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2012年4月 4日 (水)

悪の徹底:「絵本合法衢」

43日 「絵本合法衢」初日(国立劇場大劇場)
12040301kokuritu 去年、地震で公演中止になったあの「絵本合法衢」が又見られる。しかし、その初日はなんと台風並みの暴風雨の予報。普段の国立開演より30分遅い1230の開演は朝少しでも楽ができるからありがたいけれど、終演も遅くなる分、帰りのことを考えて、フードのついたレインポンチョ、バッグを入れる大きなビニール袋を用意した(結局傘をさせる程度の風雨で帰れたのでポンチョなどは必要なかった。東北・北海道の方、まだまだ嵐は続くようなのでお気をつけて)。さくらまつりは中止だったけれど(私はまつりの期間中行く予定はないので残念)、国立の桜は満開。開演前は雨も降っておらず、桜を楽しむ人もたくさんいた。ともかく初日が嵐ならこの先無事に千穐楽まで公演が続けられるだろうと思いたい。
先に一つだけ、「ん?」と思ったことを言うと、高橋3兄弟のうち三男の孫三郎は幼いうちに商家に養子に出されて与兵衛と名乗っており、長兄の顔は知っているものの次兄の顔は知らないという設定になっている。去年段四郎さんが演じた高橋瀬左衛門(長男)を今年は左團次さんが次男・弥十郎との2役で演じている。すると、瀬左衛門に出会ったときすぐに兄だとわかった三男・孫三郎が長兄にそっくりな次兄を見て兄と気づかないのはおかしくはないだろうか。そういうツッコミをしたくなるのは、同じ2役の仁左様、大学之助と太平次の顔がそっくりだから与兵衛は太平次を嫌っているからなんである。まあ、それでもそういうツッコミをするのは野暮というものであろう。忘れてください。
その左團次さんの2役ということをすっかり意識から飛ばしていた私は、今そこに斬られて横たわっている左團次さんが上手から現れたのでビックリした。ややあって、そういえばさっき吹き替えと入れ替わるチャンスはあったな、とやっとニブい意識が戻ったのであった。
大学之助の強烈な凄みを発する武家の悪、大平次の愛敬を感じさせる市民の悪(去年も書いたけれどいがみの権太を思い出させる)、どちらも悪人であることにまったく躊躇はなく、徹底的に悪人なんである。しかも仁左様の悪は去年よりバージョンアップしているような気がした。そのせいか、途中で、こんなに悪い人たちがこれでもかと殺人を重ねているこの芝居っていったい…?と思ってしまった。しかし仁左様は大学之助と太平次の演じ分けをきちっとしているから、どちらの悪も魅力的で、冷酷無比、極悪非道、次から次と残忍に殺す大悪人なのにどこかで受け入れてしまうのである。悪の華とでも言おうか。悪人願望なんか全然ないのに、わくわくしてしまう。破滅的な悪の魅力が舞台に漂っていた。

時様のうんざりお松、四条河原の蒲鉾が開いて姿を現した途端、ため息が出た。なんという悪婆の美しさ。伝法で平気で蛇を引き裂いたりできるくせに(私はこの場面、作り物でも目を背けたくなる。にょろにょろ系は大の苦手なんである)、太平次にぞっこんで女房のお道に嫉妬したり、捨てないでと甘え脅してみたり、女としてかわいいところもある。お松もワルい女には違いないが、あっけなく殺されてしまってかわいそうだった。時様の悪婆は比較的あっさりはしているものの、上品な色気があって好き。
お松のライバル、太平次女房お道。去年は、盆が回り切るまで崩さなかった吉弥さんの美しい海老反りが印象的だったが、今年の秀太郎さんは最後、呆然と立ち尽くすようにしてやがて頽れ、座った格好のまま盆が回った。吉弥さんとは対照的なリアルな最期だったが、これはこれでまたお道の哀れさを感じさせた。秀太郎さんと仁左様との夫婦役にはいがみの権太の時のように独特の空気が流れるが、権太と違って太平次は平気で女房を踏みつける。
愛之助さんの与兵衛が気の毒で、死に際の熱演に思わずうるうるした。瀕死の与兵衛に「最前名乗り合うたなら、かかる最期はさせまいもの」と弥十郎が嘆くが、自らの素性と敵の名を明かそうとした与兵衛を抑えて「その名はめったに明かすまいぞ」と名乗らせなかったのはあなたではないか…。その悔いが悲しい。しかし弥十郎は弟の最期を看取ることなく仇討へと向かう。仇討の厳しさがこういうところにも感じられる。
孝太郎さん、筋書きの写真にヒゲがあって、一瞬、「だれ?」とわからなかった。愛之助さんの夫との間に流れる夫婦感がとても自然で微笑ましいだけに、わが身を犠牲にして大学之助の手に落ちる(あっという間に駕籠に乗せられ)のが哀れであった。
梅枝クンのお米のはかなげな美しさ。死に行く形もきれいだった。役の本質を摑んでいるのだろう。
20期研修生が町人、諸士、陸尺役などで出演していたが、しっかり芝居に馴染んでいて感心した。
今回の席は前方花道そば。同じ花道そばでも後方で見たかったなと思っていたら、去年の感想に「花道使いが多いから1階後方花道そばを取るべきであった」と書いていた。それをすっかり忘れ、今年も去年もほぼ同じような席で見てしまった。もう一度見る予定の日も去年と同じ最前列。バカだねえ。
面白いことに、感想も去年と今年でほぼ同じ。
忘れていたと言えば大詰第二場の閻魔像、「おおっ」と声が出た。これを忘れていたとはね。
<上演時間>序幕50分(12301320)、幕間30分、二幕目60分(13501450)、幕間15分、三幕目45分(15051550)、幕間20分、大詰35分(16101645

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歌舞伎ミーハー観劇記」カテゴリの記事

コメント

おはようございます。

Swingさまも初日ご観劇だったのですね。
あのお天気のせいかかなり空席が目立っていたのは残念でしたが、仕方ありませんね。私も終演後とっとと家路についたおかげで、先週土曜日のような悲惨な目にはあわずにすみました。

仁左様の悪、昨年よりもさらにパワーアップ、バージョンアップ、同感です。どの幕もどきどき、クラクラしておりました。時様のうんざりお松が井戸に落とされる前の花道でのやりとりですが、昨年は自分も殺されるんじゃぁないだろうか、みたいな台詞があったように思うのですが。そして昨日はそれがなかったと思うのですが。勘違いあるいは聞き逃しかしら。

梅枝くん、確実に前回よりも美しく、凄惨な死にようでした。時様とどちらの出だったか忘れましたが、あら?と一瞬二人を見間違えたことがありました。。。

あと3回通う予定♪のからつぎでした。

投稿: からつぎ | 2012年4月 4日 (水) 10時28分

おはようございます。
お嬢様が帰国されてるから、歌舞伎をご覧になるのはまだまだ先かと思ってました。お二人でいらしたのかしら。
私も去年、運良く見られましたが、あんまり覚えてない・・・と思ってました。ところがSwingingFujisanさまのレポを読んでると、そうだったsign03と、どんどん思い出していきます。ま、1年前のことをすっかり忘れてる、ってことでは、私も負けません(競ってどうするbleah)。常に感動が新鮮、ということで、いいんじゃないでしょうか。え? 相憐れむ状態におちいってるかな。
私は観劇予定が変更になってしまい、これからチケットを取り直さねば、なんですが、もともと3階席のチケットを持ってたのに、やっぱり1等を奮発するか、と思わされたのでした。

投稿: きびだんご | 2012年4月 4日 (水) 10時40分

からつぎ様
こんばんは。コメントありがとうございます。
やはりからつぎ様もいらしたのですね!!
昨日は幕間に外を見て雨風の状況を気にしていらっしゃる方をけっこうお見受けしました。
無事にご帰宅されて何よりです(先週は大変でしたね)。
初日は平日であのお天気でしたから、ちょっと残念でしたが、拍手を聞いて安心しました。

お松のセリフ、台本を見比べましたが、去年とほとんど変わっていませんでした。「今はこうして連れだっているが家へ帰ってきれいなかみさんの顔を見たらあっちのことは忘れてしまうに違いない。いいとこだけの使い捨てとそのツラに書いてある。あっちを踏みつけにしやがると毒酒を飲ませた一件を喋るよ」というようなセリフです。
でも、からつぎ様にご指摘いただいて、私も去年はそんなセリフがあったような気がしてきました。

1階後方席で奥様方が観劇していらして、たまたま通路で仁左様の奥様にぶつかりそうになりました。先日のBSの放送拝見しましたと話しかけたかったのですが、勇気が出ませんでした。

からつぎ様はあと3回ですか!! 私は今のところあと1回なんですが、やっぱり全部で少なくとも3回は見たくなって、いつ行こうかと今、日程調整中です。

投稿: SwingingFujisan | 2012年4月 4日 (水) 21時11分

きびだんご様
こんばんは。コメントありがとうございます。
演舞場も国立も1人で参りました。どちらも娘の外出日に当たり、うまい具合に予定を入れることができました。
私はお芝居自体は比較的覚えているつもりだったのですが、やっぱり飛んでしまっている部分があるんですねえ。常に感動が新鮮--そうですよねっ!!

このお芝居を1回だけ見るとしたらどの席がいいんでしょうねえ。役者さんの顔を間近で見たいし、舞台を広く使っているので全体を見渡せる席で見たいし、花道の引っこみは最後までしっかり見たいし、結局3回見たいってことになるのですわbleah 

投稿: SwingingFujisan | 2012年4月 4日 (水) 21時22分

私は4/7(土)に観て参りました
左團次さんが2役経験済みとは言え、まだちょっとテンポが悪く、芝居が途切れるところがございました
時蔵のお松も良かったですね
個人的には「孝玉」で上演した時の玉三郎のお松が頭から離れません・・・
私も孝太郎の口髭にはびっくりですが、左團次さんのお顔にも別の感慨を持ちました
国立劇場の写真は評論家の上村以和於さんではないけれど新しい発見や「味わい」があって面白いです

今日は久々の「小笠原騒動」になります
平成中村座はプログラムの100円サービスがないのと上演記録がないのが残念です
さて演舞場で観たのは何年前だったでしょうか・・・

昨日も人出で電車も満員状態でしたが
今日も花見の盛りで隅田川岸は賑やかでしょうね

投稿: うかれ坊主 | 2012年4月 8日 (日) 07時24分

うかれ坊主様
お帰りなさいませ。コメントありがとうございます。
初日も左團次さんはややテンポが悪いところがあったかもしれませんが、さほど気にはなりませんでした。お顔に関しては私もある感慨をもちました。
このお芝居は去年見たのが初めてですので、玉三郎さんのお松は知る由もありませんが、見てみたかったなあと思います。

中村座のプログラムに関するご意見、まったく同感です。せめて上演記録はほしいですね。

昨日は午後から曇って真冬に戻ったような寒さでしたが、今日は上天気。隅田川岸の人出は大変でしょう。去年のことを考えると、こうして大勢の人出の中で桜を見ることは喜ばしく、ありがたく思います。

投稿: SwingingFujisan | 2012年4月 8日 (日) 14時12分

初演の時の「演劇界」を観てみましたら、犬神は染五郎でお早とお大の方を扇雀になっています。橋之助は岡田良助と遠江守の2役。組み合わせも今回と大分違っています。
亀鶴が芳彦名で小姓山路貢役で出ていましたよ。          
今回の大詰の立ち回りは久しぶりに気持ち良いタテを観たように思います。勘九郎も大太刀をこなし、飛び降りたりの奮闘。気持ちが良かったですね。

波乃久里子さんが観においででした

「夜桜」がきれいな浅草でした

投稿: うかれ坊主 | 2012年4月 8日 (日) 23時19分

うかれ坊主様
情報、ありがとうございます。
南座での公演でしたのね。亀鶴さんは、この時の山路(今回、山路貢という役はないようですね)も含めて高い評価を得て日本俳協会賞奨励賞を受けているんですね。
立ち回りはわくわく、楽しかったですね。なるべく早く感想をアップするようにしたいと思っていますが、色々忙しくて…(途中まではできているのですが)。
満開の夜桜、川べりの散歩、そして中村座--浅草はいいですねえ。

投稿: SwingingFujisan | 2012年4月 9日 (月) 00時57分

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