松さんだと思います(筋書きをまだ買っていないので)。このお母さんには江戸の市井の雰囲気が感じられました。段四郎さんはセリフがちゃんと入ったらピカ一なんじゃないでしょうか。

富十郎さんの動き、やはりそう感じられましたか。足がお悪いせいだと思います。

「金閣寺」は贅沢な配役ですね。初日はちょっとゆるいような空気がありましたが、こういう重厚な時代もののよさを味わいました。

実力のある役者さんにこれといった役がつかないのはどういうことなんでしょうか。ほんと、歌昇さんもニンに合ったいい役がまわってくればいいのに。配役が発表になってもそういう意味でがっかりすることが多く、残念に思います。

投稿: SwingingFujisan | 2010年7月 4日 (日) 22時17分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/1083822/35619851

この記事へのトラックバック一覧です: 七月歌舞伎昼の部・1:

« ベスト4一番乗りはオランダ | トップページ | 山場 »