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2012年4月 7日 (土)

日本美術の至宝を見る:ボストン美術館展

44日「ボストン美術館 日本美術の至宝」(国立博物館平成館)
12040701boston この前NHKでこの展覧会を紹介している番組を見てぜひ行きたくなり、娘と鑑賞。ところがせっかくこの時期に行ったのに入口から平成館までの桜に興奮してしまって「博物館でお花見を」イベントを見逃してしまった。超残念bearing
でも展覧会はすごく面白かった。修復された作品も多いのだろうが、全体に状態が良くて素晴らしい。それほど混雑しておらず、作品の正面からじっくり鑑賞することができた。
プロローグ「コレクションのはじまり」
まず平櫛田中の「岡倉覚三像」が目をひく。釣り人姿の岡倉天心像である。あ、昨年8月、東京芸大で開かれた「今 美術の力で」展で見た「五浦釣人」と同じだ。いや、同じ作品であるはずはないが、先に制作された「五浦釣人」に基づいてこの作品が作られたそうだ。この像を見て再び津波の恐ろしさを思った(「今 美術の力で」では六角堂の被害についての展示があった)。
次に目に入ったのは「ビゲローの肖像」。ボストン美術館の日本美術コレクションはフェノロサとビゲローによって始められたとのこと(ビゲローは知らなかった)。当時の日本は廃仏毀釈など明治政府の仏教芸術否定、伝統文化軽視により貴重な文化財の多くが失われようとしていた。日本文化を愛し理解していた彼らは比較的容易に優れた作品を手に入れることができたそうだ。彼らはコレクターでもあったが、破壊されかけていた仏教芸術を救ったとも言える。フェノロサの教え子であり通訳をしていた岡倉天心も日本古美術の保護に努め、ボストン美術館の中国・日本部長となる。この3人なくしてはボストン美術館の日本美術コレクションは語れないということである。
ここに展示されている狩野芳崖「江流百里図」はどう表現していいかわからないけれど、何か不思議な感覚にとらわれる。橋本雅邦「騎龍弁天」は色鮮やかで、弁天が今ちょうど龍に乗って雲間から降りてきたところ、という臨場感に溢れる。
第一章「仏のかたち 神のすがた」
「法華堂根本曼荼羅」「法相曼荼羅図」「馬頭観音菩薩像」「普賢延命菩薩像」など、じっくり見るべしの仏画、快慶作「弥勒菩薩立像」(姿、衣紋の流れが美しい)、康俊作「僧形八万神坐像」(顔が本当の人間のようで、ちょっと心惹かれる)などの彫刻が展示されている。仏画はかなり傷みのみられるものもあるが、奈良・平安時代の仏画が目の前にある!!と思うと不思議な気がして昂揚感が湧く 。「弥勒如来図像」は画像の下絵だということで、作者自身の修正を指示する書き入れがあって興味深い。
第二章「海を渡った二大絵巻」
「吉備大臣入唐絵巻」4巻と「平治物語絵巻」の一部が展示されている。ここは並んででも順番に見るべき。「吉備大臣入唐絵巻」は吉備真備が唐の宮廷で無理難題を色々吹っかけられるが、阿倍仲麻呂の幽鬼に助けられて無事日本に帰国するという話がユーモアたっぷりに描かれている。たとえば、超難解な「文選」を読ませて間違えたら笑ってやろうと待ち構える唐人。しかし真備は幽鬼(空を飛べる)の導きで「文選」の講義を盗み聞きして、唐人の問いに見事に答える。また、囲碁を打たせてみようという唐人の企みに、囲碁とは何たるかを知らない真備は幽鬼に教わり、組天井を碁盤に見立てて夜もすがら研究し、唐の囲碁の名人と戦った。その際、真備は相手の石を一つ呑み込んで勝利した。唐人は怪しんで真備に下剤を飲ませて調べたが、真備は頑張って出さなかったそうな。唐人が鼻をつまんで調べている姿なんか笑ってしまう。
そうしたわけで、真備は「文選」と囲碁を日本に伝えたのであるそうな。
漫画を見ているみたいで、実に面白かった。
「平治物語絵巻」は後白川上皇拉致の場面を描いた「三条殿夜討の巻」である。源義朝、藤原信頼らの急襲に上皇側のさぞやの大混乱がドラマチックに迫力をもって描かれている。牛車の車が幾重もの同心円で描かれていたり、猛スピードで走ろうとする牛の足の形など、現代の漫画に共通するものがあるのも興味深い。
第三章「静寂と輝き――中世水墨画と初期狩野派」
「傾城反魂香」でお馴染みの狩野元信、狩野雅楽助の作品が見られる。芝居の人物と実際の人物が同一かどうかはともかくとして、やはり関心は一段と高まる。元信の人物像は穏やかな表情をしている。「韃靼人狩猟図」にその雰囲気が伝わってきて、ロマンを感じると言ったら変だが、とにかく何かそのようなものを感じた。雅楽助は松と岩、麝香猫の表現が面白い(これが狩野派の表現なのかどうか、私にはわからない)。

第六章「アメリカ人を魅了した日本のわざ――刀剣と染織」
第三章までが第一会場。そして第二会場のトップはなぜか第六章。関心がないわけではないが、着物はよくわからないのでざっと見て歩いた。でも、保存状態がとてもよく、1819世紀のものなのに色鮮やかでとても美しいのに驚いた。刀で名前を知っているのは備前長船くらいだけど、日本刀はきれいだ。反りを脇から見たら、正面から見るのとまた違った印象を受けて面白い。また刃紋に色々な種類があり、その違いが興味深かった。「髑髏城の七人」の高田聖子・贋鉄斎を思い出した。
第四章「華ひらく近世絵画」
まずは長谷川等伯「龍虎図屏風」に目を奪われる。虎の動きを予感させるような迫力がいい。そして、これはあの又平ではなさそうだけれど、土佐光起(元信、雅楽助は16世紀中ごろ、光起は17世紀後半)の「王昭君図」。絶世の美女・王昭君のたおやかな強さが感じられた。
しかし名作揃いの中で私の一番の注目は若冲。録画しておいたNHKの若冲特番、6時間もあるから面倒くさいなあと思いつつ見始めたら面白くて、何年か前に博多座へ行った折大宰府に寄って九州国立博物館で見た若冲展をもっとちゃんと見ておけばよかったと今さら後悔していたから、「鸚鵡図」は嬉しい。白の使い方にとくに注目して見たが、残念ながら私の眼力ではそういう細かい点まではわからなかった。「十六羅漢図」は、狩野一信の「五百羅漢」のインパクトが強すぎるが、筆使いなどを想像しながら見たら楽しかった。
第五章「鬼才 曽我肅白」
この展覧会を見る目的は本当は瀟白であった。初めて見る瀟白の絵はスケールが大きく、ユーモラスで、ちょっと奇怪だった。しかも、とても丁寧に細かく描いているかと思えば、ひどく手抜きをしてざっくりと描いているような部分も見えて、そのアンバランスさが面白い。話題の「雲龍図」はダイナミック。迫力たっぷりである(等伯の「龍虎図」の龍と比べてみると面白いかも)。これだけでも十分なのに、元は胴体部分があったということに驚いた(胴体部分は消失)。8つの図が4対に巻かれた状態で保存されていたものを8枚の襖絵として修復、表装されたそうだが(本来襖絵だったものが掛幅装など巻かれた状態で長年保存されると深い皺やひびが入る)、この作品に限らず修復の努力には頭が下がる。

こうして日本にあったら間違いなく国宝級という作品を何点も見てくると、海外に流出させてしまったことを残念に思う一方で、フェノロサたちが収集できずに消失した貴重な作品も多々あっただろうし、少なくともこれらの作品が海外で大事にされてきたことはありがたいとも思うのだった。日本の至宝がこれだけたくさん一度に見られる貴重な機会である。

 

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コメント

こんばんは、ひじきです。

今日、上野に行ってきましたよ。
でも・・・東博行きませんでしたぁ・・・
絶対、混んでいると思ってはいたものの・・・
上野は、想像以上に混んでました。
蓮玉庵というお蕎麦屋さんでお蕎麦を食べて、
あっさり恵比寿に移動、
山種美術館で日本画の桜のお花見をしてきました。
ボストン美術館展は、後日、友人と平日に休みを合わせて
行くことにしました。
この感想を読んで、ますます楽しみになりました

投稿: ひじき | 2012年4月 8日 (日) 22時42分

ひじき様
こんばんは。コメントありがとうございます。
東博は平日にいらっしゃるとのこと、ゆっくりご覧になるためにはやはりそのほうがいいですね。でも、あまり会期後半になると平日でも混むでしょうから、お気をつけくださいね。
山種は駅からちょっと距離がありますが、こぢんまりしていい美術館ですよね。日本画の桜も風情があって素敵でしたでしょう。

私は今日は、北の丸公園→千鳥ヶ淵→靖国神社→上野公園と桜を見てまいりました。上野は夜でしたので宴会も7割程度というところ、でも昼はどんなにか人出がすごかったことでしょう。ひじき様が上野を早々に退散なさったのもナットクです。

投稿: SwingingFujisan | 2012年4月 9日 (月) 00時38分

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