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2012年6月 9日 (土)

六月大歌舞伎昼の部①:魅力的な小栗栖の長兵衛

69日 六月大歌舞伎昼の部(新橋演舞場)
12060901omodakaya 戻りで取ったのが7月演舞場ゴールド発売日という間の悪さ。今月の発売日は忘れるし、どうも襲名公演とは相性が悪いと嘆いても仕方ない。一応、希望の日の席は何とか確保した(千之会は諦め)。
「小栗栖の長兵衛」
中車さんを歌舞伎の舞台で初めて見るこの演目、期待にたがわず面白かった。
幕が開くと、2人の百姓(喜猿・猿琉)が村の茶店で店の者たち(茶屋亭主:猿三郎――誰も呼んでくれないけど重助という名前がちゃんとある、って猿三郎さんがブログに書いている――、その女房・段之、娘・猿紫)と明智が敗れたなど世情についてお喋りしている。そこへ百姓長九郎(寿猿)が、娘・おいね(笑三郎)とその婿の七之助(門之助)を伴ってやってくる。世間話をする中で、困り者の長兵衛のことが話題になる。蝮の長兵衛と言われるほどの嫌われ者は長九郎の息子なんである。長九郎もグチをこぼしていると、馬子の弥太八(右近)が自分の馬を長兵衛に盗まれたと言って長九郎たちに絡んでくるが、村人たちに宥められて馬を探すためにこの場を去る。
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歳寿猿さんのしっかりしたセリフ・演技が、まだここには登場していない困り者の長兵衛の人物像を浮き上がらせる。長九郎、七之助、おいねはおっとりとしてちょっと品がよい。つまり長兵衛はお百姓さんとはいえ本来そう悪くない家の出のように思われた。
右近さんの馬子は最初セリフが聞き取りづらいところがあったが(舌の動かし方の問題だと思う)、なかなか面白い役で、さっさと引っ込んでしまって、え?これで出番終わり?と思ったらちゃんともう一度出てきて最後が又面白かったから安心した。
弥太八と入れ替わりに庄屋・与茂作(欣弥)と僧・法善(猿弥)が、百姓が竹槍や鉄砲を持って落ち武者の鎧兜などを剥ぎ取ることを禁止するという秀吉のお触れを告げに来る。違反した者には磔の刑が課されると。それを物陰から聞いて震え出したのが猟師・伝蔵(弘太郎)。実は、伝蔵は出来心で明智の落武者を鉄砲で撃ってしまったのだ。幸い弾は外れたものの、磔にされる恐怖と「女のくせに毎晩寝酒を一升ずつ飲む女房、泣くと食うほかには何の能もない子供6人」が露頭に迷う恐れで半分パニックの伝蔵。弘太郎さんの気の弱い好人物ぶりがその家庭を想像させて実に面白かった。
そんなところへ、待ってました!! 長兵衛がついに登場。開幕から15分ほど経っていた。長兵衛は巫女(春猿)の袖をぎゅっと摑んで「酌をしろ」と無茶を言いながら巫女を引きずるようにして茶屋へやってくる。

この役は中車さんになんとピッタリなんだろう。声がいい。確かに発声や空気が歌舞伎役者のそれとちょっと違う、と思わないではない。でもそれはほとんど気にならなかった。セリフが面白くて何度も笑った。「お巫女に酌をさせて坊主に踊らせりゃ、神仏かけあいでこんな面白いことはねえ」「俺が(馬を)盗んだかどうだか馬に聞いてみろ。俺が盗んだのでなければ『ひん』と鳴け。俺が盗んだのなら『もう』と鳴け」「俺は総領の跡取りだから~釜の下の灰まで俺の物だ」等々。
長兵衛は酔いがそうさせている部分もあるかもしれないがどうしようもない乱暴者で、どうしてこんなになってしまったのだろう。親が甘やかしたのか、あるいは逆に親の愛情が足りなかったのか。河内屋与兵衛は明らかに親の甘やかしだろうが、長兵衛にはどこか翳を感じるような気もする。
ヒゲ濃く薄汚い長兵衛だが、中車さんは愛敬もあってとても魅力的。立ち回りもとても頑張っていた。床几を頭上に掲げてクルクル回ったり、右近さんとの立ち回りでは激しい動きだが呼吸もよく合っていた。長兵衛が動くとその存在感の大きさに舞台の空気が変わるようである。
春猿さんの巫女は動きが女っぽくなくて、ユーモラスで、長兵衛の手柄が明らかになってからの豹変ぶりがみんなの中で一番大きくて、この作品のもつ皮肉さがもっとも体現されていた。
さて、父親を傷つけたりしたために村人に簀巻にされた長兵衛。そこへ、秀吉の家来・堀尾茂助(月乃助)が、明智光秀に竹槍を刺して自害に追い込んだ手柄者を探しに来る。ところが堀尾の聞き方が「竹槍をもって落武者の道を遮った者はいないか」とか「竹槍を持ち出した者はいないか」というものだから、秀吉のお触れを聞いたばかりの村人たちは揃って首を横に振る。村人たちの呼吸の良さ、澤瀉屋のチームワークがここにも現れているようである。庄屋が聞かれるたび「いっちにんもござりませぬ」と答えるのがめちゃくちゃ可笑しかった。
月乃助さんを歌舞伎で見るのはなんと久し振りなことであろう。やっぱり月乃助さんはカッコよくて大きさがある。長時間正座ができないために演じられる役は限られてしまうだろうし、歌舞伎がダメなら新派で生きる道もあると考えたこともあるが、歌舞伎役者として得難いキャラクターだろう。これからも歌舞伎の月乃助さんを見続けたいと思うのであった。
結局、手柄者は長兵衛だったことがわかり、村人たちの態度はころっと豹変する。まあ人間なんてそんなものだという風刺が効いていて、また適材適所、配役がよくてとても楽しめた。

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コメント

私も6/9(土)の昼の部を見てました。

このお芝居を観ていると「太功記」で光秀が竹槍使うのを思い出します。
光秀が竹槍で刺されたのが致命傷というのは有名な逸話で、あのお芝居では久吉を狙いながら実の母を刺してしまうという皮肉になっているのでしょうね。

中車さんも初日よりだいぶ肩の力が抜けてきたように思いました。

昼の部はあともう一回観ます。
浮気性の私にしては1か月に同じ公演を三回も観るのは歌舞伎では初めてのケースです。
どう変わっているかも楽しみにしたいです。

(PS)「演劇界」のインタビュー記事を読んでましたら、香川と中車の使い分けをしないですべて中車でいく可能性を示唆されていました。


投稿: うかれ坊主 | 2012年6月10日 (日) 07時40分

うかれ坊主様
おはようございます。コメントありがとうございます。
まあ、うかれ坊主様も昨日の昼の部いらっしゃったのですか。初日から早くももう2回目なんですね。私もあと1回参りますが、3回いらっしゃるとは羨ましいです。

そういえば、「太功記」も竹槍でしたね。なるほど。そこへ結び付けてまでは考えませんでした。

中車さん、ああいう決意をされたのですから、何年かは歌舞伎に専念してほしいものです。46歳からでも歌舞伎の空気にどっぷり浸っていれば少しずつ自分のものにできるのではないでしょうか。インタビュー記事は私も読みました。あの記事からも中車さんが歌舞伎に専念することを信じたいと思います。
團子クンが楽しみですね。記事を読むと親子の様子が浮かんで笑ってしまいました。

投稿: SwingingFujisan | 2012年6月10日 (日) 10時11分

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