« 演舞場へ第一歩:お悩み篇 | トップページ | 断水プチ騒動 »

2011年3月23日 (水)

演舞場へ第一歩:鑑賞篇

321日 三月大歌舞伎夜の部「浮舟」(新橋演舞場)
夜の部は演目として「浮舟」だけが初見だったので今回はこれだけ観劇(「筆幸」は他の配役はともかく幸四郎さんで見たことがあるし、「吉原雀」は好評だが梅玉・魁春で見たことがあるし、と自分に言い訳)。
源氏でも「宇治十帖」はほとんど知らない。かつて挫折したのだ。その行為の是非はともかく、光源氏という人はとても魅力的だった。それが匂宮と薫大将を中心とした話になったとたん、物語が突然輝きを失った。この2人に光源氏ほどの人間的魅力が感じられなかったからだろう(と言って源氏本編をまともに読んだというわけではないですcoldsweats02)。
というわけでオリジナルは置いておいて、物語も人物像も現代人の私が歌舞伎で見た「浮舟」についてだけの感想になる。
浮舟(菊之助)の登場場面。なんと生き生きと屈託なく初々しい愛らしさだろう。菊ちゃんの一段と高い声が少女の明るさ、邪気の無さを表現する。二条院の庭の風景にほころぶ顔。桔梗の花を愛でたり、虫などを恐れないという言動に東国育ちの純な大らかさが感じられる(虫もとかげも平気だけれど、ヘビだけは苦手なんですって。そう言う浮舟がとてもかわいい)。薫(染五郎)とのカップルは瑞々しく、あたたかく見守りたくなる(でも、やや華奢な貴公子に比べこの姫君は少し体が大きいかなbleah 顔も鬘のせいか、いつもとは少し違う印象だった)。
しかし都はそんな甘いところではない。
好色な匂宮(吉右衛門)が浮舟に目をつけたことで悲劇は始まる。吉右衛門さんはセリフがあやしくて(こんなに日が経っているのに。ちょっと心配になった)、その分なんだか匂宮という人物に集中できていないような気もしないでもなかったが、巧まざるユーモアはさすがだと思った。ただ、浮舟の部屋に忍び込むとき、緊張に震える様はやりすぎというか、少し不自然な気がした。
匂宮を見ていると、男の残酷さがひたひたと伝わってくる。巧まざるユーモアと言ったが、その下に見え隠れする自分勝手な欲望。愛情を寄せているようでありながら、そうではない、自分のものにしたいというだけ。誰よりも早くおもちゃを手に入れたい心境と同じに思えて、匂宮はやっぱり私にとって魅力的な人物ではない。でも、赤ん坊をあやしながら浮気心は神様が男をそういうものに作ったからだ、と言って神様のせいにする調子のよさ、これこそ残酷の極みだと思うんだけど、そのいっぽうで思わず笑ってしまった(まあ、憎めないところもあるわねcoldsweats01)。
自分勝手なのは薫も同じかもしれない。正式に結婚するまでは清らかな関係でいようと言う薫は匂宮の対極にあるようにみえるが、自分の理想、主義のために女の気持を理解することなく、悲劇に追いやってしまう。染五郎さんの清潔感が薫によく合っている。
そういう男2人に言い寄られる浮舟が、実は母親の多情な血を引いていることに自身気づいて、その恐ろしさに苦悩するというのが興味深かった。菊之助さんは、あの無邪気な少女が徐々に女としての寂しさを知り悩み苦しみに苛まれていく過程を、とくに声の変化で表していた。ただ男に翻弄されるだけの女ではなく、自分を主張できる強さ(大君のかわりではいやです、なんて「よくぞ言った」! あ、そういえば、同じ北条秀司の「狐と笛吹き」でもともねが春方の亡くなった妻のかわりとしてではなくともね自身として愛されたいと言っていたっけ)もあっただけに、その行く末は哀れであった。他の男に言い寄られている悩みを薫に打ち明けられなかったのは、かわいそうに自分の血に気づいていた故か。

菊五郎さんの時方は贅沢な配役だなと思った。動きに坊太夫を感じてしまったcoldsweats01
芝雀さんの中の君はおっとりとして心やさしく、やっぱり哀れであった。
私がすご~くいいと思ったのは魁春さん。美しく上品な浮舟の母親とは思えぬ下品さと男好き、そして華やかな世界への欲望が意外にも実にうまく表現されていた。浮舟の悲劇を加速させる存在ではありながら、狐とも狸とも食えぬ女の面白さにニヤリとさせられたりもした。
弁の君の東蔵さん、右近の萬次郎さんに浮舟を思う真情がみられてじ~んとした。
後味はあまりよくなかったけれど、「宇治十帖」読破に挑戦してもいいかな、なんてちょっと思った。あ、読破といってももちろん原文は無理。いや、原文で読むべきなのかな。
<上演時間>「浮舟」第1~第370分(16401750)、幕間10分、第414分(18001814)、幕間5分、第530分(18191849)、幕間25分、「筆幸」74分(19142028)、幕間10分、「吉原雀」15分(20382053
歌舞伎美人に出ている上演時間は「浮舟」と「筆幸」の間の幕間が30分になっているが、25分の間違いでしょう。

|

« 演舞場へ第一歩:お悩み篇 | トップページ | 断水プチ騒動 »

歌舞伎ミーハー観劇記」カテゴリの記事

コメント

SwingingFujisan様はじめまして。
いつも観劇記楽しく拝見させて頂いております!
私は宮城県石巻市に住むオレンジスイートと申します。
まだ歌舞伎ファン歴3年と浅く、基本もよく理解できていませんが、
それでも毎日、遠征のことを考えたりDVDを観たりしていました。
地震で生活は一変しましたが、遠征して観たかった『浮舟』の観劇記をありがとうございます!
SwingingFujisan様の観劇記は、舞台の様子が目に浮かぶようで劇場で楽しんだ気分になりました。
関東も余震が続き、計画停電でご不便な状況が続いているかと思いますが
劇場の灯が消えない限り、どうか観劇を続けて下さい。
私も歌舞伎観劇を再開できる日を楽しみに復興目指します。
初投稿にて長文失礼致しました。

投稿: オレンジスイート | 2011年3月24日 (木) 07時26分

オレンジスイート様
はじめまして。
このたびの地震、遠く離れたこちらでも身がすくむほどの揺れでしたのに、石巻ではどんなにか恐ろしかったことでしょう。そのうえ津波の破壊力、胸がつぶれる思いです。心よりお見舞い申し上げます。
そのような大変な状況の中、コメントをくださって、そのうえこちらを気遣ってくださるお言葉をいただいて、本当にありがとうございます!! 。いまだ情緒不安定で気分が上がっては下がることを繰り返しておりますが、再び勇気が湧いてまいります。
「浮舟」は悲劇ではありますが、平安時代の都の華やかな世界、宇治せの寂しい生活、当時の男女のあり方(現代的な捉え方であったようには思いますが)など、しばし現実を忘れさせてくれました。歌舞伎は格別な存在だとあらためて思いました。
原発のこともあり東日本全体で復興にどれだけ時間がかかるのかと気が遠くなりそうですが、前に歩き出さなくては徒に時間を使うだけですものね。私もしっかり地に足をつけて歩きたいと自分に言い聞かせております。
1日も早くオレンジスイート様が再び歌舞伎をご覧になる日がきますように!! 同じ歌舞伎ファンとしてオレンジスイート様と「今回のお芝居はああだったこうだった」とお喋りできる日が早くきますように!!
まだまだ寒い日が続きます。どうぞ、お体にお気をつけて。
ありがとうございました。

投稿: SwingingFujisan | 2011年3月24日 (木) 09時29分

おはようございます。私は昨日、夜の部を見て来ました!
オレンジスイートさまのコメントには、かえってこちらが励まされました。うまく言えませんが、「劇場の灯」が光っていれば、どこからでも集まってこれる(実際に足を運ぶか否かにかかわらず)、その意を強くしました。実際に劇場でご覧になれる日が一日も早く来ますように!!

さて、そんな私は・・・昨日の夜の部、かぶりつきのど真ん中で見てきました。震災後の初観劇。劇場という異空間そのものに身をゆだねられる、今この時の幸せ。13日はパスしましたが、実際、あの時だったらこんな気持ちでは決して見られなかったと思います。まだ、とてもそんな気になれない方も多いでしょうが、いつか必ずその日が来ると信じています。
浮舟で帰ってもいいし、くらいの気楽な気持ちで行きましたが、結局、最後まで見てました。初日近くに3階から見たのとはまた違った面白さが!
そうそう菊ちゃんの声の変化と、「多情な」母・魁春さんの笑い方(2回、それぞれ違う。真似できない)も、とても印象に残りました。台詞回しだけじゃなく、声が表すものも大きいですね。

投稿: きびだんご | 2011年3月24日 (木) 10時38分

きびだんご様
先日のコメントではご心配いただき、ありがとうございました。
「劇場の灯」は安心感のようなものを与えてくれます。観劇仲間が地震後次々と演舞場へ足を運ばれるのはとても嬉しいことだと、しみじみ思います。と同時に、オレンジスイート様のような歌舞伎ファンの方も歌舞伎を楽しめる世の中に早くなってほしいと願わずにいられません。

最後までご覧になったのはよかったですね。私は途中で帰ってしまって残念な思いが残っています。幸兵衛以外の配役が変わればまた印象もちがってくるでしょうしね。以前の幸四郎さんの舞台では、警官の友右衛門さんと三五郎の歌六さんが印象に残っています。警官は今回も友右衛門さんなんですね。

声というのはその役をかなり強く決定づけるものだと思いました。最近、それをよく感じます。
多情な魁春さん、意外な魅力でしたわsmile
これ、かぶりつきでなくても1階の前のほうで見たかったです!! おっしゃるとおり、きっとまた違う面白さを発見したに違いありません。

投稿: SwingingFujisan | 2011年3月24日 (木) 11時21分

また地震で電車が止まったらどうしようかと前日まで行くのを迷ったカンゲキでした。でも、やはりこんな時だからこそ菊ちゃんが見た〜い!どんな状況下でも己の道を真っすぐに進む人達は本当にステキで、行って良かったheart02

形は違うけれど、身勝手な男2人に振り回された浮舟が可哀想で、最後に死へ赴く場面では切ない気持ちでいっぱいになりました。もーーsign03男は結局、身勝手なのよねpout
綺麗に見せる為に女形の方が筋肉がつきやすいというけれど、去年お正月「金鯱」でのふんどし姿だと菊ちゃんてば筋肉隆々でしたもんね〜!happy02染五郎さんが痩せすぎだと思うのですが、体型的には亀ちゃんとの方がバランスは良いですね。
どんなにガラガラかと心配したのですが、昨日はちゃんと入ってましたよ。歌舞伎ファンの愛は不滅です!ねconfident

投稿: 林檎 | 2011年3月25日 (金) 20時42分

林檎様
コメントありがとうございます。
電車は確かにいつ止まるかと怖いですよね。とくに一度経験されていらっしゃるとその怖さが大きくなると思います。私も電車で出かける時はずいぶん緊張して、ここからなら歩いてもなんとかなりそうというところまで来るとほっとします。
でも、ご覧になれてよかったわ!!
浮舟は自分というものをしっかり認識していたんですね。死を決意した表情にも強いものがあり、哀れであると同時に共感を覚えました。匂宮だけでなく薫も残酷なのかもしれませんねえ。

ええ、ええ、「金鯱」の菊ちゃん、いい身体していましたね。歌舞伎役者さんって、意外と裸になる場面があって、みなさんきれいな身体をしていらっしゃると思います。きれいな姿勢を取ると自然に身体もきれいになるんでしょうね(見習わなくっちゃ)。

日がたつにつれ、皆さんの気持ちも落ち着いてきつつあるのでしょうね。演舞場の入りがよかったのは嬉しいことです。あと1週間で4月の初日ですしね。

投稿: SwingingFujisan | 2011年3月25日 (金) 22時03分

SwingingFujisan様
 今晩は。コメントを拝見し、Fujisanさんのブログは全国の人が楽しみにご覧になっているということを、つい、うっかり忘れていました。震災の後、なかなか落ち着いた気分になれず、何かと疲れますね。被災地の方々も、これからこそ、健康面でご留意されてほしいですね。
 本日、演舞場の昼の部、観てきました。今日が楽日でしたか。行くまで、やや、消極的でしたが、行けばやはり楽しいですね。ただ、花粉症の薬が効いて、眠気に誘われて困りました。今回の一押しは、菊之助の「恩讐の彼方に」の女主人公です。悪女というより、歌舞伎の悪婆風で、ユーモアもあり実に楽しい出来栄え。今後、悪婆の役がらにどんどん挑んでほしいものです。「五郎蔵」の逢州も綺麗でしたし、福助よりも、傾城として立派なくらいでしたね。

投稿: レオン・パパ | 2011年3月26日 (土) 19時04分

レオン・パパ様
こんばんは。コメントありがとうございます。
今日千穐楽にご覧でしたか。やはり皆さんお出かけになるまでは複雑な気持ちでいらっしゃるのでしょうね。でも、お芝居の力は一時的にせよそういう気持ちを軽くしてくれますね。
「恩讐の彼方に」はお芝居全体によかったですし、菊之助さんの新境地ですね。私も色々な悪婆を見てみたいです。美貌に演技力、ますます楽しみです。

レオン・パパ様も花粉症でしたか。私も薬を処方してもらっていますが、自宅にいるときは少し節約しておりますのでクシャミ連発、目をごしごしと掻きまくり、さんざんな状態です。花粉症の薬はどうしても眠くなるのが難ですね (^-^;

余震に原発、常に緊張感が身にはりついて本当に疲れます(最近、そのせいか夜早く眠くなります)。こちらにいてさえそうなのですから、被災地の方々は心身ともにどんなにかお疲れのことでしょう。少しでも安らげる日が早くきますようにと祈るばかりです。

投稿: SwingingFujisan | 2011年3月26日 (土) 22時24分

 はじめまして。今晩は。私も宮城県仙台市在住です。観劇感想ありがとうございます本当は、今日、演舞場の昼夜、明日、国立劇場で観劇の予定でした。無事だっただけでありがたいですし、余震もまだまだありますが、少し落ち着いてみるとやはり今月の歌舞伎見たかったなという思いが。NHKの歌舞伎の舞台中継も減りそうだし、歌舞伎チャンネルは終了するし・・・歌舞伎チャンネルが続いていればテレビででも見るチャンスがあったのにと、歌舞伎チャンネルの終了が今更ながら残念です。

投稿: 太白 | 2011年3月26日 (土) 22時50分

太白様
こんばんは。はじめまして。お名前から仙台の方かしらと思いましたらやはり。このたびの災害、心よりお見舞い申し上げます。そしてまだまだ不安な状況の中、コメントをくださって本当にありがとうございます。
ご無事でよかった!!

歌舞伎チャンネルがなくなるのはまったく残念ですね。おまけにNHKも舞台中継をやめるなんて、ひどいですよね。私はスカパーを解約してしまいましたが、衛星劇場が引き継ぎますので、しばらく様子を見て、場合によったら再び加入しようかなと思っております。

お楽しみになさっていた歌舞伎がご覧になれなくて本当に残念でお気の毒でした。太白様が再び演舞場や国立へ足を向けられる日が早くきますように。演舞場は空席が目立ちましたし、4月もだいぶ空席が出そうですが、被災された歌舞伎ファンの方々が再び笑顔で観劇される日を目指して、私たちこちらにいる者が歌舞伎を支えていこうとあらためて思いました。
どうぞ、お体をお大切に。

投稿: SwingingFujisan | 2011年3月27日 (日) 00時15分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/1083822/39340113

この記事へのトラックバック一覧です: 演舞場へ第一歩:鑑賞篇:

« 演舞場へ第一歩:お悩み篇 | トップページ | 断水プチ騒動 »