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2012年7月 7日 (土)

千穐楽がうらやましい「天日坊」

72日 「天日坊」(シアターコクーン)
多忙でなかなか感想が書けないでいるうちに千穐楽になってしまった。いいないいな、千穐楽。追加公演とか期待したけど、そうそううまくいくもんじゃないわなと諦め。
しかし黙阿弥のアウトローっていうのは本当に魅力的だ。河内山、直侍、三人吉三、白浪五人男、そして天日坊は4人組。気のいいばあさんを殺してしまった法策はワルい。殺し金を奪う地雷太郎も人丸お六も赤星大八もそれぞれ大義があるとはいえ、ひどくワルい。だけども、彼らの思いが生き生きと表現されていて、ぐんぐん彼らの世界に入り込んでいく私。
でも、正直言うと、法策がお三ばあさん殺しに至る場面で、ついつい目を閉じてしまった、気が付いたら法策がおばあさんを絞めようとしていた。何しろユーロ2012決勝の日だったんだもん、と言い訳するが、法策のこの心境、一番肝心のところでしょう、最後までうやむやしたものが残ったけれど、それでも断然面白かった。
クドカンが誰も見たことがないという黙阿弥の芝居を実に上手に料理していて、現代的な味付けをしつつ黙阿弥の世界をきちんと表現していた。だれだれ実はだれだれ、だったり、化け猫だの、若い北条時貞の恋だの、頼朝のご落胤に化けようとしたら実は木曽義仲のご落胤だったり、けっこう話は複雑に絡み合っていると思うのだけど、それをわかりやすく見せて、ナンセンスな笑いの中にも悲しみを感じる。
亀蔵さんのお三ばあさん、出から笑わせてもらった。こういうおばあさんだから萬次郎さんだろうと思ったら声が亀蔵さんだったから、自分の勝手な思い込みにも笑った。
その萬次郎さんのお公家さんも可笑しく哀れであった。つまり、自分の意志で何かをできない哀れさというか。最後、自分だけ助かろうとして法策の怒りを買い殺されてしまったのは当然の報いとはいえ、私はこの人にこそ「俺は誰だぁ」な感じを受けたな。
七之助さんは両性具有的な魅力があった。色で迷わせ冷酷に殺す。「小笠原騒動」のお大の方、「椿説弓張月」の白縫姫でも冷酷で残忍な女性を演じた七之助さんならではの冷たい魅力が素敵だった。
でももっと魅力的だったのは勘九郎さん。とにかく体による表現が見事。時に弱々しく、時に力強く、鍛えられた肉体の動きがとてもきれいで、それは立ち回りに限らず、それぞれの場面における気持ちを表しているように思えた。
でも、その勘九郎さんと同じ舞台に並んだら私が目を離せなくなってしまったのは獅童さん。平場最前列を取った甲斐があった。上手側であったが、バッチリ獅童さんが目の前に。もうハートビーム全開で見つめてしまったわ。獅童はヘタだとでも何とでも言うがいい。いや、私もそう思うことがあるよ。でも、それを超越してカッコいいのだ。亀蔵さんの大八が倒れ、七之助さんのお六が倒れ、獅童さんもついに倒れ、舞台には勘九郎さん1人が捕手に囲まれた。
そうしたら今度はやっぱり勘九郎さんの魅力に目が釘付け。行儀のよい動き、と言って小さくまとまった動きではない、大きく思い切り暴れてそれでいて行儀のよさを感じる。
最後にネコを抱いてこちらを振り返った勘九郎さんにぞくぞくきた。
巳之助クンの北条時貞がピュアなユーモアをもってなかなかよかった。「江戸の青空」の徳三郎をちょっと思い出すような…。恋仲である高窓太夫の新悟クンは決して美形ではないが、やはりピュアで儚げで一生懸命生きている感じが好もしい。
白井晃さん、近藤公園さん、真那湖敬二さんという歌舞伎外の役者さんが加わったのが新鮮かつ渋い味を加えていた。
橘太郎さんがいて嬉しかった。
串田さんが描いた背景幕が小屋の雰囲気を出していた。
トランペットによる音楽が哀愁を含んで舞台を盛り上げた。最後はトランぺッター6人が私のすぐ脇で演奏。しかもエレキとドラム、パーカッションも上手側に黒御簾みたいにして演奏されていたから(すぐそばで聞いているのに、音が大きすぎるということもなく自然に舞台にとけこんでいた)とても贅沢な気分だった。
お尻が相当痛くて二幕目は色々な姿勢を試みたが、楽しくってエキサイトしたなあ。
<上演時間>第一幕80分(13001420)、幕間20分、第二幕105分(14401625

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コメント

こちらにも失礼します。楽日の前日に「天日坊」見ました。私とこの演出家、劇作家、相性が悪いのでしょうか。そこそこ面白いとは思うのですが、他の観客の方が大きな声で笑うほどには全く笑えませんでした。私の年齢のせいではないと思うのですが。受けを狙いすぎる、押しつけがましさが却って作品の底の浅さを露呈していたような気がします。
 その中で、萬次郎、亀蔵の存在感(むしろ実在感とでもいうべきか)の確かさ、長年歌舞伎に精進してきた俳優のしたたかさを痛感させました。この二人、年を取るほど、芸を競う相手が少ない特別な役柄での演技力で希少価値を発揮しそうです(今現在でもそうですが)。
 ところで、勘九郎、笑いを取る演技が、お父さんそっくりなのはご愛嬌です。

投稿: レオン・パパ | 2012年7月13日 (金) 22時26分

レオン・パパ様
こちらにもありがとうございます。
そうですか、確かに相性の悪さというのもあるのかもしれませんね。私も串田さんの歌舞伎がすごく好きかと言われるとよくわからないところもあるのです。ただ今回はコクーン歌舞伎だからこそ、こういうものもありなんじゃないかと思いました。宮藤さんに関しては「大江戸リビングデッド」よりはるかにいいと思いますし(もっとも、今回は原作がありますからね)、若手の弾け方が素敵でした。ただ、勘九郎さんが「俺は誰だあっ」と叫ぶのはあまりピンときませんでした。
萬次郎さんと亀蔵さんはおっしゃる通り、独特の存在感がいいですね。もっとたくさん出てほしいと思う一方で、ちょっとしたところできらっと光るものがあるのがいいのかも、とも思ったりします。

投稿: SwingingFujisan | 2012年7月14日 (土) 01時21分


初めまして。転倒虫と申します。
「天日坊」で検索してこちらに辿りつきました。

中村七之助さん演じる人丸お六に惚れ惚れし
ずぅーーっと、ゆぅーーっくり動いてたお三婆さんが、お酒を取りに行く時だけ早かった所がとても笑えました・・・が、その後は胸が苦しかったです。

私も天日坊の記事を書いています。
お時間がある時、宜しければご覧ください。

投稿: 転倒虫 | 2012年8月 9日 (木) 13時52分

転倒虫様
こんばんは。はじめまして。
いらしてくださって、またコメントをくださって、ありがとうございます。公開とお返事が遅くなってすみません。
転倒虫様は松本でご覧になったのですね。2年に1度のまつもと大歌舞伎、どんなにか盛り上がったことでしょうね。
七之助さんのお六、カッコ良かったですね。
お三婆さんの亀蔵さんの芸達者ぶりも楽しかったですね。
チームワークのよい「天日坊」、又いつか見たい!!です。

転倒虫様の記事、拝読しました。ありがとうございました。

投稿: SwingingFujisan | 2012年8月 9日 (木) 23時11分

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