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2010年7月18日 (日)

赤坂歌舞伎

717日 赤坂大歌舞伎昼の部(赤坂ACTシアター)
一昨年の「狐狸狐狸」以来2回目を迎えた赤坂歌舞伎。本当はA席で見るつもりでいたのだが、この劇場の後方席は舞台が小さくて見えにくい…とは経験的に感じていたので発売日に急遽S席に変更。「とちり」よりは後ろだったが、かなり見やすい席であった。
「文七元結」
これまでに見たものと違う点が時々あったのは、赤坂歌舞伎ということを意識してか。構成も喜劇性を強めていたような気がした。でもお客さんが大笑いしていたのはハッピーでいいことだと思う。私もずいぶん笑った。以下、完全にねたばれします。
長兵衛の家
中村屋の定式幕が開いてまず目に付くのは長兵衛の家の汚さである。薄暗がりの中で見ると「こんなにボロ家だったっけ」と呆れるくらいのボロ家である。明るいときより暗い時のほうが惨めさが目立つ。そして、寂しさが漂っている。
バクチですって着物まで剥ぎ取られた長兵衛(勘三郎)の格好がまた汚らしい。歌舞伎は汚い格好にもそれなりの美(というと語弊があるかな)が保たれていることが多いが、本当に汚い。長兵衛の態度もひどくすさんでいる。
惨めさ、寂しさ、汚さ、すさみ――「文七元結」はこれまでに何回も見たけれど、この出だしの空気はこれまでの歌舞伎に比べかなり強調されているような気がした。
もう一つ、女房お兼(扇雀)とお久は生さぬ仲と言っていたが、あれ、そうだったっけ? 扇雀さんはちょっとオーバーな気もするが(ヒステリックすぎる)、生さぬ仲の娘を可愛がり心から心配している様子がよく見受けられた。
角海老
さて、場面は角海老へと飛ぶ。舞台の横幅が狭いので、せせこましい感じを受けるのはやむを得まい。ここで小山三さんと鶴松クンという最長老・最若年のコンビ(?)が再び見られるのは嬉しい。とくに女郎姿の小山三さんがと~っても若く見える!!
奥のほうで小さくうずくまっている芝のぶちゃん(お久)がなんていじらしいこと。その姿を見ただけで、どんな気持ちで家を出たかと涙が出てくる。芝のぶちゃんはお久の年齢に合った声、セリフまわしで本当にいじらしくて愛らしい。父親を諭すセリフにも少女の思いが込められ、涙を誘われた。よく見ると、両の手にはあかぎれが刻まれ、痛々しい。このあかぎれは、これまでのお久にもあったかしら。今回初めて気がついた。
角海老女房お駒の秀太郎さんがさすがの存在感である。秀太郎さんはこういう役はバツグンにうまい。お久にかわって家を出てここへやってきた経緯を語るのを聞いていたら、お久の心情がよく伝わってきて涙が滲んできた。

大川端
花道のない劇場では通路が使われることが多く、今回もそうだろうと予想していたが、舞台に上がる階段が置かれていない。今回は通路使用なしか? でも気になるのは舞台下手寄りの下に穴が開けられていること。そうしたら、この場面になると、そこからスロープがするすると出てきた。50両を懐にした長兵衛はスロープを降りて家路を急ごうとして、大川端の若者がふと気になる。私の席は、その通路そばで、勘三郎さんをほぼ目の前に見ることができた(ほとんど後姿だったけれど)。
大詰
夫婦ゲンカがビビるほど凄まじい。
文七(勘太郎)が50両をなくしたのは盗まれたのでもなんでもなくて、囲碁に夢中になったあまり碁盤の下に置いたのを忘れただけと店の主人・和泉屋清兵衛(彌十郎)から聞かされた長兵衛、「shockダメだよ~、こんなの使いに出しちゃぁ~」と呆れ果てる。
同感っsign03「文七」を見るたび、いつも思っていたのだ。こんなそそっかしいのに50両もの大金を取りに行かせていいのかぁwobbly 暖簾分けしちゃっていいのかぁってbleah
ま、それはともかく文七とお久の縁談がまとまり目出度し目出度しになるところ、一悶着起こる。娘がきれいになって戻ってきた嬉しさ(私も嬉しい、美しい芝のぶちゃんに又涙)に長兵衛がこの縁談にちっとも気が入らず(嬉しさのあまりしばらくの間は縁談が持ち上がったことにすら気がつかず、やっと縁談のことがわかってもぼんやりしていて今度は和泉屋本人との結婚と勘違いshock、という意味)、和泉屋を怒らせてしまうのだ。最後はもちろんハッピーエンドなんだけれど、ワンステップ置いたために、幸せにミソがついたような気持ちになったし、先行きの心配までさせられる。つまり、元々住む世界の違う長兵衛と和泉屋だが今後親戚としてうまくやっていけるのかなんて余計なことを考えてしまった。ここは通常どおりすんなりいったほうがよかったんじゃないかしら。
ところで、主な配役は、1910月に演舞場で行われた「錦秋演舞場祭り 勘三郎奮闘」のときとほぼ同じだったのね。角海老女房が当時は芝翫さん、今回は秀太郎さんというのが大きな違い。亀蔵さんが鳶頭だけっていうのは実にもったいない。
「鷺娘」
七之助さんがどのように仕上げてくるか楽しみだったが、正直まだまだというところでしょうか。玉三郎というほとんど完成された鷺娘がいる以上、ハードルは高い。登場したところはいいかなと思ったけれど、その後は形に神経がいっているようで、こちらに鷺が見えてこなかった。でも、そうやって積み重ねていって、いずれ見事な鷺娘になるに違いない。それでいいのだ、と私は思う。
<上演時間>「文七元結」80分(12001320)、幕間20分、「鷺娘」30分(13401410

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歌舞伎ミーハー観劇記」カテゴリの記事

コメント

こんにちは。ビールおいしそう、私も行ってみたかったです^^
日経新聞に赤坂歌舞伎の広告記事がでていて、それによるとお兼さんが後妻というのは「義理あるお母さんに苦労させてはいけない」とお久の動機をはっきりさせるための山田監督の考えだそうです。あかぎれはいつもありますがいつもよりすごかったと思います。(家の汚さとか同様)

投稿: urasimaru | 2010年7月18日 (日) 14時39分

urasimaru様
コメント、ありがとうございます。
お兼さんのこと、ありがとうございます。
先ほど昨日の東京新聞の夕刊を見ましたら、長谷部浩さんが「なさぬ仲としたことで、お久の行動が義理による理詰の行動と受け止められかねない」と、この改訂に否定的な意見を書いていました。山田監督の思惑をどう判断するかは個人個人で違うと思いますが、山田監督は歌舞伎座などとは客層が違うことを考えて、観客にとってよりわかりやすい解釈ができるようにしたのでしょうね。
あかぎれがいつもあったこと、これまで意識していませんでした。今回はふと「おやっ」と気がついてオペラグラスでよく覗き込んでみました。切れそうなところに赤く筋が入っていて、爪のまわりも赤くなっていて、かわいそうでした。こういうところも、わかりやすくしたんですね、きっと。
ラストの部分、私の言葉が足りなくて、ごめんなさい。ちょっと直しました。

ビールは機会がありましたら、ぜひ!!

投稿: SwingingFujisan | 2010年7月18日 (日) 16時14分

SwingingFujisan様
 梅雨が明けて、毎日暑いですね。私は、先週木曜日、赤坂歌舞伎、観てきました。値段の割に、演目も座組みも軽く、劇場も歌舞伎に相応しいとは言えず、不満の残る観劇でした。扇雀が、いつもの通りのやり過ぎ演技、秀太郎のセリフの力が妙に弱いのが気になりました。また、芝のぶが抜擢で、それに応え、やることにそつはないのですが、いかんせん、お久にはとうが立っていると思いました。この人、「竜馬が行く」がよかったように、もっと適役があるはずです。一方、小山三はセリフ、動き(引っ込みの見返りの形が最高です)がしっかりで、実をいうと、小山三ばかり観ていました。
 七之助の鷺娘、全く同感です。ただ、とにかく、良い役がつき本人もひたすら精進すれば、必ず転機がくると思います。玉三郎は、もう鷺娘に封印したと以前、読んだことがあり、とても残念です。
 ところで、「文七元結」の、クライマックスのセリフ「人の命は金じゃ買えない」(これは、二代目松緑が凄かったのです)を落語(柳派の系列)では言わないのをご存じですか。こんな、美味しいセリフを何故いわないのか、不思議なのですが・・・。
 

投稿: レオン・パパ | 2010年7月18日 (日) 17時20分

どなたかが、泣きのツボは大体同じだけれど、
笑いのツボは人によってかなり違うっておっしゃって
ましたっけ。
実は、前回演舞場で見た山田監督のバージョンが
私的には??だったので、今回はパスすることに
しちゃいました。

たしかに、歌舞伎はつっこみどころ満載ですよね(笑)
ある意味、そのつっこみどころ満載なところが
好きだったりします。いろいろな型があって
よいと思いますが、リアリズムを追求するので
あれば、歌舞伎じゃなくてもいいんじゃないの
かなぁという気も...

投稿: kirigirisu | 2010年7月18日 (日) 17時48分

レオン・パパ様
コメントありがとうございます。
毎日、暑いですね。昨日も「夏っ」という感じで、観劇後のビールが格別おいしかったです(^^)

赤坂歌舞伎はおっしゃるとおり、割高ですね。この劇場は新しいくせに意外と芝居には向いていないような気がします。これまでにも何度かここで芝居を見ていますが、前のほうの席でないと満足できません。それで今回もS席にしましたが…(今チケットを見て値段の高さにビックリしました)。
扇雀さんは「佐倉義民傳」でとてもいい味を出していたのに、こういう役になると悪ノリしてしまうんですかねえ(福助さんにもそういうところがありますね)。それでも比較的抑え気味ではあったように思います。ちなみに私の中での最高のコンビは菊五郎・時蔵です
お久は今回は鶴松クンかなと思っていたのですが、前回同様芝のぶさんでしたね。私としては前回のほうがトウが立っているような気がしました。
小山三さんの引っ込みの見返り、確かに形がとても決まっていました。若い鶴松クンにそういうところを勉強してもらいたいと思いました。

今回は、客層を考えた演出・構成だったのでしょうか、歌舞伎ファンには物足りない部分がかなりみられたのはやむを得ないかなと考えています。

落語に「人の命は金じゃ買えない」のセリフがないのは存じませんでした。とても大事なセリフですのにね。

投稿: SwingingFujisan | 2010年7月18日 (日) 18時48分

kirigirisu様
コメントありがとうございます。
うんうん、わかります。泣きどころはたいてい皆同じですが、笑いどころはそれぞれツボが違いますよね(何が面白いのかさっぱりわからないのに、他人が笑っていることがよくあり、「あれっ、私ってズレてるのかな」と思いますが、そういうことなんですね)。

山田監督はちょっと理論的にもっていくところがあるのでしょうか。たとえば今回、義理の母子関係にしたこととか。おっしゃるように、歌舞伎はツッコミどころ満載だから歌舞伎なんだと思います。許容範囲の広すぎるくらい広い歌舞伎に、心の中でツッコミを入れながらそれを楽しむのが私も大好きです。

投稿: SwingingFujisan | 2010年7月18日 (日) 18時55分

私もかなりの割高感を感じつつ、ボーナスポイントのためにチケットを買ったというのが正直なところですcoldsweats01
舞台があまりに狭くて、台詞の通りも悪かったような気がしたし初だったのですがあまり見やすい劇場ではないですね。母は1F後方で見ていて、秀太郎さんの台詞がほとんど聞こえなかったとガッカリしてました。

リアリズムを追求するなら歌舞伎じゃなくてもいいじゃないかというのは同感です!これはこれで楽しめたしいいとは思いますが、うーん…新しい世代、新しい客層へ向けて中村屋さんも色々考えているんでしょうね。
芝のぶちゃんは可愛かったのですが、お久は私も鶴松くんで見たかったなぁ。

鷺娘も期待してたのですが、固さがあって引き抜きにもバタつきがあり(これは後見の問題もありますが)なんだか落ち着いて見る事ができず残念でしたdespairこんなに難しい踊りだったのかと、玉三郎さんが封印したのも納得がいったような気がしました。でも七之助さんならいつかきっと素敵な鷺娘を見せてくれるでしょうねshine

投稿: 林檎 | 2010年7月21日 (水) 12時30分

林檎様
コメントありがとうございます。
TBSラジオから流れる赤坂歌舞伎のCMで勘三郎さんが「敷居を低くした歌舞伎だから是非みなさん見に来て」というようなことを言っています(今日は午後2時の回に大沢悠里が行くと言っていましたっけsmile)。「文七」は元々難しい芝居ではないと思うのですが、さらに敷居を下げるために手を加えたのでしょうね。

ACTシアターは、歌舞伎を見るのに適した劇場とは思えません。それは勘三郎さんもわかっているんでしょうが…。秀太郎さんの声は、私のところでさえ最初はあまり聞こえませんでした。だんだん話に熱が入り手振り身振りを交えるようになってからはとても感動しました。

そうそう、鷺娘、引き抜きもスムーズじゃありませんでしたね。七之助さんがかなり自分で色々やっていたように見えました。踊りで形と心を両方見せるというのはとても難しいことなんですね。

投稿: SwingingFujisan | 2010年7月21日 (水) 14時30分

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