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2010年9月 4日 (土)

九月歌舞伎昼の部2:「佐吉」に嗚咽を堪える

92日 秀山祭九月大歌舞伎初日昼の部(新橋演舞場)
ランチ幕間は既報のとおり外でひなたぼっこ。劇場へ戻ると、なんと仁左夫人と藤十郎夫人がなにやら語り合っている。おお、豪華なツーショットsign03と思わず声に出しそうになった。
「荒川の佐吉」
前回見たのは186月だったか。この時も仁左様の佐吉、孝太郎さんのお八重、染五郎さんの辰五郎だった。いたく感激して泣いて、でもこの時は真山青果の作品だとはまったく意識していなかったと思う。
仁左様が卯之吉を愛おしそうに抱く様は微笑ましくも泣けてくる。卯之吉をそばにあったハタキか何かであやし、はっと卯之吉の目が見えないことを思い出す場面、「悪いことしたなあ」と卯之吉に謝る言葉に真実がこもっている。それは卯之吉と別れる決心をした佐吉が、「最後に花見がしたい、卯之吉のことを考えて目で見る楽しみはこれまで一切断ってきた」と打ち明けるところに通じてきて、後で胸に染み入る。
しかし、そうした佐吉の愛情はエゴなのだろうか。
相模屋政五郎は佐吉の愛情をエゴだと責めているのだろうか。いや、もちろん責めたりはしていないが、痛いところを衝いてくる。卯之吉を手放すのは絶対にいやだと号泣する佐吉に同化して、私も大声で泣きそうになった。ハンカチを口に当てて声を堪えるのに必死だった。絶対、手放すな、と心の中で叫んだ。だけれど、やっぱり卯之吉の将来を考えたら、あれしか道はなかったのかもしれない。そこを佐吉が納得して思い切ったその心にまた泣けて泣けて。周囲のあちこちからもすすり泣きの声が聞こえる。
卯之吉の見送りを背中に受けて花道を去る仁左様――3階からは途中までしか見えないのだ。1階席を取るべきであったゎ。
染五郎さんの、正義感と人情に厚いこういう子分的な役は好きである。この男の存在は、非常に重要だ。というのも、ある意味、彼だけが卯之吉の将来を客観性と愛情をもって本当に考えていたのかもしれないからだ。そして、彼だけが佐吉と卯之吉両方の気持ちを主観的・客観的に捉えていたに違いない。見ている私は完全に佐吉に思い入れており、佐吉と一緒になって笑い泣き怒り喜ぶから、客観的に考えることはできない。でも辰五郎は、佐吉と一緒に笑い泣き怒り喜びながら、卯之吉と一緒に佐吉のことを思いながら、ちゃんと客観性をもっているのである。一晩かけて卯之吉に道理を説いたというのは、他の誰もが大人の論理で行動しているのに、辰五郎は卯之吉の気持ちを第一に考えてやらなくてはならないと思ったからなのではないだろうか。そういう意味からも、染五郎の演技というものが大きくなったなあと思った。

段四郎さんはセリフが入っていないけれど、とてもいい味を出している。鍾馗の仁兵衛という親分は大した人物には見えないが(だから子分に見限られる)、そういうところもいいし、佐吉を押し切っていかさまバクチに出かけようとする仁兵衛には自暴自棄になった者の凄みがみられた。段四郎さんの横顔、亀ちゃんに似ていたなあ。子分の1人、高麗蔵さんの崩れ方が実にうまい。
吉右衛門さんは大きい。あれほど「絶対にいやだ」と拒んでいた佐吉を納得させるだけの器量がある。
前回、郷右衛門がよく理解できなかったが、今回はなるほどそういう人物だったのか、とわかった。わかってみると、難しい役だと思った。歌六さんはうまい。
千ちゃんは、大きくなったなあ。でも笑顔は初舞台の時とおんなじhappy01
真山青果らしい、琴線に触れる言葉が次々と発せられ、後々までぐっと重みのくる舞台であった。
一つ特記しておきたいのは、雨音が非常に効果的に用いられていること。これは見事だと思った。
ところで、犬の鳴き声はどなたが担当されているのかしら。「暗闇の丑松」で犬担当は橋吾さんだったんですって。それを知ったから、なんかとっても気になっちゃってsmile
「寿梅鉢萬歳」
藤十郎さんもセリ上がりで登場する。若いっhappy02 そして瑞々しい。
2
回の引き抜きがあってとても艶やか。
美しい踊りで親子の2つの物語を挟んだのね。
全然感想になってなくてごめんなさい。
<上演時間>「月宴」15分(11001115)、幕間15分、「沼津」110分(11301320)、幕間30分、「荒川の佐吉」125分(13501555)、幕間10分、「萬歳」14分(16051619
追記:書こうと思って忘れていました。「佐吉」の幕開き、田舎町人の親子がならず者にからまれる場面--見物人の女たちの中に京由、春希のお2人をみつけ、嬉しくなった。この中には梅之さんもいて、見物の雰囲気の出し方はさすがに一日の長があると思った。この3人に双眼鏡を合わせていたら、からまれた娘のほうが芝のぶちゃんだって気づかなくて、しまったshock 次回観劇時には必ず芝のぶちゃんに注目します。

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コメント

おはようございます。
連投、失礼いたしますm(_ _)m

『荒川の佐吉』、ほうぼうからすすり泣き、嗚咽が聞こえてきましたね。私は前回見たのは2001年、佐吉はもちろん仁左様で、お新が時様だったのは覚えていたけど、あとのお役は綺麗に頭から抜けていて、データベースで確認しました。

1度見たきりですが、いろいろな場面で記憶がゆりおこされました。染五郎さん、最近仁左様との共演が多いように思います。舞台上でたくさん学んでおられるのでしょうね。最後の佐吉を見送る場面、あまり振り向いて花道ばかり見ていても、と舞台上を見ると、卯之吉を抱きとめている辰五郎はたしかに泣いていました。涙がひとすじ、頬をつたっているのをしっかりと見ました。それでよけいにぐぐ、っときてしまいました。

今月の昼の部は沼津と佐吉だけで充分もとがとれて、その上に綺麗な舞踊が2本もついていて本当に見ごたえがあります。

ひっこみがどうしても見たくって、結局花横の1等B席をとってしまったからつぎでした(^_^;

投稿: からつぎ | 2010年9月 4日 (土) 10時08分

からつぎ様
こちらへもコメントありがとうございます!!!
からつぎ様がご覧になった2001年もお新は時蔵さんだったのですね。私が見た2006年も時さまでした。あの時はお新のことが許せない気持ちでいっぱいになりました。今回はお新の事情も理解できましたが、やっぱり許せない…。

若手が父親以外の役者さんからもたくさん学ぶのはとてもいいことだと思います。それに魅力的な共演が増えますしね。
辰五郎、泣いていましたか。こちらも辰五郎に泣かされました。染五郎さんもいずれは佐吉をやりたいとお考えかもしれませんね。

今月昼の部はさすがに3階席は全部×になっていますが、全体にまだまだ空席がありますね。10月の遠征がなければ、一等AかBで見たいですわ~。

投稿: SwingingFujisan | 2010年9月 4日 (土) 11時35分

こんばんは。
わたしは昼の部を観るのはかなり先ですが
Fujisanさまのレポを読んですでに涙目です。
以前、巡業で「すし屋」を観て大号泣だったことを思うと
当日が思いやられます。。。
そんなに好評ならばわたしも二回観たい!と思いつつ
わたしも遠征と落語があるので今月はじっとがまんの子ですcoldsweats01

投稿: あねご | 2010年9月 4日 (土) 20時46分

あねご様
こんばんは。コメントありがとうございます。

昼の部の「沼津」「荒川の佐吉」は何度も見たい演目ではありますが、moneybagを考えなければならないときは、ぐっと気合を入れて1回で満足するのもテかもしれません。私はもう1回見る予定なので、次回ぐいっと気合を入れます(初日以上の気合で)。
あねご様の遠征は南座ですか?

巡業の「すし屋」、思い出します。泣けましたねえ。

投稿: SwingingFujisan | 2010年9月 4日 (土) 22時05分

SwingingFujisan様
 おはようございます。私は昼の部観劇は中日すぎですが、レポ拝読し、楽しみです。
 昨日、夜の部みてきました。酷暑の中で、俊寛は妙に季節感がありました。吉右衛門の俊寛、未見だったので、期待大だったのですが、派手な演技で大向こう受けを狙わず、やや内向的な風にみえ物足りない面がありました。特に、瀬尾に殺意を持って一太刀浴びせる場面が、緊迫感のためがなく、さらさらしていました。その、あっさり感のまま、幕切れまでいった気がしました。最後の絶望の表情はさすがでしたが。また、この幕切れ、中村屋風の平安な表情を思い出しました。他の役は、すっとんきょうな、高音セリフの福助の千鳥以外は、当代屈指ともいえる周りですが、仁左衛門が特に立派です。立ち姿の良いこと、良いこと。
 あと富十郎の「うかれ坊主」が素晴らしかったです。体力的に難しいふりは、上手く省いているようですが、洒脱な、名人芸を堪能しました。富十郎の舞踊は、あと何回見られるのかなという感慨しきりでした。

投稿: レオン・パパ | 2010年9月 5日 (日) 08時01分

レオン・パパ様
おはようございます。
コメントありがとうございます。
レオン・パパ様とは逆に私は夜の部がう~んと先です(千穐楽smile)。
吉右衛門さんの俊寛、あっさりでしたか…。私は19年に吉右衛門さんの俊寛を見て、とても感動し、自分の「俊寛」がそこで完結したと思ったのを覚えています。自分の意識ではその後も吉右衛門さんを何回か見たように思っていましたが、意外にもあれ以来初めてなんですね。丹左衛門はほとんど梅玉さんで見ておりますので、仁左衛門さんは大いに楽しみです。

富十郎さんは、最近身体に負担のかかる動きは避けておられるようですが、それでも名人芸っていうのはすごいですね。千穐楽までお元気で踊り続けていただきたいです。

投稿: SwingingFujisan | 2010年9月 5日 (日) 10時09分

SwingingFujisan様のレポを拝読して、「思い出し涙」がこぼれそうになりました。私もニザ様の佐吉はもっちろんですが、染五郎丈の辰五郎さん、大好きです。辰五郎さんがいなかったら、佐吉も、卯之吉も、どうなっていたことか…と思うと、やっぱり泣けてきます。

幕開き、忙しかったですねぇ、オペラグラスが(笑)。私も春希ちゃん(「ちゃん」って可笑しいんですが、どうしても、親しみをこめて…)を見つけて、「がんばれ、がんばれ」って思いました。お母さんの、いや、姉弟子、いやいや兄弟子の春之助丈もやっぱり、「群集」の演技が出来てらしてて、「芝居」の面白さを感じました。

層の厚みがあってこそ、シンのお芝居もイキてくるんでしょうね~。

投稿: はなみずき | 2010年9月 5日 (日) 19時00分

はなみずき様
コメントありがとうございます。
はなみずき様ももうご覧になりましたのね。
ユーモラスで心が真っ直ぐで、卯之ちゃんに大きな愛情を寄せている辰五郎さんは、こちらの心もほっとさせてくれるような大きな存在でしたね。染五郎さん、まさに辰五郎でした。

毎度言うようですが、歌舞伎を見ていると、ああいう群集の重要さがよくわかりますね。春希ちゃん、可愛かったですね(^^) 私も心の中で応援していました。今度は春之助さんと姉妹役で拝見したいと思いました。
次回の「佐吉」では男性陣にもオペラグラスの焦点を合わせなくっちゃ(ほんと、忙しい忙しいsmile

投稿: SwingingFujisan | 2010年9月 5日 (日) 20時59分

こんばんは。
夜の部、観てまいりました。

こちらでレオン・パパ様のコメントを拝読して
「すっとんきょうな千鳥」がかなり気になっていました。
実際観てみたら、まぁ…想像以上でした。
他のみなさんが本当に素晴らしかっただけに
なんとも微妙な気持ちになりました。
変につくらないで、普通にしてくれればいいのに…と
いつも以上に思って帰ってきました。

投稿: あねご | 2010年9月11日 (土) 22時44分

あねご様
こんばんは。コメントありがとうございます。
俊寛はとても評判がいいのに、千鳥だけはどうもよくないですねえ。私が夜の部を見るのは千穐楽だけですので、なんともいえませんが、福助さんの千鳥は19年の1月に見た折、やはりかなりの違和感を覚えました。雰囲気が都会的過ぎるのと、やはり作りすぎていたんでしょうね。どなたか周りで注意する人はいないのでしょうか。

私もあねご様のように、かえって千鳥が気になって早く見たくなってきましたcoldsweats01

投稿: SwingingFujisan | 2010年9月11日 (土) 23時07分

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