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2012年10月14日 (日)

「塩原多助一代記」②

1012日 「塩原多助一代記」(国立劇場大劇場)
さて、江戸に出た多助は炭問屋・山口屋で真面目に勤めている。という設定の四幕目が始まって10分ほどした頃だろうか。劇場が揺れ始めた。かなり大きな揺れで客席がざわめく。私は不安でしばらく芝居に集中できなかったが、次の幕間に連絡したら、息子は外にいて全然気が付かなかったとのこと。
ここでは先の悪女・またたびお角(橋之助)の息子・小平(三津五郎)が取引先を装って山口屋を騙りに来たのを多助の機転で見破ることになる。小平は肝の据わった希代の悪人らしいが、それが山口屋の主人の説得で裏口からおとなしく帰っていったという。このことは店先で山口屋の若主人(松江)の口から多助に知らされるのだが、あんな悪人がそんなに簡単に説得されるのかねえ、とこの辺もちょっと突っ込み不足のような気がした。もっとも、三津五郎さんの二役であり(早変わりあり)、ここにばかり時間をかけてはいられないだろう。
いろいろあって五幕目。多助親子の再会の場である。前述したように、
21年前の親子の別れにイマイチ感動が薄かったので、なんとなく喜びがこそばゆいような感じがした。養家の没落の事情を知らない父親・角右衛門は多助を責めて会おうとしない。心の中ではすぐにでも息子を抱きしめたいくせに筋を通すために息子を拒絶する父親の哀しさ・辛さを團蔵さんが真摯に表現していて、これには泣かされた。
大詰、多助の友人で明樽買いの久八が萬次郎さんとはわからなかった。声を聞いたらすぐに、あ、とわかったが顔だけ見ていると全然。萬次郎さんという役者さんは女形のときとそうでないときのギャップの大きさが魅力の一つである。
多助が久八に語る経済論(?)が興味深い。「10人中9人は金が入るとしまいこんで出さないようにするが、自分は金の顔を見ると『この多助は雨が降っても風が吹いても商いに出て稼いでいるのに、お前が箱に入って楽することはあるまい。もっと稼いで出世してこい』と金の尻を叩いて炭の仕入に出してやる。するとその金は働いていくらか増えて戻ってくる。それを何度も言い聞かせて出してやると、だんだん増えて帰ってきて、もうこのくらい稼いだからそろそろお前さんのそばで寝かしておいてくれとあやまるようになる。そうなりゃ、それが天然自然とたまる金持ちである」。
悪女・お亀も今は盲目となり、息子・四萬太郎(玉太郎)に手を引かれて極貧の生活を送っている。偶然多助に出会い、茶屋の床几から下り、地面に跪いて過去の悪事を悔いて謝罪するお亀。その話を聞く多助も同じく地面に膝をついている。多助らしい姿である。多助はこの親子を放っておけない。しょんぼりと去ろうとする親子を多助が呼び止めた瞬間、涙が出た。玉太郎クンが母の悪事を知らないための不審顔、母を気遣いかばう優しい動き、賢さ、強さを見せていた。
山口屋から独立した多助を大地主の娘・お花(孝太郎)が見初め、久八を通じて縁談が持ち込まれるが、多助はそんなお嬢様に自分の女房は務まらないと断る。しかしお花がぱっと振袖を鉈で切り、多助の妻としての覚悟を見せると、多助も結婚を承諾する。その瞬間、私の周囲の客席から思わず拍手が起こった。私のまわりは割と反応がよく、面白い場面ではよく笑い声も起きていたし、こういう場面で拍手が起こるのは、お芝居に入り込んでいたからであろう。悲しみや苦労を全部自分の中に呑みこみ、人を許すことを知り、真面目に働き、筋の通った経済観を持ち、金持ちになっても驕らず…痛快成長記を通して見た多助はなんと大人物であることか。12101301gunma 多助の出身地・上州の観光案内が出ていたが、ちょっと行ってみたくなった。
<上演時間>序幕・二幕目80分(11301250)、幕間35分、三幕目20分(13251345)、幕間10分、四幕目45分(13551440)、幕間10分、大詰40分(14501530


←ぐんまちゃん。かわいいねっ。

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コメント

橋之助の女形は「吉原狐」の時にとても綺麗で観に残っています
今回は尼さんでしたのでそういう感じはありおませんでしたが・・・
声も高いので意外と女形向きなのかと思った記憶があります
でもこれからの由良助役者は誰と考えてみると橋之助さんにこそしっかりとしてもらう必要があるますしね
今は立役で大成して欲しいと思っています

團蔵の障子越しの意見と吉弥の「改心」には私もじーんときました

上州言葉ですが、戦前は関西でも頻繁に上演されていたようです
商人の成功譚が好まれたのでしょうね
金が利を生む「理屈」などは「そやそや」と大阪の商人が頷きながら観ていたのではないでしょうか
この上演を機会に東西で再演されると良いですね
関西でしたら、成駒屋(鴈治郎)系が歴代演じていたようです

投稿: うかれ坊主 | 2012年10月14日 (日) 20時45分

うかれ坊主様
こちらにもありがとうございます。
橋之助さんの女形は私も何かで見たことがあります。立役では顔がすっごく大きいと思うのですが、女形だとそうでもなく、女形も悪くないかも、と私も思います。でもおっしゃるように、これからは大きな立役で活躍してほしいですね。

親子の別れ、お家騒動(お百姓家ではありますが)、悪人親子、騙り、成功等々、見どころ盛りだくさんで面白いお話でしたね。とくに経済理論には「そやそや」じゃないけれど私も「ふむふむ、なるほど」と、その明快さに頷きました。
関西でもぜひ通しでやってほしいですね。

投稿: SwingingFujisan | 2012年10月15日 (月) 00時11分

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