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2011年10月 9日 (日)

意外な配役が面白い「一心太助」:10月演舞場昼の部②

106日 十月花形歌舞伎昼の部(新橋演舞場)
 
「江戸ッ子繁盛記 一心太助」
 
花道から太助の獅童さんが登場、客に十月花形歌舞伎を見に来てくれてありがとうというような挨拶をする。じゃ、これから河岸へ行ってくる、というところへ恋女房のお仲(亀治郎)がやってきて、いちゃいちゃする2人。やっぱり3階じゃなくて一等席を取るべきだったか…。
 
亀ちゃんはこういう気が強くて可愛い女をやらせたら天下一品。見事なコメディエンヌ(と言わせて)である。
 
物語は、家光暗殺の動きから将軍を守ろうとする松平伊豆守(我當)・酒井忠勝(友右衛門)・大久保彦左衛門(猿弥)が家光にそっくりな一心太助を身代りに立てて城内へ送り込み、家光は太助になりすまし、悪の一味をやっつけるという、痛快娯楽時代劇。
 
なんとビックリすることに、彦左が猿弥さんなのだ。家光の時代まで「わがまま勝手」を家康から許された彦左。我當さんよりも「ご老体」の猿弥さんは、大らかで明るくて強引で、でも色々細かい気配りをする彦左その人だった。猿弥さんの芸の幅の広さ、うまさには脱帽だ。猿弥さんがいなかったら、この芝居の面白さは半減していただろう。
 
彦左のところの用人は右近さん。これまた右近さんらしからぬビックリな老け役であるが、こちらも見事。金魚のフンのように彦左にくっついてチョコチョコ動く用人らしさが剽軽で大らかで、こんな右近さんもあり!!
隻眼の柳生十兵衛が門之助さんっていうのもちょっとオドロキ。多分、ご本人も楽しんで演じているんじゃないかなと思うが、とても素敵だった。声も低く、髭などつけているから、ちょっと見には門之助さんとはわからなかった。
 
愛之助さんはここでは悪役・鳥居甲斐守。獅童さんや猿弥さんのコミカルな演技の中で悪役としての憎々しさ真面目に出すのはけっこう大変かも。この鳥居は、吉弥さんの侍女・豊乃の好意を利用しているらしく、言い寄る豊乃をあっさり冷酷に振ってしまう。
 
獅童さんは太助がさぞぴったりでよかろうと思ったが、痛快娯楽時代劇とはいえまわりが歌舞伎としてのラインを守っているのに、1人ちょっと違うような気がした。時々弾けすぎて少し品が落ちる? やや現代劇っぽい?…。
 
たとえば、太助が丹波屋の横暴に怒りをぶつけるところはちょっとドスが利き過ぎのように思えるし、家光の食事の場面はコミカル過ぎる(毒の吟味のため家光は「カスみたいなものしか食べてなくてハラペコ」――鶴千代君を思い出す――。彦左が持ってきた安心な鮨を一気に頬張った獅童家光、セリフが言えなくなって猿弥さんに「もっとゆっくり(食べて)。(セリフは)食べてからでよい」なんて言われていた。そして獅童さんが「茶をもて」――これってハプニングとアドリブなのかな。それとも台本どおりなのかな――。奥方が自ら作った料理を一口食した途端、そのあまりのまずさにむせこむ)。同じコミカルでも猿弥さんのコミカルさとは違うんだよねえ。家光がアホに見えてしまう。客席は可笑しくて大笑いなんだけどね。
 
しかしそれでもやっぱり獅童は魅力的なのである。とくに、家光が太助になった時が素敵。将軍が魚屋になりすますことによる様々なズレがひどく可笑しいし、そのミックス度がうまいと思う。姿も実にいい。ここではアホに見えない。逆の場合(太助が家光になる)はちょっとオーバーな気もしたが、それはそれでまた笑い転げさせてもらった。とくに夜、奥方がやってきたときの慌てようには大笑いした。
 
奥方の高麗蔵さんが感情がないようでいて、家光に対する愛情がにじみ出ていて、太助の窮地を救ったときには感動すらしてしまった(同じ感情がないようでも、若葉の内侍とは全然違う)。この奥方、なかなかの人物で先の料理の場面でも好もしい。夫が殺されれば自分も終わりだという打算では決してないと思う。
 
この芝居を見ていると(この芝居に限らないが)、脇の重要性がよくわかる。澤瀉屋一門をはじめとした威勢のいい魚河岸の仲間、家光を守って右往左往する臣下たち、みんな生き生きとしている。菊五郎さん、心配いりませんよ。

芝居全体としては、テンポがあまりよくないのと、セリフが入っていない役者さんがいて肝心のところで立ち往生してしまい、獅童さんが咄嗟に後をつないだりしていたなんてこともあり、完成度は高くない。でもまあ他愛なく笑って楽しめるし、こんな歌舞伎もいいかも。
 
<上演時間>「義賢最期」85分(11001225)、幕間30分、「京人形」30分(12551325)、幕間15分、「一心太助」125分(13401545

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コメント

新橋演舞場、楽しいですね!
私は8日に拝見したので、SwingingFujisan様より数日あとですね。その数日間の進歩なのか、私が鈍感なせいか、私は違和感なく楽しめてしまいました(笑)。冷静に考えてみますと、たしかに、魚河岸での喧嘩場は怒鳴り口調が多く、歌舞伎っぽくないな、というかんじがありましたが、獅童丈の熱演と、まわりの方々のお芝居の巧さで、どんどん舞台に引き込まれてしまいました。
SiwngingFujisan様のおっしゃるとおり、門之助丈の柳生十兵衛にはオドロキでした! この方がお姫様もなさると思うと、とっても不思議ですよね、歌舞伎って! でも、十兵衛役、クールでハマり役でした!! もう一度みたいです~(今月はもう絶対に無理なんですけど)。

投稿: はなみずき | 2011年10月10日 (月) 20時13分

はなみずき様
こちらにもコメントありがとうございます。
私がちょっと神経質すぎましたかしら。後日また見に行きますので、その時には違和感なく楽しみたいと思います。でも、そういう違和感は別として、太助は獅童さんにうってつけの役ですよね。

猿弥さんの芸の幅の広さに脱帽と書きましたが、門之助さんの芸の幅も広いですねえ。お姫様、二枚目がニンだと思いますが、「天守物語」の舌長姥みたいな奇怪な役をやられたり、そして今度の柳生十兵衛もぴたりとはまって。
「一心太助」は配役の妙も楽しめるお芝居ですね。1度しかご覧になれないのは残念!!

投稿: SwingingFujisan | 2011年10月10日 (月) 22時16分

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