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2011年7月12日 (火)

7月歌舞伎鑑賞教室②:「渡海屋・大物浦」

711日 歌舞伎鑑賞教室「義経千本桜:渡海屋、大物浦」

素直な知盛を見たと思った。そして素直な知盛を見ると、最後には源氏への恨みとか滅びの美学とか、そういうものが削ぎ落とされ、原点の知盛といおうか、ただ安徳天皇への思いだけが浮き彫りにされるような気がした。
だから、安徳天皇が「我を供奉なし永々の介抱はそちが情け、間また我を助けしは義経が情け、仇に思うな」と知盛を諭した時に、もうこれで自分は安心して死ねると思ったのではないか。源氏に対する恨みを捨て、義経に天皇を託し、自分は清盛の悪行の報いで滅びた一門の霊を鎮めるために、あの壮絶な最期を遂げたのではないか。苦しみに耐えながら一歩一歩岩を登る知盛の姿は、そういう解き放たれたようなものを含んでいるのではないだろうか。
松緑さんは前半の銀平(とくにセリフ)があまりいいと思わなかったのだが、知盛にはそういう一本通ったものがあるようで、松緑さんの知盛として心に触れるものがあった。それに、血染めの衣裳と顔、「天皇はいずくにおわす。お乳の人、典侍の局」と探し回る姿は蘭平を思い出さずにはいられない。どちらもリアルな感じがあり、様式的な中にも現代性が感じられるような気がした。立ち回りがさすがにとてもきれい。
安徳天皇は大河クンと石井晏璃ちゃんのダブルキャスト。私が見たのは大河クンだった。5歳の大河クンの初舞台もそう遠くはないだろうな。
魁春さんがよかった。銀平女房もよかったし、とくに典侍の局に天皇にお仕えする女官としてのプライドと存在感があった。知盛と義経が対峙する場面ではとても悲しげに見えた。
渡海屋裏手の浜辺で平家の女官たちが次々と海に飛び込む場面は何度見ても、当時の様子が目に浮かび、悲しくなる。
義経の松也クンは大将としての品も風格も温かさもあったと思う。だけど、義経でさえ九州へ落ち延びようという身の上、天皇をお預かりしてお守りできるのだろうか。「義経千本桜」で天皇はその後どうなったのか…っていうのはナンセンスツッコミか。
亀三郎・亀寿兄弟が相模五郎と入江丹蔵で出演しているのが嬉しい。今回はプログラムに「魚尽くし」のセリフが出ているのも、若い観客にとっては興味深いのではないだろうか。渡海屋でのユーモラスな2人が後半では壮絶な死を遂げる…2人のメリハリが効いていた。
團蔵さんの弁慶はなんとなくピンとこなかったのに、最後、花道で法螺貝を3度吹き(自分で吹いているみたいに聞こえた)、一礼したときには、本当に知盛に敬意を表し、その霊を慰めているような心が感じられて、さらには今後の義経一行の行く末を思う気持ちまで表れていて、ここでどっと涙が出た。いい弁慶、いい最後であった。
幕間に再び騒ぎ始めてなかなかおさまらなかった高校生たちも、芝居が始まると舞台に引き込まれている様子で、2時間近いこの大作にはやはり魅力があるのだなあと思った。
それにしても、3階席(主に一般観客)はよく入っていた。歌舞伎鑑賞教室でこんなに座席が埋まることはなかなかないかも。
<上演時間>歌舞伎のみかた25分(15001525)、幕間20分、「義経千本桜」115分(15451740

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コメント

SwingingFujisan様
 ギラギラする暑さの中、今日、国立見てきました。高校生が真面目に見ていました。
 松緑は、確かにセリフ回しが世話物風で素に近くなる時があって違和感はあります。とはいうもの、手負いになってからは悲壮美にあふれ力演だったと思います。と、ここまで書いてきて、海老蔵の同役も同様でしたね。今の若手俳優は義太夫の発声、息継ぎをしっかり勉強すべきなのでしょう。Fujisanさんも書かれているように、魁春が立派ですね。本興行では、先年の海老蔵所演についで2演目とのことですが、とてもそのようには見えず、円熟味も伺え、大歌舞伎の風格でした。
 劇場をでたら、蝉の鳴き声がきこえました。

投稿: レオン・パパ | 2011年7月16日 (土) 16時28分

レオン・パパ様
こんばんは。今日も暑かったですねえsun 私は半蔵門を通って渋谷に行っておりました。
義太夫のセリフというのは難しいものなんですねえ。若手も意識して勉強してほしいですね。
魁春さんがこういう役でいいものを見せてくれるのはとても嬉しいです。2回目でこれだけ見事なのは、きっと合っているんでしょうね。
いいお芝居は歌舞伎にあまり縁のない高校生の心にも訴えるものがあるんだろうなと嬉しく思いました。

蝉そのものは苦手なんですが(虫は大体ダメです)、鳴き声を聞くと子供の頃が甦ってきて嫌いではありません(^^)

投稿: SwingingFujisan | 2011年7月17日 (日) 00時01分

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