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2013年5月28日 (火)

明治座花形歌舞伎千穐楽夜の部

527日 五月花形歌舞伎千穐楽夜の部(明治座)
健康に不安を抱えながらの観劇だったが、今月1回しか取っていないので見ることができてよかった。
「将軍江戸を去る」
どうしたって10カ月前の團十郎×中車版を思い出してしまう。
出だしの彰義隊の場は、襲名公演のほうが切羽詰った感じがあったように思う。隊士たちが警護する様子には当時の雰囲気を感じるものの、山岡鉄太郎との遣り取りにもっと緊迫感があってもよかったのではないだろうか(緊迫感がないわけではないのだけれど…)。
染五郎さんの慶喜は薩長への恨みが強くヒステリックなほどの激情が迸るのだが、若さゆえだろうか、それが等身大の苦悩に感じられた。團十郎さんの大人の慶喜に幕府の頂点に立たざるを得なかった男の人生を思わされたものだが、若い染五郎さんの慶喜にもまたそうした感慨を覚えた。将軍のセリフは「○○な~の~だ~」という謳い上げるような言い方が多く、かなり難しいと思うし、どうなんだろうと懸念もしたが、染五郎さんはこれをきちんと自分のセリフにしていたのではないだろうか。声も掠れることなくきれいだった。勤王を説かれるとはっとそのことに気づく英明さを見せるのもいい。ラスト、こだわりを捨て、きっぱりと江戸を去る姿は、清々しさと寂しさを漂わせ、見送る人ならずともうるうるした。
見送る人がそれぞれ名乗った最後に、1人が「名もなき者でございます」と言うと、客席がちょっとどよめいた。名もなき者は大蔵さん。
山岡鉄太郎は、必死で慶喜に訴え、江戸を去る慶喜に詫びる真摯な姿が勘九郎さんのキャラにぴったりだとは思うものの、そんなに感銘を受けなかったのは自分でも意外であった。恐らく世間的にはあまり好評ではなかった中車さんの鉄太郎のほうが私にははるかに説得力があったし、ぐっとくるアツいものを感じた。勘九郎さんの持ち味はこの芝居の中ではさほど生きないのかもしれない。勘九郎さんはむしろ慶喜をやったほうがよかったかもしれない。
愛之助さんの高橋伊勢守も思ったほど存在感がなかった。あるいは、出過ぎることなく、そっと2人を見守っていたのだろうか。
「藤娘」
七之助さんがきれいで、藤娘という踊りを堪能はしたが、時々体つきに男性を感じてしまった。あんなに可憐できれいなのに、なんでだろう。
「鯉つかみ」
東京でかかるのは初めて? 無理してでも明治座を見たかったのは「鯉つかみ」ゆえ。
まあ、荒唐無稽、他愛ないといってしまえばそれまでだが、その他愛なさ、荒唐無稽さをたっぷり楽しんだ。
釣家の家老・篠村公光の薪車さんとその妻・呉竹の吉弥さんがいい。2人とも良い人そうに見えてその実お家乗っ取りを企んでいるワルい奴かと思ったら(2人ともそういう役をよくやるでしょ?)、間違いなく忠義の人たちであった。薪車さんの演技が大きくて、実にカッコいい。
吉弥さんは姫さまに思いを遂げさせたくて、小桜姫(壱太郎。かわいい!!)とその思い人・志賀之助をたきつけて「しっぽりと」「どうぞごゆるりと」と奥の間へ押しやるのが可笑しい。ところがこの志賀之助、実はニセ物で妖怪なのだ。2人がしっぽりしている最中に座敷で篠村が名刀竜神丸を抜くと障子に映るのは鯉の化け物。
このあたりの物語がわかりにくい。
①信田家から使いが来る。②小桜姫と信田家との縁組については既に篠村が承知の返事をしていたらしい。③しかし小桜姫には好きな人がいることがわかったからと篠村は断る。④いっぽう、釣家では家宝の竜神丸を紛失していたらしい。⑤その竜神丸は今、篠村の手にある(ニセ物を摑まされていて一悶着あるかと思ったら、何のことはない、本物だった)。
②と④は篠村と信田家の使者の間に交わされる会話でわかることであるため、「え、そういうことだったの?」という唐突感は否めない。さらに⑥化け物と見抜かれたニセ志賀之助は長年釣家に恨みを抱き、釣家を滅ぼそうとしていた。ということが、ニセ志賀之助の口から語られるが、これにも唐突感がある。ま、気にしなければ気にしないですむのだけれど。
ただ、小桜姫と志賀之助の恋物語はどうなっちゃったの? なんか中途半端。



本物・ニセ物志賀之助2役の愛之助さん、大活躍。スッポンから鯉が悠々と空へ泳ぎ出し、その口から志賀之助が飛び出す。愛之助さんは3階席の高さまで釣り上げられ、少しずつこちらへ近づいてくる。中ほどで徐々に下へ降りて行く。宙乗り小屋へ入るわけではなく、3階席の後ろに置いてあるそんなに大きくない装置を大道具さんが操作していた。
宙乗りの後は本水を使った鯉との大格闘。鯉役の黒衣さんともども大変な体力だ。千穐楽だからなのか、2人とも思いっきり客席に水を振り撒いていた。本当は水かぶり席と3階の両方からの2回見たかったのだが、堪えて3階だけにしたのだった。やっぱり水かぶりたかったよ~。
愛之助さんが鯉の鰓を押さえると、鯉は目を白黒させてついには気絶(目を白黒させる仕掛けがとてもユーモラスで客席、大いに笑った)。愛之助さんがカツを入れて鯉は息を吹き返す。そして恋は空を飛んだり水に潜ったり、楽しい。最後は志賀之助が鯉の口の中に剣を突き立て勝負がつく。
とても楽しかったけれど、水槽がちょっと小さい。琵琶湖に見立てた舞台なのでもう少し大きくはできなかっただろうか。もちろん、費用や設営など私などにはわからない苦労があるはずだから、それは客の我儘に過ぎないのだが、上から見ているせいか、余計小ささが目立ってしまった。
びしょ濡れの愛之助さんは最後、泳ぎ六方で引っこむ。はじめのうち、拍手だけだったので、お、今回はいいじゃないのと喜んだのも束の間、やがて手拍子が全体に広がり、がっくり。自分はやらないが歌舞伎に手拍子も時代の流れでやむを得ないかと認めつつあった私だが、今回はなぜか、やっぱり歌舞伎に手拍子は絶対イヤだと思った。
<上演時間>「将軍」55分(16001655)、幕間30分、「藤娘」20分(17251745)、幕間25分、「鯉つかみ」70分(18101920
ひさしぶりのおまけ①:1回目の幕間で、某上州出身代議士の後援会に「ただ今のお時間がお食事でございます。○階××へお越しくださいませ」のアナウンスが数回入った。「将軍」で山岡が天野八郎に向かって「上州人はうどんばっかり食ってるから」どうとかというセリフ、ウケてくれたかな(この悪態に客席のどこかから笑いが起きていたから)。
ひさしぶりのおまけ②3階正面前列の人の一部が浅く腰掛け、身を乗り出して見ていた。私は後列だったし、たまたま前に空間ができて舞台はよく見えたが、後列の中には見づらい人もいたかもしれない。しかし、前列はきっと手すりが目に入るんだと思う。どうしてどの劇場も目の位置に手すりをつけるのだろう。せめて透明の手すりにしてくれればいいのに

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歌舞伎ミーハー観劇記」カテゴリの記事

コメント

ご無沙汰しております。相変わらずの怒濤の観劇生活ぶりに、感動していますheart04

私も、千穐楽に、三階席で拝見しました。
ご一緒だったのですね!

私は、別日に「水かぶり席」でも観ました!
4列目だったのに幕間にビニールが配られて、「え~4列目なのにぃ?」と、友人と笑っていましたが、
なんのなんの。
めちゃくちゃお水、飛んできました!happy02

お話は荒唐無稽、シンプルなものだったせいもあって、お芝居を観ているというか、アトラクションに参加しているような気持ちになりました。
愛之助さんも、客席にお水飛ばすのを楽しんでたような…?

つっこみどころはいろいろありましたが、キャアキャアいって楽しみましたnote

千秋楽は、楽だからといった特別なものはありませんでしたが、毎日これを力一杯やっていたのかと思うと、頭が下がります。
壱太郎くん、可愛かったですねえhappy01heart04
最近は、愛之助さんとの共演が多くて、嬉しいかぎりです。

引っ込みの手拍子は、私が観劇した両日ともありました。
賛否さまざまだと思いますが、ケレンの多い演目だとことに手拍子がわく確率が高いように思います。
会場が盛り上がったということだと思いますが、役者さんはどうなのかなぁ。
私としては、役者さんが喜ぶことをやってあげたいという気持ちです。

そんなこんなですが東京では初の「鯉つかみ」、楽しませていただきました~note
こんどは劇場でお会いできますように!

投稿: mami | 2013年5月29日 (水) 08時39分

mami様
おはようございます。コメントありがとうございます。
やっぱり千穐楽いらしていたのですね。きっとどこかにいらっしゃるだろうから、もしかしたらお目にかかれるかなあと期待して幕間にあちこちウロウロ、きょろきょろしていたのですが…。同じ3階だったのに、3度目の偶然は起きませんでしたね。残念bearing
水中格闘の場面、毎日あのテンションでやっていたのですか!!! 衣裳をつけて水の中に入るってそれだけで大変なのに、愛之助さんも鯉さんも素晴らしいgood 上からは3列目までしか見えませんでしたが、あの勢いでは確かに4~5列目でも水がかかっているだろうなあと思いました。でも、自分のこれまでの経験から言っても、絶対お客はかけられるのを期待していますよね。アトラクションに参加--なるほどなるほどwink 私も色々ツッコミましたが、そういうものを超えて楽しめました。

壱太郎クンと愛之助さんのカップルはビジュアル的にも素敵だし、これからも色々な演目で見たいですね。

手拍子は客席の盛り上がりを表すものだとは思いますし、やむを得ないかなあという時もありますが、なぜか今回は「勧進帳」以上に「違う!」という気持ちになりました。これからの歌舞伎に手拍子が当たり前になりそうな懸念が湧いたからかもしれません。役者さんがどう思っているのか、私も知りたいです。


投稿: SwingingFujisan | 2013年5月29日 (水) 09時46分

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