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2013年9月 8日 (日)

面白かったあやしの世界「陰陽師」:九月花形歌舞伎夜の部

97日 九月花形歌舞伎夜の部(歌舞伎座)
新作の「陰陽師」、面白かった。
開演前に既に音楽(き乃はち)が流れ、もう安倍晴明の世界へ一歩踏み入れたような気分になる。
お芝居の間じゅう、ほぼ客席は暗い。3幕いずれも開幕前に、遅刻するとしばらくの間席に案内できないと注意のアナウンスが入る。場の数がやたら多いのは新作だからだろうか。時々映像を使って「二十余年前 秋の都」とか「その四年後」とか映し出されるから、居眠りしてるとわからなくなるよ(暗いから反射的に眠くなるのよね。とくに暗転の時。でも、面白いから寝ずにすんだ)。ちゃんと見てれば、筋は追いやすいと思った。序幕だけ、簡単に紹介。
序幕第一場「都大路」。真っ暗な都大路に晴明(染五郎)と源博雅(勘九郎)と従者の姿が浮かび上がる。不吉な星に何かの気配を感じた晴明は五芒星の結界を作り(照明で床に映し出されるこの結界が幻想的)、ここから決して出るなと警告する。しかし恐怖のあまりかじっとしていられなくなった従者が百鬼夜行に捕われ犠牲となる。その後、大きな龍のようなものに乗った滝夜叉(菊之助)が2人の前を通り過ぎる。龍に乗った美女と言えば海神別荘だが、こちらは暗くおどろおどろしい。でも菊之助さんが爽やかにきれい。
白塗りの染五郎さんはまさに貴公子。金太郎クンが似ている、と思った。
第二場は20余年前の都大路。将門(海老蔵)とその乳母子の桔梗前(七之助)が将門の親友の俵藤太=藤原秀郷(松緑)と別れ、東国へ赴く経緯が描かれる。この時の将門は、牛馬以下に扱われる東国の人々を助けようと、荷車をぶんぶん振り回したり大暴れ。そして都のいじめから東国を救うべく東国へ戻ることを決意する。秀郷は都に残ることになるが、思いを寄せている桔梗前は将門と行動を共にすることになり、秀郷は渡そうとしていた櫛を渡せないまま別れることになった。ここは覚えておこう。
第三場「御所」はその4年後。東国の将門を討つよう貴族たちが秀郷に依頼する。秀郷は「いやなこった(とは言わないが)。将門に加わりたいくらいだ」と断るが、晴明が現れて、今の将門は秀郷が知っている将門ではないと告げ、その真偽を確かめるため、東国へ下ることにする。その際、必ず三上山を通るように、面白いことが起こるから、との晴明の言葉に従い、秀郷は三上山へ行く。ところで、この場の4人の貴族をちょっと記憶しておきたい。
晴明が月を見ていると、スッポンから大きなクロアゲハとともに変な男が出てくる。仁王襷ならぬ蝶結び襷をしているのが<かわいい>。この男、おお、芦屋道満である。演じるは亀蔵さん。なんともワケのわからぬところが面白い。
第四場「三上山」は、有名な俵藤太の大百足退治。全体的にもそうだが、とくにこの場面は上から見るのがベスト。僧兵みたいに頭から緑色の布をかぶり、赤い両腕を足のように曲げて垂らした18人の役者さんたちが腰を折って下向きになった状態で百足の頭、胴体、尻尾となっているからである(頭役には大きな触角と目玉がついている)。つまり、上から見ると、緑色の背中をした百足の一節一節が繋がったり離れたりしながら蠢いている様子がよくわかるのである。演じるほうはつらい姿勢で立ち回りのような動きをしなくてはならずさぞや大変だと察するが、見事に統率された百足ぶりは、歌舞伎らしい実に秀逸な場面であった。大蛇の精の新悟クンに透明感があり、新悟クンは精にぴったりかもと思った。秀郷は大蛇の精から黄金丸という刀と、身を守る矢をもらう。黄金丸でつけた傷は20年間ふさがらないという。ここは一番大事なポイント。
第五場は16年前。秀郷、将門、桔梗前の再会である。桔梗前はなんと将門の妻になっていた。ここで秀郷は将門に仕える興世王(愛之助)に初めて会う。
第六場はさらにもう1年前。将門の回想場面である。将門の一族が都軍に皆殺しにされていた。怒りと悲しみの将門を興世王が唆し、将門は我が子の死肉を喰らう(この場面はエグい。将門が人間でなくなったことを表すにしても将門が食い散らすはらわたは正視に耐えない)。そして興世王の秘術で将門は不死身となる。
第七場は第五場の続き。桔梗前が秀郷に、将門は昔の将門ではない、あなたの命が危ない、馬を用意したから逃げなさいと言って逃がす。別れ際、秀郷は昔渡せなかった櫛を桔梗前の手に握らせる。大事そうに胸に抱きしめる桔梗前。しかし桔梗前は秀郷を逃がしたことを興世王に見抜かれ、無惨にも殺されてしまう。
第八場。秀郷、都軍の小野好古(團蔵)、平貞盛(市蔵)が急襲をかけ、将門は秀郷の黄金丸でついに討ち取られ、首を落される。その首が貞盛の首に食らいつく。ここも覚えておこう。

序幕はこれで終わり。この後は、晴明と博雅が不吉な星と将門の関係を解き明かしていくことになり、そこに父の無念を晴らそうとする滝夜叉姫が絡み、興世王の恐ろしい陰謀が明らかになり、20年経ち貞盛の身体を借りて蘇生した将門がついには自ら興世王を道連れに黄泉の国へと消えて行く。興世王に育てられ信じていた滝夜叉が真実を知って心の叫びを父に届けたのだった。
最後は博雅の美しい笛の音(あ、言い忘れていたけど、博雅は笛の名手。滝夜叉の泡立つ黒い心も博雅の笛で落ち着くのだ)が皆の心を洗い流し…。勧善懲悪、けりをつけてさわやかに終わる。しかし、なんとなく中途半端なあっさりした終わり方のような気がした。いっそ「人間豹」第一弾のように将門側は逃げてしまって、続編の期待をもたせてもよかったのではないだろうか。


染五郎さんは美しく晴明役にぴったり。第二幕第二場だったか、博雅と酒を酌み交わしている時に、懐から白狐が出てきて、晴明とたわむれる場面がある。この時、博雅は晴明に背を向けて笛を吹いているので狐にはまったく気がつかないのだが、染五郎さんが本当に上手に面白おかしく狐を操るものだから(そういう遊び心は染五郎さんらしくて、心なごむ)、もし勘九郎さんがこっちを見ていたら、絶対吹き出したと思う。もしかしたら稽古でそういうことがあったから、背を向けるようにしたのかな、なんて。

勘九郎さんは昼の部の存在感のなさとは正反対で、天然ボケの貴公子ながら常に晴明と行動を共にして将門のナゾに迫っていく。勘九郎さんの微妙にズレた間が可笑しい。
2人がいいコンビで、見ていて楽しい。笛は実際には吹いていないと思うが、ちゃんと音の長さと指の動きが合っていた。
菊之助さんは陰謀に加担する恐ろしさと博雅の笛に心動かされる優しさが絶妙にミックスされていて、両側(将門を父とし、興世王に育てられてはいても、母親は桔梗前である)を揺れ動く気持ちの見事な表現は「十二夜」でも見せてくれた通り。平安時代の髪型は歌舞伎の女形には似合わないと思ったが(「浮舟」の時は菊ちゃんでもあまりきれいでなかった)、今回の菊ちゃんは滝夜叉のあの逆立つような髪型ではなく普通の垂髪(かな?)であっても、とてもきれいだった。

七之助さんはしっかり自分をもっていながら、運命には逆らえず興世王の犠牲になる哀れさがいい。秀郷と結ばれてほしかった。

松緑さんは純情、悲恋、正義、友情、かっこよさのすべてを持っていた。

海老蔵さんはまさに将門のニンではあるのだけれど、やはりどうしても声が安定しない部分があって、気になる。後半、声がしっかりしてくると、その魅力・オーラが倍加するんだもの、惜しいことである。

何と言っても存在感がピカ一だったのは愛之助さん。主役は興世王じゃないかと思うほどだった。愛之助さんのちょっと時代がかかった、丁寧なセリフ回しが悪の華を満開にする。

もう
1人、思いがけない存在感を示した人がいる。芦屋道満の亀蔵さん。羽目をはずさないコミカルさで、不思議な味わいを芝居に加えた。いわゆるトリックスターですか。
そのほか、将門に身体を乗っ取られた市蔵さん(
20年も宿痾に苦しんでお気の毒)、興世王の正体を藤原純友ではないかと疑った團蔵さん、市蔵さんの息子役の亀寿さん、晴明の師・賀茂保憲の亀三郎さん、みんな適材適所でよかった。
なお、序幕第三場の貴族4人だが、ひょっとして後に医師に化けた興世王にたぶらかされて手下みたいになっていたような…。役者さんがよくわからなかったので、違っているかもしれないけれど、欣弥さんが両方にいたようだったし、数的にもそうかなと思った。
同じ染五郎さんの「人間豹」に比べ、こちらのほうが全体的に歌舞伎っぽさは薄かったが、随所に歌舞伎らしい要素は鏤められていて面白かった。

<上演時間>
序幕85分(16301755)、幕間35分、二幕目60分(18301930)、幕間15分、三幕目40分(19452025

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コメント

あら、私も7日に3階7列から見てたんですよ!
夢枕「陰陽師」のシリーズは、ずいぶん前にいくつか読んでいたんですが、今回の上演を前に「瀧夜叉姫」も読みました。そしたら、文字で読んでる方が気持ち悪くて、いったいどんなふうに舞台にするの?なんて思ったり。キレイキレイではすまされませんものね。
そんな風に、原作から考えると、脚本はうまくできてるな~と。人物やストーリーはきちんと尊重して、それぞれの役者さんの「見せ場」が際立つんですもの。
菊ちゃん瀧夜叉、私もつい浮舟を思い出してました。
今回は様子見(笑)で全体を把握したので、もう一度、花道近くから見るのが楽しみです。

投稿: きびだんご | 2013年9月 9日 (月) 11時22分

きびだんご様
おお、ご帰国早々ご覧になっていらしたとは!! しかも同じ日に!! 私はリピートも3階でBなので、今回は3階1列をフンパツ(coldsweats01)しました。全体的に上から見たのは正解だったと思いますが、舞台が暗いので遠くからだとよく見えない部分もあるし、花道近くでご覧になるのが羨ましい。
原作読んでみようかな…でも気持ちが悪いのは「赤目のジャック」で懲りたし…。
原作小説あっての歌舞伎化ですから、場の数が多くなるのはやむを得ないのでしょうが(大道具さん、大変でしょうね)、おっしゃるように脚本はうまくできていましたよね。
菊ちゃんのあの滝夜叉はやっぱり浮舟を思い出させますよねえ。滝夜叉にはもうちょっと暴れてほしかったかもsmile 「忍夜恋曲者」に捉われすぎかしら。

投稿: SwingingFujisan | 2013年9月 9日 (月) 14時37分

こんにちはhappy01
新作なので、ちょっとおそるおそるでしたが
よくできてましたよね←生意気ですみませんcoldsweats01
しかも、どの方もおっしゃる通り、適材適所‼
初日からちゃんと楽しめましたhappy02
後半になるにつれ、きっとどんどんよくなっていくと思うと
もうちょっと買い足したい気もありますが
来月以降の怒涛の出費を考えてガマンガマンです‼
松緑さんが大活躍だったわりに
先日のNHKではまったく?映っていなかったようでしたので
なんで?と思ってしまいました。
昔、富十郎さんの矢車会だかの特集の時は映っていらしたと思うので
最近はテレビNGにしてしまったのでしょうか…ザンネンですbearing
昼の部のレポを読ませていただき、早く見たい‼
いつも素敵なレポどうもありがとうございますlovely

投稿: 七子 | 2013年9月 9日 (月) 19時19分

SwingingFujisan様こんばんわ。

先日は忠臣蔵のアドバイスを頂き、ありがとうございました。

感想を読ませて頂いて、陰陽師とても観に行きたくなりました。
なんとなく通の方には評価されないのかと思っていました。
(スーパー歌舞伎好きでした。)
龍やキツネやムカデ楽しそうですね。

チケット取れず、幕見席に挑戦してみようと思います。
まずは原作を読んでみようかな。

投稿: チャチャ | 2013年9月 9日 (月) 21時20分

七子様
こんばんは。コメントありがとうございます。
私も、リピートする予定なのにガッカリしたらどうしようと、けっこうおそるおそるな感じで開演を待ちました。でも最初から引き込まれて、リピート正解!と思いました。ほんと、よくできていましたよね。これからどんどん進化していくことでしょうね。
松緑さんがNHKでうつらなかったのは、一般的な知名度のせいでしょうか。私にはよくわかりませんが、染五郎・中村屋兄弟・菊之助に比べると、いくぶん知名度が低いのかもしれません(芸能ニュースにはほとんど出てこないでしょう、そういう意味で)。もっともNHKなんですから、そんなの関係ないといえば関係ないのでしょうが。
昼の部もお楽しみに。

投稿: SwingingFujisan | 2013年9月 9日 (月) 21時49分

チャチャ様
こんばんは。コメントありがとうございます。
歌舞伎は懐が広いので、新作だからとか、こういうジャンルだからダメということはありません(と思います)。通の方がどう思われるかはわかりませんが、プロの批評家さんだって、意見が分かれることも多々あるんですもの。私たちは批評家ではないので、自分が面白かった、よかったと満足すればいいのかな。
幕見は、先日は土曜日だったせいもあるのか、開場時間には第1幕は完売でした。ずいぶん早い時間から売り出しているようですので、大変でしょうがお早めに(通し狂言の場合は一幕見って難しいですね。全部見たいですものね。全部見ると3B席と同じ料金ですね)。

染五郎さんの狐、と~ってもお茶目でしたhappy02

投稿: SwingingFujisan | 2013年9月 9日 (月) 22時13分

こちらにもコメントします。先週、歌舞伎座夜の部見てきました。
筋が複雑そうなので、事前に原作を読んでから出かけました。長編物を上手くコンパクトにまとめた脚本だったと思います。
愛之助の最初の登場に大きな拍手が来たのには正直びっくり。ここでもテレビの効果なのでしょうか。
それぞれの役者の個性と役柄が良く合っていたと思います。脚本家の腕のよさが伺われます。
ところで、亀蔵が独特の個性で魅せますね。市蔵、亀蔵の兄弟、これからも、いろいろな役柄でバイプレイヤーとして歌舞伎を楽しませてくれそうです。歌舞伎の悪役(端敵役)はユーモラスな味も必要なので、この兄弟、重用されそうです。また老役も年齢的に相応しくなってきました。とにかく、歌舞伎は主役だけよくても、面白くありませんから。

投稿: レオン・パパ | 2013年9月16日 (月) 10時26分

レオン・パパ様
こちらにもありがとうございます。
「陰陽師」は新作にしてはよくできていたと思いました。
愛之助さんの人気、すごいですね。元々知名度はあったでしょうが、こうして知名度が上がったり、歌舞伎を見に行こうという人が増えるのはいいことですね。ドラマはドラマ、歌舞伎は歌舞伎としてしっかり演じていて、好もしく感じました(変な言い方ですが、「歌舞伎、うまい」)。
亀蔵さんの道満、とてもよかったですね。亀蔵さんはキョーレツな個性の役を嫌味なく演じられますし、市蔵さんは老け役、悪役、善人役、なんでもできるし、脇として本当に貴重な存在ですよね。おっしゃるとおり、歌舞伎は主役だけよくてもダメですもの。

投稿: SwingingFujisan | 2013年9月16日 (月) 18時01分

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