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2012年7月 6日 (金)

七月歌舞伎初日夜の部②

74日 七月大歌舞伎夜の部初日(新橋演舞場)
「黒塚」
猿翁さんのは見たことがないが、右近さんで見た。亀ちゃんでも見たような気がしていたら、あれは何年前だったか三響会で「安達原」を能と歌舞伎の両方でやったときに亀ちゃんが歌舞伎の「安達原」をやったのだった。
猿之助さんの岩手はうまい。踊りの技術は確かだしきれいだし、物語性を強く感じる。ただ、才気が邪魔をするのかどうかわからないけれど、悲しみがやや薄いような気がした。岩手は夫に裏切られ、そしてまた阿闍梨一行に裏切られるのである。その悲しみは如何ばかりであったか。私は、右近さんの岩手のほうに悲しみや哀れさをより覚えたように思う。朴訥とした感じがよかったのだろうか。だがそれでもなお猿之助さんの岩手は魅力的。鬼女の本性を現してからも猿之助さんはきれいだった。女形が鬼の隈取と扮装をすると何か違和感があるものだが、猿之助さんにはそれはなく、彼が女形一本の役者ではなくあったことをあらためて思ったのであった。
團十郎さんの阿闍梨祐慶は大きく包まれるような空気があった。大和坊の門之助さん、讃岐坊の右近さん、強力の猿弥さん、みんな適役だった。
「楼門五三桐」
これはもうここで触れなくてもいいかなというくらいテレビでも何度も一部が放送されたし、歌舞伎美人にもレポが出ているし…でも、触れないわけにはいかない。
花道に久吉家来がどどどっと出てきた。なんと、彌十郎さんを先頭に門之助、右近、猿弥、月乃助、弘太郎の面々ではないか。これは猿翁の特別バージョンということだ。花道での渡り台詞。「(久吉公)八年ぶりの~」と右近さん。渡り台詞がはじめのうちよく聞こえなかったのだが、この言葉で、猿翁登場目出度しのセリフらしいとわかる。一同が舞台へ移り、満開の桜の中の南禅寺を遥かに望む幕の中に消えると、浅葱幕に変わる。そして浅葱幕が振り落されると、そこは南禅寺の山門である。
百日鬘・金襴褞袍の姿の海老蔵・五右衛門が「絶景かな、絶景かな~」とあたりを見回している。海老ちゃん、化粧があまりきれいじゃない。凄みはあるが、なんだか薄汚い感じでちょっとガッカリ。でも、海老蔵オーラ復活である。少なくとも私は海老蔵オーラを受け止めた。
やがて山門がセリ上がり、それとともに下からは高合引に腰かけた真柴久吉がセリ上がってくる。ただでさえ気持ちが盛り上がる場面ですもの、もう久吉の頭巾が見えた瞬間から胸が高鳴る。子供の時はともかく、本格的に歌舞伎を見るようになってから初めて目にするお芝居の猿翁さんである!! 拍手拍手拍手。猿翁さんの後ろには黒衣さんが控えて猿翁さんを支えている。
「石川や 浜の真砂は尽きるとも」の名台詞が猿翁さんの口からしっかり出る。途中聞きづらい箇所はあったものの、見事なセリフ回しである(拍手で時々セリフがかき消される)。五右衛門がエイッと投げた小柄も見事に柄杓で受け止める。
猿翁さんはだいぶ痩せられてもちろんお病気の陰が残っているのではあるが、その気魄溢れる姿からは山門の上で睨みをきかせる海老蔵オーラ以上のオーラを受ける。

先ほどの豪華な久吉家来陣が再び登場し、さらには左枝利家役で段四郎さんが姿を見せた。段四郎さんは今月は出演なしかと残念がっていたところだったから嬉しかった。さらにさらに、久吉侍女の笑也、笑三郎、春猿の3人が美しく居並ぶ。これは猿翁さんの企画らしいが、口上に登場しなくても澤瀉屋の部屋子連中が全員揃い、澤瀉屋以外で「ヤマトタケル」に出演の彌十郎、門之助さんもちゃんと登場させるとは、なんと見事な演出。
「石川五右衛門、さらば、さらば」のセリフがはっきりと耳に入ってくる。感動で目の前がうっすら曇ってくる。拍手してもしてもし足りないほどの感謝と感動。客席の誰もが同じ気持ちだったに違いない。拍手は鳴りやまない。
それに応えるように、そっと幕が開き始めた。
舞台中央に黒衣さんに支えられた猿翁さんが立っている。澤瀉屋一門がそのそばに控えている。手を上げて拍手に応えていた猿翁さんが、下手に向かって何かを促すような合図をした。褞袍姿の海老蔵さんが姿をあらわす。急遽出てきたという感じで、割れた褞袍の裾から白い脚を見せながら猿翁さんの隣へ。澤瀉屋の人たちもちょっととまどっているようだったから、猿翁さんの突然のアイディアだったのかもしれない。
海老蔵さんと猿翁さんががっちりと固い握手を交わす。海老蔵さんの大きな体、猿翁さんの小さな体。さっきの口上を思い起こせば海老蔵さんは尊敬する大先輩とこうして握手してどんなにか感動したことだろう。それを思ったらまたまた感動が大きくなって、うるうるうるうる。澤瀉屋の一門も師匠がこうして舞台に復帰してどんなに嬉しいことだろう。うるうるうるうる。
すると、猿翁さんが後ろにいた黒衣さんに前に出るように促す。腰を屈めて控えめに出てきた黒衣さんが面布をそっとあげると、なんとそれは中車さんであった(久吉登場の最初から後ろに控えていた黒衣さんは中車さんだったのかしら)。一瞬のこの出来事に客席はすぐには反応しない。というか、ハッと息を呑む瞬間が一瞬の反応を遅らせたと言うべきか。中車さんとわかると、どよめき、歓声が客席に溢れ、スタンディングオベーション。拍手拍手拍手。ああ、初日が見られてよかった。この光景は一生忘れない。うるうるうるうるしながら思い切り、手を叩き、名残りを惜しみつつ幕が引かれる舞台を見つめ続けた。
<上演時間>「将軍江戸を去る」62分(16451747)、幕間30分、「口上」15分(18171832)、幕間30分、「黒塚」80分(19022022)、幕間20分、「楼門五三桐」10分(20422052
初日は口上が10分で、終演は2047と予定されていたと記憶するが、口上は実際には15分ほどかかって終演時間もずれ込んだから、タイムテーブルも訂正したのであろう。

 

 

 

 

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コメント

7/8に夜の部を拝見しましたが襲名狂言が2つとも舞台照明が暗い作品で6月に比べ、少し損をしているように思いました
「黒塚」は外せないとしてら、「慶喜命乞」で中車の山岡で團十郎の西郷というのもあったのでは
7/8もカーテンコールがありましたが、きっと毎日あるのでしょうね
この日は松原智恵子さんがおいででした

投稿: うかれ坊主 | 2012年7月 9日 (月) 00時03分

うかれ坊主様
こちらにもありがとうございます。
「将軍」のほうでは中車さんの熱弁に夢中になって照明についてはあまり気にしていませんでした。そう言われてみると、確かに2つとも暗かったかも。
「慶喜命乞」というお芝居は見たことがありませんのでわかりませんが、これも真山青果なんですね。しばらく上演されていないようですし、青果も同じものばかりでなくやってほしいと思います。

カーテンコールはやはり観客も期待していますし、猿翁さんとしてもその期待に応えたいのでしょうね。お疲れにならないといいけれど、カーテンコールを含めた芝居全体が猿翁さんにとってエネルギーになっているのかもしれませんね。

うかれ坊主様は本当によく有名人に遭遇なさいますね。私なんか初日に行ったのに誰にも気づきませんでした(きっと、どなたか有名人がいらしたのではないかと思うのですが)。

投稿: SwingingFujisan | 2012年7月 9日 (月) 01時48分

今晩は。昨日、夜の部見てきました。中車、やはり、咽喉の調子がよくなく、又、演技が熱演過ぎるのが気になります。演技に緩急がなければ、真山青果の作品はひたすら疲れます。とはいえ、団十郎の胸をかりここまでやれたら及第点でしょう。この優は長谷川伸とか北條秀樹、川口松太郎等の、新国劇、新派系の名作にもどんどん挑むべきでしょう。
 猿之助の初役「黒塚」面白いなあと思った点は、私には全く老女に見えなかった点です。中年の女性、それも、若い時はとても美形の女性を予想させました。先代とは大違い、作品の新しい側面を発掘したようです。ただ、残念なのは、月光の光を浴びる童唄の舞踊の陶酔感が先代には遠く及ばない点(右近の時も言いましたっけ)であり、再演を重ねて練り上げてほしいものです。
 山門、Fujisanさんお感想のとおりで、カーテンコールも同じでした。猿翁の観客への視線の鋭さ、鬼気迫る凄さがありました。

投稿: レオン・パパ | 2012年7月13日 (金) 22時09分

レオン・パパ様
こんばんは。コメントありがとうございます。
中車さん大熱演ですが、私はまっすぐな感じがして好感をもちました。中車さんが突進する分、團十郎さんが緩急つけて受け止めていたと思いました。ただ、熱演しすぎて咽喉をダメにするのではないかと心配です。
先代の黒塚はどれほどよかったのだろうかと、見ていないことがこんなに悔やまれることはありません。新・猿之助さん、私もそんなに老女には見えませんでした。ほっそりした体つきがやはり若いのでしょうか。
猿翁さんの舞台にかける執念がこの出演を実現したんですねえ。素晴らしい役者魂ですよね。

投稿: SwingingFujisan | 2012年7月14日 (土) 01時10分

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