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2013年2月20日 (水)

染五郎復帰公演@日生劇場②

217日 二月大歌舞伎(日生劇場)
大向こうさんの「そめこうらい」に「まめこうらい」、そして「こまこうらい」など、高麗屋掛け声バリエーションが楽しめた。
「新皿屋舗月雨暈」
通しで見るのは2回目。
前半は前回の国立のほうが迫力あったような気がした。
福助さんは、魚屋の娘がこんなに?と思うほどきれいで上品だったが、だからこそ殿さまに見初められたのだろう。声を無理して高く愛らしくしているのでセリフがやや聞きづらいところがあったのが惜しい。美しいが故に身に覚えのない疑いをかけられて無惨に殺されていくお蔦の可憐さ、無念さが胸を打った。
児太郎クンは可憐ではっとするほど福助さんに似ている時があるが、動きやセリフがもっと自然にできるようになるといいと思う。
染五郎さんの磯部主計之介には癇性な様子がよく表れていた。自分をコントロールできなない人間のエスカレートした残忍さ、その美が染五郎さんの研ぎ澄まされたような表情によく合っていた。しかしこの殿さま、「まことの恋に身分の違いはない」という当時としては新しい考えをもっているだけに(染め五郎さんのキャラと相俟ってそういう新しさが強く印象づけられた)、そして自分の過ちを認めて身分の低い者にも謝罪する勇気をもっているだけに、お蔦より邪悪な家臣の奸計を信じたのは残念でならない。
いつもは省略されるお蔦の死の場面は「魚屋宗五郎」をより理解するのにこうして時々上演されるといいと思うが、私の感触では客席の盛り上がり方がやや不足しているようだった。
ところが、後半になって幸四郎さんが出てくると俄然客席の熱気が感じられる。前半は確かに暗くイヤな話だし、後半はテンポもよく落語みたいな展開だから、かもしれないが、幸四郎さんの存在の大きさは明らかに客席に影響を与えていたと思う。
今回の魚屋宗五郎、これまで見た幸四郎さんの世話物でベスト1である。幸四郎さんの宗五郎は2度目で、前回はあんまりいいと思わなかった。しかし、今回は違う。宗五郎の悲しみ、怒りが芝居としてでなく、愛する肉親を失ったことに対する人間として当然の悲しみ、理不尽なことに対する人間の普遍的な怒りとして切々とこちらの胸に共感を覚えさせる。
まず、寺から戻ってきてお悔みに来ていた茶屋の女房・娘に出会った瞬間がいい。宗五郎が「おみつさん」と声をかけたその瞬間、ぐっときた。寺の手配やいろいろ冷静にやらなくてはならないことがあって悲しみを押し殺して帰ってきたところへ親しい人がお悔みに来てくれていた。どんなにか有難く他人の情けを感じただろう。よく来てくれた、という宗五郎の真情が幸四郎さんに溢れていて、うるうるうるうる。
それは、おなぎが訪ねてきたときにも表れていた。おなぎはお屋敷でお蔦の最も近くにいた召使である。その人がお悔みに来てくれたのだ。しかし、一番悲しみを共有できるおなぎの口から語られた真実は…。

高麗蔵さんのおなぎは、前半の磯部屋敷の時からお蔦を思う気持ちがよく感じられた。お蔦の部屋の場面は鏡山の尾上とお初みたいな感じだったし、宗五郎一家にお蔦の無念の真実を伝える場面には泣けた。高麗蔵さんは見た目からはちょっと冷たい印象を受けるのだけど、口を開くと温かさがあって、それに大らかさもあって、最近けっこう好きなんである(「一心太助」の御台所あたりからかもしれない)。高麗蔵さんには「こまこうらい!!」の声がかかった(初めて聞いたような…)。
酒屋の小僧の金太郎クンには「豆こうらい!!」 実はチケットを確認するまで昼の部を取ったとばかり思っていて、夜の部のみの出演である金太郎クンを見られないのが残念と悔しがっていたのだが、あら夜の部を取ってたんじゃないラッキー。で、金太郎クンは可愛かったわ~。
さて、真実を知った宗五郎、酒を飲まずにはいられない。幸四郎さんは歌舞伎独特の酒の飲み方はせずに、ストレートにごくごく飲んでいた。そのリアルな飲み方によって宗五郎の悲しみがこちらにもリアルに伝わってくる。最近、理不尽に突然命を奪われる事件や事故が多いだけに、身につまされると言おうか。「たぶさを摑んだだと…たぶさを摑んだだと」とぼそぼそ繰り返すセリフは妹を思う気持ちでいっぱいだ。
とにかく、何度も見て何度も泣いたり笑ったりしている演目なのに、物語の展開に伴う宗五郎の言動を見ていると体に力が入った。
福助さんはこういう役(宗五郎女房おはま)では又ワルい癖が出るんじゃないかと懸念したが、全然そんなことはなかった。もうあの作り過ぎ・やり過ぎは完全に姿を消したのかな。家族思いのいい女房ぶりで好もしかった。
亀鶴さんの三吉、雇われ人でありながら、一家に愛され、また三吉も一家を家族のように慕っている様子にじ~んときた。「荒川の佐吉」の辰五郎をちょっと思い出した(この時の佐吉は染五郎さんだったわねえ)。亀鶴さんのこういう役は好きだ。
これまでは、最後に殿さまが謝ったってお蔦は帰ってこない、謝られた宗五郎もありがたがってそれでいいのか、と納得いかない思いだったが、今回はあの時代に庶民が殿さまに頭を下げさせることの重大さを感じて、後味よく見終わることができたのはなぜだろうか。
<上演時間>「口上」5分(16301635)、「吉野山」50分(16351725)、幕間25分、「新皿屋鋪 弁天堂・お蔦部屋・お蔦殺し」55分(17501845)、幕間20分、「魚屋宗五郎」70分(19052015

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コメント

こんにちは。昨日日生行ってきました。染五郎が本当に癇性な殿様の役柄にぴったり合っています。二枚目だからよけい良く合うんでしょうね。ただ、新皿屋敷の前半、どうしても出す演目でもない気がします。
一方、幸四郎、おっしゃるとおり、音羽屋系の黙阿弥の諸役、いままで、ついぞ感心しませんでしたが、今回、びっくりするような出来栄え。この優、理が勝ち過ぎて、音羽屋系の世話物とは違和感が多いのですが、今回は軽味もあり洒脱な演技でした。庶民の悲哀も良く出ていたと思います。中村屋、音羽屋とは別の良さがあって、立派でした。
ところで、Fujisanさんは、演舞場の新派、新喜劇の合同はパスですか。私は今週、平日夜、行ってきました。昭和レトロそのものの緩い芝居、三本立てですが、最後の演目が八重子、久里子の演技のぶつかり合いの凄さが、まさしく一流の商業演劇でした。当代の天外も上方役者特有の男性の色気があり結構でした。

投稿: レオン・パパ | 2013年2月24日 (日) 12時56分

レオン・パパ様
こんばんは。コメントありがとうございます。
日生は染五郎さんの復帰という話題以外あまり期待していませんでしたが、見てよかったと思いました。
前半は、国立でやった時のほうが見応えがあって、後半への理解が深まりました。今回はちょっと味が薄かったかもしれません。
幸四郎さん、本当によかったですね。そうそう、中村屋、音羽屋とは別のよさがありましたね。

今月の演舞場は、先月の三越劇場でも宣伝していたし、久里子さんの応援で見ようと思って、何度かぽちっとしそうになったのですが、結局パスしてしまいました。スケジュール的に無理というほどではなかったのですが、出かけないでいるとダメですねえ。ついつい億劫になって家でだらだら、仕事もだらだら。
ああ見ればよかった。せっかく質の高い喜劇を見るチャンスだったのにもったいないことをしました。

投稿: SwingingFujisan | 2013年2月24日 (日) 21時35分

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