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2011年2月18日 (金)

通しで増す面白さ:「彦山権現誓助剱」

214日 「彦山権現誓助剱」(松竹座)
こんな面白い通し狂言をどうしてなかなかやらないのだろう。
いつも見る「毛谷村」では確かにこれまでの事情などがわかるようにはなっているが、コミカルな場面も多く、今回初めて事情の深さがわかった次第。「摂州合邦辻」や「傾城反魂香」なども初めて通しで見たときに同じように思ったけれど、通し狂言というのはやはり一度は通しで見ておくべきだろう(後で番付を見たら、通しは関西で67年ぶり、東京でも昭和42年以降ないという。ただし今回の通しは原作を少し整理して取り上げる場面もこれまでとは変えたそうである)。
仁左様が登場するのは四幕目になってからで、序幕から大詰まで全ての幕に姿を見せるのは愛之助さんの京極内匠である。そういう意味では、また京極の卑劣さがこの物語の縦糸になっているという意味では、主役は愛之助さんと言っていいのかもしれない。
こういう骨太愛之助さんは大好きであるし、憎々しげで華もあるにもかかわらず、あまり悪い人に見えなかったのは、「愛之助さんはいい人である」という役者自身への私の思い込みのせいだろうか。京極という人間は本当に根性が腐っているとしか言いようがないくらいヒドいヤツなんである。三五にはまだ言い訳があろうものを、京極にはまったくそんなものはない。なのに、一味斎の彌十郎さんと並ぶと一瞬一味斎のほうが悪役に見えてしまって、我ながら苦笑。
卑劣な京極は足萎えを装って残忍な行動に出るのだが、業病に苦しんでいたはずの京極がすっくと立ち上がると客席からは思わずどよめきが起こった。あまりの演技に、私も「あれは絶対振りをしているだけに違いない」のか「もしかしたら本当に病んでいるのかもしれない」のか半信半疑であった。「うかうかのってこんなところまで来るとはバカな」との京極の言葉に、なんて卑劣と怒りながらも、まったくだまったくだ…。
欲と利己心のみで人間らしい感情なんか全然ないように思える京極だが、松也クンのお菊(全然、関係ないけど、松也クン、昼はお菊、夜は菊野なのね)を惨殺した後の「死んでも顔のかわいいこと」というセリフに、唯一感情らしきものが窺えて面白かった(本当にお菊を好きだったんだろうな)。
松也クンは「三五」でも感じたが、身体が大きい。夫・衣川弥三郎役の薪車さんと並んでもその大きさがわかる。昼夜とも久しぶりの松也クンの女方を楽しんだが、抜いた衿元から見える項から背中、そして殺されたときに袖口から出る腕が男性のものであるように見えてしまった。ここは工夫の余地があるかも。でも、身体は大きくても可愛くってきれいで、声もよくて、やっぱり松也クンは女方がいいなあとも思うのである。
ところで、立てない歩けない京極を車に乗せて引くのはお菊。歌舞伎ではいつも男が車に乗って女が綱を引くのね。この場合、弥三郎は提灯をもっての先導というのは妥当なところかしら。

ここでナンセンスツッコミ。仇を追う側は相手の居所が知れず苦労するのに、仇である側はなぜお菊の居所がわかったの? 
お園の孝太郎さんがとてもよかった。声の使い方もいいし、長女として母を助け家を守るという気概がよく伝わってくる(私も長女だから、共感を覚えるのだ)。一味斎が殺されたことを悲しむ母娘3人の気持ちに思わず涙がこぼれる。六助と出会ってからのお園は可愛くて好もしかった。
竹三郎さんの母親役は安心して見ていられる。上品で武家の妻たる立ち居振舞いがきれいだし、温かい気持ちが全身に溢れている。
段四郎さんが昼夜とも充実していた。
子役ちゃんがあんまり可愛くて――とくに手を目に当てて泣く仕草がめちゃくちゃ可愛いの――、客席はあたたかい笑いに包まれる。白装束で仇討ちに向かう一行が花道を進むと、客の拍手は子役ちゃんに向けられるのであった。
仁左様初役の六助は仁左様自身が楽しそうに演じている感じがした。あくまで人がよくて、親孝行でそれだけに微塵弾正にだまされたことへの怒り凄まじく、その辺の心の動きがよく伝わってきた。お幸(竹三郎)、お園の訪問に戸惑い、慣れないながらも弥三松をあやす様子も微笑ましい。仁左様のもつ柔らか味がうまくこの六助に溶け込んでいたのではないだろうか。
この芝居も最後、「これぎり」で終わる。

<上演時間>序幕・二幕目75分(11001215)、幕間35分、三幕目35分(12501325)、幕間20分、四幕目・大詰110分(13451535

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コメント

>S.F.さま
合邦は意外に通しが面白くないてか、庵室が良すぎるのでしょうか。これ、全ての場面ハズレなしです。松也丈はええ声やし、孝太郎丈は大暴れしはってもやりすぎはらへんし、愛之助丈は骨太の極悪非道が似合いはるし、上演は大大成功でしたね。(^.^)b

投稿: とみ(風知草) | 2011年2月21日 (月) 20時38分

とみ様
こちらにもありがとうございます。
「合邦」は通しだと事情がよくわかりますし、12月の日生を見たときは面白いと思いましたが、あるいは「庵室」だけでも十分成立するのかもしれませんね。

彦山の通しは本当に面白かった!! 役者さんもみんなぴったりきて、楽しかったですわ~。関西にいたら通っていたところでした。

投稿: SwingingFujisan | 2011年2月21日 (月) 21時13分

ホントに松竹座、行ってよかったです!
昼の部の仁左さま☆かわいかったですね~♪昼の部はちょっとしかお出にならないかな~と三階席にしてしまったのですが、
あんなにかわいい仁左さま、近くで見たかったです!
夜の部はまたすごかったですね!!ゾクッとしました。。。
は~近くで演ってたら通ってしまうのに…
まだ後遺症でへらへらしてます。。。

投稿: 七子 | 2011年2月22日 (火) 19時31分

七子様
お帰りなさい。
私は昼の部のほうを最前列にしたのですが、「あら、仁左様は後半だけのご登場だったのね」と気がついたのはかなり物語が進んでからという始末。でも、愛之助さんや松也クンを近くで見ることができて大満足happy01
東京でも通しでやってくれないかなあ、と期待しますわ~。

怖い仁左様も、愛敬たっぷりの仁左様も魅力たっぷりでしたねlovely

投稿: SwingingFujisan | 2011年2月22日 (火) 21時42分

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