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2012年4月 2日 (月)

実力の花形仮名手本

41日 四月花形歌舞伎「仮名手本忠臣蔵」初日昼の部(新橋演舞場)
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月の千穐楽の後、次まで長いなあと思っていた初日は4月の最初の日で、なんとなく前月との間隔が短いような気がするのも不思議なもの。先月のあの歌舞伎不調に対し今月はどうかしらと心配したけれど、見える範囲ではけっこう客も入っていたし、拍手も盛大に鳴っていて一安心した。
さて、若手を中心とした本格的な義太夫狂言の通しは初めてだろう。花形の歌舞伎は華やかで楽しいし大好きだけれど、その一方でやや現代的な面がみられるのと、やはりベテランの味とは違うなと思わされることがしばしばあった。しかし、この「仮名手本忠臣蔵」に関してはそうした懸念はほとんど払拭され、重厚さを十分に味わえた。
大序は口上で15分、人間が動き出すまでにさらに5分。筋書きを買わなかった私――応募スタンプは記念に手帳に。曲がって押してしまうのは性格故?――は一生懸命耳を傾けて口上人形の声を聴いた(全部聞き取ったわけじゃないし、忘れちゃった役もたくさんあるけれど)。「ん? 一文字屋お才が亀鶴さん?」たしか笑三郎さんじゃなかったっけ? 亀鶴さんの出演は嬉しいけれど、やや複雑な気分。
亀寿さんの足利直義は文楽人形になっているときは何かちょっと変な気がしたが、動き始めたら違和感はなくなった。やや骨太な印象がしたが、きれいな貴公子であった。
松緑さんの師直は時々若さが出るものの、この花形の中でこの役をできるのはやっぱり松緑さんだろうし、何より決まったときの形がきれい。顔世への横恋慕、「喧嘩場」でのねちねちしたいじめは声とか舌足らずなセリフで愛敬が感じられた。ただ、語尾の高さを落す喋りはちょっと気になった。
獅童さんの桃井若狭之助がカッコよくて、師直に嫌味を言われてかっかっと頭に血が上る様子がよく表れていた。切腹する羽目になるのは若狭之助のほうだったかもしれないのに、桃井家救いの神・加古川本蔵はよくよく塩冶判官にとって迷惑な人物であったなあと溜息が出た。
松也クンの女形は久しぶり。体型的にもう女形は難しいんじゃないか、しかも顔世で大丈夫かなと心配したけれど、これがなかなかよかった。大柄な分肉感的で師直が言い寄るのも頷ける。言い寄られた顔世が嫌がる姿がセクシーで、判官の切腹後登場した白装束姿も美しかった。
四段目の切腹の場では、主君に対面したいと部屋の前で待機する家臣たちに「由良之助が来るまでは対面かなわず」と判官の言葉を伝える薪車さん(原郷右衛門)の背中が悲痛なその気持ちを語っており、ひどく感動した。
石堂右馬之丞の亀三郎さんは儲け役とはいえ、官僚としての責務の中に温情を溢れさせてよかった。一方の意地悪な薬師寺次郎左衛門はほんと、憎々しかった。薬師寺役は亀鶴さん。

塩冶判官の菊之助さんは、おとうさんにそっくり。とくに横顔を見せて花道から登場したときは一瞬菊五郎さんかと見紛うほど。菊之助さんの判官は師直のいじめに静かに耐える。手にもう少し怒りが感じられるといいのだけどと思ったが、静かな怒りが爆発してからは、愚かな行動だと頭では分かっていても思いが判官に同化して、本蔵に押さえられた時は叫びだしたくなった。
切腹の前に思い残すことはないかと石堂に訊かれ、「加古川何某とかに抱きとめられ…お察しくだされ」と静かに悔しさを滲ませる判官に涙。
時々「元禄」のほうとごっちゃになり、大星は間に合わないんだっけ、なんて悲しくなり、そうだ、それは元禄でこっちはギリギリ間に合うんだっけと安心(っていうのも変だけど)したり。ひたすら大星の到着を待つ判官がついに腹に刀を立てた時の気持ちを思うと又涙。そしてやっと由良之助が到着する。判官のそばに寄ることを許されたのに花道でいつまでも立てないでいる由良之助、「早く早く」と私は心の中で急かす。「待ちかねたわいな。さだめし聞いたであろう。聞いたか…聞いたか…無念」の判官は九寸五分を形見に由良之助に気持ちを託す。菊之助さんの表情が瀕死の玉手御前の必死の感情を思い出させる。
染五郎さんの大星は感情を押し殺し頭で考えているようなところも見えるような気がしたが、大星はそれでいいのかもしれない。その大星が城を明け渡し九寸五分を手にして初めて感情を露わにする。大星の胸のうちを考えると、こちらも胸をしめつけられる思いだった。
刃傷がどれだけ大変な事件であったかは色々な場面でそれぞれ認識するのだけれど、私はこの大星の姿を見るたび、ここで一番それを強く認識するのである。

足利館門前での贈収賄の場ではさすがの橘太郎さんが鷺坂伴内として達者なところを見せる。緊張の連続の「仮名手本」の中でほっとできる場面である。
「道行」はあんまり期待していなかったのだけど、意外とよかった。おかる(福助)の勘平への愛情がしっとりと伝わってきたし、亀ちゃんの舞踊はやっぱりよいなあ。猿弥さんの鷺坂伴内も猿弥さんらしい味が出ていて楽しかった。
今月は日程の問題もあり、リピートは予定していないのだが、昼の部もう一度見たい!と思ったから、ひょっとしたらひょっとするかも。
<上演時間>「大序」55分(11001155)、幕間5分、「三段目」48分(12001248)、幕間35分、「四段目」90分(13231453)、幕間15分、「道行」38分(15081546
初日から時間通りに進行した。

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コメント

SwingingFujisanさま
「由良之助が来るまでは対面かなわず」の薪車さん@原郷右衛門の背中のところ、菊之助さん@判官の無念のくだり、そして染五郎さん由良之助の九寸五分・・・読んでいて涙がこぼれました。場面場面の情景や役者さんの表情までもが目に浮かぶすばらしいレポ、ありがとうございました。

4月は諸般の事情により上京しないことにしたので、この「仮名手本忠臣蔵」もあきらめ・・・たのをひどく後悔しています(涙)。

投稿: スキップ | 2012年4月 3日 (火) 11時11分

スキップ様
過分なるコメントありがとうございます!!
薪車さんの背中は、対面が許されて家臣たちがどどっと部屋になだれこむ姿と相俟って、今思い出しても泣けてしまいます。
菊之助さんも染五郎さんもみんなみんな、このお芝居にかける気持ちが全身から伝わってきました。

スキップ様がご覧になれないのは大変残念です。スキップ様のご無念を思い、東京でこのお芝居が見られる幸せをあらためて噛み締めております。2月の花形の成功もあることですし、松竹座でもぜひ花形の「仮名手本」をかけてほしいですね!! 

大阪も暴風雨大変でしたでしょう。こちらは今激しく雨風が吹き荒れております。

投稿: SwingingFujisan | 2012年4月 3日 (火) 18時54分

SwingingFujisan様
 今晩は。私も演舞場初日の昼の部みてきました。ニアミスでした。いつも、ブログでおなじみの方もご一緒だったみたいですね。
 何と言っても、菊之助の判官が秀逸でした。この優、梅幸に似ているのですが、今回は菊五郎の方に似ていました。面白いですね。
 他に、気に入ったのは、二人の伴内です。どちらも、良い味わいがあり、どちらも、行儀がいいです。あと薪車の確かな演技力にも感心。もっと良い役で見たいです。
期待の亀治郎の勘平、眼付が鋭すぎ、陰気なのがちょっと・・・・。但し、上方演出の六段目評判が良いようなので、期待します(中日すぎに観劇します)。

投稿: レオン・パパ | 2012年4月 7日 (土) 21時15分

レオン・パパ様
こんばんは。
初日、レオン・パパ様もご一緒だったのですね!!
菊之助さん、おっしゃるように菊五郎さんによく似ていらっしゃいましたね。判官がとてもよかったので、リピートしたくなってしまいました。
橘太郎さん、猿弥さん、薪車さんは大好きな役者さんですので、レオン・パパ様も気に入ったとおっしゃってくださって嬉しいです。
六段目は亀治郎さんもですが亀鶴さんも楽しみです。

すみません、公開したつもりでしたのに非公開になっていました。

投稿: SwingingFujisan | 2012年4月 7日 (土) 22時19分

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