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2011年6月26日 (日)

わかりやすく面白い「五百羅漢」展

625日 五百羅漢展(江戸東京博物館)
いや~、じつに面白かった。企画者の熱意がじかに伝わる美術展はこんなにも面白いものになるのかと感じ入った。
1863年に増上寺に納められ、戦災も免れたこれらの羅漢図は戦後は増上寺の方々も専門家もほとんど誰もその全貌を見たことがないという。それが一挙公開という貴重な展覧会である。もう会期も押し迫っているし、ずいぶん迷ったが、今後そんな機会はもうないかもしれないという思いが背中を押した。行ってよかった。
羅漢とは仏の悟りを会得した人のことだそうで、五百羅漢図は幕末の絵師・狩野一信が10年という歳月をかけて(たった10年で!!と言ったほうがいいかも)完成させたもの。いや、その言い方は正しくはないが、それは後ほど。
絵は2幅(縦長の絵1枚を1幅という)で一対になっている。1幅には羅漢さんが46人、2幅で10人になるように描かれている。羅漢さんは頭がまあるい光輪で囲まれているのでわかる。
この展覧会の企画者の1人である明治学院大学山下裕二教授が案内する「ぶらぶら美術・博物館」で半分予習していった(途中で録画を見ている時間がなくなった。残りの半分は帰宅してから復習)おかげもあるかもしれないけれど、それがなくても解説がユニークで身近な表現で書かれていてわかりやすい(この解説には賛否両論あろうが、私には大変面白かった。第一、展覧会の解説って頭に入ってこないことも多いのだ、私の場合)。
たとえば、第15幅の『論議』の解説は、「羅漢たちのいくぶん気楽なフリー・ディスカッションである」。議論を仕掛ける羅漢に対し、1人の羅漢が「身を乗り出し、眼を剥いて応戦している。さながら『朝まで生テレビである』」といった具合(この解説、気に入っているので一部引用させていただきました)。
絵そのものもわかりやすく、そしてスゴいです。迫力もさることながら、500人の別キャラを描き分けるっていうのもスゴい(漫画家は10キャラ作るのも大変なんだって、「ぶら美」で言っていた)。悟りを会得した人って穏やかな表情をしていると思ったら大間違い。この羅漢さんたち、顔からしてスゴいcoldsweats01

110:羅漢さんの力とか修行とかから入ってくるのかと思ったら、最初は日常生活である。談笑したり、子供たちに勉強を教えたり、入浴したり。入浴の図では、ヒゲを剃ったり爪を切ったりしている羅漢さんたちが普通の人と同じことをしているんだというほのぼのした気持ちになる。
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20:羅漢さんたちの仕事。戒律を授けたり、上に挙げた論議をしたり、仏門に入る少年たちの剃髪をしたり、外道=異教徒を入信させたり(どの宗教も力づくで入信させるんだなぁ)。
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40:羅漢さんたちが六道を巡って人々を救おうとする。恐ろしい地獄に墜ちた人々に救いの手を差し伸べる羅漢さんたちの活躍が力強く生き生きと描かれている。ここの部分が一信、最もアドレナリンを漲らせて筆を走らせているそうだ。全部の絵を見比べると、確かにそのとおりだ。
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50:羅漢さんの修行風景。この10幅には西洋絵画の影響がみられる。透視遠近法や陰影法が用いられている。しかし第45幅で用いた陰影はなんともおかしなもので、中途半端な試みになっている。その後陰影は48幅まで使われない。4950幅で再び陰影法を試みているが、それはとても幻想的に見える。また、羅漢さんの観想している内容がマンガの吹き出しのようにして描かれているのも珍しい。
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60:「神通」という外題どおり、羅漢さんの超能力が描かれている。ビームを出して悪鬼をやっつけたり、頭から水を出したり、自分の顔の皮を剥がしてみせるとそれは不動明王であったり観音様であったり、一信さんよくまあ、こんなパワフルな超能力を考え出したものだ。
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70:外題は「禽獣」。羅漢さんたちのペットと言えようか。昔の金魚鉢みたいな丸いガラスの器に入れられた龍の子に餌をやっている羅漢さんの従者。空想の動物の耳掃除をしている羅漢さん。白い霊獣は6本も角をもって目玉もたくさんある。羅漢さんのペットはみ~んなユニークだ。
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74:羅漢さんたちが竜宮城へ出かける(そういう発想もユニークで思わず笑ってしまった)。虎や龍、蓮の花弁(私ならこれに乗りたい)に乗って出かけるんだけど、虎はいやいや海に入っている感じがする。
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76:「洗仏等」という外題がつけられており、75幅は釈迦の誕生、76幅は仏舎利を洗う羅漢たちが描かれている。
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78:いわば羅漢さんのDIY。外題は「堂伽藍」。寺院建立のため羅漢さんたちが自ら設計図を引き、大工仕事をしているなかなか興味深い図である。
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90幅:「七難」という外題。中でも8182幅の「震」は一信自身も経験した安政の大地震を描いていて、身につまされる。
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100:須弥山を中心とした東西南北の島(=洲。ここの外題は「四洲」)の様子が描かれている。

さて、ここで先に述べた一信が10年かけて「完成」させたものという問題について。
実は一信は途中から体力衰え、絵にもそれが明瞭に表れる。61幅あたりから背景が簡略になってきており、「七難」は構図も凡庸、羅漢さんたちにも迫力がない。最後の10幅に至ってはほとんど面白みもない。前半の絵と比べると、素人にもはっきりわかる差である。それは、一信の体力がなくなるに伴い、弟子たちが制作にかかわってきたからだそうなのである。弟子の関与する部分が大きくなればなるほど、絵のよさが感じられなくなる。971004幅(一説には91幅からの10幅)は一信の死後、妻と弟子たちが補作したのだろうとされている。10年間これだけの絵に集中した一信は18639月、48歳で他界する。最初から順番に見て歩くと、一信という絵師のその10年間にも触れられるような気がした。

この展覧会には東京国立博物館所蔵の「五百羅漢図」50幅(増上寺の縮小版。比較するとやはり増上寺本が優れていると思う。国立博物館の所蔵本は一信の死後、弟子たちが制作したものらしいと知り、なるほどと納得)の一部、増上寺以外の寺院所蔵の「五百羅漢図下絵」も展示されている。ほかに一信の妻の実家・逸見家(一信は逸見家に婿入り)所蔵の自筆日記(安政の大地震の記述がある)やスケッチ集、羅漢のデッサンなど貴重な資料もある。
ところで、一信はなんと、「五百羅漢図」と並行して成田山新勝寺不動堂壁画も描いているのである。明治33年に壁面からはずされて軸装されたが、最近30年間はまったく公開されることがなかったそうで、寺外での公開は今回が初めてとのこと。デカい!! 金泥が施された水墨画で、いい絵である。

「五百羅漢」展は展示方法もよく考えられていて、ゆっくり見ても1時間程度で回れたし、絵も宗教もよくわからない私などでもたっぷり楽しめた。
そして最後のグッズコーナーで又笑ってしまった。羅漢新聞だの今週の羅漢人気投票(流行の「総選挙」)だの。総選挙は6種類くらいの缶バッジの売れ行きでどの絵に人気があるかを競うもの。私も買おうかなと思ったけれど、600円の缶バッジを買っても結局記念品、やめた。「極楽」と「地獄」というお線香のネーミングも面白い。「極楽」はいいけど「地獄」なんて買う人いるのかな。はい、いました、私です。友人へのお土産に買っちゃった(「地獄」でもきっと笑ってくれると思う。もちろん「極楽」もセットでプレゼント)。
本来315日からの開催だったが直前に東日本大震災が起こり、会期は429日から73日に変更になった。あと1週間あるので、興味のある方は是非。
それに江戸博はやっぱりいいねえ。

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