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2012年11月10日 (土)

顔見世大歌舞伎昼の部①:「双蝶々曲輪日記」

117日 顔見世十一月大歌舞伎昼の部(新橋演舞場)
今月昼の部は、最初の演目で時様と仁左様が夫婦役、次の演目で時様と菊様が夫婦役。ということで張り切ってひさ~~しぶりの最前列を取ったら、残念なことに仁左様休演。かなりがっかりはしたのだけれど、9月から代役続きの梅玉さんの心意気に感じて、まずは満足な舞台であった(それに、梅玉さん、好きな役者さんの1人だし)。
「双蝶々曲輪日記」
いつも見るのは「引窓」と「角力場」で、今回の「井筒屋」「難波裏」は初めて見る。それもそのはず、「井筒屋」は東京では戦後初の上演だそうだ。この前半があったので物語全体の流れがわかったような、余計混乱したような…。
「井筒屋」では南与兵衛が出てくるのかと期待したが、与兵衛は話の中に登場するだけ。しかも、与兵衛は放蕩者、おまけに主筋の与五郎(扇雀)のために人を殺していたとは。「引窓」では武士になって殺人者の詮議まですることになる与兵衛が、だ。しかしこの与兵衛の殺人が「引窓」で効いてくる(と感じた)。
与兵衛は遊女・都と、与五郎は遊女・吾妻と恋人どうしである。そして互いに身請けをしようという恋敵がいて、金のない2人は苦慮している。そんな時に、与五郎がならず者に絡まれ、そばにいた与兵衛がそいつを斬ってしまう。しかし与五郎はならず者に小指を食いちぎられており(おお、痛そう)、犯人は小指のない男ということで与五郎は廓に逃げ込んでくる(与兵衛はどこに逃げたんだっけ?)。都に匿われる与五郎だが、追手から逃れることは難しい。
都はふと、与五郎を救う手段を思いつく。これがひどい。自分を身請けしたがっている権九郎をいう男に「小指を切ったら身請けされる。私を本当に愛しているなら今ここで小指を切ってみせてほしい」と迫るのだ。驚く吾妻に企みをそっと打ち明ける都。ふむふむ、グッドアイディアねとばかりににんまりする吾妻。
「切ります切ります」と喜んだものの、権九郎はいざとなると恐ろしくて切れない(当たり前だ)。ためらう権九郎の指の上に、もののはずみといった感じで刀を落す都。小指をなくした権九郎は、そこへやってきた捕手に犯人として引き立てられる。
いくら権九郎がワルい奴でも(贋金使いの疑いがかかっている)、濡れ衣を着せられるなんてちょっと気の毒でない? 企みがうまくいってにんまり笑みを交わす
2人の遊女の怖いこと。いくら時さま、梅枝クンでもあんまりいい気分はしなかったな。
遊女・都の時さまはただ黙っている時よりも、憂いを含んだ表情、嬉しそうな表情、そういう何か感情を露わにしたときがとてもきれいだった。
吾妻の梅枝クンは時さまと父子共演だが、時様にまったくひけをとらず、また恋人与五郎役の扇雀さんとも不釣り合いではなく、都の朋輩というか妹遊女的な存在感を十分示していたのがすごい。「難波裏」でのだんまりもちゃんとだんまりの基本を心得ていると見た。
権九郎が気の毒に思えたのは、どこか憎めない愛敬たっぷりの松之助さんのキャラが大きいだろう。
この後、与五郎と吾妻は駆け落ちしたものの、吾妻の身請けを企む武士たちに吾妻は拉致され、与五郎は痛めつけられる。その危機を救ったのが濡髪。武士たちは刀を抜いて濡髪に斬りかかるも、丸腰の力士の力にかなわない。暗闇の中で互いの刀が互いの身体に触れる。なんだ、濡髪が殺すんじゃなくて、同士討ちかと思ったら、濡髪が刀を取って2人を殺してしまう。なぜ、2人を殺すことになったのか、ここがよくわからなかった。さらには、駆けつけてきた武士の手下2人も力づくで殺してしまうが、それは目撃されたということだから、わかるといえばわかる(「難波裏」)。
自害しようとした濡髪だがそこへ駆けつけてきた放駒がかばうのを見て、あれれ、濡髪と放駒は喧嘩状態にあったんじゃなかったっけと少し混乱した。よくよく考えれば、濡髪と放駒の確執は「井筒屋」より前の場であったのだから、よくよく考えなくても、物語の辻褄は合うわけだが、いつの間にか仲良しになっている2人を見てまたまた混乱した。濡髪は放駒の勧めで逃げ延びることにする。
放駒の翫雀さんは、小柄ながらいかにも相撲取りらしい姿かたちで、気の良さ、濡髪への心配りなどが感じられた。

さて「引窓」だが、あんな「井筒屋」を見ると、「引窓」で与兵衛の妻になってお早と名乗っている都が不思議な存在に思える。第一、あんな騒ぎがあったのに、もう2人は結婚しているのか、という思いもある。そして、南与兵衛は武士に取り立てられ、濡髪逮捕という大事なお役を仰せつかって、うきうきしている。おいおい、あなたも殺人を犯しているのに…。
実母のもとに逃げ込んできた濡髪が「同じ人を殺しても運のよいのと悪いのと」とボヤく気持ちがよくわかる。でも、与兵衛が濡髪を逃がす気になったのは、もちろん義母・お幸への孝行心もあっただろうが、かつての自分の罪を思い出したのではないだろうか。自分は相手に非があったことで許されて今の境遇を得た。濡髪だって相手に非があるのだ(という事情は与兵衛は知らないのかな)。どこかにそんな気持ちも働いたのではないだろうか。
梅玉さんが揺れ動く与兵衛の気持ちをよく表していた。濡髪捕縛をなんとかやめさせようとするお早に対し、まだ事情を知らない与兵衛がヘソを曲げたりするところは、ちょっと子供っぽさを感じさせて、廓に通い詰めていた時の与兵衛を想像させる。お幸に絵姿を売ってくれと言われて戸惑いながら、はっと母の事情、気持ちに気づいた瞬間の与兵衛に思わず泣けた。
時様のお早は都よりもきれいだったかも。時蔵という役者はわりとあっさりすっきり系の持ち味だと思うので、こういうこまごまと心配りする役はどうなんだろうとちょっと懸念もあったのだが、杞憂だった。それにこの役は、かつて廓にいたという空気を漂わせていないといけないという難しさがあるが、その空気は十分感じられた(「井筒屋」の印象が残っているせいもあるかもしれないけれど、そうでなくても廓勤めの雰囲気はあったと思うな)
竹三郎さんのお幸が、図体のデカい息子に強烈な母の愛をストレートにぶつけていて、圧倒された。
左團次さんの濡髪ははじめ運の悪さを嘆きながら、やがて母の愛、人の情けの有難さを全身で受け止めるようになる心の動きをみせていたと思う。
「引窓」は好きな演目だ、と今回初めて認識した(別に今まで嫌いだったわけじゃない、ただ、今回はじめてそう意識したってこと)。

 

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コメント

今晩は。今日は演舞場の昼の部見てきました。「引窓」梅玉の代演悪くはないのですが、やはり松嶋屋でみたかったですね。今後も見られるチャンスがあるかどうかわからないので、とても残念です。時蔵、しっとりと良い出来栄えです。この役は、このぐらいのあっさりさで丁度良いと思います。あと、竹三郎が上方らしく目いっぱいの熱演。突っ込みに突っ込んで、主役が引き立つ典型です。上方の役者は腕が立ちます。
 前二つの場は当然初見ですが、そこそこ面白かったです。但し、「引窓」とは芝居のトーンが大分違いますね。「引窓」は東京系の品の良さがブレンドされているせいでしょうか。
 「文七元結」いつみても楽しいですね。菊五郎劇団のアンサンブルの良さがさすがです。その中で魁春の存在感が貴重になってきました。

 ところで、先週は明治座、夜の部見てきました。猿之助、再演のせいか、余裕の出来栄え。猿之助歌舞伎らしく、おもちゃ箱をひっくり返したような楽しさ、懐かしかったです。
 皆、一所懸命で客席一体で盛り上がっていました。中で、米吉が大抜擢、これほどセリフの多い役を初めて見ましたが、敢闘賞もの。演舞場の梅枝といい、どんどん伸びていってほしいものです。なお、明治座、プロの大向うは締めだしているのでしょうか、誰も声をかけなかったので、ルール違反ですが、花道が良く見える2階の後ろから掛けさせていただきました。

投稿: レオン・パパ | 2012年11月18日 (日) 18時41分

レオン・パパ様
こんばんは。コメントありがとうございます。
「引窓」は私も一度は仁左様で見たかったです。もう今月は二度と見られないような言い方をしてしまいましたが、明日昼の部を再見するのでまだちょっとは期待しています。時様(お褒めいただき、嬉しいです)との夫婦役を見たいのです!!
竹三郎さんの熱演にはいつも感動します。そうか、主役が引き立つ演技なんですね。確かにがんがんぶつけていっても竹三郎さんが主になることはなくい、そこがうまいところですね。
「双蝶々」の中では「引窓」だけがちょっとトーンが違うのかもしれませんね。家族の葛藤、あたたかさ、優しさが心にしみます。

明治座は千穐楽を予定していますが、あちこちで好評なので早く見たくてうずうずしています。
米ちゃん、いいでしょう!! 昨日も明治座を見に行った後輩が「米吉がよかった」と言っていたので「よし、キミは目が高い」と半分酔っぱらって褒めてやりましたbleah
播磨屋の女形として米ちゃん、ますます期待ですね。梅枝クンもうかうかしていられません。
明治座は大向こうなしですか。澤瀉屋は女性が声をかけたりすることがけっこう多いような気がしますが、レオン・パパ様がご覧になった日はそういう声もかからなかったのですね。その中で声をかけたくなるお気持ち、わかります。千穐楽はあちこちからかかるかもしれませんね。

投稿: SwingingFujisan | 2012年11月18日 (日) 21時38分

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