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2012年5月13日 (日)

五月花形歌舞伎夜の部「椿説弓張月」②:鑑賞

56日 五月花形歌舞伎「椿説弓張月」(新橋演舞場)
「上の巻」
三島が衝撃を受けた「大序」よろしく、「弓張月」も人形のように顔を伏せている。浅葱幕が振り落されるとそこは伊豆大島の岩山。頂上近くの鳥居の前に為朝(染五郎)がいて、下には上手に紀平治(歌六)、下手に高間太郎(愛之助)が控えている。竹本が「鎮西八郎ためと~も~」と言うと為朝が命を吹き込まれ、目を開けて矢を放つ仕草をする。紀平も高間太郎も同様にして動き出す。
保元の乱で敗れた崇徳(三島は「すとく」ではなく「しゅとく」と読ませている)上皇側の為朝は配流先の伊豆大嶋で代官の娘・簓江(芝雀)との間に為頼・島君という子を儲けている。しかし、簓江の父が平家の先導として為朝を急襲する。戦の始まりを示す為朝の鏑矢は岩をも貫くのであるが、染五郎さんが矢を放つふりをしてぱっと捨てて黒衣さんが隠すタイミングがイマイチだったのが残念(難しいんだろうなあ、こういう遣り取りって)。でもまだ日が浅いから。
多勢に無勢というか為朝側は地元の漁師たちがプロの軍兵と戦うのであるから不利も不利。簓江は娘の島君を抱いて海へ飛び込んで自害(「大物浦」を思い出す。芝雀さんがこんなにあっけなくいなくなるとは思わなかった)。為朝の無聊を慰めようとした心遣い(子供たちを山車人形に見立てる)が為朝の怒りに触れたうえに、親子ともどもの自害。本妻の白縫姫なら絶対にこんな企画は考えないだろうが、現地妻の哀れである。
幼い為頼は健気にも敵と戦うが傷を負い、切腹する。瀕死の為頼はそこへやってきた父為朝に介錯を頼んで源氏武士らしい壮絶な最期を遂げる(「源氏武士らしい」死には、この前の段階で伏線がある)。ここは三島自身の割腹自殺を思わせるような…。玉太郎クンが健気で、また「ご介錯を」と言う玉太郎クンの顎の下に添えた染五郎さんの手と玉太郎クンの顔の大きさが同じくらいで、悲しかった。息子に源氏の精神を教えた為朝が我が子の首を落さねばならない。何度もためらう為朝…号泣する為朝…為朝だって人の子である。

戦況不利のため、為朝は紀平次とともに、高間太郎は妻・磯萩(福助)とともに船で脱出する。船2艘と浪布の舞台。
「中の巻」
為朝は讃岐の国へ赴き、崇徳上皇の墓前で自刃しようとするが、そこへ父・為義(友右衛門)や上皇の亡霊(翫雀)が現れる。上皇の「肥後の国へ行け」という言葉に従うことにする。上皇一行の亡霊が現れるのは肥後山中の闇夜。天上から遠見の子役を使ったりしてじぐざぐに優雅に降りてくる様が幻想的であった。崇徳上皇というと怨霊として恐れられた存在であるが、この亡霊にはそんな恐ろしいイメージはなかった。
肥後の山中で為朝と紀平治はイノシシを素手で退治する。このイノシシは獅子舞のように2人が入って後脚立ちをしたりする。これを見ていた山の猟師たちが祝い酒を飲ませるが、しびれ薬が入っていて為朝たちは捕えられてしまう。
ここで場は「山塞の場」となる。人里離れた肥後山中の山塞には死んだと思われていた為朝の妻・白縫姫(七之助)が息子・舜天丸(鷹之資)が住んでいて、白縫姫は自ら旗揚げすべく準備を整えていた。そこへ連れてこられた1人の男。武藤太というこの男は裏切り者らしい。自分は為朝が好きだった優雅な「薄雪の曲」を弾くから、「体に染み入るように竹釘打て」と腰元たちに命じる白縫姫(この竹釘打ちの仕置きは確か腰元のアドバイスだった)。はじめはふてぶてしい態度をとっていた武藤太だが、下帯1枚の姿にむかれ、腰元たちに次々と太い竹釘を打たれ、たまらず絶叫する。平然と琴を弾く白縫姫。優雅な腰元たちの残忍な所業。白い雪、流れる赤い血。嗜虐美とでもいうのだろうか。しかし幼い頃見たキリストの磔刑図がトラウマになっている私の心は、この場面を見て、再び傷口が開いた気分。
武藤太の薪車さんの均整のとれた身体、鍛えられて――おなかが6つに割れていた――きれい。悪いヤツでも哀れでならない。薪車さんの出番はここだけだったけれど印象的であった。
やがて立ち上がり、「息絶えしか。屍は狼に」と可愛い顔で冷然と言い放つ白縫姫。七之助さんが「小笠原騒動」の時のように冷酷な一面を見せた。
この山塞の格子状になった縁の下の後ろに雪が積もっているのだけれど、これが本当に積もっているように見えて、ついついそちらに目がいった。

この後、為朝と白縫姫は再会し(為朝と紀平治を捕えたのは白縫姫の手下だったのだ、な~んかマヌケな話)、ともに船で都へと向かう。雪の舞台がまわり、周囲は海となる。舞台がまわりきると、海の真ん中に竹本連中の山台が現れ、そのまま舞台上手へ。11枚背景が持ち上がって九州の島が小さくなり、為朝の船が遠ざかることを表わす。そして為朝の船がセリ上がる。雲行きが怪しくなり、波に翻弄される為朝の船。大仕掛な船の揺れに、乗っている人は本当に船酔いしないかなあなんて心配になってしまった。ヤマトタケルなら弟橘姫の身投げだわと思っているうちに、白縫もヤマトタケルの故事を持ち出し、海へ飛び込む。白縫の魂が黒揚羽となって飛び立つ。だけど、海は静まらない。白縫の身投げは何だったのか。沈没寸前の船を救ったのは崇徳上皇が遣わした烏天狗であった(もっと早く助けにこいよ~)。そして為朝は琉球へ。
一方、高間夫婦は舜天丸・紀平治とともにもう一艘の船に乗っているが、船が真っ二つに割れ、舜天丸・紀平治と離ればなれになってしまう。舜天丸・紀平治は黒揚羽の導きで巨大な怪魚の背に乗り為朝同様、琉球へ(ここで白縫の死が活きる?)。高間夫婦は海の真ん中の大岩にたどり着くもののどうにもならず心中する。高間太郎の腹からは血しぶきが上がる。愛之助・福助さんが美しい。この2人、舞台にいても控えめでちょっと寂しい気もするのだが(福助さんが控えめなのは好もしい)、この最期で印象づけられた。
「下の巻」
「下の巻」が一番面白かったんだけど、ここまででくたびれてしまったので、簡単に。
ここからは琉球のお家騒動が中心で、為朝はあまり登場しない。幼い王子を利用して王位乗っ取りを企む阿公(くまぎみ)が最後いわゆる「戻る」。阿公の翫雀さんは戻ってからが女性らしく愛らしさも見せ(顔が藤十郎さんにとても似ていた)、哀れであった。幼い王子も、罪はないのに阿公に操られ、短い命を阿公の手によって絶たれて哀れ。紀平治の歌六さんの控えめで手堅い演技、翫雀さんの女らしさを奥に含む女形、充実していた。
阿公を母の仇とつけ狙う鶴(松江)と亀(松也)の兄弟。2人は阿公が営む夫婦宿に潜入するために亀が鶴の女房に変装する。松也クンの美しさ。男から女へ、女から男へ、松也クンの魅力全開であった。
最後はめでたしめでたしで、為朝はスッポンから現れた白馬に乗って旅立つ。
主役は為朝であり、染五郎さんは貴公子のような武士のような…常に憂いを帯びた姿が私はけっこう好きなのだが、為朝は結局何をしたんだろう、という思いもなくはない。
これ、もう一度見るんだけど、この長さに耐えられるかな…。
<上演時間>「上の巻」58分(16301728)、幕間30分、「中の巻」92分(17581930)、幕間20分、「下の巻」80分(19502110

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コメント

演舞場は20日の日曜日に昼夜で観てきました。
夜の部は、思い切って中と下の巻にして見せるのも一案と思います。

この舞台で印象に残っているのは昭和62年の再演、当時左近と名乗っていた、現松緑が羽左衛門と共に怪魚に乗っている場面です。
この年、父、祖父を相次いで亡くしての舞台で涙を誘ったことを思い出します。
今回も鷹之資が同じ役で登場。父を亡くして1年という意味では同じような境遇です。

昼夜通して松也の活躍が目につきました


(PS1)太兵衛役の亀鶴の舞台写真がなかったのが残念。半次郎の1枚しかなかったのは残念でした

投稿: うかれ坊主 | 2012年5月21日 (月) 23時00分

うかれ坊主様
こんばんは。コメントありがとうございます。
昼夜通しとは大変でしたね。夜の部は、今回は意図するところあっての通し上演になったのでしょうが、少し整理されてもいいかなと思いました(それでも国立劇場での上演よりは短いようですね)。なるほど、上の巻を省くのも一つの手かもしれませんね。

鷹之資クンも松緑さんのように花開いてほしいですね。

松也クン、女形としての魅力が復活したのが嬉しいです。

亀鶴さんの写真、筋書きでも太兵衛は1人で写っていませんね。残念。

投稿: SwingingFujisan | 2012年5月22日 (火) 01時46分

こんばんは。

やっとこさ、見てまいりました→夜の部。

みなさんの「長かった」に覚悟していたせいか、私はちぃっとも長く感じませんでした。もちろんとってもおもしろかった!また、昼の部の豚姫でも薄々気づいていたのですが(笑)、どうも翫雀さんのこと、好きらしい。そして松也クン、よかったですねぇ。いつもの3階B席でしたので、夫婦宿への道すがらの花道での演技は声しか聞こえなかったのですが、充分に楽しめました。

昼の部は何度か意識を失っていたのですが、夜の部は一度もそういったことがなく(私としてはかなり珍しい)、しっかりと最後まで堪能しました。大好きな歌六さんの出番が多かったのも原因のひとつかもしれません。結局みーはーな私は「人」で見てるのかなぁ。

今月は下旬集中観劇のからつぎでした。

投稿: からつぎ | 2012年5月25日 (金) 23時21分

からつぎ様
こんばんは。
ひょっとして千穐楽をご覧でした? 私も千穐楽夜の部を見ておりました。
多分、明日あらためて感想を出せると思いますが、この長さに2度目は耐えられるかしらとちょっと心配していたのが、ぜ~んぜんで、からつぎ様ご同様、大変楽しく見ることが出来ました。いや、むしろ2度目のほうが面白かったかも。

翫雀さん、実は私も好きらしい…のです。とくに豚姫とか阿公のような女形が(松竹座の「におてる太夫」も)。今日も泣いてしまいました。

松也クン、昼夜ともよかったですよね。昼の部の酔っぱらってとても色っぽい写真、残念ながら完売でした。

私もみーはーで、人で見ている部分が大きいのかもしれません。でも、役者さんが魅力的だからこそ、お芝居も面白いんだと思います。

投稿: SwingingFujisan | 2012年5月26日 (土) 00時21分

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