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2012年4月24日 (火)

終わって寂しい「絵本合法衢」②

うんざりお松とお道
二幕目第一場、四条河原の場。蒲鉾小屋のムシロが上がると、お松が煙管をふかしている。去年は何もしないでただ、顔を見せただけだった。手持無沙汰なお松より煙管(傾城のもつ赤い煙管ということで、昔お松が色町で働いていたという過去を示すのだそうだ)を持ったお松のほうがお松らしくていい。乞食を束ねる姐御の貫録たっぷりだ。
大学之助の家来で乞食の仲間に入った多九郎に、お松が自分は近江の大百姓の娘だと言って首から下げた守り袋に入った出生証明書みたいなものを読ませる場面があるが、そんなものわざわざ見せるのって不自然だと思っていた。そうしたら千穐楽は、「なんだい、(大百姓の娘だってことを)信じないのかい?」といったようなお松のセリフが入っていて、私の不自然感は解消したのであった。「今年25になるが、これまで持った亭主は16人」にはいつも客席が笑う。
ヘビ使いのお松が道具屋番頭(松之助)のために毒蛇の血を取ってやる場面。テレビでも蛇が出て来たら絶対目をつぶる私だが、ここは作り物だと言い聞かせて、番頭同様こわごわ見る。客席にも同じ「こわごわ」な空気が流れている。初日はたしか蛇は少し暴れていたような気がしたが(もちろん、時さまが自分で暴れさせている)、18日も千穐楽もおとなしく皮をはがれ、食いちぎられていた(エグい!! 書いていてもぞっとする)。ちなみに時様はヘビは嫌いだそうだ。好きな人ってそうはいないよねえ。「ひばかり」というのは本当は無毒だが、江戸時代には有毒と信じられていて、「その日ばかりに」死んでしまうからその名がついたんですって。
歌舞伎で見る底辺の世界って、新入りがいじめられたりしているような気がするが、ここはお松の人柄なのか、みんな仲がいい。
お松と、お松が惚れている太平次の女房・お道(秀太郎)の女のさや当てが面白い。お道もけっこうお松を意識しているから、女房の強みを見せつけて。
強請りに向かうお松の着替えは、去年は袖でやったが、今回は蒲鉾の中で(舞台では見せるため蒲鉾の外で)。着替えを見せながら舞台が回り、そのまま道具屋になる。
お松が井戸に放り込まれて太平次に殺される場面は、背中から落ちる。強請りに失敗して太平次に捨てられるんじゃないかと気がかりで半分甘え半分脅すお松。2人が夜道をぶらぶらと歩く場面はワルとはいえ美男美女のカップルで、目に楽しい。
殺されるお松は気の毒ではあるけれど、あんまり可哀想とは思わなかった。かわいそうなのはお道のほう。いがみの権太の女房に通じるものがあるけれど、太平次は根っからの悪人、ついに「戻る」ことはないのだ。秀太郎さんは殺される時、これまでは茫然と立ち尽くしてやがて頽れるという形を取っていたが、千穐楽は断末魔の苦しみに手を空で掻いてもがくようにして死んでいった。秀太郎さんの赤い眉が素敵だった(これまでも眉毛赤かったかなあ。気が付かなかったわ)。
なお、時様は宗十郎丈のお松を参考にしたそうです(1980年の公演では宗十郎丈はお松と与兵衛の2役)。
太平次
大学之助が嬉しそうに人を殺すなら、太平次は平然と当たり前のように殺す。とにかく目の前にいる者が邪魔だから、殺す。女房のお道でさえ、邪魔になったら平気で見捨てる(お道を殺すのは太平次ではないが、一緒にいた雲助に殺しを命じる)。一番凄惨な場面は、お米(梅枝)と孫七(高麗蔵)殺しだろう。本来なら陰惨きわまりない場面(そして、何度見てもここはハラハラしてしまう)。しかし太平次の殺しを見ていてもそういう印象よりも美しさみたいなものを感じてしまう。殺すほう殺されるほうの形の美しさもあるだろう(梅枝クンの儚げな可憐さ。恐怖の中で身の自由を奪われながらも道を切り拓こうとする必死なお米から目が離せなかった)。でも何と言っても、仁左様の太平次には卑しさがなく、色気と愛敬が溢れているからではないだろうか。太平次役として私には仁左様しか思い浮かばない。
その太平次もいつの間にかこの世からいなくなっている。大学之助の影のような存在であったことがここでもわかる。

仁左様の宮城県での歌舞伎公演支援で、仁左様のサイン入り舞台写真が数点販売されていた。18日の観劇時に2点購入したheart04  瀬左衛門殺しで刀を立てて見得をきる大学之助(後で見たら、プログラムの去年の写真の中にそれに近いものがあった)と、お松を投げ込んだ井戸の縁に足をかけて覗きこむ太平次。

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コメント

SwingingFujisan様
お早うございます。
殺されない役を演じたのは、市蔵ですか。
私は、この演目、昨年も見ましたので、大震災から1年たったのかと感慨新たでした。
皆さんおっしゃるように、松嶋屋がますますパワーアップしていました。前回素晴らしかった太平次はもちろん、筋を追いがちの展開だった大学も役の深みがでていたような気がします。
これからも、新歌舞伎座で再再演を期待したいものです。
ところで、大詰め、男女蔵の役がお父さんの演じる役に殺されたように見えたのですが、何故か私なりに受けました。

投稿: レオン・パパ | 2012年4月25日 (水) 06時35分

レオン・パパ様
おはようございます(もうお昼ですね)。コメントありがとうございます。
殺されなかった役、正解です。チラシに写真のない人も含めて、いったい何人が殺されたんでしょうね。福岡貢以上でしょうか。
仁左衛門さんの大学、国崩しの大きさがあってよかったですねえ。今後は松永大膳なども見てみたいです。
去年も今年も好評でしたし、新しい歌舞伎座でもぜひやってほしいですね。
そうそう、男女蔵さんの玄蕃は左團次さんの弥十郎に殺されたと思います。私も内心、ニヤっとしました。
PS 「法界坊」はもう少しお待ちを。

投稿: SwingingFujisan | 2012年4月25日 (水) 11時31分

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