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2011年9月23日 (金)

笑ってほろり「幸助餅」:松竹座夜の部③

919日 九月大歌舞伎夜の部(松竹座)
 
「幸助餅」
松竹新喜劇の演目を翫雀さんが平成171月、歌舞伎として上演したものの再演だそうである。上方人情喜劇で、文句なく面白かった。
「華果西遊記」が適材適所ならこちらも負けず劣らず適材適所。それもちょっと意外な配役だったのに見事にはまっていて、泣かされた。
意外な配役その1。右近さんの関取・雷(いかずち)役は私はちょっと意外な気がしたけれど、意外でないと言えば意外でないかも。右近さんは体を大きく見せるためにとくに上半身の拵えが大変だっただろう。声もどちらかと言えば高いほうだと思うが、関取らしく低くくぐもらせるような感じを出しながらはっきり聞き取れるセリフであった。これまで自分を贔屓にしてくれた旦那・大黒屋幸助がそのために身代を失ってしまい、妹お袖(壱太郎)が身を売って作ったなけなしの30両、これからの商売・生活資金に充てるはずだった金をついつい再会の嬉しさ、それも江戸で雷が大関に昇進した嬉しさにご祝儀としてぽんと気前よく渡してしまった(この時の私、「あちゃ~。なんて情けない」と思わずため息。おそらく客席のほとんどがそんな気持ちだったんじゃない?)。幸助とその女房・おきみや叔父との会話を物陰から聞いてそんな事情を知った雷。目が覚めた幸助からその金を返してほしいと頼まれた雷はどうしたか。
きっぱりと断ったのである。幸助にしてみれば掌返しの仕打ちである。この雷の毅然とした態度は幸助一家を怒らせるが、観客には雷の思いが手に取るようにわかる。と言って、右近さんは幸助を冷たく突き放しながら自分の本心は別のところにあるんですよという演技はしていないのだ。あくまで冷淡である。それでも雷の本心と先は読める。ではそれで感動が薄れるかというと全然そんなことはない。客に媚びて、自分はじつはこう考えているから断ったんですよという態度があったら、逆に後の感動はこんなに大きくなかったかもしれない。力みなく自然体の雷であった。
意外な配役その2(こっちが本命)。幸助女房・おきみの猿弥さん。これまで猿弥さんの女形というと、ほっぺを赤く塗ったお鹿みたいな役というイメージがあるけれど、これは違う。幸助と強い愛情でむすばれている真面目でしっかり者で控えめな女房である。相撲に入れあげて何もかも失った亭主に愛想をつかすこともなく、良く働いて亭主を支え、1年後には雇人まで使う評判の餅屋を作り上げる。貧しくても無我夢中で働いた1年が自分にとっては楽しかったと言える妻。「芝浜」の奥さんを猿弥さんで見てみたくなった。猪八戒からこういう役まで、猿弥さんの芸の幅の広さに感服。 

さて主役の翫雀さんはもう、この役にぴったり。もとは大店のぼんぼん、気の良さ、親が作った財産を相撲でなくしてしまう頼りなさ。相撲と聞くとつい夢中になって周りが見えなくなってしまう。せっかく足を洗う決意をしたのに、相撲の話題が出るともうアツくなって舌が止まらない。スポーツ好きにはそのあたり、共感できるんである。この幸助の言動に合わせて私はいちいち自分の表情が変わるのを意識した。ああ気の毒、しっかりしろよ、うんうん相撲好きの気持ちわかる、あ~情けなや、そうじゃないって雷はアンタのためを思って…等々、幸助に対するその時々の自分の気持ちが表情になって表れているのが自分でわかる。愛すべき幸助、愛すべき翫雀さんである。
 
お袖役の壱太郎クンは兄思いのやさしい心持がよく表れていた。
 
そのお袖を引き受け、30両貸してくれたのが三ツ扇屋の内儀・お柳(笑三郎)。幸助に親身の意見をして、雷の気持ちもすべて呑み込んでいる。そのしっとりとした大きさは笑三郎さんならでは、であろう。役柄としても役者としても舞台を引き締めている。
その三ツ扇屋の帳場・平兵衛の亀鶴さん。相撲を忘れようとしている幸助にうっかり相撲の話をしてアツくさせてしまった張本人。控えめながら平兵衛も相撲好きらしく、当時の男子ならそうなんだろうなあと思わせる。翫雀さんと四つに組んで相撲をとる場面もあって、その辺の呼吸が翫雀さんとうまく合って楽しい。
 
原作にはないという芸者の春猿さん、あでやかな美しさで、ただ舞台に色を添えるだけではないものがあった。
 
幸助の叔父役の右之助さんが実直で温かく幸助一家を心配する味を出していた。大阪出身だそうだから、上方人情喜劇への出演はご自身も嬉しかっただろうな。
 
町の世話役の男女蔵さんも「らしさ」があって物語の雰囲気をうまく作っていたと思う。亀鶴さんにしても春猿さんにしても右之助さんにしても、男女蔵さんにしても、出番は短いものの、その中で空気をこわさない「らしさ」が感じられて、お芝居の味わいを深めていた。
 
悪人が1人もいない、笑って泣いて安心してみていられる楽しいお芝居で、「最後のお芝居が一番面白かったな」という声が聞こえてきたが、それもわかるような気がした。
 
<上演時間>「華果西遊記」55分(16001655)、幕間30分、「勧進帳」70分(17251835)、幕間25分、「幸助餅」70分(19002010

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