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2012年5月31日 (木)

5月松竹座千穐楽昼の部

527日 團菊祭五月大歌舞伎千穐楽昼の部(松竹座)
12053101syotikuza 「寺子屋」
文句なくよかったのは菊之助さんの千代。あの若さで政岡、玉手御前を見事に演じきった実力がここでも遺憾なく発揮された。後半になって舞台がぐっと良くなったのは、菊之助さんが登場したからなんだろう。
夫と2人、前の晩に泣くだけ泣いて覚悟を決めた我が子の犠牲だが、理屈では納得しても母親の愛情・感情はそんなものではない。主君の役に立ってくれた我が子の愛おしさと悲しみが痛いほどこちらの胸に突き刺さる。武部源蔵に斬りかかられての「若君菅秀才のお身代わり、お役に立ててくださったか」、持つべきものは子なるぞやという夫の言葉を聞いての「あの子がためによい手向け。思えば最前別れた時、いつにない後を追うたを叱った時のその悲しさ」、肩をすぼめて身を小さくして悲しみに耐えている姿――今思い出しても涙が出てくる。一体に若手の芝居は感情がリアルにストレートに伝わってくることが多く、菊之助さんの千代にもそういう面はあったが、大仰に悲しみを表現するのではなく、体全体に悲しみがにじんでいる。義太夫狂言の味も十分感じられて、しみじみよかったと思う。
梅枝クンは、去年の「頼朝の死」で孝太郎さんより年長の役を落ち着いて演じていたのがとてもよかったのでかなり期待していた。おじいさんの三代目にそっくり(写真で見た三代目ね)でいい戸浪ではあったが、いかんせん若いなあという気がしてしまう。それは源蔵の海老蔵さんにも言えることで、その若さは何であろうと考えると、微妙な間の短さとか、動きの振幅の細かさとか力みとかいうものなのかなあ。たとえば源蔵が小太郎の顔を見て身代わりを思いつくタイミングがちょっと早いような気がしたし、2人の混乱ぶりがリアルすぎるように感じたのだ。でも、後半になると2人ともそういうものが消えたのか、気にならなくなった。菊之助さんに引っ張られて演技が落ち着いてきたのだろうか。戸浪に関しては偽首がバレたらいつでも刀を抜く覚悟の源蔵の脇で息を詰めて祈りながら自分も命を懸ける覚悟が見えたし、夫と一緒に後戻りできない企みをエスカレートさせてしまった罪悪感や千代を思いやる気持ち(「他人のわしさえ骨身が砕ける。親後の身ではお道理」、野辺送り等々)は十分伝わってきて、やはり涙した。年齢と回数を重ねていけば絶対いい戸浪になるという期待は間違いなくもてる。
松緑さんの松王丸は顔が小さいせいか意外と立派に見えず、セリフ(というか声かも)も今一つな気がしたが、その一方で恩に応えるためには子を犠牲にするしかなかった松王の苦悩と悲しみがストレートに伝わってきて泣けた。
海老蔵×梅枝コンビは3年前の「神田ばやし」でお似合いと思っていたので、嬉しい。でも海老蔵さんの源蔵は目が鋭すぎるし、松緑さんと役が逆でもよかったのかなと思わないでもない(海老ちゃんの松王は2年前に見て、悪くなかった)。野辺送りで海老ちゃんが手を合わせる姿に、主君のためとはいえ、いたいけな子を自らの手で殺さざるを得なかったことへの詫び等、万感の思いを感じて泣けた。そう、松王にしても源蔵にしても今一つと思いながら、泣けたのだ。後半、周囲でもすすり泣きの声があちこちから聞こえてきた。
亀寿さんの涎くりはハナタレ小僧ぶりが面白く笑わせた。
亀三郎さんの春藤玄蕃は憎々しくて、そうなるともう少し愛敬が欲しい気もしたが、本物の首だと信じて、「忠義と言うも命は惜しいものだな」という嫌味に強い説得力があった。
吉弥さんの園生の前の登場により、舞台に厚みが増したような気がした。
今回見て、自分の記憶力のなさを痛感したこと2つ。1つは源蔵が出かけている間、他の子が手習をしているのに菅秀才はテキストを読んでいたこと(手に細い棒をもってテキストを追っていた)。菅秀才役の子がお手本の同じところを何回もなぞっていたのを見たような記憶が強くあって、読み物をしている姿は初めてだと思ってしまった。必死で記憶を辿ってみると、菅秀才はいつも読み物をしていたかも。
もう1つは山家育ちの中の器量よしの子。首に黒い痣だか墨がついているのを、これも初めて見たと思ってしまった。う~ん、こちらは記憶がない。
浄瑠璃の竹本鳴門太夫さんが清太夫さんを思い出させるような大熱演で、大いに感動した(清太夫さんの消息を最後に知ってから1年半…)。

「身替座禅」
團菊がガチで組むのに、しかもこの顔合わせは初めて見るのに早起きのしわ寄せがきて、ところどころ意識を失った。お芝居がとても心地よかったせいもあるかもしれない。
團十郎さんの玉の井は、夫に花子という愛人がいることよりも、自分をだまして会いに行ったことへの悲しみが怒りになったという感じがした(正直に言ってくれれば会いに行かせないでもないのに、と玉の井は言うけど、右京さんにしてみればそんなこと言えるわけないよね~)。團十郎さんは過剰な化粧をしたりせず、無理に可笑し味を強調することもなく、大らかに愛情とやきもちと懲らしめを表現して、とっても素敵な奥方だった。
菊五郎さんはおっとりうっとり、品よくほろ酔い、こちらもとても素敵で、玉の井が離れたがらないのもわかろうというもの。
なんだかんだとありながら、末永く仲睦まじく生きていくんだろうなあ、この夫婦、という味わいであった。
常磐津一巴太夫さんの美声が聞けたのが嬉しい。
「封印切」
寿治郎さんのお大尽がいかにも、な空気を醸しだしていて、気持ちは一気に廓の世界へ飛んだ。
菊之助さんの梅川は瑞々しくきれいで、一途な可愛さが魅力的だった。藤十郎さんが若いのももちろんだが、大御所にひけを取らず、2人のカップルにはまったく違和感がなかった。
藤十郎さんはもう自由自在。あんなにじゃらじゃらして、子供みたいに張り合って後先考えず、ほんとおバカなんだから。自分のしたことに気づいて真っ青になり、ふらふらと梅川の後を追う。呆けてしまった人とはこういうものなのか、とその姿を見て思った。私の席からは引っ込みが最後まで見えなかったが、定式幕がゆっくりゆっくり引かれるのを見て、忠兵衛の足取りを想像した。
三津五郎さんの八右衛門は、忠兵衛に封印を切らせたかったんじゃないかと疑ってしまうほど、忠兵衛という人間を見抜いて挑発していく。三津五郎さんのきっぱりとした江戸っ子風味は上方のやわらかさとは違うのだろうが、八右衛門が追い込んでいく様子が面白い。悪どいヤツと思いつつ、忠兵衛がつくづくアホに見えて、どうして梅川はこんな男に惚れちゃったんだろうと嘆かわしくなる。でも、忠兵衛を知る人はみんな忠兵衛を好きで八右衛門を嫌っているんだわね。まあ、この八右衛門ならそうだろうなあ。
東蔵さんは本当に器用な役者さんだ。遠目、時々秀太郎さんに似て見えた(立ち姿の体の角度とか)。ラスト、忠兵衛を見送る姿が「おえんは何を思う人ぞ」と印象的だった。
それほど好きな演目ではないだけに、役者の魅力で見せてもらったと思った。
<上演時間>「寺子屋」80分(11001220)、幕間25分、「身替座禅」55分(12451340)、幕間15分、「封印切」80分(13551515

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コメント

おはようございます。
ちょうど大阪の友人から、写真の入った筋書(番附?)も送られてきて、また一気に松竹座にタイムスリップした気分です。
身替座禅、そうなんです。「末永く仲睦まじく生きていくんだろうなあ」というのが、あははと笑って見終わったあとにいつまでも残ってるんですよ。思い出すだけでニッコリしちゃいます。大人にこそ見てもらいたいファンタジー、でしょうか。
寺子屋、菊之助の千代がほんとによかったですね。今、七之助や梅枝が輝くばかりに美しく素敵になっていて、かつてそうだった菊之助はもう一段階、上にいったのかな、と。やっぱり女形の菊之助を見ていたいです・・・。

投稿: きびだんご | 2012年6月 1日 (金) 08時26分

きびだんご様
おはようございます。コメントありがとうございます。
写真入りの筋書は記憶を新たにしてくれるし、思い出を甦らせてくれるし、気持ちがもう一度盛り上がりますよね。松竹座は公演前半に行くことが多くてなかなか写真入りの番附を買うことができなかったのですが、今回はバッチリでしたsmile
身替座禅は色々なコンビで見ましたが、團菊はどちらも大らかさがあって、春のようなほんわかした感じが好きです。そう、大人のファンタジーですね!!
菊ちゃんは輝きの中にしっとりした大人の女の落ち着きが入ってきて、ちょっと図抜けていますね。今回の松竹座は戸浪目当てだったのですが、あの素晴らしい千代を見ることができたのは実に幸せなことでした(戸浪ももちろんよかったんですけれど、とくに後半)。
東京でも上演して、ぜひ多くの人に見せてほしいと思いました。

投稿: SwingingFujisan | 2012年6月 1日 (金) 11時24分

梅枝さんのおじいさんは4代目さんです
35歳で夭折してのでおじいさんというイメージが薄いかもしれませんね
よって3代目さんはひいじいさんです

4代目ファンなので思わず突っ込んでしまう「うかれ坊主」でした

投稿: うかれ坊主 | 2012年6月 1日 (金) 16時10分

うかれ坊主様
ご指摘ありがとうございます。失礼いたしました。
まったくおっしゃる通りで、私はうっかり当代から見てのおじい様という意味で三代目=おじいさんにしてしまいました。
梅枝さんがそっくりなのはひいおじいさんの三代目です。
四代目には錦之助さんのほうが似ていらっしゃるかしら。

投稿: SwingingFujisan | 2012年6月 1日 (金) 17時35分

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