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2013年7月30日 (火)

2度見たって引き込まれた「四谷怪談」

728日 七月花形歌舞伎千穐楽夜の部(歌舞伎座)
13073001sensyuraku 何度も見ている「東海道四谷怪談」だし、今月2度目だし、それでもやっぱり面白かった。ぐいぐい引き込まれた。感想は初見の時とほとんど変わらない。なので、初見の感想と一部重なるところはあるかもしれないが、一応今回新たに思ったことを中心に。
私は人がいじめられるのは嫌いだ、見たくない。お岩さんが伊右衛門にDVを受ける場面もとても嫌だった。ところが今回はなぜかそう思わなかった。あまりのひどさに身体を硬直させながら、それでも見るのはイヤではなかった。不思議なことにお岩さんを哀れと思う気持ちもほとんど湧いてこなかった。哀れというのは自分がお岩さんを客観的に見ているから湧いてくる感情かもしれない。今回は伊右衛門のDVを受けるみじめさも、毒薬と知らずに伊藤家に向かってあんなに感謝した自分が恥ずかしいと身をよじるお岩さんの悔しさと怒りも自分のものとして閉じ込め、お岩さんと一緒に爆発させたんだと思う。
蛍狩の場はとても美しかったが、伊右衛門がお岩さんにした仕打ちを悔いているように思えて、それはそれでお岩さんのためにちょっと慰められる気はしないでもないけれど、伊右衛門側のストーリーとしては残念な気がした。伊右衛門には徹底的に残忍酷薄でいてほしいのだもの。
伊藤家は狂っている。冷徹に狂っている。その狂気が伊右衛門の狂気と呼応したのだと思った。はじめ歯牙にもかけなかったお梅の恋慕をああいう形で受け入れたのは伊右衛門の残忍酷薄の奥に伊藤家の狂気に通じるものがあったのではないだろうか。
菊之助さんのお岩はきれいだった。顔の半分が醜くふくれてもきれいだった。しかし鉄漿を塗り始めてから顔が変わってきた。怖かった。それは外見的な怖さというよりも鉄漿を塗っているうちにお岩さんにも狂気が宿ったような気がしたからだと思う(何もかも狂気で片付けるつもりは全然ないのよ)。
登場人物の性格、生き方を色々考えさせられるのは、それだけ役者がその人物になっているからだろう。
それにしてもひどいと思うのは、伊藤家の誰もお岩さんにした行為を悔いていないことだ。お梅の母(萬次郎)も乳母(歌女之丞:デキる秘書みたいな感じで面白かった)も伊右衛門憎しであって、お岩さんのことはまったく頭にない。もちろん、伊右衛門がお梅(右近)と伊藤喜兵衛(團蔵)を殺した理由は知らないから伊右衛門を恨むだけしかないのは理屈かもしれないけれど、自分たちがしたことの報いだってちょっとくらいは思ってもいいんじゃないかなあ。
市蔵さんの宅悦が秀逸だった。弱い立場で直接非難はできなくても伊右衛門がひどい人だということはわかっている。お岩さんに同情を寄せつつ、でも怖い。怖いけれど気の毒でならない。宅悦はある意味観客の気持ちを代表しているのではないだろうか。
「四谷怪談」にはやっぱり三角屋敷が必要だと、あらためて思った。これがないと直助権兵衛の存在が中途半端に感じられる。そして、凡人が覗き込むことができないほど深い「四谷怪談」の世界には三角屋敷がほしい。
ラスト、与茂七(菊ちゃんの立役も本当にステキ)が伊右衛門に一太刀浴びせたところで「本日はこれぎり」になるのだが、千穐楽は染五郎さんが「千穐楽までかく賑々しくお集まりいただき」とお礼を述べ、「歌舞伎座が新しくなってから初めての花形歌舞伎である」「松緑さん、愛之助さん、菊之助さん、みんな歌舞伎を支える力になる覚悟でいる」というようなことを語って、菊ちゃんと2人で「まず当月はこれぎり~」。
前日の疲れが取れずに、よほどパスしようかとも迷ったのであったが、やっぱりそれはできない。途中で頭痛薬をのみ最後まで見ることができてよかった。
追記:そうそう、ちょっと面白いと思ったのは、伊右衛門が傘張りしていたこと。あの伊右衛門にして、一応、仕事をしようという気持ちはあったのか、ってね。

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歌舞伎ミーハー観劇記」カテゴリの記事

コメント

お待ちしておりました〜happy01
まだかな、まだかな、と一日に何回もチェックしちゃいましたcoldsweats01ヒマか
新しい歌舞伎座、まだヨソイキ顔で、慣れない感じで
前の歌舞伎座のがずっと好きなんですけど
それでも、歌舞伎座が戻ってきてくれてから
自分でも不思議なほど、歌舞伎へのネツがまたふつふつとわいてきて
最近は『Swingさまと歌舞伎のおしゃべりしたい〜』となってきておりますbleah
Swingさまのように深くはわからないですけどcoldsweats01
四谷怪談は好きで、しかも菊ちゃん染ちゃんなので
とっても楽しみにしていましたが
いろんな人から賛否両論で、ちょっと心配もしつつのカンゲキでした。
でもでも、すごくよかったですlovely
染ちゃんのかっこいいことheart04
シビレました‼ワルい人〜‼ホント、ワルい人だ〜‼でもかっこいい〜bearing
菊ちゃんのお岩さまは綺麗で一所懸命でしたね。私はコワくはなくて、哀しかったです。
そしてそして、市蔵さんが素晴らしかったですね〜
梅枝くん、いつ見ても好きです!もっといろいろ見たいな〜。。。
友人が、久々に四谷怪談を見て(彼女は現・勘九郎さんのは見てなく、その前回一緒に福助さんで見た)、これならも一回見てもいいな〜、って、前楽で言われても、明日千穐楽ですけど?
二回ご覧になったSwingingFujisanさまがうらやましいですconfident

投稿: 七子 | 2013年7月31日 (水) 11時56分

七子様
お待たせしてすみませんbearing 何度も覗いてくださったとのこと、ありがとうございます!!

七子様の歌舞伎熱が戻りつつあるの、とってもとっても嬉しいです。もう歌舞伎にはあまり興味なくなっちゃったのかなあ、と心配していたんですもの。やっぱり歌舞伎座の力でしょうか。今の歌舞伎座はかなりいいと思います。欠点もあるにはあるでしょうが、きっと前の歌舞伎座にもそういう点はあったに違いありません。でも、そこは役者と観客でカバーしていきましょう。
今回の「四谷怪談」、私は好きです。染五郎さんの伊右衛門は素敵な色悪でしたね。菊之助さんとのコンビもイケますよねえ。
菊ちゃんが立役の時は梅枝クンとのカップルがいいですね。お父さんどうしのカップルも大好きですが、この2人がこんなにお似合いだとは思いませんでした。
市蔵さん、怖がる中にもお岩さんをいたわる気持ちがあって感動しました。

観劇日を決めるのってむずかしいですね。1回しか見ないつもりで前楽とか千穐楽を取ったらもう一度見たくなっちゃった、っていっても遅いですものね。お友達も残念でしたが、一期一会のお芝居にそれだけ楽しまれたのは歌舞伎ファンとして嬉しいです。

花形は9月、11月と楽しみですnotes

投稿: SwingingFujisan | 2013年7月31日 (水) 18時49分

傘張りですが、初演の時は、提灯張りだったと言うのを以前読んだ記憶があります
提灯ですと、あとのお岩の恨みが効きますよね
傘張りの方が「様子が好い」ので役者さんの工夫で変わってきたのだろうと思います
ちょうど今日、石田波郷(俳人)の「江東歳時記」という本を読み終わったところですが、この本は昭和の31年~32年の隅田川と江戸川にはさまれた一帯の風土記(歳時記)になっているのですが、その中で江戸川尻での鰻とりの紹介がされていました
私が生まれる少し前までは、東京でも鰻とり、鰻かきが出来たのですね

投稿: うかれ坊主 | 2013年8月 2日 (金) 00時31分

うかれ坊主様
おはようございます。
初演は提灯でしたか。たしかに提灯のほうが、あとの展開を考えると面白いですね。でも浪人というと傘張りというイメージもありますものね。
昭和30年頃の東京はまだまだのどかだったのですね。東京オリンピックでがらりと変わったのでしょう。私は白山通りを馬がぱかぱか歩いていたのを覚えています(うわあ、なんてバアさんなんだ)。

投稿: SwingingFujisan | 2013年8月 2日 (金) 10時37分

紹介した本には馬蹄屋さんのことも載ってましたったけ
横浜鶴見の生まれですが流石に、わたしくには馬の記憶はございません・・・
地域差はあると思いますが、SwingingFujisanさんより少し若いかしらん??

投稿: うかれ坊主 | 2013年8月 2日 (金) 17時53分

うかれ坊主様
そうですよ、うかれ坊主様は私よりだいぶお若いと思いますよ。
私ときたら、東京のど真ん中をまだ馬が通っていた時代の記憶があるのですから。もちろん、そんな光景はもう珍しくはなっていましたが。
いつも若ぶっていてすみませんcoldsweats01

投稿: SwingingFujisan | 2013年8月 2日 (金) 23時17分

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