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2013年3月 5日 (火)

三月花形歌舞伎昼の部

32日 三月花形歌舞伎初日昼の部(新橋演舞場)
いつ播磨屋の受付前にお母さんと一緒にいた瓔子さんが音羽屋のところで富司純子さんといるのを見て、改めて目出度いと思った。このお2人、「暗闇の丑松」を並んで見ていたが、開幕前、熱心にお喋りしていた。とても和やかで仲好さそうで、微笑ましかった。
「妹背山女庭訓 三笠山御殿」
この演目はあまり好きでないけれど、まず私にとってお三輪は福助さんである。初めて「三笠山御殿」を見た時に、いくら芝居でもいじめがひどすぎるだろうとイヤな気持ちになった。福助さんのお三輪は何とも哀れで、未だに一番ぴたっときていてベスト。そのお三輪に初役で挑戦する菊之助さんは可憐で、花道から登場した途端、ぱっと辺りが明るくなる華があった。恋に夢中の少女の感情の変化がよく表れていて、とにかく必死で後を追って来た、広い御殿でとまどい、途方に暮れていると、別の女と祝言を挙げると知る。悲しい、悔しい、怒りに駆られる。それがちょっと強く出過ぎているような気がしたせいか、官女たちのいじめに遭ってもさほど哀れさは覚えなかった。哀れというよりは強いお三輪。最後に自分の命が求女の役に立つことを知って死んでいくお三輪も哀れではあるものの、恋の昇華のほうが強く感じられた。こういうお三輪も嫌いではない(むしろ、安心するかも)。
鱶七は今回は松緑さんであるが、私にとっての鱶七は何と言っても團十郎さんである。海老蔵事件の翌月、20111月演舞場の三笠山は芝翫さん休演という出来事もあったが、あんまり覚えていないんだよねえ。だから、入鹿とぶつかる鱶七上使の場面はほとんど記憶にないのだけど、團十郎さんの鱶七だけは強く印象に残っていて、あらためて悲しみが襲ってきた。
松緑さんの鱶七は去年1月(ってことは、この演目3年続きか)のル テアトルでも見ている。あの時と同様、松緑節とも言うべきセリフの抑揚がどうも私には耳についてしまうのだが…。でも、お三輪に対する気持ちがあたたかく感じられてよかった。 松緑さんは顔が小さくて、一瞬文楽人形を目にしているような錯覚に陥った(悪くない)。
入鹿ははじめ誰だかわからず、音羽屋系の色々考えているうちに声が発せられ、彦三郎さんだとわかった。大きさたっぷり、声もよい。これまで鱶七上使の場面は2度見ているのだが、一番印象的な入鹿かもしれない。
豆腐買のおむらは團蔵さん。意外にも女形がとても似合っていて、八汐とか栄御前なんかもいいのではないかと思った。
亀三郎さんの求女がやわらかくおっとりして男らしい気品もあり、かつ女たらしっぽくて(ちょっと語弊があるかな)ステキ。
入鹿家臣の宮越玄蕃は萬太郎、荒巻弥藤次は歌昇と、さらに若い2人が堂々としている。萬太郎クンは1月の国立に続いて幕開きのセリフ。声もいいのに、童顔なのがちょっと損をしているかも。歌昇クンはさすがにしまっている。脚がびっくりするほど立派で、歌舞伎体型なのが頼もしい(なんて、変なところに感心してしまった)。
入鹿の侍女の中に京由クンが。やっぱり超美形だ。

「暗闇の丑松」
幕間に時蔵さん発見。
序幕、浅草鳥越の二階の場面で、近所の人たち(寿鴻、扇緑、菊十郎さんかな?)が様子を窺っているところから始まるが、そのセリフがほとんど聞こえなかった。夜のひそひそ話だからそれでいいのだと自分を納得させた。

萬次郎さんのお熊には、この人のこれまでの生き方を考えさせられた(こうしなければ生きてはこられなかったという人生に対するこの人なりの悲しみや諦めが背後にあるような気がしたのだ)。お熊にそこまで感じたのは初めてかも。
梅枝クンのお米(デカい)は、この場ではただ親にいじめられているだけでない強さが潜んでいた。そのお米が、丑松ともども信頼していた兄貴分の四郎兵衛(團蔵)に裏切られ女郎に売り飛ばされたことで、人生に悲しみと諦めを覚えたことは想像に難くない。しかしここに母・お熊とは違うお米がいる。
必死に訴えても丑松に信じてもらえないお米。絶望するお米。私は完全に感情移入してしまって、泣けて泣けてしょうがなかった。
そして、お米が首を吊ってはじめて真実を悟った丑松。もう取り返しのつかない時間、もう帰ってこない最愛のお米、その名を絶叫する丑松。
私にとってのベスト丑松は何度も書いているように、テレビで見た松緑さんのお父さんの辰之助さん。松緑さんはお父さんとはタイプが違うと思うが(辰之助さんをナマで見たことはないのでテレビの印象だけで)、いい丑松だ、好きだ、と思った。セリフの抑揚も鱶七のときほど気にならない。自分を裏切ったのはお米ではなかった、信じていた恩人のほうだった。今回は鳥屋前の席を取ったので、ラスト、うつろな目でよろよろと花道を引っこむ松緑さんの姿を最後まで見ることができた。
四郎兵衛の家では、團蔵さんがいかにも、で高麗蔵さんのお今ともどもこの夫婦の生活態度が見えるようだった。高麗蔵さんのお今はこれまでで一番好きかも。あくまで歌舞伎としての品を落さず、くずれ、強欲で、きれい。媚態も自分たちを守ろうとする故のものであるとわかる。ここで、丑松は「女」の浅はかさを知る。お米も「女」であった。丑松はその「女」に裏切られたのである。丑松の絶望は察するに余りある。
ここでは料理人として廣太郎・廣松兄弟が出ていたが、廣松クンは本当にお父さんそっくりの声、セリフ回しである。
湯屋の場は、底辺で絶望に駆られながら必死に生きる2人を描くこの暗い物語の中で唯一ほっとする場面である。番頭がとにかくよく働く。休む間もない。今回の番頭はどなたか、遠くてわからなかった。前2回の蝶十郎さん、橋吾さん、それぞれ個性的な番頭であったが、今回の方も軽妙に番頭の仕事をこなしていて、湯屋の裏の空気感を上手に醸し出していた。
「暗闇の丑松」、よかったなあ。新歌舞伎は花形に合っているのだろう。
<上演時間>「三笠山」108分(11001248)、幕間40分、「暗闇の丑松」102分(13281510

追記:
ふと、昔見た映画「ゲッタウェイ」を思い出した。「女」は浅はかだ、という丑松はこの映画の妻(アリ・マックグローが演じていた)をどう思うだろうか。

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歌舞伎ミーハー観劇記」カテゴリの記事

コメント

こんにちは。コメントにては大変ご無沙汰をしています。

相変わらず精力的なブログ更新には敬意を表したいと思います。

同じ初日観劇だったようですね。音羽屋の奥さまお二人がご贔屓の方に仲良くご挨拶されているのを見ましたら、私も心が和みました。

いつもながらの観劇レポの素早さはこれまた感嘆します。大筋同じ感想です。菊之助さんのお三輪はまだこれから変わってゆくと見ました。

「暗闇の丑松」は文字どおり暗く、どちらかと言うと苦手な演目ですが、今回は主役の松緑さんと梅枝さんの熱演で、舞台に引き込まれました。ご指摘のように助演陣も充実していました。

なお、私は三階席での観劇でしたが、きびきびと湯屋番甚太郎を好演したのは咲十郎さんだと思いますよ。

投稿: 六条亭 | 2013年3月 5日 (火) 17時19分

六条亭様
こんにちは。コメントありがとうございます。こちらこそ大変ご無沙汰しており、申し訳ありません。
六条亭様も初日ご観劇でしたのね。最近、感想が遅れがちですので、今回は感銘が薄れないうちに、と頑張りました。
「丑松」、よかったですね。松緑さんが丑松役にあんなに合うとは期待以上でした。
湯屋番頭、やはり咲十郎さんでしたか。一応、消去法でそうかなとは考えたのですが、まったく自信なく、お名前を挙げることはできませんでした。教えてくださってありがとうございます。スッキリしました。

音羽屋さんの受付、華やかで和やかな空気が漂っていましたね。歌舞伎ファンとしても嬉しく存じました。

投稿: SwingingFujisan | 2013年3月 5日 (火) 18時31分

湯屋番さん、間違いなく咲十郎丈です(о´∀`о) あのお役は以前から、早く咲丈にやっていただきたいなと強く願っていたので大変嬉しくて、感動です!

投稿: aki | 2013年3月 5日 (火) 23時27分

こんばんは。同じく初日・昼の部組で~す。
やっぱりお三輪といえば福助さん、と私もすごく記憶に残ってます。馬子唄を歌わされてるあたり、ありありと思い浮かぶよう。それからいくと、今回の菊之助・お三輪は、さんざんいじめられた後、花道でキッとなり髪を捌いて・・・の、強さがすごく印象に残ってます。まあ花横でほとんど息を飲んで見つめていたんですけどね。
あと、私も歌昇くんの足についつい目がいっちゃいました!
そして「暗闇の丑松」の松緑さん。こういう役も似合う(ハマる)大人になったんだな、な~んて思っちゃいました。ご近所のオバチャンの気分かも。

投稿: きびだんご | 2013年3月 5日 (火) 23時29分

aki様
こんばんは。コメントありがとうございます。
湯屋番頭、間違いなく咲十郎さんでしたのね。休む間もない忙しい仕事を文句も言わず、自分で上手に楽しみながらこなしているといった感じが印象的でした。体もきれいでしたね。
物語の空気を感じるのにこういう役がとても重要だと改めて思いました。

投稿: SwingingFujisan | 2013年3月 6日 (水) 01時14分

きびだんご様
こんばんは。コメントありがとうございます。
初日はやっぱり空気が華やいでいて、いいですねえ(そういえば、今年初の初日観劇なんでしたわ)。
きびだんご様も福助お三輪でしたか。私も未だにあのいじめられている姿が目に残っています。
菊ちゃんのお三輪はある意味現代的なのかもしれませんね。前方の花道横では臨場感が違いましたでしょう。息を飲んで見つめていらした、ってわかりますわ~。
松緑さん、明るくて大らかで真っ直ぐなイメージ(暗い悪役をやってもどこかにそういうものが出る)なのですが、この丑松は真っ直ぐな故の屈折感がとてもよかったと思いました。ほんと、ハマってましたね。
歌昇クンの脚…happy02

投稿: SwingingFujisan | 2013年3月 6日 (水) 01時32分

Swinging Fujisan様
おはようございます。演舞場の初日の昼の部、私も見てきました。今回はニアミスでしたね。「御殿」菊之助のお三輪、描線の強いタッチで、哀れさ、儚さは弱いものの、田舎の娘の一途な恋の激しさが良く出ていたと思います。この点は昔見た、お父さんの同役(玉三郎とは違った意味で、やたら綺麗でした)と良く似ています。また、今回は大和屋に教わったのか、怒りを爆発される寸前に独吟(成駒屋の型)を使わないやり方であっさり感はありますが、流れはよかったと思います。対する松緑、眼鼻立ちのはっきりと描いた化粧で、文楽のかしらに似ていています。但し、おっしゃるとおり、セリフがいつもの松緑調でもう少し義太夫を勉強してほしいものです。これは、海老蔵にも言えます。
「暗闇の丑松」、やはり先代の辰之助のほうが、ずっと素晴らしい。独特のニヒルな感覚、すぱっと切れる剃刀のよな感覚は、空前絶後だったのかもしれません。今回の松緑、大熱演ですが、やはり童顔が邪魔をします。それと、せりふがいつも大声なのは考え物です。一方、梅枝、期待ほどではなかったとの声もありますが、ここまでできれば十分です。この人も、タッチが強すぎ哀れさが薄いのですが、序幕はこの演じ方で良かったと思います。時蔵よりも、玉三郎に良く似ています。他の役では、萬次郎、団蔵、高麗蔵、がそれぞれ適役でしたね。あと橘太郎が相変わらず上手ですね。

投稿: レオン・パパ | 2013年3月 9日 (土) 08時52分

追加のコメントです。昨日、演舞場の夜の部見てきました。4時半開演、7時20分終演は何なのでしょうか。おまけに40分の休憩です。歌昇クラスの超若手主役で世話物一本ぐらい付けてほしかったです。とはいうものの、染五郎の「一条大蔵」悪くはありません。「檜垣」の阿呆の顔のつくり、笑い、これは本当に難しい。若手がやっても歯が立たないケースが殆どです、中村屋の初役の時も、「子供みたい」だと悪評さくさくでしたが、最後は良くなりました。播磨屋も同様です。一方、御殿での正気な部分、さっそうとして、今後の再演が楽しみです。松緑、こちらの方は、役に良く合っていたと思います。また、吉弥が舞台を締めていました。
 「二人椀久」私にとっては、京屋と天王寺屋の思い出の昭和名品舞踊ですが、今回は、長唄の演奏レベルのせいか、陶酔感までいたらず残念でした。「按摩けんびき」の部分、うき立つような緩急自在の演奏がなく、踊り手も今一つ、実力が出せなかったような、気がします。

投稿: レオン・パパ | 2013年3月 9日 (土) 09時10分

レオン・パパ様
おはようございます。
昼の部・夜の部とコメントをくださってありがとうございます。レオン・パパ様も初日ご観劇だったのですね!! 私の夜の部はずっと先(千穐楽です)ですが、やはりタイムテーブルを見て「え?」と思いました。長すぎても疲れますが、ちょっとあんまりな上演時間ですよね。

丑松、私も辰之助さんのが絶品でベストだと確信しております。ニヒルさ、切れ味、それに繊細さが格別だったと思います。松緑さんのもそれなりによかったし好きな丑松ではありますが。
梅枝クンは期待が大きい分、評価が厳しくなるのでしょうか。私はかなりよかったと評価しているのですが(決して贔屓目ではないと自分では思っています)。
橘太郎さんのこと、今回書きませんでしたが、この役者さんは本当にその場の空気を出すのが上手ですよね。すっと物語の世界に入り込ませてくれます。

菊五郎さんの若いときの女形はナマで見たことがなく、画像や映像のみなのですが、実にきれいでしたよね。今回の菊之助さんと同じく、哀れさ儚さよりも激しさが感じられたというのは、何となく想像がつくような気がします。
松緑さん、やっぱり文楽人形のように見えましたか。セリフのあの節回しはどうも気になって仕方ありません(演目によってはそうでもないこともあるのですけれど…)。立役としてこの世代の中心役者の1人なのですから。

投稿: SwingingFujisan | 2013年3月 9日 (土) 09時49分

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