« 祈り | トップページ | ドライヤー騒動 »

2012年3月12日 (月)

3月演舞場昼の部

38日 三月大歌舞伎昼の部(新橋演舞場)
すっかりレポが遅くなってしまった。
先週いっぱい朝寝坊を返上して早起きだった私(6時半~7時の間に起きる。いつも8時過ぎ起床の私としてはかなりきつい)。それは施設にいる母の朝食介助のため。先週日曜日から原因不明の微熱が続き、普段は週23回夕食介助に行くところ(別に施設に任せたっていいんだけど、うちは近いから)先週はずっと朝夕食の世話をしに行った。この日も朝食の手伝いをしてそのまま出かけるつもりだったが、少し時間に余裕があったので一度家に戻った。玄関を入ろうとした瞬間、「あっ! チケット忘れてた」。
ああ、家に戻ってよかった。そして、よく気づいたものだ!! いつもは前夜に用意しておくのに…。
「荒川の佐吉」
なんてったって佐吉といえば仁左様、辰五郎といえば染五郎という「荒川の佐吉」だが(そのコンビでしか見ていない)、ついに染五郎さんが佐吉に。そして嬉しいことに辰五郎を亀鶴さんという取り合わせ。正直言えば、私は仁左様の佐吉がカッコいいし大好きではあるけれど、やくざの三下にしてはちょっと立派すぎるなと思わないでもない。その点、染五郎さんの佐吉はいかにも三下風で「最初はみすぼらしくて哀れで、最後に桜の花の咲くような、いさぎよい男」に合っていたとし、よく研究してもいると思う。
しかしどことなく違和感みたいなものもず~っと心から離れない。たとえば、親分の仇討に飛び出していくところは、仁左様だと哲学的にじわじわと気持ちが盛り上がっていくような印象を受けるのだが、染五郎さんの場合は一気に爆発した感じで、「あれっ」と思ってしまった。この話って、佐吉の成長物語でもあると思うのだけど、その成長の過程における心の動きの表現にやや物足りない気がするのだ1階席ではあまり泣いている人がいなかったような…)。仁左様のほうがそういう部分をていねいに演じていたと思う
とはいえ、佐吉のスッキリとした男気、カッコよさ、卯之吉への愛情は十分感じられて、ラストは大いに泣かされた。
佐吉を慕い、心配し、卯之吉を可愛がるその辰五郎を亀鶴さんが好演。亀鶴さん自身が辰五郎という人物を、佐吉を、卯之吉を愛しているその心持ちがきゅんと胸に響く(亀鶴さん自身が「辰五郎させて頂いて幸福です」とつぶやいている)。とくに三幕目・辰五郎の家の場は、ささやかな幸せを感じる辰五郎の心がほほえましく思った。仁左様と染ちゃんだと上下関係がはっきりしているような印象を受けるが、染五郎さんと亀鶴さんだと年の近い友達という印象である。ただ、時として「アニイ」と慕う辰五郎のほうがアニイに見えてしまったりもして…。

卯之吉役の子役ちゃん(筋書きを買っていないので名前がわからない)は盲目の演技が上手で、生活感や賢さが見事に表現されていた。
この3人の他人どうしの間に通う感情は無償の愛なのだが、人生、それでは生きていけないということだろうか。一度捨てた子供を引き取りに来た母親お新(福助)を私はいつも許し難い。本心からだとしても佐吉の前で死のうとしてみせたりするなんてズルい。お新だけだったら佐吉は卯之吉を返さなかっただろう。それを見越して政五郎に仲介してもらったようで、それも面白くない。しかし卯之吉の目が見えないことが結局は佐吉の弱みとなる。卯之吉の幸せを願うばかり。
ラスト、佐吉の旅立ちを見送る亀鶴さんの目が涙に光っていると思ったら、足早に去る染五郎さんの目からも涙がこぼれていて、辰五郎と卯之ちゃんが見送りに来た時から流れていた私の涙もとめどなく、明るくなるまでに涙を止める時間がほしかった。
他の登場人物では、お八重の梅枝クン、はじめはヤクザとはいえ大親分のお嬢様、次は落ちぶれた生活に気持ちもすさみ、最後は多分それが本来であろう姿に戻る。その三場三様のお八重の気持ちが古風な面差しによく表れていた。
梅玉さんの成川郷右衛門は深い。心に何か暗いものを抱えているようで、これまでにない魅力を感じた。梅玉さんは人間豹のときの悪役もよかったし、こんな陰のある役が案外似合うと思う
幸四郎さんの相模屋政五郎は安心できる大きさであったが、優しさすぎて(情感が強すぎて)説得力に欠けるような気がした。シビアに現実を見つめろという部分があってもいいのではないだろうか。
佐吉と卯之吉の別れは頭では納得しても感情的には納得できないが、後味のよさは卯之吉に対する無償の愛を最後まで貫く佐吉の潔さなんだろうな。染ちゃんのラスト引っこみ、佐吉に安住の地はないかもしれないけれど、どこにいても卯之ちゃんの幸せを案じている思いに心打たれた。

「山科閑居」
ただでさえ重い内容、早起きのツケがここへ来て、恥ずかしながらかなりの時間、沈没していた――うちにいてもこの1週間、この時間帯はお昼寝タイムだったのだ――なのであまり感想はない。豪華な配役なのにもったいない。藤十郎さん(戸無瀬)と時様(お石)の遣り取りには緊張感があったけれど、そのあとはこっちが緩んでしまったせいか…。福助さん(小浪)が死ぬの死なないのごちゃごちゃやってる時が一番つらかった。
見ていた範囲では菊五郎さんの由良之助(意外な、幸四郎さんの加古川本蔵、染五郎さんの力弥、みんなそれぞれによかったんだけど…。
こういう芝居で寝てしまうザマがいつまでもミーハー観劇から脱せない証である。でも幕見があれば、今度は体調をしっかり整えてちゃんと見るんだけどな。
つまらぬことですが…戸無瀬と小浪一行が通る花道に敷かれた白い雪布、一つの皺もなくぴしっとしていたのが、一行が通り過ぎたあとは真ん中に一筋二筋の皺がきれいにできていた。
もう一つつまらぬことですが…「葛の葉」でも思うのだが、娘は乗り物に乗るけど母親は歩きなのね。おつきの家来たちは素足に草鞋履き。寒そうでした。
<上演時間>「荒川の佐吉」序幕・二幕目54分(11001154)、幕間30分、三幕目・大詰69分(12241333)、幕間25分、「山科閑居」95分(13581533

 

|

« 祈り | トップページ | ドライヤー騒動 »

歌舞伎ミーハー観劇記」カテゴリの記事

コメント

今晩は。今日遅ればせながら、昼の部観てきました。評判どおり、染五郎の佐吉、年齢的にぴったりで、大変良かったです。亀鶴も良い役がついて、健闘していました。確かにこの二人だとどちらが兄貴分?になりますね。
「九段目」私も、よく寝るのですが、「荒川の佐吉」の福助が出ている愁嘆場で結構寝ていましたので大丈夫でした。劇評では、藤十郎の戸無瀬、大絶賛ですが、私はあの含み声のセリフがやや苦手なのです。息の詰め方等が義太夫本行に近いのが好評の理由でしょうが、逆に東京系の役者とのセリフ、息遣いとのバランスの悪さが気になります。今回、菊五郎の由良之助、初役と思いますが、七段目も是非見たいと思いました。また、段切れの時蔵と別れの場面での情愛を交わすところが秀逸でした。

投稿: レオン・パパ | 2012年3月20日 (火) 18時39分

レオン・パパ様
こんばんは。コメントありがとうございます。
佐吉は染五郎さんのニンにも合っていましたね。私は早めに見たので、日が経ってもう一度見たらもっとよかったかなと思います。
亀鶴さんの辰五郎、よかったですね。兄貴分がどちら?なところはありますが、亀鶴さんの頑張りが嬉しいです。

藤十郎さんの息遣いは独特ですね。言われてみると確かに東京の役者さんとのバランスはよくないような気がしてきました。個々の役者さんの演技がよくても、全体として落ち着きが悪いとか何となく違和感があるとか、そういう問題もあるんですね。
菊五郎さんの大星、私も七段目で見たいです!!
菊×時コンビはやはり一番しっくりきて、自然と醸し出される情愛、通い合う空気がとても好きです。

レオン・パパ様も時々寝られるとのこと、心強い思いがいたしましたcoldsweats01 いつも気になるんですけど、評論家さんたちは全然寝ることなくすべてのお芝居をご覧になるんでしょうかしらねえ。

投稿: SwingingFujisan | 2012年3月20日 (火) 21時07分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/1083822/44461090

この記事へのトラックバック一覧です: 3月演舞場昼の部:

« 祈り | トップページ | ドライヤー騒動 »