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2012年3月23日 (金)

ちょっと寂しい3月演舞場夜の部

321日 三月大歌舞伎夜の部(新橋演舞場)
最初の演目で気が進まなかったけれど、今回は少し高い席を取ったのでもったいないからちゃんと見ることにして時間通り出かけた。
しかし演舞場は寂しい。1階は空席が目立ち、多分2階もだろうと思うのは、幕間に人が少なかったから。そして拍手にほとんど熱がこもっていない。幕があいても役者さんが登場しても見得でも盛り上がり場面でも拍手なし、あってもまばら。
「佐倉義民傳」
12032301sogo 前回(年12月)はまったく見る気が起こらずパスした「佐倉義民傳」を見ることにしたのはチケット故もあるが、コクーン歌舞伎で見たことが大きかったと思う。勘三郎版を見たのだから幸四郎版も見ておこう、と。
結果、全体としては意外と面白かった。辛気くさいことは辛気くさいけれど、見ないうちに嫌っていたほどの重苦しさはなかった。
序幕第一場「印旛沼渡し小屋の場」
降りしきる雪の中、頭にかぶった笠に積もった雪をはらはらと花道に落しながら木内宗吾(幸四郎)が歩いていく。雪を踏みしめ、よろけそうになるのを堪えながら進む様を見たら、すんなりその世界に入っていけた。しかし、雪国かと見紛うほどの大雪で、佐倉というのは比較的温暖なのかと思っていた無知…。
左團次さんの渡し守・甚兵衛がしみじみよかった。宗吾に感謝しつつも生きていることを恨みに思うその貧しく厳しい暮らし、左團次さんのセリフが胸にぐっと迫ってきた。禁を犯して舟を出そうという甚兵衛、甚兵衛に咎が及ぶことを気遣って断る宗吾、2人の遣り取りは緊迫感を以てこれまた胸を熱くした。
第二場「木内宗吾内の場」、第三場「木内宗吾内裏手の場」
子供たちが寒そうに手をすり合わせたり火に当たったり。長男彦七(金太郎)は赤ん坊をあやしたり。やっと帰ってきた宗吾が「うちはいいなあ」とつぶやく。ここは宗吾の家族の愛情と、追手迫ってきたことによる緊迫感、別れの愁嘆場であり、芝居の中で一番盛り上がるところだろうに、意外と胸打たれず全然泣けなかった(意外と寝ないで見られるぞと思ったのに第二場のどこか途中ちょっとだけ寝た。展開にはほとんど影響のない場面だったと思う)。幸四郎さんの泣きの芝居は悪くないと思うのに、新劇を見ているような気分(?)だからだろうか。
それでも福助さんが夫を支え子供たちをしっかり育てている女房おさんを出しゃばることなく控えめに演じていて(遠いので表情まではよくわからなかったが、オペラグラスで見る限り、変顔はしていなかったと思う)、好感がもてた。
梅玉さんが珍しく脚を出したならず者役(脚、きれいです)。この幻の長吉という男は突然現れて宗吾を代官所に突き出すと脅しながら実際は追手を宗吾から引き離してくれるのだが、恐らく客にはこの件が唐突すぎてよくわからないのではないだろうか。私もコクーンで通しを見ていなかったら何なんだ、と思ったかもしれない。事情を知っていても、ここの描き方は唐突過ぎるような気がした。
二幕目「東叡山直訴の場」
浅葱幕が振り落されると、序幕とは打って変わった明るく華麗な寛永寺の渡り廊下。警護の侍たちに捕えられながらも家光(染五郎)の足を止めさせることに成功する宗吾。直訴状を読み上げた供の松平伊豆守(彦三郎)の表情に、佐倉領主の悪政への驚き、直訴は取り上げぬと言いながら直訴状の包みだけを捨て中身は懐にしまう温情がみられ、こちらもほっとするのであった。
しかし最後まで盛り上がらぬ客席であった。
芝居は芝居として、宗吾はやっぱりすごい人だと思うので、2階でお参りした。

「唐相撲」
他愛ない唐風の舞踊コメディ(?)。変な中国語、ユーモラスな相撲――暗い芝居の後だし、単純に楽しんで笑った。
しかし最初、花道から華やかな皇帝(左團次)一行がぞろぞろと登場してもやっぱり拍手はまばら。日本人相撲取りの菊五郎さんが表れても拍手はまばら。何なんだろう、この熱の入らなさは。
菊五郎さんが剽軽に皇帝に「ニイハオ」と言ったりすると笑いが起きる。皇帝の変な中国語にも笑いが起きる。それでも何となく客席の空気は薄い。ただ、名題下の役者さんによる人間ピラミッド(後ろ向きにピラミッドを作り、そのまま180度回転!!)にはさすがに大きな拍手が起きて、その後は持ち直したかなという感じ。
私としては皇帝が皇后を呼ぶ時の「バイシクン」(シを上げて発音)がツボ。皇后役が梅枝クンだからだ。最初ギャグで呼んでいるのかと思ったが皇后の名が「ばいしくん」なんだとあとで気づいた(「ばいしくん」はいかにもありそうでドンピシャの名前。以前には芝翫さんと門之助さんが皇后をやっているが、その時の皇后の名は何だったんだろう)。
通辞(團蔵)、通辞夫人(萬次郎)が持ち味を出していた。通辞夫人の名は「坐亜彩」。相撲取りと相撲を取る官人は珍玄斉(亀三郎)、空針斉(亀寿)、鉢芳斉(松也)、昆林斉(萬太郎)というふざけた名前。
ふらふらするほどに酒を飲まされてもとにかく強い相撲取りに、ついには皇帝が挑戦するが結局投げ飛ばされそうになりキョンシー飛びで逃げ出し、最後は「キャイ~ン」ポーズ。そして「バイシクン、ラブ注入」で皇后と抱き合う。
ちょっと「博奕王」を思い出すような展開であるが、あちらは知恵で閻魔をやりこめ、こちらは力勝負。趣もだいぶ違う。それでも最後は相撲取りがご褒美を手に願い叶って日本へ帰ることになる。花道を剽軽に去る菊五郎さん、汗びっしょりだった。
「小さん金五郎」
評判どおり、上方の風味のほとんどしない芝居だった(乱暴ではあるが、国籍不明の芝居として見ればそれなりには面白かった)。それに、登場人物の気持ちが深く描かれていないから、うわべだけでの展開になっていたような気がする。最後に、争っていた小さん(時蔵)と金五郎(梅玉)が急展開で恋人どうしになるという話で、客席はけっこうウケていたがもっと面白みがほしい。やりようによってはもっともっと笑いの取れる面白い芝居になるのではないだろうか。
その中で振られ役の秀太郎さん(女髪結・お鶴)の気持ちだけは一貫してわかりやすかったし、もちろん上方の空気もあり、さすがだと思った。
右近クンの動きが文楽人形みたいだった。

一番拍手が大きかったのは秀太郎さんの髪結いの弟子お千代役の子役ちゃんだった。
時様と梅枝クンが並ぶとなんだかテレくさいわ、他の親子役者さんの場合はそんな気持ちにならないのに。
客席的にはこの芝居が一番盛り上がったかな。拍手も大きかったし。
<上演時間>佐倉義民傳序幕79分(16301749)、幕間5分、第二幕17分(17541811)、幕間30分、唐相撲37分(18411918)、幕間20分、小さん金五郎52分(19382030

 

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コメント

はじめまして。検索して来ました。菊五郎丈贔屓のさくらこです。今月はわが贔屓はとても楽しそに演じていらっしゃいます。

ところで、このところの演舞場は寂しいですよね。先月の襲名披露ですら熱気がなく拍手もおざなり。お正月の興行でもそうでした。客の質が変わってきている気がします。

役者も演じずらいでしょうに毎月質の高い芝居を見せてくださるのには頭が下がります。贔屓じゃない役者の芝居だとつい醒めたり引いたりして観てしまうのですけど、最近とても熱心な年配の歌舞伎好きな方とお話する機会を得てそういう見方をする自分の心の貧しさを思うようになりました。歌舞伎が大好きといえる観客になりたいな~と。そうしたら苦手な役者さんの良いところがみえてくるようになりました。

あ、何を書いてるのかわからなくなりました。今月もあと数日ですが少しでもお客様が入りますように。

投稿: さくらこ | 2012年3月23日 (金) 13時47分

さくらこ様
こんにちは。はじめまして。
コメントありがとうございます。
菊五郎丈のご贔屓でいらっしゃいますか。私も菊五郎丈は大好きです。初役だという今月の大星もおおきさと情愛を見せてとてもよかったですね。そうかと思うと「唐相撲」でコミカルな面を見せてくれたり。
唐相撲のように演じる側が楽しそうだとこちらの楽しさも倍加しますね。私は鳥屋近くの席でしたので、汗びっしょりの菊五郎さんに最後まで大きな拍手を送りました。

演舞場は本当にどうしてしまったのでしょう。舞台と客席の一体感というものもなく、客はただおとなしく芝居を眺めているという感じです。当然役者さんもそういう空気は敏感に受け止めていらっしゃるでしょう。もっと応援したいと思いつつ、かく言う私も2月3月は演舞場のリピートなしなのですわ。

贔屓でない役者さんの良いところがみえてくるようになったとおっしゃるさくらこ様はもう立派な歌舞伎大好き観客でいらっしゃいますね。私も見習わなくては。それに加えて贔屓の役者さんだからこその厳しい目も持ちたいと思っております(こちらは難しいかも…)。

これからもどうぞよろしくお願いいたします。

投稿: SwingingFujisan | 2012年3月23日 (金) 15時36分

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