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2010年11月19日 (金)

女の物語「国性爺合戦」

1111日 「国性爺合戦」(国立劇場大劇場)
101119tyajpg 演舞場の観劇記が先になってしまったけれど、今月初歌舞伎はこちら。
演目は、歌舞伎鑑賞教室(20066月)で「楼門の場」と「甘輝館の場」を見たことがあるが、通しは初めて。国性爺というと、子供の頃、冒険物として心ときめかせたような記憶があり、また前回見た時もそんな感じだったような気がする。
ところが今回通しで見て、これは女性の物語だ、と思った。
まず栴檀皇女。自分の運命をただ受け入れるのではない強さがある。兄である皇帝は女と酒で骨抜き状態。そんなだらしない皇帝だからこそ理不尽な命令を押し付けてくる。栴檀皇女が李踏天と意に染まぬ結婚をさせられるか否かを梅と桜の花軍で決めるなんて、優雅といえば優雅、アホらしいといえばアホらしい。その争いで桜の枝をもつのが梅之さん。キッパリとした戦いぶりの中にたおやかな美しさがあって、本当は桜が勝つと栴檀皇女が李とう天と結婚させられるのにもかかわらず、思わず桜を応援してしまった。
で、結果、桜が勝つのだけど、そこへ李踏天の反乱が起こり、栴檀皇女は呉三桂の助けを借りて危機を逃れる。しかし、きっと苦難はこれからだったのだろう。小さな船で命からがら1人、日本の浜へ着く(呉三桂が皇女だけを逃したのだろう)。先日、遣唐使船が思いのほか小さいことを見てきたばかりだから、栴檀皇女の乗った小船がどれだけ頼りないものかは想像がつく。ここで和藤内親子に助けられて、栴檀皇女の話は一段落する。
この栴檀皇女に扮しているのが亀鶴さん。はじめ、亀鶴さんに女方はやめてぇと思ったが、意外や意外(なんて言ったら失礼か。でも私は亀鶴さんの女方はあまり好きでないのだ)、素晴らしくよかった!! 国を憂える気持ちと自分の運命に対する悲しみがひしひしと伝わってくる。そのしなやかさは、内面にある強靭さに裏打ちされている。そんな栴檀皇女の人となりは魅力的で、亀鶴さんの女方、イケルと思った。藤十郎さんに付いて女方がぐっと進歩したのかもしれない。とは言いながら、やっぱり私は立役の亀鶴さんのほうが見たいけれど。
錦祥女と渚。楼門の場は眠くてほとんど記憶にない。しかし甘輝館の場での女2人は見ごたえあった。互いに相手を思いやる優しさ、血のつながりは無いのに娘のために、母のために命を捨てられるという思い。東蔵さんの渚には日本人の継母としての愛情、意地、誇りが、藤十郎さんには両親と会えた喜び、血のつながらぬ母が身を挺して自分を守ってくれようとしているという有難さ、申し訳なさがひしひしと感じられ、ともに胸を打った。まさに女あっての「国性爺」である。

女性の物語ではあったが、男性の好演あればこそ、女性が活きるというものでもあろう。翫雀さんの李踏天は堂々と骨太で、私は和事の翫雀さんより好きだ。自分の目を抉り出してビクともしないのには驚いた。ああいう行動は日本人の感覚にはそぐわないが、豪傑であることには違いないだろう。あんまり堂々とした豪傑ぶりに、国を裏切った卑怯者と見るのも一つの見方だろうが、明に見切りをつけて別の天下を求めたとしても不思議はないという見方もしたくなってしまった。
右之助さんの呉三桂も意外と線の太さが感じられてよかった。
線の太さで言えば、梅玉さんもニンではないという先入観が見事に覆された。立役として、こういう役は自分でも楽しいのではないかしら。
團十郎さんの和藤内は若々しく力強く素敵だった。でも鴫と蛤の場はコメディっぽかったし、虎を仕留めるところも虎が可愛すぎて笑いが起きてしまったし、そのあたりはちょっともったいなかったかな。甘輝の家来たちが和藤内の大刀を囲んでやいのやいのするツナギの場面は、あまりいい感じがしなかった。鑑賞教室ではむしろ面白いと思ったのに、今回逆に感じたのはなぜだろうか…。
<上演時間>序幕60分(12001300)、幕間30分、二幕目15分(13301345)、幕間5分、三幕目40分(13501430)、幕間15分、四幕目60分(14451545
写真は、国立劇場前庭の茶の木。urasimaru様のパクりsmile

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コメント

SwingingFujisan様
 今晩は。今日、国立劇場に行ってきました。「国姓爺合戦」は数回見た覚えがあるのですが、あまり面白かったという記憶がなく、今回、パスしようかなと思ったのですが、団十郎の和藤内、次回いつ見られるか分からない気がして、見にゆきました。団十郎、花道の六法等、力感は不足しますが、決まりの見得の立派さはさすが成田屋です。今回の配役で、一番感心したのは東蔵です。せりふがきっかりと明快な一方、この優特有のいやみのない情愛の温かさのある演技で優れていると思います。そのうち、三婆の役もやるようになるかもしれませんね(もうすでにやってましたっけ)。
 亀鶴、浅草で江島をやったときも、よくやっているなあと感心しましたが、今回は若女形がやる役、器用なものです。上方系の血を引く役者は基本的に「兼ねる役者」をめざして修行する風はありますね。かん雀の敵役も同様に器用さを感じました。

投稿: レオン・パパ | 2010年11月23日 (火) 18時49分

レオン・パパ様
こんばんは。コメントありがとうございます。
国性爺合戦は面白そうな題材なんですが、意外とつまらないことが多いのでしょうか。今回の通しは面白かったですね。
私は女性陣に注意がいったもので團十郎さんの魅力をたっぷり味わうまではいきませんでした。でも、團十郎の和藤内を見た、というのは自分の中で一つの歴史になるような気がします。
東蔵さんは見事でしたねえ!! 日本の女の心意気と情愛に感動しました。
亀鶴さんの江島、そういえばよかったですね。藤十郎さんのところで、段々女方が増えてくるのでしょうか。いずれ「かねる役者」として花開く日がくるものと大いに期待しています。
今日は早朝からずっと出かけていたのですが、12時から1時過ぎまでは時間があいていたので、序幕だけでも再見すればよかった、と後になって残念に思いました。

投稿: SwingingFujisan | 2010年11月23日 (火) 22時00分

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