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2011年3月 6日 (日)

素敵な悪党:「絵本合法衢」

35日 「絵本合法衢」初日(国立劇場大劇場)
面白かった、楽しかった。ちょっと正月の復活狂言を見るようなわくわく感もあり、退屈するところなどまったくなかった。
これでもかこれでもか、というほどの殺戮――いったい何人殺されたのか、数えていたけれど途中でわからなくなった――、私は南北の暗いドロドロに辟易することが多いのだが、今回は不思議と厭な感じがなく(1カ所を除いて)後味も悪くなかったのは、南北にしては陰湿さがなく、劇画チックだったからだろうか(先日見た「芸に生きる」で亀鶴さんが「歌舞伎は漫画だ」と言っていたのに引きずられたかな)。
あるいはまた大悪人・左枝大学之助と悪党・立場の太平次の2役を演じた仁左様の魅力ゆえかもしれない。大時代的悪人・大学之助の笠をかぶっての登場シーンは「え? これほんとに仁左様なのぉ?」と首をかしげたほど凄みのきいた声(はじめちょっと掠れていた?)。良心のかけらもない、卑怯で冷酷でワルいヤツなのに、笠を上げて不敵でニヒルな笑みを漏らす顔が意外とかわいくて、悪人ぶりにも大らかさを感じる。時代物の大学之助に対する世話物の太平次も良心のかけらなどまったくなく冷酷。しかしちょっといがみの権太を思わせる感じで、華も愛敬もあって、とにかくカッコいいのだ。悪党ながら素敵に惹かれた(この芝居では「素敵に」って言葉は使われていなかった)。
もう一つには、殺されても殺されてもめげない善人グループのエネルギーが殺戮の残酷さを超えた、ということがあるのかもしれない。11人は善良なあまり弱くても、善人派全体として最後まで悪に向かっていく強さである。

初日なのであまりネタバレしないように気をつけながら…。
序幕第一場は凄惨な殺しから始まり、この第一の殺人がこの物語の展開を象徴しているようである。第二場は大学之助が鷹狩りをする鷹野の場面。大学之助の家来(男女蔵)が百姓たちに「お前たちが草を刈るから小鳥が一羽もいない」と怒るところでは、いつだったかの「ブラタモリ」を思い出した。

時様のうんざりお松は第二幕で登場。この悪婆が太平次と組んで道具屋を強請るところではつい先月の土手のお六を思い出した。時様はきれいで色っぽく、伝法なのもすてき。ワルい女であっても、もっと悪い太平次に惚れた女の可愛さが哀れを感じさせた。第三場では早替り!で武家の妻に。
ここではだんまりになるが、だんまりでよく見られる「物」のやりとり(大事な物が次々登場人物の手に渡って、互いの持ち物が入れ替わる)はありそうでなかった。

太平次の妻の吉弥さんが地道で好き。三幕目第三場では回り舞台が下手へ回るその終わりのほうで吉弥さんの海老反りがあるから見逃さないで。
愛之助さんの与兵衛は無理のない自然体で、それはこの役が愛之助さんのニンだからなんだろう。与兵衛の妻・お亀(発音すると「おかめ」っていうのはちょっと笑える)の孝太郎さんは勝気で可愛い、こういう役が合う。
梅枝クンは登場しただけではっと息を呑むほどの清楚さ、儚げ、野の花のような美しさである。

段四郎さんがセリフがちょっとあやしかったけれど充実した存在感があった。初日だから全体にセリフがあやしいところが間々みられ、またもたつきもあるにはあったが、それでもけっこういいテンポだったんじゃないかしら。

大詰最後は左團次・時蔵・仁左衛門の立ち回りとなり――左團次さんと時様の立ち回りって珍しいような…、ここも殺しで終わる(この立ち回りの間に男女蔵さんが左團次さんに殺される)。まさに殺しで始まり殺しで終わるのである。
その後、3人居住まいを正し、仁左様の「東西、まず今日はこれ切り」となる。

今日は前方花道ブロック、次回は2階後方上手から見るのだけど、花道度がかなり高いこの芝居、1階後方花道そばを取るべきであったわ。今さら遅いbearing

<上演時間>序幕50分(12301320)、幕間30分、二幕目60分(13501450)、幕間15分、三幕目45分(15051550)、幕間20分、大詰35分(16101645



 

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歌舞伎ミーハー観劇記」カテゴリの記事

コメント

こんにちは。

昨日は濃密で楽しい時間をご一緒できたのですね(^-^)

悪い仁左様は本当に素敵でした。家に帰ってからもなんだか夢見心地でした(^_^;

で、昨日一番印象に残ったのは吉弥さんの死に姿。回っていく舞台で、つまり上手の方の方々からはもう見えない舞台の上で、あの美しい海老ぞりのまま保っている姿には本当に魅せられました。私は3階下手よりだったので、最後までじ~っと見つめてしまいました。演舞場昼の部、座敷での決めのポーズのあと場面転換で回っていく舞台をさっさと降りる(上手側からは丸見えです)皐月を見たあとだったので、よけいにそう感じたのだと思います。

今月は国立へ通いつめる(笑)予定のからつぎでした。

投稿: からつぎ | 2011年3月 6日 (日) 14時51分

からつぎ様
楽しかったですね!! 殺し殺されの連続なのに楽しかったぁhappy01
からつぎ様も同じ空間のどこかで同じ素敵な時を楽しんでいらっしゃるのだろうなあと思っておりました。

吉弥さんの海老反り、私も最後まで目が離せませんでした。情感が籠もっていて、吉弥さん自身がお道をとても大切に思っている感じを受けました。
からつぎ様のご指摘で、私も皐月がさっさと降りるのを見たことを思い出しました(私も上手におりました)。「あらっ?!」とびっくりもしたし、ちょっと気もそがれたのですが、そんなものなのかなあと思ったりもして…coldsweats02

私は国立は今のところ3回(初日を含めて)を予定しています(^^)

投稿: SwingingFujisan | 2011年3月 6日 (日) 20時32分

はじめまして、いつも楽しく読ませていただいています。ありがとうございます。
去年12月の俊徳丸を見てから、梅枝さんが、大好きになりました。今月は9日に会いに行きます。でも、4月の前売りがもうすぐなのに、梅枝さんのお名前が見当たらなくて・・・。4月は新橋演舞場へ行きたいと思っています。梅枝さんも出演してくれればいいなぁ・・って願っています。今週は今からドキドキしています。

投稿: たまの梅が枝餅 | 2011年3月 7日 (月) 10時07分

たまの梅が枝餅様
はじめまして。
いつもお読みくださり、またこのたびはコメントをお寄せくださってありがとうございます!!

梅枝さんの俊徳丸は秀逸でしたね。梅枝さんのファンになられたとのこと、萬屋贔屓としては大変嬉しく存じます(^^)
梅枝さんの4月の予定は私もまだわからず、ちょっとやきもきしております。何かお役があるとは思うのですが…。
梅枝さんのお米(国立劇場でのお役です)にお会いになれるのももうじきですね。上で触れました美しさだけでなく、お米の心持ちもよく現れていますのでお楽しみになさってくださいね。ご覧になったご感想などお聞かせいただけたら嬉しいです。

投稿: SwingingFujisan | 2011年3月 7日 (月) 11時33分

わたくしも初日におりました〜!いやいや、仁佐様ってば本当に「素敵な」悪党でしたねheart04
吉弥さんの海老反りは回転していく暗闇の中でも美しくて、思わず拍手がおきましたよね!その中にここにいる皆様もいたんですね〜notes
時さまのうんざりお松は出の瞬間でハッとするほど綺麗で大きくて、それでいてなんともしっとりと色っぽくて息をのみました。仁佐様との息も合っていたし、この組合せをこれからもどんどん見たいなぁlovely
梅枝くんは見る度に綺麗になるし、凛とした品の良さは菊ちゃんにも通じる天性のものですね。これからが本当に楽しみですhappy02

投稿: 林檎 | 2011年3月 7日 (月) 20時33分

林檎様
2月千穐楽に続き、国立初日もご一緒だったのですね!!
笑顔で人を騙しておいて平気で殺す太平次は本当なら恐ろしい男なのに、なんとも魅力的でしたね~。
蒲鉾小屋の垂れが上がって姿を現したときのお松も印象的でしたねぇ。仁左・時の組み合わせは「盟三五大切」でもお似合いでしたし、美男美女のカップルは目にも楽しくて見甲斐がありますわ。
吉弥さんも美しくて、ひっそりと命の火が消えていく様子が哀れでした。
梅枝クンは古風な清楚さ、儚げなところが好きです。皆様に応援していただくと嬉しいですわ(^^)

投稿: SwingingFujisan | 2011年3月 7日 (月) 22時24分

SwingingFujisan様
 お早うございます。昨日は、国立劇場見てきました。芝居のコクがないことや、南北らしいおどろおどろしさが少ない点はありますが、とても、面白く、仁左衛門の芝居を堪能しました。段四郎の出番が少なく、両優のからみが少なかったのが残念です。時蔵もいつもの菊五郎の相手役ではない面(この優はとかく芸風がさらさらしています)が引き出されていたように思います。
 Fujisanさんご贔屓の梅枝、着実に腕を上げています。それこそ、「御所五郎蔵」の時鳥あたり良いと思います。また殺される前にポンと飛び跳ねた身体能力の機敏さはには、びっくりしました。真女形として、しっかり修行してほしいものです。菊五郎、仁左衛門クラスと絡みのある芝居をさせてもらえるのは、非常に幸せな経験になると思います。

 ところで、きびだんごさんのHPで、魁春の目の化粧について、皆さんご興味がある様子ですが、あの化粧法は、亡き歌右衛門の化粧法を受け継いだものと記憶します。梅幸、芝かん、雀右衛門等の同時代の名女形とははっきり区別される、瞼に紅のぼかしをいれる化粧法でした。私自身は、歌右衛門の老いがより強調されるようで、好きではありませんでしたが・・・。
 

投稿: レオン・パパ | 2011年3月 9日 (水) 09時49分

レオン・パパ様
おはようございます。
昨日に引き続きコメントありがとうございます。

おっしゃるとおり、南北らしいおどろおどろしさに欠けますが、私はそこが気に入りました(だいぶ慣れてはきたもののいかにも南北的なのはちょっと苦手)。
段四郎さん、あんなに早く殺されてしまうとは思いませんでした。世話物の部分でも2人の絡みを見たかったです。
時蔵さんは確かに芸風がさらさらしていて、この芝居がもっとドロドロしていたら物足りなさを覚えたかもしれませんが、役として合っていたように思いました(初めて見る演目なのでよくわかりませんが…)。色っぽさが菊五郎さん相手と仁左様相手とではやや違うような気もしましたsmile
梅枝クンは舞台ごとに成長がみられますね。ぽんと飛び跳ねたこと、見ていたのでしょうが記憶が薄い…次回、しっかり見てきますcoldsweats02 こうして大きな役者さんと共演できるのは力を認められていることの証明でしょうが、驕ることなく今後も精進してほしいですね。

魁春さんの紅は、歌右衛門さんの継承だったのですか!! そう言われてみると、記憶の中にある歌右衛門さんの紅は他の女方さんとは違っていたような気がしてきました。そして魁春さんの紅に対する疑問も解けました。教えてくださってありがとうございます!!

投稿: SwingingFujisan | 2011年3月 9日 (水) 10時24分

私は今日、見てきました!(吉弥さん、よかったですねー)
で、コメントをずーっと読んでいって、右側のハクションにつられてクシャミしそうになりましたがcoldsweats01、私の名前を見つけてびっくりしてクシャミが止まりました。えっ、しゃっくりじゃない?

魁春さんの目の化粧は、歌右衛門を受け継いだものだったのですね。レオン・パパさま、ありがとうございます。私は晩年の歌右衛門丈を歌舞伎座で見ているとは思うのですが、もはやそのあたりモワモワしています。
で、今月の魁春さんは、昼より夜の部の方が、それが目立ってたような気がするんですが、こちらの意識の問題かしら。

投稿: きびだんご | 2011年3月 9日 (水) 23時06分

きびだんご様
クシャミ危うく誘発御免coldsweats01
この季節になるとこのテンプレを使いたくなるんですよsmile 
ビックリしたきびだんご様を想像してちょっとsmile(私もたまにそういうことがあるので)

歌右衛門さんは私も昔舞台を見ているし、テレビでも見ているのですが、そういうところまで意識しませんでした。言われてみるとそうだったかも、程度の記憶ですけれど、そうであれば魁春さんのあの紅もなるほど、と頷けます。夜の部はまだ見ていませんが、昼の部は私もあまり気にならなかったので昼夜で変えているのかもしれませんね~。

いい役者さんのいい演技を見ると、気持ちが充実しますね。来週又見に行くのが楽しみ(^^)

投稿: SwingingFujisan | 2011年3月10日 (木) 00時47分

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