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2012年8月22日 (水)

八月歌舞伎夜の部:「伊達の十役」

821日 八月大歌舞伎夜の部(新橋演舞場)
2年前の1月、海老ちゃん初役の「伊達の十役」を1回目は1階花道七三脇席で、2度目は2階左側席で大いに堪能したのであったし、今回も海老ちゃん大奮闘はわかるんだけど…。そもそも見ること自体パスしようかと思っていたところ、7月襲名公演の口上に刺激されて取ったチケット。今回は海老ちゃんの空中闊歩狙いで3階下手側コーナー席。舞台下手の一部と花道はまったく見えないのであったが、目的はバッチリ。
「伊達十役」
正直、序幕・二幕目はあまり盛り上がらなかった(自分の中で)。早替わりはそれなりに「すご~い」とは思ったが、こっちが早替わり疲れしちゃったというか…。ここは人物を覚えるのと早替わりを楽しむものと割り切ればよかったとしても、「それはないでしょ」と言いたくなる女形もあって…。体の大きさや顔の鋭さが気になった高尾太夫はセリフもピンとこなかったし、芝居としてもさほど面白くなかった。でもそれ以上にげっと思ったのは累。妙な高音のうえ、「かしこまりましたぁ~」の一言で芝居が台無し。この「かしこまりましたぁ~」は何回か口にするんだけど、最初に聞いた時には椅子から転げ落ちそうになった。前回の公演では、あんなひどい言い方していたっけ? 一体に高い声が不安定で、妙な裏返りが出たりしてこっちの心地が落ち着かない(頼兼や与右衛門も)。以前の海老蔵ならそんなもの吹き飛ばすオーラがあったんだけどな。
足利家奥殿の場でやっと面白くなって引き込まれた。ここは葵太夫(5日間、亀治郎の会と掛け持ちだったんだ)登場でじっくりドラマを味わった。海老ちゃんも前半の政岡はよかったと思う。声を低めにしてあるから変な裏返りもないし、鶴千代君を守る意志の強さも伝わってきた。だが哀れな千松(本当に千松は可哀想過ぎる。空腹の挙句、主君のために毒入りのお菓子を口にして、おまけに幼い体に小刀を突き立てられて)の死を嘆く政岡は、声も高くなり、女形でない役者が女形として感情を爆発させることのむずかしさを感じた。
この後、男之助→弾正と替わるのだが、当然多少の時間はかかる。しかし、これはスピーディーな早替わりと同等にあるいはそれ以上に大変なんじゃないかと思った。
弾正の悠然とした空中闊歩、不気味でステキでした!! これを最後まで間近で見るためにこの席を取ったのだ。

だけど、弾正って外記をだまして襲うなんぞ、意外とコスい。それまでは大きなアクだと思っていたのに、ここでちょっとガッカリする(別に海老蔵のせいではない。そういうお話だから)。
十役の中では、赤松満祐の霊(エコーがかかり過ぎて、最初のほうのセリフが聞き取れなかった)、仁木弾正、細川勝元が断然よく、荒獅子男之助、土手の道哲も海老蔵らしさがみられて悪くなかった。
細川、カッコよかった。私の中で最高にカッコいい細川勝元はスカッとした仁左様だが、海老ちゃんの勝元も素敵だった。声は高くても安定していて、理路整然、明快な物言い、仁左様に比べるとちょっと粘っこいのも悪くない。ただ、直訴の密書を拒絶する振りをして受け取る芝居がコミカル過ぎた気がする。
早替わりはだんだん客もわかってきて、役替わりで出るたび、その予告に笑いが起きる。たとえば問註所前。渡辺民部之助(愛之助)と絹川与右衛門が話している。そこへ細川勝元が登場することが知らされる。すると民部が「与右衛門、潜め、潜め」と番小屋の裏に与右衛門を押し隠す。ここで笑い。ややあって細川勝元が駕籠から姿を現すと、変身の早さに感心する前に笑いが起きてしまう。そして勝元が駕籠内に姿を消すとすぐ与右衛門が現れ、客のどよめき笑い。といったことがしばしば。
ところで、密書を受け取るまでの海老ちゃん、与右衛門が少し残っていたのか、声が不安定だったのが惜しい。
勝元のかっこいいお裁きで伊達のお家騒動もめでたしめでたし。気楽に楽しめたし、全体的には面白かった。まさに「慙紅葉」の熱演の海老蔵さん、他の役者さん、裏方さん、この暑い中、本当にお疲れ様でした。
伊達の十役はこれからも海老蔵さんが演じ続けるのだろうが、私としては女形のできる新・猿之助でも見てみたい!! と強く思うのである。いや、2人の競演でこの芝居をもっと面白く高めていってほしいと願う。

以下、箇条書きで。
・海老ちゃん以外の役者さんでは、何と言っても萬次郎さん(三浦屋女房、栄御前2役)のいかにも歌舞伎な大らかさ、声のよさ、演技のよさがイチオシ。
・八汐の右近さん、京潟姫の笑也さん、山名持豊の寿猿さん、それぞれ持ち味が出て、さすがの澤瀉屋だと思った。
・愛之助さんの行儀のよさ、丁寧さはいつも持てる。しかしがもてる。しかし海老ちゃんの前だと少し印象が薄れるかも(海老蔵の強烈な個性を改めて感じた)。
・山中鹿之助(弘太郎)がラスト、瀕死の渡辺外記左衛門(市蔵)に「お家安泰でござる。これも外記殿のおかげ」と語りかけるところ、弘太郎さんの人柄なのか、優しさ、心の底からの気持ちが滲み出て感動して泣きそうになった。
・市蔵さんと亀蔵さん(鬼貫)の兄弟対決。弟が兄の足を止めさせたのがミーハー的には面白かった。
・細川の家臣川上右門は橘太郎さん。橘太郎さんの武士は、割と実務派的な印象が強いのだが、勝元の意を受けおちついて弾正を一喝したのがカッコよかった。でも、弾正と外記を2人で残したのは軽率だよねえ、右門さん。
・外記、意外と強い。田舎から出てきたいかにも実直な外記、手負いにもかかわらず弾正の攻撃を扇1本で防いだり逆襲したり。内心の応援に力が入った。
・毎度言うが、今回も言わせて。勝元ったら、瀕死の外記に祝儀の謡をうたわせるなんて(「先代萩」では踊らせる)。海老ちゃんも外記に先立ってうたうが、声がいいし、よかったな。
・山名の太刀持ち福緒さん。右手に持った刀は見事にまったく動かない。軽いものであっても長時間動かさずに持ち続けているうちに重さを感じるようになるであろう。それを多分重さもあり長さもある刀をあれだけの時間、じっと持ち続けるってどんなに大変だろう。こういう目立たないところでもいい演技を見せている役者さんがいる。
・花道での傘の中の早替わり(与右衛門⇔道哲)は近くで見てもわからないもの、モニターじゃあ、なおさらわからない。
・土橋堤での早替わり(道哲→弾正)は愛之助さんと弘太郎さん
・千松の黒い衣裳、おしろいの汚れが目立つのがちょっと気になった。
・千松と鶴千代が空腹をガマンして意地を張り合う場面はそのいじらしさに客席から大拍手。
・切り口上は下手から弘太郎、市蔵、海老蔵、愛之助、橘太郎の並び。橘太郎さんがいることが嬉しかった。

<上演時間>発端・序幕65分(16301735)、幕間5分、二幕目24分(17401804)、幕間30分、三幕目65分(18341939)、幕間15分、大詰65分(19542059

 

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コメント

伊達の十役、ついに見ました。ついにというのは二年前は急病になってチケット不意にしたからです。で、どうにもあきらめきれないので猿翁さんのDVDを買ってしっかり頭に叩き込んで今回見に行ったんですが、物凄く楽しかった。政岡との差をつける為の累や高尾太夫の高音の台詞であり、畏まりました~は退屈な早変りの中での、緩みですよね。その意味では伊右衛門も兼光公も道哲もカワイキャラに仕立てていて、猿翁さんのものより良く考えられているなあと感心しました。勿論ハンサム勝元もカッコいいし、弾正の悪ぶりは父親の因果という凄さの中の哀しさが見えて抱きつきたかった。
海老ちゃんの明るさ・淡泊さ・素直さ(◎´∀`)ノがキラキラしてる伊達の十役、何べんでも見たいです。

投稿: 葉月 | 2012年8月25日 (土) 17時13分

うかれ坊主の正直は気持ちをコメントさせてもらいます
猿之助丈には「伽羅先代萩」で政岡を本役で演じて欲しいと思います
猿翁はそもそも立役中心の役者さんで「伽羅先代萩」の政岡ができないので、パロディーの中に御殿の場を入れて加役として政岡を演じたものと思います
亀ちゃん(とつい言ってしまいますが)は勝元はできると思いますが、仁木はどうでしょうか?
「お染の七役」を成田屋が演じないように、「伊達の十役」は現猿之助は演じない方が良いように思います
とは言え、この先どうなるかはわかりませんので、ご希望が叶うかもしれませんね

投稿: うかれ坊主 | 2012年8月25日 (土) 18時57分

葉月様
こんばんは。
2年前は大変でしたのね。その時のお気持ちがよくわかりますので、今回ご覧になれて本当によかったと私も嬉しく存じます。
ただでさえ早替わりは体力も精神力も消耗するほど大変なことだと思いますが、この暑さの中、しかも昼の部の出演もあり、海老蔵さんは大奮闘でしたね。
なるほど、累や高尾太夫は政岡との差をつけるためだったんですね。かしこまりましたぁ~にはズッコケましたが、そういうことに目くじらを立てるよりはそういう遊び心を楽しむべきだったかもしれませんね。
弾正、勝元は海老蔵オーラが出ていて、と~っても素敵でした。
弾正の哀しさ…。
葉月さま、素敵なコメント、ありがとうございました!!

投稿: SwingingFujisan | 2012年8月25日 (土) 22時00分

うかれ坊主様
こちらにもありがとうございます。
猿之助さんの政岡本役はぜひ見たいのですが私の中ではまだ早いような気がしています。でもいずれ必ず演じられることでしょうね。
「伊達の十役」は東京ではむずかしいかとも思いますが、地方公演でかかる日がくるのではないかと、期待しています。
弾正もきっとこなせると思います(猿之助さんの立役の良さを認めながらまだ女形のほうが好きと言っている私なのに、なぜか、政岡より弾正のほうが想像しやすいのです)。

投稿: SwingingFujisan | 2012年8月25日 (土) 22時22分

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