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2012年11月27日 (火)

演舞場夜の部、まとめて2回②:「四千両小判梅葉」

1119日、25日 顔見世大歌舞伎夜の部(新橋演舞場)
「四千両小判梅葉」
前回見たときは、主たる人物の描き方が浅いとか、物語自体もそんなに面白くないけれど、牢屋の場面だけは興味深かったとか、その程度だったのが、今回は人物もけっこうわかったし、そうなると色々な場面が面白く感じられた。
まずは、四谷見附の門外。富蔵(菊五郎)が屋台のおでん屋を出していると、昔の中間仲間2人が通りかかる。2人は「そうタバコをすぱすぱやっても腹の足しにはなんねえだろ」と、博奕ですっからかんになった身であり、富蔵は2人に酒とおでんをご馳走してやる。「時々仲間に飲み倒されるのは閉口だ」と店じまいしながらも、そう満更でもない様子で2人を見送る富蔵の気の良さが感じられた。
そこへ、駕籠やってきて、1人の浪人が姿を現す。こんな夜更けにこんな所で駕籠を下り、しかも履物を脱いで尻端折りをする。怪しんで声をかけると、それは富蔵の父の恩人の息子・藤十郎(梅玉)であった。藤十郎は遊女を巡って恋敵の升酒屋の息子から百両を奪い殺してしまおうとしているのであった。富蔵は、金を盗るのはいいが殺しは絶対だめだと強く反対する。富蔵の凄みに、藤十郎も従わないわけにはいかないのが納得できる。もっとも藤十郎は実はかなりの小心者なんである。富蔵は藤十郎にもっと大きな仕事をやろうと、江戸城の御金蔵破りを持ちかける。静かに唆す菊五郎さんに、今は堅気の商売をしているが、入墨者としてのどこか崩れた感じと凄みが滲んでいる。そこに混じる豪胆さが富蔵の魅力である。
そうこうするうちに長太郎という掏摸(菊之助)が逃げてきて、その後を升酒屋の息子(松也)が「どろぼう~」と叫びながら追いかけてくる。藤十郎より先に長太郎が百両を盗ったのだ。4人のだんまりで、百両は富蔵の手に入る。松也クンは「熊谷」では胡坐をかいているだけの亀井六郎役、ここでは掏摸を追いかけるだけのつっころばし風の色男。なんかもったいない使われ方だけど、そんな月もあるさ、と心の中で自分を慰める。
さて富蔵と藤十郎は、富蔵の働きで見事に御金蔵から四千両を奪い取ることに成功する。金の使い方を教える富蔵のあまりの細心な豪胆さに怖くなった藤十郎はいきなり富蔵に斬りかかる。父親の恩があるから助けたのに、斬りたいなら斬れと開き直る富蔵に平謝りの藤十郎である。ここにも富蔵の人となりが現れている。2人は畳をはがして床下に四千両を埋める。
第二幕、雪の別れの場である。花道に雪布を敷くやり方が実に鮮やか。大道具さんが後ろ手に布の端を広げて持ち、さ~っと走るときれいに雪道が出来上がるのだ。
ここは中山道熊谷(熊谷つながり、な~んてね)。雪の降りしきる中を唐丸籠の一行がやってくる。罪人は富蔵である。唐丸籠でまず思い出すのは、ず~~っと昔に見た幕末ドラマで吉田松陰(田村高広だったと思う)が江戸に護送される場面。この時松陰は腹を下したのに籠から出ることを許されず、その悲惨な状況は今でも忘れられない。次に思い出すのはタイムスクープ。こちらは最終的にいい話だったけれど、乗せられている罪人は本当につらいのだ。そんなことを思っていると、籠を担ぐ人足が尻端折り・裸足に草鞋で、人足もかなりつらそうだ、と同情した。
熊谷の土手で一休みする一行。そこへワルい奴である眼八(團蔵)が役人の許しを得て富蔵に面会するが、実はかつての意趣返しが目的だった眼八はさんざん悪態をついて唾を吐きかける。籠付きの八州同心浜田左内(彦三郎)がこれを窘め追い払うと、今度は3人連れが面会を求めてやってくる。うどん屋の六兵衛(東蔵)、娘のおさよ(時蔵)、その娘のお民である。富蔵とおさよは8年前に離縁した元夫婦であり、お民は2人の娘なのである。富蔵は類が及ばないよう、8年前に絶縁した赤の他人だと言い張るが、別れを惜しむ3人は引き下がらず、左内は腹痛を起こしたことにしてしばしその場を離れ、家族だけの別れの時間を作ってやる。
さすがの富蔵も娘に「盗みをすれば縄かけられて牢に入れられるのはあたしも知ってることなのに、ととさんは知らなかったのかえ」と窘められて泣くしかない。この子役ちゃんがいじらしくて、籠を見送る泣き顔が泣かせた。東蔵さんの父親は、かつて自分の苦境を救ってくれた富蔵(ここでも富蔵の人となりがわかる)を罪人として見送らなければならないのが哀れで、東蔵さんの泣きの演技に泣かされた。なぜ別れることになったかわからないが、おさよも未だ富蔵への愛を忘れていない。離れていく籠に向かって「富蔵どの~~」と絶叫するおさよにも泣けた(絶叫度が千穐楽は強烈だったような…)。籠の中の富蔵が最後まで「お民」と娘の名を呼び泣いていたのにも泣いた。
雪の中の別れということで、全然違うが佐倉宗吾を思い出した。
同心として、罪人に対してでも不条理なことをするヤツは許さんという正義感と重厚さと温情をもった左内を彦三郎さんが好演。こういう人が付き添っているならつらい道中も少しは安心な気がした。
ところで、男ばかりのこの芝居で、女性が出てくるのはここだけ。しかもおさよは砥粉塗りで、衣裳も地味だし。この熊谷土手の場だけ、異質な感じがする。

第三幕は伝馬町西大牢。幕が開くと壮観である、と言いたくなる。下手の高いところに牢名主の松島奥五郎(左團次)が座り、上手、牢名主よりやや低いところに隅の隠居(家橘)がでんと控える。その間に頭(亀三郎)、数見役(権十郎)、富蔵、三番役(亀寿)、四番役(菊市郎)、親方(菊十郎)がそれぞれの畳に座っている。下手の低いところに数人、上手には20人も罪人がいるだろうか。
まあ、この牢内のしきたりが実に興味深い。
高いところにいる牢名主と隅の隠居は別格として11畳の畳を敷いているのはいい地位にいるんだろう。その中で富蔵がすべてを仕切っている。牢名主にお伺いを立てたながら、新入りに素性・罪状を言わせたり、蔓と呼ばれる金品を受け取ったり、しきたりに従わないヤツに仕置きを喰らわせたり。
富蔵に呼び出された新入りはみんなの前に跪き、素性・罪状を語るのだが、テキパキと威勢よく喋る若いモンもいれば、小さな罪で捕まってびくびくおどおどしている堅気の男もいる。そしてその跪き方に2種類ある。たいがいは普通に両足を揃えているのだが、浅草無宿才次郎(松緑)と寺島無宿長太郎(菊之助:寺島無宿って偶然?)と下谷無宿九郎蔵(萬太郎)の3人は片方の足首の上にもう片方の足を載せ、親指と人差し指で下の足首を摑むような恰好をしていた。この座り方はなんなんだろう。
彼らは抜け目がなさそうで、きっと牢内でもうまくやっていくだろう。菊ちゃんの長太郎は白塗りの色男(暗い牢内でその白さが際立つ)で、みんなに可愛がられそう(いろんな意味で)。でも本人もそこは心得ているみたいだった。按摩が得意だとかで、早速牢名主に気に入られてたし。
新入りの中に眼八がいた。眼八は牢内でも態度が悪く、しかも仕切っているのが眼八に遺恨のある富蔵ときては勝ち目がない。牢名主が持つ板で10回富蔵に叩かれる。眼八の先が思いやられて、ワルいやつとはいえちょっと気の毒になった。
地獄の沙汰は金次第、すなわちご牢内も金次第である。新入りはなにかと工夫をして、「蔓」を持ち込むのだが、その額次第で扱いも変わる。眼八を叩いたように、富蔵が板(神棚の前で一応板を清めるような仕草をしていた)で床を叩いて新入りに喝を入れる、その入れ方が金次第できつかったりゆるかったり。貧乏人はここでも哀れである。
間男の萬九郎(桂三)は田舎役者だというので「すってん踊り」を踊らされる。すってんというのは裸という意味で、萬九郎は震えながら「下帯だけはご勘弁を」と言って踊り出す。桂三さんって、いつかも身ぐるみ剥がれる公家役がウケたけれど、こういう役が妙に似合う。でも萬九郎があんまり気の毒で笑えなかった。
牢外から時々差し入れがあったりするらしい。そういう時には躙り口みたいな扉の前の畳を上げ、そこから物を受け取る。牢内に色々告げる役人の役者さん(暗くてお顔が見えず)、風邪でもひいたような声をしていたけど大丈夫かな。
家橘さんの隅の隠居が、いかにも長年牢に棲みついているような暗い凄みがあって、ひどくよかった。一方の左團次さんも牢名主だから長年牢にいるんだろうが、隅の隠居に比べると大らかでちょっとユーモラスな感じも受ける。みんな、牢内のしきたりに背く人間には厳しいが、それなりに仲間としての情があって、明日いよいよお仕置きになる富蔵へ牢名主が仕立て下ろしの唐桟の着物と博多帯を贈り、立派に死んで来いとばかりに隅の隠居は紙で作った数珠を与える。この辺はちょっとほろっときた。娑婆に出られる罪人を通じて家族に伝えることはないかと尋ねられた富蔵の願いは「一目娘に会いたい」。さっきの子役ちゃんの泣き顔が、きっと富蔵の頭の中にも残っているのであろう。
翌日、西の牢から富蔵が、東の牢から藤十郎が引き出されてくる。藤十郎さん、お久しぶりだ。首尾よく四千両を盗み出してからは専ら富蔵の物語になっていたから。そのお久しぶりの間に、小心者だった藤十郎の肝がずいぶん据わってきたように思った。富蔵同様、堂々と引き回しのうえ磔という刑を受け入れるのだから。
最後に2人はそれぞれの牢に向かって「お題目を」と声を張り上げる。両方の牢から仲間たちの南無阿弥陀仏の声が流れてくる。
四千両を盗んでやろうという富蔵の動機がよくわからなくて、初見のときはそこに最後まで引っかかったが、今回はそこは深く考えず、大きなことをやって太く短く生きようということだったのかなと思って見た。
<上演時間>「熊谷陣屋」85分(16001725)、幕間15分、「汐汲」18分(17401758)、幕間30分、「四千両」103分(18282011
千穐楽は終演が5分ほど延びた。

 

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