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2012年2月23日 (木)

染五郎版「研辰の討たれ」:松竹座夜の部②

215日 二月花形歌舞伎夜の部(松竹座) 
「研辰の討たれ」

12022301togitatu 実際に見たことがあるのは野田版で、オリジナル版は延若さんの研辰を映像で見たことがある。延若さんの研辰なら風貌の似ている獅童さんの研辰を、と言いたいところだが、染五郎さんで見ちゃったら、この役は染五郎さん以外考えられなくなってしまった(もっとも獅童さんだったらまた全然違った研辰になっただろうけれど)。
その染五郎さん、顔がアンジャッシュ児島じゃん、と一発で吹き出してしまった。しかし児島と違ってよく喋る、次から次へとああ言えばこう言う。朋輩への言いたい放題、上役へのへつらいや媚びがいちいち他の武士たちのカンにさわるのもわかるが、ついこの間まで町人だった辰次には武士の中にあってそういう生き方しかできないのではないか、孤軍奮闘頑張れなんて気持ちにもなるから不思議である。辰次を演じる役者の資質にもよるんだろう。嫌なヤツでありながら愛敬も備えていて、どこか魅力的なんである。
そういう辰次唯一の理解者というか辰次贔屓というか、殿様の奥方(高麗蔵)は辰次をかばい、励ます。高麗蔵さんはこういう役がとてもお似合い。「一心太助」の素敵な御台所を思い出す。
他人のことは平気でバカにするくせに自分がバカにされたことに耐えられない辰次は、家老の平井を卑怯な方法で殺してしまう。しかし本当は平井を落そうと思って掘った穴に自分が落ちるなど笑いを取っておいての殺しなので、見る側は意外と卑怯さを感じない。人を殺したことに対する辰次の怯えはあまり伝わってこず、むしろ気の高ぶりみたいなほうを感じた。町人でも武士でもない、あるいは町人でも武士でもある、微妙な辰次の位置ゆえだろうか。
この後は仇討で追う側と追われる側のすれ違いに駆け引きがたっぷりの笑いの中に描かれる。見せ場の1つである倶利伽羅峠の畚(ふご:こんな言葉知らなかったし、ワードの変換にあるなんてびっくり)渡しは、期待したほどでもなかった。延若で見た時はもっとのどかかつ緊迫感があったように記憶しているが、歌舞伎のほうが舞台が大きいせいかもしれない。たまたま畚ですれ違った辰次と平井の長男・九市郎(愛之助)、いきり立つ九市郎。辰次は畚の綱を切り、九市郎は谷底へ。それでも九市郎は足を痛めた程度だったのは奇跡に近い。
吾妻屋という宿屋で辰次と九市郎が鉢合わせ。その後九市郎の弟才次郎(獅童)もやってきて、ここでも何とか辰次は宿の水桶に飛び込んだりして(前2列くらいにシートかなんかが配られていた)逃げおおせる。ここで初めて辰次は心からの恐怖を覚えたのかもしれない。

吾妻屋の場では宿の主人・翫雀さんと女中・幸雀さんと雁乃助さんが笑わせる。御園座に続き、ここでも辰次と女中のエグザイルダンスを見る(ほんっと、好きだよねえ)。
3
年後、四国善通寺の場では、兄弟もさすがにどこにいるかわからない敵を追うことに疲れたのだろう、仇討に疑問を持ち始める。ところがそこへ、辰次が! ここでは客席通路を使っての追いかけっこ。3人とも舞台に戻ると、へとへとではぁはぁ息をついてしばしの休息。そしてついに兄弟に捕まった辰次は、ここでもお手の物の言い逃れ。平謝りしてみたり、卑屈に自分を貶めて見せたり、兄弟を人殺し呼ばわりしたり。最後まで無様に命乞いをする辰次、覚悟したと思いきや、その都度なんだかんだと言い逃れる。あまりのお調子者ゆえ、愛之助さんも獅童さんも笑ってしまい(獅童さんはこちらに向けた背中が震えていた)、愛之助さんは「まじめにやれ」「ちゃんとやれ」とマジ顔で怒る。
やがて善通寺の僧・良観(翫雀)も野次馬たちも許してやれと言い、兄弟は仇討を諦める…のであるが…。
「染五郎版」と言ってもいいような染五郎さんの喜劇的センス、観客のツボを心得た演技、退屈する場面なんてなくとても面白かったが、見終わった後は野田版のほうが粛然とした気持ち、何か考えさせられるような気持ちになった気がする。
幕が閉まったあと、カーテンコールを求める拍手もあったが、再び幕が開くことはなかった。
<上演時間>「すし屋」90分(16301800)、幕間35分、「研辰の討たれ」80分(18351955

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