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2013年7月31日 (水)

これだから歌舞伎はやめられない:巡業中央コース

729日 松竹大歌舞伎巡業中央コース(越谷サンシティホール)
ほぼ満席の状況にちょっとびっくり。今年は東コースも大入り続きらしく、歌舞伎があちこちで待たれているのはうれしい。そして私はやっぱり歌舞伎が好きだ、やめられないと強く思った。
「番町皿屋敷」
青山播磨というと、私の中では梅玉さんだろうか。吉右衛門さんの播磨はどうなんだろう…とやや危惧はあったが、それはすぐさま吹き飛んだ。吉右衛門さんがとても若々しくて素敵だったんだもの。麹町山王下の町奴との喧嘩の場面は周囲が騒がしくて(始まってるのに、あちこちから話し声が聞こえる。それもかなり長い間。そういうのも含めて巡業なのかもねえ)、セリフがよく聞き取れないこともあり、ちょっとノリ損ねたが、青山家の場はぐいぐいと展開に引き込まれていった。
芝雀さんのお菊が女心を余すところなく見せていて感心した。殿さまの愛情を信じたくはあっても、身分が違うゆえの不安が一抹の疑いとなってお菊に皿を割らせる。青山播磨から見れば浅はかとしか言いようがないのだろうし、お菊にしても播磨の真情を知れば愚かなことをしたと悔いたかもしれない。しかし、あの時のお菊を浅はかだ愚かだとは責められない、そう思わせる心の揺れが細やかな演技の中に感じられたのだ。
吉右衛門さんの播磨は、お菊が皿を割ってしまったと聞いてもそれが粗相である限り、お菊へ向ける目は限りなくやさしい。お菊といっしょにいる時間の心の穏やかさ、あたたかさ、幸せ感がやさしくお菊を包んでいて、こちらまで幸せになる。吉右衛門という大きな役者の演じる播磨の中に、「小さな幸せ」を感じる。でも、こちらは真実を知っている。この先の展開もわかっている。それなのに、どきどきはらはらして2人を見守る。
吉右衛門さんの播磨は、真実を知ってとても悲しそうだった。悲しみがまず播磨を襲い、やがて悔しさ、怒りが込み上げてくる。播磨のセリフには真情が籠っていて胸に迫った。いくら愛していても、いや愛しているからこそ斬らねばならぬ。奴権次(吉之助)が必死で止めたってダメなのだ。あの時の吉右衛門さん、ステキだった。
男の真の愛情を知り、満足して死んでいく女は幸せかもしれない。朋輩のお仙が見ていなかったら粗相ですんだだろう。でもお菊は一生、自らのしたことを心の奥に抱えて苦しんだに違いない。そういう意味でも、ここで死んでいくお菊は幸せなんだと思った。いっぽうで、一生の恋を失った男はこれからどうやって生きて行くのだろう。その答えがラストの喧嘩に飛び出していく姿であるわけだ。悲しい話だ。
そういう感動に反して余計なことだが、吉右衛門さんに押さえつけられている間、芝雀さんは頭を舞台につけずに横になっている。かなり苦しい体勢だろうに、長時間そうやっているのは筋力あるなあ。歌舞伎の場合、横になったり仰向けになる時頭をつけないことが多いように思う。だからいつも、役者さんの筋力に感心していたのだ。
「口上」
下手から歌六、種之助、歌昇、又五郎、吉右衛門、錦之助、隼人、米吉、芝雀と並んでいる。芝雀さんだけ女形の扮装。
吉右衛門:このたび中村歌昇が三代目として中村又五郎を襲名した。隣に控えているのは又五郎さんの長男種太郎であるが、父の前名を四代目として襲名した。又五郎、歌昇は播磨屋にとって大事な名前。又五郎が復活したのは私としても嬉しい。末永くご贔屓お引き立てを。
錦之助:親戚の1人として襲名は嬉しい。ここに列座するものみな、吉右衛門さんの親戚(客席笑)。今後とも三代目又五郎さん、四代目歌昇さんをご贔屓お引き立てよろしく。
隼人:親戚の1人としてこんな嬉しいことはない。心よりお祝い申し上げる。
米吉:叔父にあたる又五郎、従兄の歌昇の襲名は親族の1人として嬉しい。私も精いっぱい精進する。
芝雀:襲名、お喜び申し上げる。又五郎さんとは同い年なので親しくしている。歌昇さんとは播磨屋の舞台でご一緒している。真面目な好青年である。
歌六:弟又五郎、甥歌昇の襲名披露を演舞場を皮切りに名古屋、京都、金丸座、大阪と行い、このたびご当地でご披露する。亡くなった先代又五郎さんは大変お世話になった大恩人である。吉右衛門さんのおかげで弟がその名を名乗るのはありがたい。
種之助:父又五郎、兄歌昇の襲名披露に列座させていただくのは諸先輩、皆様方のおかげです。
歌昇:襲名はこの上ない喜び。なおいっそう芸道に精進する。
又五郎:当地にて三代目又五郎の襲名ご披露をさせていただく運びとなった。松竹、関係者、吉右衛門さん、諸先輩方のおかげである。芸道に精進する。
吉右衛門:連獅子の紹介をして、「親獅子は又五郎さん、仔獅子は歌昇さん、間狂言は種太郎さんと米吉さん、親子兄弟親類での狂言です」。
確かに言われてみれば、親族で固められた巡業で、出演者が「親族、親類」を強調するたびに客席からは暖かい笑いが湧いていた。
ずっと1人で播磨屋を守ってきた吉右衛門さんがどんなに嬉しいかと思って胸が熱くなった。皿屋敷の時はわからなかったが口上の吉右衛門さん、少し痩せたように見えた。

「連獅子」
素晴らしかった‼ 見た甲斐があった。ベスト3に入る「連獅子」だったと思う。
又五郎さんの踊りは好きだし巧いと思っていたが、歌昇クンがここまでできるとはお見それしました。
歌昇クン、実にいいオトコになったと思う。若さは当然のこととして、顔がいい。深みと色気が何ともいえない。きびきびとして、ジャンプの高さに客席が何度もどよめいた。私は勘九郎さんの動きを思い出した。今回は踊りなので、芝居はどうなのかわからないが、この踊りを見ていれば、芝居もきっといいに違いないと想像できる。獅子としての出のあと、一度引っこむ時は、足の間に毛を入れる形であった。狭い花道(サンシティの袖花道は他の会館に比べて長さはあるかも)での毛振りも見事だった。
又五郎さんの踊りは安定していて大きく、親獅子ではあるが若さ(いい意味での)もある。毛振りも若い歌昇クンと揃ってきれいだったし、途中ちょっと危ないかなと心配したが最後は再び頑張って勢いのいい毛振りを見せてくれた。演舞場での襲名披露公演で足を痛め、ギブスをはめながら演じ通した梅王丸、武部源蔵が思い出され、じ~んときた。
間狂言の種太郎・米吉コンビは、いかにも若いけれどツボを押さえたなかなか達者な演技で会場の笑いを誘い、大いに楽しませていたのは殊勲賞ものだと思う。
そういえば、三味線の栄津三郎さんがふと気づいて目をやったら糸を張り替えていたように見えたけど、実際のところどうだったのかしら。
中央コースは越谷の1回だけだけれど、9月に西コースで再びこの座組に出会える。そしてまた「連獅子」が見られる。楽しみで仕方ない。
<上演時間>「番町皿屋敷」65分(14001505)、幕間20分、「口上」10分(15251535)、幕間15分、「連獅子」55分(15501645

 

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コメント

暑中お見舞い申し上げます!

私はこちらの巡業、28日の鎌倉と30日の横須賀に行って参りました! 本当に最高に感動した、胸震えた『連獅子』で、SwingingFujisan様がこちらで余すところなく語ってくださったので、嬉しい気持ちでいっぱいです♪ SwingingFujisan様にお褒め頂き、なんだか自分のコトのように誇らしい気持ちなのです(笑)。(まさに、「贔屓目」。)

又五郎丈の踊りの巧さは「勿論」のこと、歌昇丈の躍動感あふれる仔獅子には、本当に胸が熱くなりました。毎日進化しているんでしょうね。又五郎丈・歌昇丈の父子の絆が舞台で感じられました。

暑さのなか、劇場通い、どうぞお気をつけて!!

投稿: はなみずき | 2013年8月 1日 (木) 20時03分

はなみずき様
こんばんは。コメントありがとうございます。
2度ご覧になれてよかったですね!! 私も見終わったあと、すぐに又見たくなってしまいました。もっと早くどこかで見ておけばよかったと後悔しました(今年は東北へ行かれなかったがとても残念)。
「連獅子」、本当に本当に素晴らしかったです。お2人とも行儀のよい踊りで見ていてとても気持ちがよく、いつまでも見ていたい気分でした。歌昇クンの躍動感、見事でしたね。わくわくしました。まわりの観客も引き込まれているのがよくわかりました。
はなみずき様がとっくにお気づきだった歌昇クンの魅力、遅ればせながら私にもやっとわかってきました。今後の活躍がぐっと楽しみになってきました。

むしむしのこの頃、はなみずき様もご自愛くださいね。

投稿: SwingingFujisan | 2013年8月 1日 (木) 22時34分

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