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2013年3月25日 (月)

超満席、中村屋ますます発展を期待させる「怪談乳房榎」

324日 「怪談乳房榎」(赤坂ACTシアター)
130325akasaka 発売日のWeb松竹では前方の席が全然なくて、あとで劇場枠で取ればよかった、と気がついてももう遅い(ACTシアターの有料会員はやめたけれども、先行販売のお知らせがきていたような記憶がある)。しかしP列で見やすかったのは意外だった。ただ、私の席は上手寄りだったため、H列後ろの下手側扉に中村屋の幕をかけ鳥屋仕立てにして舞台からL字を逆にしたような形で通路を花道がわりに歩く姿は8割がた見えず、とても残念。
連日立ち見も出るほどの大盛況(久々にそんな劇場に来た)、とくに千穐楽は早々と完売で追加公演が行われることになり、せっかくの千穐楽狙いに憾みを残すことになったが、それはカーテンコールでの勘九郎さんの一言(後述)で消失し、気持ちよく劇場を後にすることができた。
序幕は季節よく、花見客で賑わう向島の隅田堤。茶店から小山三さんが姿を現すと大きな拍手が起こる。「今年は花見客が少ないねえ。花粉は大丈夫かねえ」(千穐楽だし、花見客が多いねえ、でもよかったんじゃないかな、とちらっと思った)。扇折り役の小三郎さんが「いつ見ても若いねえ」と言うと、赤ん坊を連れて参詣に来たお関の七之助さんにも「いつもお若くて」と言われ、小山三さん、手を振って「いえいえそんな」、おほほと笑う。いやいや、本当にお若い。勘三郎さんが亡くなって心配したけれど、お元気そうでセリフもしっかりしているし、本当に嬉しい。「乳房榎」はこれまでに2回見ているけど、小山三さん、これまでの2回もこの役だったのね。
色っぽいお関がならず者に襲われ、櫛を落す。通りかかった磯貝浪江が危難を救い、櫛を拾いあげる。跪きながらお関に櫛を差し出す浪江の目。感謝しつつもはっとそこに危険なものを察知したように後ずさるお関。ここがこの後の展開の伏線のように思えたのは今回が初めてだ。今までお関が脅されたとはいえ、簡単に浪江の言いなりになってしまうのが納得いかなかったが、もしかしたら、ここの場面で無意識のうちに浪江に惹かれないまでも本能的な何かを感じたのかもしれない、と思ったら少しわかるような気がした。七之助さんはきれいで色っぽくて、主体性のない女の柳のようなか細さ(か細いけど、主体性がない分、折れない)をよく表していた。
浪江の獅童さんは、前回の自分の感想を見たらかなり低評価だったが、今回はカッコいいと思った。いくらなんでも無理があるんじゃないか、というほどの強引さは狡猾というよりも、ぐいぐい人を引き込む強さであって、前回はなんてイヤな男だと思ったのに、今回はその強さが魅力的に感じられた。もちろん、どうしようもない悪い男ではあるが。
愚直な正助、あくどい三次、元武士としての気概を垣間見せる菱川重信、勘九郎さん三役である。私が一番好きなのは三次。ワルではあるが、きりっとして勘九郎さんらしさが一番あらわれている。オペラグラスを通さない勘九郎さんは、顔も動きも、形の作り方も勘三郎さんにそっくり。しかし持ち味は違う。五代目勘九郎になろうとする必要はない、六代目は六代目の持ち味で五代目の芸を受け継いでいけばいい。正助も敢えて似せなくてもいいと思う。六代目勘九郎なりの正助のまま、今後も演じてほしいと思った。
二幕目、料亭花屋二階の場は千穐楽バージョンなのか、獅童さんと勘九郎さんのチャリ場になった。三次から正助への早替りで浪江のもとへやってきた勘九郎さん、獅童さんに最中を勧められる。その時、獅童さんが商品名を言い淀み、勘九郎 さんに「セリフを忘れたな」と突っ込まれ、やり直しをさせられてしまった。最初から言い直す獅童さん。それでもう客席は大笑いなのに…。獅童さんがこの最中は特別美味しいからと言って勘九郎さんに無理やり1つ全部食べさせる。「疲れてるから、甘いものがうまい」とか何とか言いながら口の中いっぱいになった勘九郎さんは茶碗の水(お茶じゃなくて、勘九郎さんが「水」と言っていた)で流す。それをちらっと非難の目(多分)で見る獅童さん。そして皿を差し出して、もう1つある、全部食べろと強いる。すると、「そんなに言うならおめえが食べろ」と勘九郎さんの逆襲を受け、今度は獅童さんが無理やり食べさせられる羽目になる。勘九郎さんの逆襲は続く、「八重の桜やあっちこっち出て、行ったり来たり疲れるでしょ」。獅童さんも苦笑い。口の中が甘い餡子でいっぱいになった獅童さんに勘九郎さんが銚子からお猪口に酒を注ぎ「酒と甘いものは合うかどうか」と言いながら勧める。ぐいっと猪口をあけた獅童さんは「う~ん、意外といける」。笑いっぱなしだった客席はこれでトドメを喰らい大爆笑。
舞台ではこれから、浪江が正助をだまして重信を殺す算段をつけることになるという深刻な場面に入るというのに、舞台も客席もこんなに笑っちゃっていいのだろうか…。という微妙な空気で少しずつ舞台に緊張が戻っていく。
そしてついに、浪江は重信を殺す。心ならずも浪江に加勢することになった正助が去り、その場を通りかかった三次を躱し、通路に潜んだ浪江が立ちあがり、客席に顔を見せてにんまり笑うと、客は自分たちに笑いかけたとでも思ったのだろうか、くすくす笑っていた。
三幕目、赤ん坊をお関から引き離そうとする話し合いの場でも、お関の目を盗んで金包みが正助と浪江の間をいったりきたりするシーンに笑いが起きる。浪江にすごまれ、ビビって泣きながら赤子を抱いて去る正助にも笑いが…。そういう場面じゃないと思うんだけどな。

三幕目と大詰の間、幕の中では十二社の滝を設置している音がする。2人の役者さんが出てきて、今の都庁の裏あたりが十二社で、昔この辺に滝があったということをコント風に説明した。滝の音が聞こえ始めると、劇場の人が前方の客にビニールシートを配って歩く。2人が使い方を面白おかしく説明する。「2階は後ろのほうの方、自分は関係ないと思っちゃいけない、いつなんどき何があるか」と注意した途端、2階で歓声があがった。三次(?)が現れたらしい。
大詰の本水を使った立ち回りの後、これまでは円朝が出て、このあとの件を述べるのであったが、今回は8年経った後日譚も上演された。乳房榎も舞台中央に設えられ、お関と一緒になった浪江がやってくる。正助に殺させたとばかり思っていた重信とお関の子・真与太郎との遭遇(正助が大事に育てていたのだ)。浪江を敵と狙う、お関の従兄弟松井三郎(亀蔵)とともに正助、真与太郎は浪江を討つのであった。
と、ここで4人、正座して「これぎり」(と言ったかどうか、聞こえなかった)。
早替わりは早い!! 傘の中の早替わりなんて、何度見てもさっぱりわからず、楽しいし感嘆する。ところが、早替わりそのものに気持ちの盛り上がらない部分があり、自分でもびっくり。というのは、早替わりに徴候があるんだよね~。それがわかっちゃうとなんかつまらない。たとえば、AからBに替わるために、Aがあからさまに舞台から去る。当然こちらは、あ、替わるなと即座にわかる。芝居の空気がちょっと揺れる。それがせっかくの盛り上がりを下降させる。私自身、これから早替わりだっていうのが読めた当初は「やった~」という気分で盛り上がったが、あんまりあからさまだとどうなのだろう(というような場面が今日何回かあった)。芝居はだまされてドキドキするのが楽しいんじゃないだろうか。「四の切」で狐の出にだまされなくなった自分がつまらないと最近思っているのである。
カーテンコールは2回。幕があくまでずいぶん時間がかかった。大詰最後に出ていた勘九郎、獅童、亀蔵、真与太郎役の子役の4人が登場。2度目はスタンディングオベーションの中、勘九郎さんが挨拶する。「赤坂は歌舞伎を知らない人や見たことのない人にも親しんでほしいということで父がやらせてもらった。自分もやらせてもらい、ありがたい。本当はこれが千穐楽だった。千穐楽と思ってチケット買ってくださった方、すみません。追加公演はなかなかないことでありがたい(から許してください)」。この一言に勘九郎さんの客への真情が溢れていて、だからすっきりした。
13032502monaka_2 獅童さんはお礼の言葉の後、「今日は最中を食べた。最近甘いものを控えている。アクト最中は美味しいのでぜひ売店で」。それを受けて勘九郎さんが「さっき『粋な黒べい』を食べたりしていたが完売。最中を買ってください」と言ったが、幕間にも終演後にも「粋な黒べい」は売っていた。最中は幕間には完売だったが、終演後に追加販売があって、私もゲット。1250円もしたけど、買わずにいられないよね~(甘すぎず、とても美味しかった)。
亀蔵さんは「立ち見まで出て、ありがとう」。
そして最後に子役ちゃんも勘九郎さんに促されて、「ありがとうございました」ときちんとご挨拶したのがとてもかわいかった。
七之助さんは最後まで出てこなかったが、千穐楽なんだから出てきてくれてもよかったのに。
勘九郎さんの華、うまさ、勘三郎さんとは違う持ち味、ちょっと文句も言ったけど、全体にとても魅力的な舞台であった。中村屋安泰、いやますます発展を期待できる。休憩を含めて2時間半という短さでも、大いに満足した。
<上演時間>序幕・二幕目80分(12001320)、幕間20分、三幕目・大詰50分(13401430

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歌舞伎ミーハー観劇記」カテゴリの記事

コメント

こんばんは、ひじきです。

赤坂歌舞伎、私は初日明けて早々に観に行きました。
面白かったですねぇ。
そして、序幕の隅田堤の背景に平成中村座が描かれていませんでしたか?
私、席が遠くてちゃんと確認できなかったんだけど、
あの茶色い建物は、多分、平成中村座だと思うんですが・・・
でも、何より、「あぁ・・・』と思ったのは、
勘九郎さんの太もも、勘三郎さんに似ていませんでしたかぁ?
なんか、ちょっとした感動♪です。
5月の明治座も楽しみです。
でも、何より楽しみなのは、来週ですねぇ。
いよいよですよ、あと一週間!!!♪♪♪

投稿: ひじき | 2013年3月25日 (月) 21時48分

ひじき様
こんばんは。コメントありがとうございます。
ひじき様は早く見にいらしたのですね。私はガマンにガマンを重ねて千穐楽まで待ちました。まだ完売になる前に、早めのチケットを取ろうかとも思いましたがリピート資金不足で…。
平成中村座は私はうっかり見落としましたが、描かれていたようですね。見逃して残念なことをしました。
勘九郎さんの太もも、似てましたねwink 太ももをまっすぐに揃えて立つ姿なんかそっくりでしたものね。今月は国立の松也クンの太もも、ルテの海老蔵さんの太もも、そして演舞場の咲十郎さんの太ももと、太もも月間でしたわ~happy02 歌舞伎役者にとって太ももは大事ですね。
5月の明治座、劇場の先行販売で3階席を取りました。1階席はやっぱり手が出なかった…。
もう、あと1週間なんですね!! 歌舞伎座の内覧会をテレビで見て、早く自分もあの場に座ってみたい、とわくわくしました。

投稿: SwingingFujisan | 2013年3月25日 (月) 22時30分

おはようございます。
私は赤坂ACTか、と思ったとたんにちょっとdownで、見送ってしまいました。すごい熱気があふれてたんですね。
で、千穐楽の追加公演! 私は平成中村座で勘三郎さんから同じような挨拶を聞いたな、と思い出しました。「ごめんね、だけど追加公演は役者の勲章」といったような内容でした。

そんな日曜日、私は東劇、シネマ歌舞伎の研辰で涙しておりました。

投稿: きびだんご | 2013年3月26日 (火) 09時21分

きびだんご様
おはようございます。コメントありがとうございます。
ACTだから引く、っていうのわかります。私もあまり好きな劇場ではありません。でも、勘九郎襲名の地方公演は顔見世の南座しか行っていないし、獅童さんも出るし、ということでsmile 結果、この演目はこの劇場に合っていたんじゃないかと思いました。そして観客を喜ばせるという勘三郎さんのコンセプトを引き継いだ中村屋兄弟を中心とする座組の真摯な演技がまさに観客を喜ばせたのだと感動しました。
いずれ、又歌舞伎座でも上演してほしいものです。
「ごめんね」は勘三郎さんもおっしゃっていたんですね。そういう気遣いは嬉しいですよね。「追加公演は役者の勲章」--いい言葉ですね。勘九郎さんはそこまでは言い切れなかったけれど、心の中ではそう言っていたかもしれません。

シネマ歌舞伎、私もいくつか見たいと思いつつ、なかなか…。「研辰」、舞台が思い出されます!!
あ~、きびだんご様の最後の1行で、見たい気持ちがupwardrightです。東劇っていうのがネックだったんですが、月イチ歌舞伎を地元で見ようかな。

投稿: SwingingFujisan | 2013年3月26日 (火) 09時38分

SwingingFujisanさま
こんにちは。ご無沙汰しています。
赤坂大歌舞伎、同じ日に観ていました!
千穐楽が追加公演になって、私も「えぇ~っ」と
思ったのですが、勘九郎さんのあの言葉を聞くと
すっかりよい気分にさせていただきました。
元々好きな演目なのですが、今回が二回目で
いろいろ忘れている部分もありながら、テンション
高く楽しみました。
勘九郎さん、勘三郎さんかと思うくらいとても
似ている部分と、全く違う持ち味とが混在していて
魅力的。これからも目が離せないなと思いました。
そうそう、最後の「これぎり」は確かにおっしゃって
いました。

自分のブログにも書いたのですが、ずっと「悪党最中」
だと思っていて(笑)、こちらで実物を拝見できて
よかったです。ACT最中。

投稿: スキップ | 2013年4月 2日 (火) 11時00分

スキップ様
こんばんは。コメントありがとうございます。こちらこそご無沙汰しております。
同じ時間を共有したって嬉しいですよね。
勘九郎さん、勘三郎さんのいい部分を継承しつつ、ご自分独自の持ち味もあって、とっても素敵でした。歌舞伎座の初日でも、勘九郎さんの存在感の大きさに感動しました。
「これぎり」おっしゃってましたか。言わないはずないのになあと気になっていましたので、すっきりしました。ありがとうございます。
ACT最中、確かに「悪党最中」に聞こえましたよねぇsmile ステキな悪党が2人いましたものね。もしかしたら、ACTと悪党とひっかけたのかもしれませんね。

投稿: SwingingFujisan | 2013年4月 3日 (水) 00時54分

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