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2011年2月26日 (土)

二月花形歌舞伎千穐楽:「女殺油地獄」

225日 二月花形歌舞伎千穐楽第二部(ル テアトル銀座)
先に「女殺油地獄」から。
初日、私は遠くから自分を眺めている与兵衛がいるように感じたが、今回はそういう与兵衛の存在はほとんど感じられなかった(たまに「やっぱり」と思うことはあり)。今回私の前にいたのは、可愛いのは自分だけ、そういう自分の弱さを自覚していてその自分を持て余してどうにも出口が見つからずもがき苦しんでいる与兵衛であったような気がする(死罪がその出口なのだろうか)。
いい男で、愛敬と華があって、母性愛をくすぐって、でも見えてくるのは小心者の虚勢であり、その行動は刹那的。染五郎さんがそんな与兵衛にぴったり!! 殺しの後の引っ込み、初日は花道が短いことが残念に思われたのに、今回は色々なことが凝縮されていたようで意外にもその短さを感じることなく、むしろ満足感さえあった。
それに対するお吉。お吉には与兵衛に対して色事を仕掛けるような気持ちはさらさらないだろう。それでも本人が意識しないでただよう色気がこれまでのお吉にはあったような気がする。だから私は今までお吉という人がうまく摑めないでいた。でも亀治郎さんのお吉は意識して色気を見せず、自分というものをはっきりもった勝気で強い人間であると思う(初日も何となくそう感じたが、今回はより確信的に感じられた。このお吉、とても好きである)。
それだからこそ、殺されることの不条理さが強く浮き上がってくる。初日呟きに聞こえた「死にたくない」は、今回は悲痛な叫びとして耳に焼きついた。幼い子供を2人残して無残な最期を遂げなければならなかったお吉の無念さが自分のことのように胸に迫ってきて、泣きそうになった。

北の新地・逮夜は昭和45年以来の上演になるようだが、これがあることによって芝居としての高まりが低下するような気もしないではない。しかし、私は見てよかったと思う。あの見事な引っ込みで終わると殺しが昇華されてしまうような気がするが、あの後があることで与兵衛の罪の重さ、河内屋と豊嶋屋の悲劇がより印象づけられた。あれだけ凄惨な殺しをしておいて「すんなり金を貸してくれれば殺されないですんだものを」と自分を正当化する与兵衛(お吉には情にほだされず相手を冷静に眺めて正論を通す強さがある。あるいはこの強さが与兵衛に決意させたのかもしれない)、縛についてなお暴れる与兵衛、母おさわの言うように「いかなる悪業悪縁(で、いいのかな?)が胎内に宿って」生まれてきたのであろうか。
逮捕の場面(「逮夜」ってはじめ「逮捕の夜」という意味かと思っていた。お恥ずかしいcoldsweats02)に登場する家族が両親ではなくて兄・太兵衛と叔父・森右衛門であるのが興味深い。さらに興味深かったのは最後、太兵衛を睨みつける与兵衛の目の暗さ、凄まじさであった。ありきたりではあるが、優秀な兄に対するコンプレックスがあったのであろうか。太兵衛の亀鶴さんの表情も一家の悲劇を象徴するようで哀れを覚えた。

両親役の彦三郎さん、秀太郎さんが自然で、手に負えない息子に困り果てながらも愛情を注ぐ、親というもののあり方がよく伝わってきた。
宗之助さん(妹・おかち)、門之助さん(豊嶋屋七左衛門)にも涙を誘われた。

惜しみない拍手の中、カーテンコールがあった。定式幕が再び開くと染五郎さんが1人舞台の中央に立っている。亀治郎さんはお風呂に入っているとかで出てこない。歌舞伎座がない間、歌舞伎の火が消えることのないよう頑張るとの挨拶であった。5月の明治座、楽しみです。歌舞伎会の先行販売もあるようで嬉しい(座席は自動選択のみ)。

雑記
①油まみれで引っ込んだ染五郎さん、わずかな時間をおいて美しい姿を再び見せる。油が本物でないにしても、すごい早業(早替りに通じる)だと感心した。

②その再登場での客サービス。謎掛けは「好きな人とかけて?」「整いました!! 嫌いな人と解く」。その心は→「どちらもはなしたくない」(うまいっflair)。初日はお題1つだったと思うが千穐楽バージョンだろうか。次のお題は「ル テアトル銀座」「一度犯した過ちと解く」。その心は→「にかいはもうせん(ヤボな解説をすると、「2回はもうせん」「2階は毛氈」)。これで終わりかと思ったらもう1題の大サービス。「千穐楽とかけて?」「人工衛星と解く」。その心は→「どちらも目出度く打ち上げます」
これ、アドリブなのかな。だとしたらねづっち以上かもね。
③豊嶋屋のし~んとした場面で、同じ方向から3度も携帯のブルブル音が聞こえてきた。こっちがどきっとしてしまう。
<上演時間>序幕・二幕目54分(18:30~19:24)、幕間15分、三幕目79分(19:39~20:58)
上演時間は第一部・第二部ともに初日に入れ忘れたようなので。

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コメント

SwingingFujisanさま
そうそう、そうなのよ、それが言いたかったのよぉ、と何度もうなづきながら読ませていただきました。
細やかでステキなご感想、ありがとうございます。

染五郎さんに与兵衛はお似合いだと思っていましたが、想像以上でした。美しいお姿ばかりでなく、弱さも脆さも見せつけた、血の通った与兵衛でしたね。
千穐楽をご覧になれてうらやましいです。
カーテンコールのご挨拶の様子はツイッターでも話題になっていましたが、なぞかけ2回、与兵衛っち、がんばりましたね(笑)。
五月明治座、ほんとに楽しみですね。
あ、その前に私は行かない演舞場と、行くかもしれないこんぴらもありますが。

投稿: スキップ | 2011年3月 6日 (日) 00時39分

スキップ様
コメントありがとうございます。
スキップ様のご感想こそ肌理細やかで、私も何度も頷きながら拝読しました。
染五郎さん、最近とても充実していますね。今月演舞場の「恩讐の彼方に」でも仇に対する揺れる気持ちをとてもよく表現していらっしゃいました。
よへっちはご自身のブログでも2つ整えていらっしゃいますが、これはお芝居の中でも発表されたのかしら。
途中、亀治郎さんとの掛け合いの中での「オレも(テレビに)よく出たなぁ」には、スキップ様との間で話題になった上方でのTV出演やその他を思い出して、吹き出してしまいました。
こんぴらへは私は参りませんので、もしいらしたらご感想よろしくお願いいたしますね(^^)

投稿: SwingingFujisan | 2011年3月 6日 (日) 10時41分

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